葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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タノシソウデスネ。


叙-2

 

時間を潰し終えた後。

病院に立ち寄り、銀を捕まえ。

車椅子を運びながらに商店街の中程……衣服店へと向かう。

 

『なんかあの子、見覚えある気がするんだよな』

 

『あれだろ? あの真ん中の男の子』

 

からから、と車椅子を押しながら。

一歩だけ先行して、足元の小石や段差に気を配ってくれるせんちゃん。

 

ある意味もう慣れた連携で、車椅子の主は感謝をし続けながらも自然体。

そうあるのが俺達、と定められたように。

少しずつ傷が癒えている報告を受けつつも、当たり前の行動に従事する。

 

(……まぁ、やっぱり。 視線は向けられるわなぁ)

 

ただ、やはり目線の数は避けられない。

 

普段向かっていたイネスの中にある店とは異なり、近場の住民を主とするタイプの店。

昔何度か行ったことはあるらしいけれど、記憶はどうにも曖昧で。

 

「こーいうところ初めてなんよ~」

 

「へー、やっぱりおっきいところばっかり?」

 

「園子は流石に例外だけどな?」

 

多分、入り口で先行して待っていた三人がいなければ。

視線を避けようと、変な方へと迷っていたかも知れない。

……ああいや、あっちこっちに友奈がフラフラしてるから余り変わらなかったかも。

 

「友奈ちゃん、目的忘れてないかしら」

 

「それだけ顔見知りが多いってことだろ……」

 

挨拶回り、じゃないが。

声を掛けられればそっちに向かっていくのは、昔の銀を思い出す。

多分当人も同じようで、どうにも口数は少なく。

代わりに苦笑気味に言葉を零す美森ちゃんがいたりする。

 

「しかし」

 

「?」

 

「いや、友奈と仲良くなるの早いなぁ……とな」

 

「ああ、その事」

 

ふと疑問に思っていたことを零す。

何というか、もう少し知らない相手にハリネズミみたいなイメージが抜けない。

特に須美時代……初めて会った頃は露骨に警戒してたし。

 

「ご両親と、私の両親が意気投合したっていうのはあると思うんだけど」

 

「うん」

 

「……何ていうか、放っておけないでしょ? それで、気付いたら。

 色々面倒見が良いっていうのはあると思うけど」

 

「それは凄い同意する」

 

まるで誰(・)か(・)を(・)見(・)て(・)い(・)る(・)み(・)た(・)い(・)な(・)気(・)分(・)だ(・)、とまでは言わなかった。

 

思えば、彼女が口出しするのは自分が管理出来るかどうかというよりも。

当人達の安全の為、誰かが口を出さなければいけない場面のほうが多い印象もある。

 

……まあ、その代わり?

彼女に見(・)初(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)と(・)プライバシーも何も消し飛ぶんだが。

 

携帯端末の中身、パソコンの中身。

どれだけ厳重にロックを掛けても、気付けば中を覗き見られている気がする。

 

飽く迄そんな気がする、だけなのに――――妙に事実のような気がして。

ちらり、と目線を向けてしまった。

彼女の顔だけでなく、全体像を写し取るように。

 

「なあに?」

 

「ナンデモナイデス」

 

まるで考えを読まれたように。

にこり、とした笑顔に寒気を感じた。

 

話を打ち切り、逃げようとするけれど……車椅子を押す片腕を奪われる。

周囲の少女達からも幾らか声が漏れ。

同時に、妙な雰囲気が漂うのと。

 

『最近の子ってああなの?』

 

『うちの息子は全く聞かないけど……どうなのかしら』

 

周囲からの視線が増えた。

 

顔を見せないように、出来る限り目線を伏せて。

早く到着してくれ、と願いつつも店まではまだ時間を要する。

 

「何でも無い、じゃないわよね?」

 

「いや本当に何でも無いので……はい……」

 

腕に込められた力が更に強くなる。

笑顔のはずなのに、心の内面全てを見透かされているような感覚。

多分、一挙一動を目線で追って総合的に感知しているからなのか。

 

見(・)て(・)く(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)、という一面だけで言えば微かに喜んで良い筈なんだが。

その瞳は、明らかに別の言葉を口にしている。

 

「ちゃんと答えて?」

 

「ちゃんと答えたよ!?」

 

ただ言ってないことがある、と言うだけ。

それ以上は言うつもりはない。

仮に口にしてしまったら……うん、どういう目に合うか分からない。

 

多分、そのちゃんと並んで二人が一番危ない……と思ってるのは間違いない。

その選択に間違いは存在しない筈だ。

でも、寒気は一向に引かない。

 

「ふぅん」

 

「な、何」

 

「……教えてくれないんだ、と思って」

 

なら良いわ、という意味なのか。

身体に聞く、という意味なのか。

正直な所、何方にも取れてしまうから感じるのは恐怖に近い。

 

実際、俺個人としては彼女に隠し事が出来るとは思っていないが。

それでも無駄に抗ってしまうのは……何でなんだろうなぁ。

自分で自分の考えに迷ってしまっている、というのも確かな事実。

 

「ねえ、そのっち」

 

「ん~?」

 

くすり、と意味深な笑いを残し。

腕の内側、手首の内側。

血(・)管(・)の(・)辺(・)り(・)を撫でるようにしてから、そのちゃんに声を掛けている。

 

(……え、今の、何?)

 

理解が及ばなすぎて怖い。

思考が真っ白で、それ以上知らないほうが良いと別の俺が伝えているような。

 

「天理くんが私に何か隠してるみたいでね……」

 

「え、隠し事~?」

 

「男の子だから仕方ないとは思うけれど……」

 

はぁ、と露骨に溜息と頬に手を当て。

悲しんでいる、と全身で表現する。

 

おい、待て。

何だその言い方と言い回し。

明らかに話の大元を変えてるだろ!?

 

「隠し事かぁ……アタシたちに」

 

「へぇ」

 

いや、明らかに二次被害が広がってるんだけど。

知らずは……というか安全地帯が友奈くらいしか無くなったんだけど。

 

「どうすればいいと思う?」

 

「…………教(・)え(・)て(・)も(・)ら(・)え(・)な(・)い(・)のかなぁ?」

 

寒気がまた少し増した。

 

「吊るせば分かって貰えると思う?」

 

「どうかなぁ、自分で教えてくれるのが一番だと思うけど」

 

ちらり、ちらり。

視線を明らかにこちらに向けている。

 

…………。

 

「友奈、店まで後どれくらい?」

 

「え? あ、ほら。 彼処だよ?」

 

最後の頼み、とばかりに問うてみれば。

視線が二倍に増した気がする。

 

ただ、今現在の目的地へは辿り着けるらしい。

指を向けた先には、『中学校制服、取り扱い有り』の看板。

 

「良し行こう直ぐ行こう」

 

「…………天理?」

 

車椅子を押す速度を上げれば、前方から低い声がして。

 

「……どうなっても知らないからな?」

 

「明らかに俺悪くねえよな!?」

 

はぁ、と。

乗っかった振りでもしていたように。

態度を緩めた、銀の最終通告が聞こえた気がした。

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