葦原天理は巫覡である 作:氷桜
※「誰」と言い切ってないのがポイント。
夕焼けから、既に半分ほど月が昇り始める中。
普段歩き慣れた場所ではない、けれど良く似た雰囲気の商店街を歩く。
既に良い時間、夕方よりも客足は減っているはずだ。
けれど各々が話し、少しだけ安売りを始めたり。
子供達が傍を走り抜ける中。
少しだけ遠い目をした少女に手を取られ、唯進む。
買うものは決まっているのに。
その目的地も、彼女は覚えているだろうに。
その距離が、少しだけ遠い。
「それで」
「うん」
「……まずはちょっと遠いところから聞くか。 友奈、の存在は知ってるんだよな?」
「知ってる。 けど、多分……私達が似てる理由……だよね?」
そうだな、と漏らせば。
掴まれている手に一瞬だけ爪が立って、また戻った。
それがどういう意味を込めてなのかは、問うことはなく。
「神樹様がしてることで……逆手打ちをした子に私の名前を付けてる、ってだけではあるんだけどね。
ほら、名前に言霊ってあるでしょ?」
「ああ、うん……身に沁みて分かってる」
「名前が付けられた相手は、私に似るの。 どっちが先かは知らないけど、そうなってるみたい」
今まで見た中でも何人かは名前ついてた、と小さく漏らし。
先程の爪を立てた場所を指の腹でそっと撫でた。
痕、傷、或いは痕跡。
それを滲ませているような気も、薄っすらとした。
途中、もう締めそうな肉屋を見かけた。
遺っていたコロッケとメンチカツを一人一枚ずつ、半額で買い取って。
布製のバッグに詰めて再び歩く。
たかしーの知り合いなのか、時折に年上の人と挨拶を交わしながら。
現状を見て、何処か微笑ましそうにしながら。
彼女のしたいようにしながら、それに付き添い二人で進む。
「それで?」
「え?」
「たかしーも話したかった、って言ってただろ」
ああ、と。
まるで忘れていたかのような言動。
この時点で、何となくは彼女の内心の断片は理解できていたけれど。
それは――――きちんと口にして欲しかった。
「ほら、明日で一回お別れでしょ?」
「そうだな」
周囲は、誰も気にしていない。
「次の予定……って聞いたっけ? と思って」
「あぁ……俺もどうだっけ、言ったか曖昧だな」
あの寮に誰かが住んでいるのか、誰も気にしない。
現実世界では、確か城は大赦で管理しているとかの筈だから寮も同じはず。
けれど、それを視る相手も誰もいない。
至極当然のものだとして、いる/いないものとして世界は回っている。
「乃木さんと……上里さん、だっけ? 残りの二人も連れてくるから……。
早くて五月の頭だし、遅ければ夏休みかも」
「えー!」
「そんな事言われてもなぁ、向こうに帰っても人形作れば話くらいは出来るだろ?」
逆に言えばそれが出来上がるまでは一人、ということだが。
……流石に、其処まで仲良くなりきったとまでは思っていない。
ただ、そう感じてしまう感覚は理解できなくもないのだ。
もし、ワカやヒメと出会っていなかったら。
多分俺は、ずっと一人で生きて……そして、折角出来た友人たちも喪っていただろうから。
そういう意味では、彼女の気持ちも……現状の感情も、何となくは理解できてしまう。
「そうだけど……」
「そんな事言えば亜耶だって一人だろ?」
特に携帯端末も与えられず。
再びに会いに行くまで、何かしらの理由付けが出来て公的に会いに行けるようになるまで。
彼女は、ずっと一人ということは変わらない。
――――ああ。
何となく腑に落ちたこと。
今、此処にいる四人は……何らかの形で、一人に為りかけた人間達なんだな、と。
ぶう、と膨れた少女に苦笑しながら米屋へと顔を覗かせる。
五キロ……もあっても多分使い切れずに残すことになるが、一番少量がこれだった。
色々と相談して、良さそうな味の物を買い込んで。
再びに、来た道を戻っていく。
彼女の手に、布製の手荷物入れ。
俺の手に、それなりの重量の米袋。
互いの空いた手は、彼女が離そうとせずに。
「なぁ、たかしー」
「うん?」
話す内容は、少しずつ減り。
それに伴い口数も減り。
歩く速度も、段々に鈍っていたのは気付いていた。
だから――――その根幹を、問い掛ける。
そうして、少しでも嘗ての勇者のことを知っておきたくて。
そうして、せんちゃんの最も大事だった友人を知りたくて。
「
普段であれば。
普通であれば。
多数であれば。
決して答えない、俺でも答えずに笑って流すこと。
心の奥底に溜まってしまう、黒い感情に溜め込んでしまうことを聞く。
話さない、ということはそういうこと。
黙っている、というのは……言いたくないことなのは、間違いないのだから。
「…………」
手に、力が入るのが分かった。
彼女の年齢は……
恐らくその当時のものを再現している今は、それと同じと考えて良い。
だからこそ、痛みが継続して続き。
ある時に、フッと力が抜けた。
「言っても、何も面白くないことだよ?」
「だろうなー」
「だろうな、って……」
「俺だって、巫覡って言われるまでの……小学校に入ってからの何年間はそんなもんだし」
ならなんで、と言いかける前に。
俺も同じ経験をしている、と恐らくは無意識に気付いていることを改めて口にする。
「でもさ」
「…………」
「せんちゃんも、杏さんも……多分皆そうだと思うけど、友達のことは知りたいもんなんだよ」
助けてあげたい、と無意識に思われる子。
彼女は助けてばかりで、助けを求めることはなかったようだけど。
当時の雰囲気からして、それを言えるような状態では無かったようだけど。
それを受け入れる心も、余裕も――――当時は、彼女には無かったのだろうから。
或いは。
それに気付けなかっただけ、決定的な何かが外れていただけ。
今となっては、誰にも分からない事実。
「だから、知りたいって話」
「…………も?」
「ん?」
ぼそぼそ、と声がする。
内容は……半ば予想できていて。
けれど、はっきりと問い掛ける。
「天理くんも?」
「当たり前だろ」
これを、どう呼んで良いのかは分からないが。
彼女が求める答えと……多分、俺が抱いている関係性は似ている筈だ。
近くて遠く、遠くて近い。
銀の時の腐れ縁、ともまた違う関係性。
「
そうだよね、と小さく溢れて。
「
そんな、当然の言葉。
けれど、多分に重い意味を秘めた言葉。
決定的な、何かが。
彼女と俺との間を、結んだ気がした。
・古びた、誰も管理してないお稲荷様へ手を出しちゃいけないって話を知っていますか。
・それと同じことですよ、多分。
・多分友奈ちゃんとは仲良くなる。
・二人はほぼ同一だからこそ、