星の子たちにハッピーエンドを   作:天凪

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吉祥寺頼子の自慢

 

 

 

 吉祥寺頼子(きちじょうじよりこ)はある意味、覚悟を決めて第一話の撮影現場へと足を踏み入れた。

 覚悟を決めて、というのは先輩からドラマ化は期待してはならない、と聞いていたからだ。『今日あま』は人気があったとはいえ、すでに完結済み。しかも、放映する媒体はネットだ。さらに期待度は減るだろう。

 ならば、撮影現場になど足を踏み入れなければいい。できた作品を、あぁ、こんなものか、と失望すればよい、そんな考えもあった。

 

 だが、自分の子供ともいうべき作品の実写化なのだ。一度も足を運ばないというのは不義理ではないだろうか。失望するなら傷は浅いうちがいい―――そう思って、第一話の撮影現場に足を運ぶことを決意した。

 

「先生、おはようございます。ヒロイン役の有馬かなです」

 

 『今日あま』で描かれていた制服にそっくりな制服を身にまとった少女―――有馬かなが、頭を下げてくれる。頼子も有馬かなの名前ぐらいは知っている。彼女が小さなころは天才子役として一世を風靡したことは覚えているからだ。今は、こんな完結済みのネットドラマに出るというのだから、世の中はわからないものだなぁ、と思う。

 

 もっとも、最初の作品が大ヒットして、二作目以降が全くヒットしない漫画家、と考えると他人事ではないのだが。

 

「吉祥寺頼子です。今日はよろしくお願いします」

 

 頼子としては彼女が起用されたことが奇跡的なものだと思っていた。そこら辺のモデルの女の子を使って、もはや見れたものではない作品になるのではないか、と不安だったからだ。だが、彼女がいる以上、少しは期待できるのではないか、と少しだけそう考えてしまった。

 

「はい―――あの、ほかの子は今、撮影前の練習中で………」

「え? 練習してるんですか?」

 

 頼子が慌てて自らの口をふさぐが、時すでに遅し。頼子の口から出てきた言葉は何ともひどい言葉なのは確かだ。いや、だが、もともとのコンセプトを考えれば無理もない話である。メインは物語を実写化することではない。この『今日あま』を踏み台にしてモデルを売ることなのだから。

 その頼子の感情はかなにも伝わったのか苦笑、いや、困惑したような笑みを浮かべていた。

 

「まあ、先生の気持ちもわかりますけどね。今の彼らは目の前にぶら下げられた人参を追うのに必死といいますか………」

「人参?」

 

 まったく意味が分からない。この作品を実写化する意味は、彼らがドラマに出た以上にはないはずだ。それ以上の人参―――要するにやる気を出すカンフル剤―――とは一体? と首をかしげていると、かなが、まあ、内部の話なので、と練習する彼らが集まる場所へと案内してくれた。

 

「それじゃ、やるぞ――――『お前、そんな顔してて楽しいの?』――――どうだ?」

「う~ん、にじみ出る俺様感が抑えられてないな」

「もう少し、こう、主人公の純粋な疑問ってやつを出さないと」

「最初のころの『オマエ、ソンナカオシテテタノシイノ?』よりだいぶ良くなってるけどな」

「比べたらダメなんだろうけど、こう、アクアさんの手本に比べて、純粋に聞いてみた、って感じが出てないんだよな」

「お前らな! ここは難しいんだよ。実際に学校のいつもむすっ、としてる女子に同じことを聞いてみたんだけど――――」

「おう、それで結果は?」

「逃げられた………あとで聞いてみたら、メルトにいきなりそんなこと言われたら、関わりのない女の子は逃げるって言われた」

 

 メルトの言葉を聞いて、爆笑する出演する6名のモデル組。頼子からしてみれば、役者志望の高校生が雑談しているようにしか見えなかった。

 この光景は彼女が想像した現場の何倍もいい現場のように思える。

 

「お~い、先生来たわよ」

 

 そんな頼子の心情を知ってか知らずか、かなが彼らに頼子の到着を知らせるように声をかけた。その瞬間、彼らは手に持っていた台本に付箋を挟み、座っていた椅子に置くとダダダッと頼子に近づくと全員が揃って頭を下げる。

 

『おはようございます、先生。本日はよろしくお願いします!』

「よ、よろしくお願いいたします」

 

 頼子の頭の中は混乱でいっぱいいっぱいだった。聞いていた現場とは全然違う。自由な脚本、話数を短縮したがゆえに破綻したシナリオ、役者たちのやる気のなさ。実写化なんてそういうものだよ、と言っていた先輩に本当ですか? と問いただしたくなった。

 

 なお、この現象は彼らにアクアが「原作者には敬意を払え、俺たちが演技できるのは彼らがいるからだ」と薫陶したからである。もっとも、そんなことを知らない頼子は彼らの礼儀正しい態度に困惑するしかないのだが。

 

「はいはい、挨拶はよし! 練習に戻りなさい」

『はい! かなさん!』

 

 ペコリともう一度頭を下げると彼らはもともといた車座になっているパイプ椅子に座って、今日の台本の練習の続きを始めていた。

 

「………あの、有馬さん、彼らは軍隊か何かですか?」

「え? ああ、そうですね、軍隊ではないのですが――――星に焼かれた子たちではあるかもしれません」

 

 星? とかなの言葉に疑問に思う。何かの比喩だとは思うのだが、その比喩の対象が頼子にはわからなかったからだ。

 なんだろう? と頼子が考えている間に現場に動きがあった。ざわざわと騒がしくなる現場。まだ誰か来たのかな? と思っていたらスタッフの一人が叫ぶ。

 

「星野アクアさん、来られました」

 

 ――――星野アクア?

 

 この現場では決して聞くことはないであろう名前に頼子が困惑する。ここはすでに完結した原作の低予算の現場のはずだ。それが、国民的イケメン俳優である星野アクアが現れる。何の冗談だろうか? と頼子は思ったのだが、なんとなくスタッフが叫んだ入り口を見てみれば、カジュアルであるが、まとまった格好で現れたよくドラマやポスターで見るイケメンがなぜか『今日あま』の現場に現れた。

 

 ――――期待して無かった実写化の現場に来たら国民的イケメンが現れた件

 

 漫画のタイトルとしても売れそうにないことを思いつき、頼子は途方に暮れていた。なぜ、彼がこの現場に? という思いでいっぱいである。

 

「アクア、こちら吉祥寺頼子先生よ」

「吉祥寺先生ですね。今回はお世話になります」

 

 かなの言葉に合わせて頭を下げるアクアだが、慌てるのはむしろ頼子のほうである。

 

「吉祥寺頼子です。まさか、この作品にアクアさんが関係してようとは………」

「俺は彼らの演技指導というか……まぁ、裏方ですよ」

 

 おそらく、日本一もったいない裏方じゃないだろうか、と頼子は思う。というか、星野アクアが裏方? いやいや、あなたは表に出てなんぼでしょう、と思うのだが。

 突然現れたイケメン俳優に戸惑っている間にいつの間にか先ほど練習に戻った演出者たちが集まってきていた。

 

『アクアさん、おはようございます』

「ああ、おはよう。ただ本番前だ。最終調整を優先しろ」

『はい!』

「有馬ももういいだろ?」

 

 これまた軍隊のようにアクアにあいさつすると元の場所へ戻り、台本からセリフの練習を続ける。彼らに続くようにかなも彼らの輪に入って台本読みに加わった。

 なぜ関係していないアクアが、この場にいる役者をまとめてるような立場にあるのか疑問しか浮かばなかった。

 

「あ、あの……どうして、アクアさんが関わるのか聞いてもいいですか?」

「え? ああ、そうですよね。有馬かなが苺プロに所属したことは知っていますか?」

 

 アクアに言われて頼子は、ああ、そういえば、と『今日あま』のヒロインが有馬かなに決まったとのネットニュースが流れたときに苺プロダクションに所属した、と書いてあったと思う。すでに今の女優界の大御所ともいわれるアイと若年層から強い支持を受けているアクアの両方が所属する事務所に所属したせいか、記事の内容としては比較的温厚な内容で、ヒロイン役に期待する、みたいな論調だったと思う。

 もっとも、コメント欄はお察しの通りオワコン、今更、などの文字が踊る有様であるが。

 

「ええ、まあ、記事にもなっていましたし」

「有馬かなにとっては所属後の最初の主演です。なので、事務所に所属するものとして、有馬がやりやすいように現場を整えただけですよ」

 

 その言葉だけで頼子は理解した。つまり、あの彼らをこんな風にしたのはアクアだと。

 確かにかなは言っていた。「星に焼かれた」と。つまり、新人の彼らは、現在、若手では最も実力のある俳優の姿を見て憧れた―――あるいは、そこに希望を見たのだろう。

 だからこそ、こうしてドラマにも真剣になって演技の練習をしている。

 

「ありがとうございます」

 

 頼子の口から不意に出てきた言葉だった。頼子の言葉を受けて、アクアは思い当たる節がないのか、ん? と困惑したような表情をした。

 それはそうだよね、と納得する。突然、感謝の言葉を言われてもアクアと頼子は今日が初の顔合わせだ。しかも、出会ってから1時間もたっていない。だが、それでもお礼を言いたかった。

 

「本当は諦めていたんです。原作にはないキャラクター。半クールで納める関係で削られた脚本。素人の俳優たち。これだけの要素があって、実写化なんてと諦めていました。でも、今の現場を見て、少しは希望が持てたと思います」

「そうですか……俺は有馬のために動いただけなので、お礼は有馬か主演に選んだ鏑木さんに言ってください」

「ええ、そうします」

 

 そろそろ撮影が近いのだろうか、現場がバタバタとし始め邪魔にならないように隅に立っていた頼子とアクア。アクアの視線は現場の役者たちに向かっている。今、彼らは最後の確認なのか、立ち位置の調整や、台本片手にかなに何かを聞いている。

 

 ―――しっかし、奇麗だわ。

 

 そんなある意味、ドラマの現場だなぁ、と思いながらも隣でまっすぐ立ってただ腕を組んで佇むだけのアクアを見てしまい、そんな感想を抱く。テレビや雑誌では何度となく姿は見ているが、生身で見るのは初めてだ。さすが、イケメン俳優と云われてるだけのことはある。

 こんなに奇麗だとモテるんだろうな、と下世話なことを考える。 『しずかさんは笑わせたい』の映画のキャストが発表され、撮影が開始されてしばらく経って、撮影現場の写真などが公式にアップされて、星野アクアと不知火フリルとの関係が怪しまれ、お互い否定していたが、その火種はネット上にはまだくすぶっている。

 もっとも、頼子としては美少女、イケメンのツーショットを見られるだけで、気持ちとしては幸せになるのだから、若い彼らを暖かく見守ればよいと思っている。

 

「あの、吉祥寺先生」

「はい」

「もし、よろしければなんですが―――」

 

 そういうとアクアは持ってきていたバッグから一冊の本を取り出す。その表紙には頼子も見覚えがあった―――いや、忘れるわけがない。

 

「サイン、いただけますか?」

 

 表紙に書かれたのは『今日は甘口で』のタイトル。その一巻がアクアの右手に握られ、左手には用意していたのかサインペンが握られ、頼子に差し出されていた。

 しかも、本は買ってきた新品というわけではなさそうだ。もしかしたら、中古本かもしれないが、そもそも、アクアが『今日あま』の単行本を持ってくるとは思っていなかった。

 

「えっと、はい。問題ありませんよ」

 

 イケメン俳優にサインを求められた日。おそらく、ずっと覚えているんだろうな、と頼子が思うのと同時に自分も何か持ってくればよかったと後悔した。

 なお、裏表紙にサインを書いたとき、単行本の版が見え、これが初版本であることに驚き、思わず目線がアクアと本を行き来してしまったのは仕方のないことだと思っている。

 

 

 

 

 

「先生、おはようございま~す」

 

 第一話の撮影現場の見学から少したって、本日が『今日あま』の第一話の配信日となっていた。

 実は頼子はまだ配信されたドラマを見ていなかった。最初の一話ぐらいは今のアシスタントとみんなで見ようという話をしていたからだ。

 

「はいはい、準備してますよ」

 

 すでにリビングに用意されているネット対応のテレビには『今日あま』の第一話のタイトルが浮かんでおり、あとは開始を押すだけの状態になっていた。

 

「あれ? 先生が起きてるのって珍しいですね」

「さすがに皆さんで鑑賞する日ですからね。今日ぐらいは」

「先生、もしかして、あの脚本と俳優で期待していたりします? 一話の見学の後もご機嫌でしたし」

「それは、見てのお楽しみです。少なくとも私は期待できると思いますよ」

 

 テレビの前に用意された三つのクッションとコーヒーの入ったそれぞれのマグカップ。

 それぞれに頼子とアシスタントの二名が座り、『今日あま』を見る姿勢が整い、いよいよ、という感じで、頼子は開始のボタンを押下した。

 

 

「人間は嫌い。だってみんな自分の事しか考えてないから」

 

 ヒロインの缶詰が転がる特徴的な部屋。光加減と小道具が絶妙に調整され、真ん中のベッドで体操座りをするヒロイン―――有馬かなが独り言を呟き、信頼できないのだが、どこか信頼したいという絶妙な感じが出ており、さすが天才子役と賞賛を送りたかった。

 

 

「おまえ、そんな顔してて楽しいの?」

 

 ヒーロー役の鳴嶋メルトが、ヒロインに不思議そうに問いかけるシーンは、不思議そうに尋ねる感じがよく出ていた。

 

 

「なんだ、笑えばかわいいじゃん」

「からかわないで」

 

 不意に見せた笑顔に驚き、素直に感想を口に出す感じとからかわれたと思い、不機嫌になりながらも嬉しい気持ちという複雑な感情もよく表現されている。

 

 

 

 しばらく、似たような形で話は続き、第一話が終わる。番組の最後に流れるエンディングテーマとスタッフロールを見ながら、残りのコーヒーをすすって一息ついた後に一言も話していなかったアシスタントが口を開いた。

 

「まあ、想像以上に見られる作品でしたね。一話でギブアップするかと思っていたんですが、これなら次回以降も見れそうです」

「そうですね。もっとひどいかと思ってました」

 

 ひどい言いようだ。だが、彼らの気持ちもわかる。頼子とて、あの現場にいなければ、自分の作品だからと言い聞かせて無理やり覚悟したうえで視聴していただろう。

 

「見られない作品よりよっぽどいいんだから、結果オーライでしょう?」

「でも、この出来だと、ほかの先生に色々といわれるんじゃないですか?」

「うっ」

 

 そうだった、と今更ながら思い出した。ドラマ化に関して相談に行ったときに実体験から色々脅されていたのに、自分の作品だけは無理しなくても見られるドラマとなっていた。そのうえ―――

 

「えっ!? 嘘! ちょっと戻して!」

 

 できれば気づいてほしくなかった。

 

「演技指導、星野アクア(苺プロダクション)!?」

 

 ギンッとアシスタント二人の目が怖いぐらいに細まり、その視線が頼子へ向けられる。

 

「先生! まさか知ってたんですか!?」

「そういえば、現場に行ったとき、やけにご機嫌な理由はこのドラマの出来じゃなくて……」

「えっと………えへっ?」

 

 ようやく見せびらかすことができる、と今まで作業机の中に隠していた色紙を取り出し、彼女たちの前に掲げた。

 『星野アクア』のサインと日付、『吉祥寺頼子先生へ』の文字が入った色紙を。

 

 先生ずるいっ! と二人の声が重なるのは、頼子もひどく同意できるのだった。

 

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「あーくん、どう?」

「餌が良かったか? 最初よりも格段に技量も上がってるな」

 

 タブレット上に再生されたメルトたちの練習風景とリハーサルの光景を見ながらアクアは感心したように呟いた。

 アクアもほかの仕事があり、この安い現場を優先するわけにはいかず、いけない日もあった。そんな日は、かなが現場のスタッフにお願いして、練習風景やリハーサル風景を撮ってもらい、こうして確認している。なお、場所は苺プロ事務所ビルの会議室である。

 

 なぜか有馬が少し前から、「あーくん」呼びを始めたが、アクアの記憶によれば、もっと先の話だと思っていた。だが、そもそも、この呼び方が始まるのは「星野アクア」の名前が有名となり、街中で正しく呼べなかったからだ。今の自分は、なるほど、野外広告にも出ているし、ドラマ、映画の撮影もやっている。単純に名前を呼ぶと騒ぎになるのは確かだ。

 つまり、これは星野アクアが有名になる時期が早まったことによるイベントの前倒しとアクアは考え、特に訂正することなくかなには呼ばせていた。

 

 なお、この呼び方はルビーやアイにもばれており、ルビーからは嫌な顔で「バカップルっぽい」と評され、アイからは「いいと思う!」と評された。約一名の評価に納得はいかないが、別にかなとの関係はそんなものではないし、身バレ回避のためなのでアクアとしては特に気にしていない。

 

「そもそも、脚本、演出が半分ぐらい当て書きになっていたからだろうな」

「そうなの?」

「ああ、有馬のヒロインは割と原作そのままだが、改変された人物側はメルトたちの性格に合わせてある」

 

 それに気づいたのはアクアが監督の下で演出の勉強もしていたからであり、演技一辺倒のかなでは気づくことができなかった。

 

「あと残り2話か」

 

 もう早いもので全6話中、4話までの撮影が終わっていた。最初の顔合わせからすると数か月がたっていた。さすがに彼らのモデルの仕事以外の時間をほぼ練習に使っているだけのことはあり、演技力の上昇は目を見張るものがある。それでもようやく普通の俳優に片足を突っ込んだかな? というレベルだが。

 

 ただし、演出の腕はアクアが見込んだ通り、酷い俳優を使ったことを前提とした布陣だったということもあり、素人演技から脱却し始めたメルトたちを何とか見られる演技まで引き上げていた。それに伴い、有馬かなの演技もわざと下手、のレベルに落とすのではなく、通常の役者よりもやや上で目立たない程度で演じることができていた。

 

 もっとも、アクアとしては、彼女の演技にはまだ上があると知っているのでやや歯がゆい思いはしているのだが、こればかりは役者として出演していないため、これ以上の手助けは難しい。

 

「あーくん」

「ん?」

 

 タブレットに映された映像を引き続き見ながら呼びかけられたかなの声に応える。

 

「ありがと。あーくんが頑張ってくれたから、いい作品になったと思うの」

「別に。苺プロのためだし」

 

 その声にわずかに照れが含まれていることはかなにも容易にわかる。

 だが、それがアクアらしいとも思う。誰かのためではなく自分のため、そう誤魔化す態度はやはり照れ隠しにしか思えないのだった。

 

「あと、2話。何事もなく終わるといいのだけれど」

 

 そう言い終わった瞬間、タブレットを置いていたテーブルの上のかなのスマホがピリリリと鳴る。画面に表示された相手機の名前は『鏑木勝也』。

 早くとらないといけないのはわかってる。だが、あまりにもタイミングがタイミングだった。

 アクアとかながお互いに顔を見合わせ――――

 

「知ってるか? フラグっていうんだぞ」

「わかってるわよ」

 

 はぁ、と溜息をついてかながスマホの通話ボタンを押す。

 

「はい、有馬かなです。――――はい、えっ!? ―――はい、わかりました。私のほうでも探してみます」

 

 どうやら、というかやっぱりというべきか厄介ごとのようだった。

 はぁ、と先ほどよりも大きなため息をついて、かなが意を決したように口を開く。

 

「最終回のスケジュールがリスケになるかも」

「どういうことだ?」

「最終話のストーカー役の子がごねてるそうよ、このままだと降りちゃうかもって」

 

 その口調からは、かも―――ではなく、その可能性が高いことをうかがわせた。

 

「最悪は、あの子たちの中から最終の場面に出ない子を代役として使うって」

「それは――――」

 

 今まで演技が何とか普通並みの演出ができていたのは彼らの役が半ば当て書きだったからだ。最終話のストーカー役を任せるとすると、その前提からは外れてしまう。

 しかも、ストーカー役は本来の彼らとは逆の陰の存在。最終話のラストに近いシーンで原作でも屈指の盛り上がりを見せる場面。ここが下手な演技になれば作品全体の評価すらひっくり返る可能性もある危険な代物だった。

 

「鏑木さんに伝えておいてくれ。貸し一つって」

「え?」

「たぶん、あの人、有馬経由で俺に伝えたかったんだろうよ」

 

 アクアは自分の近くに置いていたスマホを手に取り、電話帳から目的の人物の名前を見つけると通話をタップする。

 

「ここまで首を突っ込んだんだ。せっかくだから最後ぐらい参加するか」

 

 

 

 





鏑木「いやいや、君のかなちゃんの見せ場だよ? 君も出られるんだからこっちが貸し一つでしょ?」



読み返してて思うのですが、このストーカー役って超重要キャラじゃないですか。鏑木さん誰でもいいなんていうんですかね?
今日あま編も次でラストになるはずです。皆さんが気になっている「今がち」編も書きたいですが、高校入学前の閑話も挟むかもしれません。
では、また次回。


誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。

もしよろしければ、感想、評価よろしくお願いします。励みになりますので、感想を一言でも頂ければ幸いです。



吉祥寺頼子(きちじょうじよりこ)
・期待していない現場で、星野アクアに出会う。
・アシスタントにばれた後は色紙は仕事場に飾ってる。
・ドラマの後、単行本の重版が決まり、電子版の売り上げが過去最高になった。
・『今日あま』時代のアシスタントを仕事場に呼んで特上寿司で宴会
・過去のアシスタントに星野アクアのサインが見つかり、騒動になる。
・そのアシスタントの中には鮫島アビ子も含まれる。
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