葦原天理は巫覡である 作:氷桜
漏れ出る声はか細くて。
多分、それだけでも誰も気に留めない内容で。
けれど……一世一代の告白にも思えた内容。
「そうだなぁ……どう言えば良いんだろ」
手から感じるのは、ほんの少しの震え。
それを言ってしまえば、空気を悪くしてしまうと。
思い出したくないこと。
公言したくないこと。
精神的な傷を、口にする重みは良く分かっていた。
「――――
そう呟き。
脚の進みが更に鈍り、立ち止まりつつ歩くような形になりつつ。
内容を知り、噛み砕いていく。
「勇者になる前から……身体を動かすのは好きでね。
古武術を教えてくれた、小さな道場で過ごしてた」
「うん」
「色々と出来るようになるのは楽しかった。
……同じように習ってるような子は、誰もいなかったけどね」
ぽつり、ぽつり。
漏らす言葉は、自分の中に溜めていた濁流で押し流すように。
一度堰を切ってしまえば、断続的に……しかし、止まることはなかった。
――――過去。
『友達』に関しては、自分でも良く分からなかったこと。
いたか、いなかったのか。
近くで遊んでいた同い年の子も、最初は近くにいて。
ただ、気付けば一人になっていたのは間違いなかったらしい。
毎日傷だらけになりながらに運動し、時間があれば神社で遊んで。
神社の神主さんに言われた言葉が、導きになったこと。
――――両親。
母親が、自分の言う通りにならなければ怒る人で。
父親はそんな彼女に無関心で。
唯一、道場に通うことを許してくれた祖父も直ぐに亡くなってしまっていて。
顔色を見ながら、細々と話すのが癖になっていたこと。
――――出会い。
星屑……バーテックスが落ちてきた日。
巫女に導かれ、手甲に認められ。
遥々奈良から四国、香川まで移動してきたこと。
その時のことは……話したくないようで。
何処か、痛みを思い出すような顔色をしていた。
「…………面白くも、無いでしょ?」
吐き出し、少し目を落ち込ませ。
だから言ってこなかったんだ、と零す。
「いや……ちょっと納得したことはある」
「え?」
「ほら、樹海の中で凄い元気だっただろ?
アレって子供の頃から動いてたから、ってことか」
俺や銀もそれなりに遊び回っていた自信はあったが。
明らかにそんなレベルとは一線を越える動き方だった。
格闘術を身に着けていた、というのも納得できるけれど。
それ以上にそういう方向性も大事なのかなぁ、と思ってしまった俺。
「…………え?」
「何かおかしなこと言ったか、俺」
「……え、だって……ほら?」
「混乱するのは分かるけど落ち着け」
疑問符と混乱が目に見えそうな程に狼狽えている。
何とか落ち着けつつ、再びに歩き出そうと手を引いて。
行きとは逆に、俺が先導しながら会話する。
明らかな戸惑い。
自分が思っていた言葉と違う答えが帰ってきたからの疑問。
もしかすれば、嘗ての時代でも中々見ないような酷さだったのかもしれないが。
「……あー、まず、な?」
「……うん」
「大変だった、とは思うし幾らか同情はする。
でも、たかしーは嫌な気分にしたいわけじゃないんだろ?」
「……そうじゃなかったら、言ってたと思う」
だったら俺の態度はおかしくないとは思う。
常に周りの視線を気にしてしまう、というある種の病を引き摺って。
そうした中で、仮面を作り上げて自らの一生を生き抜いた少女。
現状が、その続きと考えてしまえば終わってさえもいないだろうが。
それはそれとして――――俺個人としては。
「友達のことが知れて良かった、と思う。
……ちょっとせんちゃんから聞いた話と重なるところもあったし」
「ぐんちゃん…………そっか、そうだよね」
生きていた頃、どれだけ知り得ていたのかは分からない。
ただ、こうして神樹の一部となってしまった以上。
知りたくないことも知ってしまうのは、避けられない事象の一つだったんだと思う。
「……ねえ、天理君」
「んー?」
手を引き、減ってきた人混みを超え。
暗闇の中、切れそうな電灯の下。
たった二人、女の子と二人。
いい加減手荷物が邪魔だと感じながらも、歩く道程は妙に長い。
「……もっと、君のこと教えてくれる?」
「別にいいけど……面白くもないぞ?」
「だとしても。 私も、君の口から聞きたいの」
そっか。
そうだよ。
少しだけ、進む距離が伸びた。
何処から話せばいいのかな。
ぐんちゃんと一緒だった、って話聞きたいな。
歩む速さが、隣り合った。
……少しだけ、恥ずかしいんだけど。
大丈夫、笑ったりしないから。
横顔の暗闇が薄れ、明るい表情が見え始めた。
淡々と、淡々と。
明らかに帰宅時間が伸びていることには薄々に気付きながら、口にせず。
また、隣の少女も言及しない。
言葉の交差を繰り返し。
握った手が少しずつ汗で濡れつつも、何故か離すこともせず。
伝える言葉と、伝える気持ちと。
待つ少女達と、これからのことを伝え合う。
唯一人待ち続ける、半神の少女は。
そのどれもを楽しそうに、羨ましそうに。
口には出さなかったはずなのに。
出すことを、戒めていたはずだったのに。
――――
漏れた言葉が、闇に消え。
満月がその声を聞き遂げ続け。
そうして、寮の前まで戻ってきて。
…………同じ部屋の扉の中に、消えていった。
・ぐんちゃんとたかしーが公式で仲が良すぎた理由の一つは多分過去にあると思います。
・『烏丸久美子は巫女でない』にて提示されていた彼女の問題点って結局解決せずに終わってますからね。
・受け入れ難い内容、内心、結果に繋がってるっていうのもありますが。
・ただ、そのアンサーとして結城の友奈ちゃんがいるって側面もあるから難しい所。
・なので彼女も救いあげようね。