葦原天理は巫覡である 作:氷桜
日課を済ませ。
食料は既に準備済み。
そして朝から話と、それに伴う材料として持ち込まれた本や資料。
それらを前にしての会話は、唯でさえ睡眠不足の俺へは地味にダメージを与えてきた。
「…………それで――――」
「ですけど――――」
会話一つ一つに集中しようとしても頭が働かない。
気付けば船を漕ぐ、ウトウトしてしまう。
最初の頃こそ軽く揺さぶられたりもしていたが、途中からそれも無くなり。
「…………せてあげますか?」
「…………かもね」
「…………顔ですね」
幾らかの声を最後に、倒れ伏すように眠りに負け。
眠る中で、浅い感触を味わった。
後頭部に当たる、何処か経験したことのある沈み込むような感触。
そのまま、永遠に眠ってしまいそうな安らぎと。
浅い夢の中で感じる、違和感のあるような無いような願い事。
心の何処かで、微かに想い。
けれど心総体では否定する答え。
もし仮に。
二度目の来訪で、この答えが叶ってしまったら。
そんな恐怖と喜びにも似た相反した感情は渦巻いている。
(何も変わらないなら、何でも出来る。
記憶を継承できる以上、本来怖くて出来ないことだって挑戦できる)
俺の代替する『満開』の代償確認。
連携、神具への力の込める量の確認。
少女達との触れ合い其の物。
本来一日で出来るはずもない其れ等。
怖くて、無意識に限度を設けている行為の全撤廃。
そんな事を考え、考え、考え続けながら。
「……あ、れ?」
意識の浮上を、自分ではない誰かが捕まえた気がした。
「あ、起きた?」
視線の先、見下ろすたかしーの顔。
後頭部からは熱、既に何度か別の女の子で体験している膝枕。
……冷静に考えると贅沢者過ぎるな。
「…………寝てた?」
「思いっ切り。 やっぱり疲れてたのかな」
起き上がろうとすれば額を押され、そのまま横倒しになる。
視線を向ければ亜耶や杏さんも此方に気付いたように近付いてくる。
頭越しに見えた時計は五時過ぎ。
……五時過ぎ?
「……え、こんなに寝てたのか?」
起きてた記憶があるのは走り終えた後だから……。
最後に時計を見たのが九時頃だった覚えがある。
その後直ぐだとしても昼食抜いて七時間?
完全に昼夜逆転してるじゃん。
「うん。 ほんとにぐっすりだった。 ね?」
一回起こそうとしたんだけど起きなかったし、と。
昼食はどうやら例の饂飩で済ませたとか。
「……そうです、ね」
「昨日無理をしたからとか……じゃないですよね?」
「特に負担には思ってなかったが……あーいや訂正。
挨拶を失敗したら、という焦り。
相手を俺は知らない、という焦り。
肌が傷だらけになるくらいは許容範囲……と言うよりも日常的。
銀に付き合わされて色々とやってた頃は変な道通ったりもしたし。
枝だらけの茂みとかは流石に俺だけで進んだりしたこともあったし。
何より、『きちんとした傷』で済むなら大したことないとも思っていたから。
「……じゃあ殆ど話できなかったな、悪い」
「いえ……
杏さんの出した言葉。
え、と口に出して疑問を訴えれば。
笑顔と、少しだけ赤い顔と、小さい笑い声。
「もうすぐ日暮れだけど、大丈夫?」
頭に手を置かれながらに、此処に残される少女が呟く。
「……部屋の片付けだけ、してきます」
「友奈さん、ノートとかは棚に仕舞えば大丈夫ですか?」
「うん、誰も来ないと思うし」
恐らく――――何かを感じたのだろう。
亜耶が先に席を立ち、続けて忘れていたとばかりに杏さんが一度部屋から出ていく。
残されたのは、俺達だけ。
起きようとしても、その力が入るところを抑えられているようで起きられない。
こういう時、力か体格がしっかりしてれば無問題だろうに……!
「……起こさせてくれない?」
「天理君はダメー」
「何故に!?」
忠告のような言葉に反応し、頼んでみたら何故か俺だけ例外扱いされた。
全く以て嬉しくない例外。
くすくす、と笑う顔は仮面には到底思えずに。
彼女と親しく、そして互いに『最も親しい友人』と言い切る彼女と何処か重なるモノを感じる。
つい最近された行動と。
つい最近、奪い合った行動と。
良く似た体勢だからか、それとも面影を何方も残しているからなのか。
せんちゃんはたかしーの。
たかしーはせんちゃんの。
互いの表の面を見て、互いの憧れる部分を見つけ。
それを、今でも引き摺っている――――そんな風にさえ思ってしまう。
「だって、さ」
「ん?」
「
少しだけ……ゾクッとするものがあった。
多分、それは十割真実で口にされた言葉だったから。
御姿って知ってる、と問われ首を振る。
今この場、この状態で聞かれて知るわけもない。
迂闊に答えてもいけない、とちりちりとする背中が囁く。
「神様に好かれる……神様が作り上げた身体。体質。
一応……忠告しておくよ、天理君」
「何、を?」
「君は、本当に少しずつだけど――――。
多分無意識で、多分望んでではなく。
気付かないでいればだけど、と漏らしながら。
額に当てた手は微動だにせず。
笑みを保ったままで、俺を見詰め続ける。
だから、と自分に言い聞かせているようにも感じた。
「元々、それに近い素質はあったと思う。
でも、それに近付いてるのは忘れないで」
小声で。
囁く声色は、周囲には気付かれないようにする気遣いと。
近付く理由を得たような、
……それに気付く程に、嫌な経験を重ねてしまった。
「完全にそうなってしまったら、多分……私達の敵は、君を狙う。
覚悟だけは、しておいてね」
確かに、微かに。
頷き、それに対して微笑みを見て。
ふわり、と浮くような感覚を得る。
来る時と似た、導かれる感覚。
「あれ……?」
「ああ、時間かぁ」
寂しそうにする顔は、変わらずに。
くしゃり、と表情を歪めるのを認めながら。
言葉を交わした。
「……またね」
「ずっと見てるから」
多分、冗談じゃないんだろうなぁと。
引き攣り笑いを浮かべ。
それに対しては何も口にすることもせず――――。
再びに、暗闇の中へと精神を沈めた。
・自制心で堪えた。
・後でちょっと後悔してる。