葦原天理は巫覡である 作:氷桜
叙-1
「…………はぁ」
文字通りに、全てを吐かされた。
吐いた、ではなく吐かされたのがポイント。
つまり、俺の意思とは関係なく。
一部の例外――たかしーの過去とか亜耶との細々したこと――を除き。
微に入り細を穿つように、徹底して掘り返された。
「溜息吐くとか、贅沢なのね?」
「そういう刺さる言葉やめてくれない……?」
二柱は、そんな俺の言葉にある程度納得し。
出会った同郷の神について色々と考え出し。
四人は、そんな俺の言葉に納得することもなく。
一人にしておいたからまたやらかした、と言った冷たい目線を向け。
二人は、外傷は治り目を覚ましたが痩せ細っていて。
少しずつ体調を整えながら、今の世界への順応を進めていた。
そんな中で、遂に春休み。
つまり、生家に引っ越す日がやってきて。
――――文字通りに、家は
一応は名家の、それも元は本流の家。
三世代程が同居してもまだ多少は余る、けれど鷲尾や乃木よりは明確に狭い家。
俺が産まれたかどうかくらいで一度リフォームを挟んでいるそうで、それなりに快適な家。
本来は当初の予定通り、俺と銀……後は『親戚』というカテゴリに入っているせんちゃんの三人暮らしの筈で。
ただ、他の四人も当たり前に空いている部屋を飾り始めたのを止める勇気はなく。
各々が一人暮らしや家族暮らし、或いは俺の家が持っていた建物を貸す形を取りながら。
実質的に全員が好きに出入りできる環境を整えられてしまった、というのが今の状態。
(
一応の挨拶、及び互いの引っ越し祝いに東郷のご両親にも挨拶に伺ったが。
どんな話を聞かされているのか、妙に信用されてるのが心に痛かった。
後、それを見て頬を薄く染めた美森ちゃんに。
家から出たところをとっ捕まった友奈にも色々弄られて、精神的に摩耗したのがつい昨日。
そして、今日はと言えば。
これから通うことになる讃州中学校の制服を頼みに行く日。
実質的に大人数での移動になることは確実で、それはそれは気が重かった。
そこをせんちゃんに突かれたわけだが。
「一応此方に昔の俺を知ってるやつもいるかも、ってのは言ったじゃん……」
元から、午後集合という話は全員にしてあった。
それは、朝に弱い先輩がいるからでもあり。
親と都合を合わせたいという少女の意見でもあり。
同調するようにその意見に賛同した、古い友人の勧めでもあった。
『制服かぁ。 多分行くなら午後のほうが良いよ?』
『そりゃまた何で?』
『午前中は混むお店だから。 そのついでに買い物していこう、って皆考えるからね~』
成る程、ずっと住んでいる地元民の意見は参考になると。
代償に俺の携帯端末の連絡先を奪われたのは安かったのか、高かったのか。
気付けば美森ちゃんときゃいきゃい言ってるくらい仲良くなってたし。
「そうね」
だからこそ、午前中は余裕があり。
昼食との間の時間、暫くをせんちゃんと共に過ごしている。
銀の……経過観察とリハビリについて行ければ良かったんだが。
どうしても腕や脚の付け根等も見る都合上、下着に近い格好になってしまう。
故に拒絶されて、後で病院に迎えに行く以外の選択が封殺されてもいた。
「もし見られたらどんな噂されるかが怖くて仕方ないんだけど」
「自分で選んだ結果でしょ」
周りが女子だらけの中に男子一人。
しかも全員が特徴的な美少女。
今の四国、という土地の男女は誰もが特徴を持つ綺麗な男女が多い印象だが。
その中でも埋没する俺と、他と見比べられるだろう皆は扱いが違う。
まあ、もし見られたら――――という前提ではあるのだが。
「せんちゃんも多分噂されるよ?」
「……ある程度は慣れてるもの」
何を言っても梨の礫。
手元の携帯ゲームに目をやりながら、時折にココアを口に含んではまた戻る。
話にも、ゲームにも集中すると言うか……両方を同時に進める技術。
もしかすると七人御先を使用している感覚に近いのか、今。
「……まあ、美人だもんね」
ぽつり、と零して手元のココアを口に運べば。
手が滑ったのが見えた。
かああ、と頬が赤くなるのが見える、素で美白と言うか白い肌。
ただ、今はその見た目は逆効果にしかなっていなかった。
「……だからね、まーくん?」
「何だいせんちゃん」
「そういうことを唐突に言うのはやめて」
「事実を言っただけで?」
簡単に入れ替わる攻防。
何方が口で強い、とかそういうのがあるわけでもなく。
先に照れたほうが押し負ける、そんな原初的な口喧嘩に近い。
「……美人なんかじゃないもの。 こんなに傷だらけだし」
「そういう所含めて魅力的だと思うんだけどな……」
「~~~だ、か、ら!」
心の底から本気で言うけど、一切嘘はない。
無論見た目だけ、なんてことは死んでも言うつもりはない。
話していて/過ごしていて/冷静に考えて。
共にいたい、と思った相手だからこそ今こうしているわけで。
見た目は……言ってしまえば、後から付いてきた感じのほうが強い。
「……そんなに心配しなくても、離れるわけ無いんだから大丈夫よ。 安心して」
はぁ、と言葉を漏らし。
顔を真赤に、言葉を発し。
それを受けて、良かった……と。
ほにゃりと柔らかく表情を崩せば。
無言で立ち上がり、此方に近付いてくるせんちゃん。
「え、何?」
椅子に座りながら見上げていれば。
空いた両手を両手で取られ、足の上に覆い被さられる。
ふわり、と漂う花の香り。
「されてばっかりじゃ嫌な気分になるし……お返ししてあげる。 動かないでね」
「え、いや、何を」
近付く声。
動けない身体。
「
身体が痺れるような、囁き声。
自分以外の体温、熱。
ほんの少しの、甘い会話は。
もう少し、と。
気付けば、互いに延長しながら――――。
ゆっくりと、時計の針を進めていた。
・互いが弱点。 じゃりじゃりする話が書きたかった……。