星の子たちにハッピーエンドを   作:天凪

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星野愛久愛海の計画

 

 

 

「ア、アクア!? こんな企画書の許可が俺の元に来たんだが!?」

 

 アクアがアイドル部門兼ミヤコの執務室で寛いていると、慌てた様子で社長の斉藤壱護が転がり込んできた。ノックは? などと悠長に問い合わせているような空気ではない。

 

「なによ、ノックぐらいしなさい」

 

 妻であるミヤコが注意するが、それも聞き入れないほどに壱護は混乱していた。

 

「いやいや、お前も見ればわかる。どういうことだ、アクア、恋愛リアリティーショーへの出演許可願いなんて!」

 

 壱護が大声で問いただすようにアクアに聞くと、その場にいた全員が反応した。つまり、アクア、ルビー、かな、そして、アイドル部門の大御所であるアイである。母親であることは、かなにも秘密にしているため、伝説のアイドルであるアイかつアクアの義理の姉として、苺プロに所属しており、アイドル部門のコーチとしても活躍していた。今日は偶然、オフで練習に付き合っており、今は休憩時間だっただけだが、壱護のタイミングがいいのか、全員勢揃いのでの尋問となりそうだった。

 

「いや、その申請書の通りだ。『今からガチ恋始めます』の出演希望だ」

 

 アクアは平然とその名前を口にするが、その場の人間、全員がある意味、動きを止めるほどの衝撃を与えていた。

 

「いやいや、お前は、若手の俳優部門で、注目頭だ。それが、こんな恋愛リアリティーショーなんかに………」

「それは違う。俺は、むしろ、その立場を自覚しているからこそ、この現場に出たいと思ったんだ」

 

 その場にいた全員がなぜ? と思う。

 

「俺は、子供のころからずっと芸能界に出ていた。今までずっとだ。たぶん、まともな学生生活ってやつは体験していない」

 

 その言葉に、壱護とミヤコは目を伏せた。確かに、子役の頃から抜群の活躍をしていたアクアに対して、次々と仕事が入ることを社長の壱護も、マネージャーのミヤコもよしとしていた。なぜなら、それがアクアにとって仕事の幅が広がるからだ。そして、それは間違いではなかった。今のアクアはあの国民的美少女俳優である不知火フリルと双肩を担うほどの若手俳優になったと自負している。

 

 だが、そこに至るまでに何も犠牲がなかったとは壱護もミヤコも断言できない。普通の小学生、中学生が送るような学生生活か? と問われれば、アクアの芸能人生は普通ではない、と答えられるだろう。そもそも、小学校、中学校とまともに通えた時期がないのだから。親交の深い友人もいないはずだった。

 その事態をアクアの芸能に対する熱心さと学業に対する深い知見と持っていたことに甘えたからだ、といわれて反論できる余地はない。

 

「だ、だが、それとこの番組に出演する理由はなんだ?」

「青春をやりたいと言ったら笑うか?」

 

 笑えなかった。ああ、そうだ。この思春期ともいえる一瞬は確かに宝石箱のようなものというのは理解している。人生が80年という中で輝くような数年になりうるかもしれない、というのは数々の人生を見てきた壱護とミヤコには理解できるものだった。

 

 だが、今までのプロデュースが間違いだったか、と落ち込みそうになる壱護とミヤコの表情を見て、含み笑いをしながらアクアが再び口を開く。

 

「まあ、冗談だ。半分は」

「は、半分?」

「それを大義名分としたいという話だ」

 

 アクアの言葉を聞いても壱護とミヤコ、あと、その場で聞いていたルビー、かな、アイも意味がわからなかった。アクアが言った以上の狙いがあるのかどうか、理解できない。

 なお、アイが親の観点から反対しなかったのは、そもそも、アイ自身もまともな学生生活など送れていなかったからだ。むしろ、今のように家族全員が揃っており、芸能界で活躍するほうがアクアにとって幸せだと信じていた。

 

「本命はこっちだ」

 

 そう言って、壱護が持ってきた企画書から今回のリアリティーショーへ参加する人間の中から二名を指さした。

 

「MEMちょと黒川あかねだ」

「はぁ!? あんた、もしかして、その二人に気があるから、出演するなんていわないでしょうね!?」

 

 なぜか、一番最初に反応したのはかなで、まるで付き合っている彼女のようなことを口にする。なお、アイも口は開かなかったが、視線は強い。下手なことを言うと、母親的な視点から説教されそうな感じだった。なお、妹のルビーは、「あ~、MEMちょもこの番組出るんだ」と非常に軽い様子だった。

 

「んで、この二人がなんだっていうんだ?」

「まずは、これを見てくれ」

 

 そう言って、あらかじめ用意していた動画をスマホで再生する。内容はティックトックのMEMちょのチャンネルである。その中の一つの動画を流していた。

 

「こいつは………踊ってみましたってやつか」

「しかも、曲はB小町の曲ね」

 

 ダンスに関することだからか、ルビーとアイは真剣にMEMちょの踊ってみましたを評価しているように見える。

 

「MEMちょは可愛いだけじゃなくてダンスもうまいんだよな~」

「まあまあかな、まだ正確に踊れてないね! これならルビーのほうが奇麗に踊れてるよ!」

 

 ぎゅーと抱き着く姉妹(親子)。もっとも、ダンスは幼少のころからアイがミリ単位で魅せるダンスを教えているのだから比較するのも酷な話だ。

 さすがに本家本元であるアイからは指摘があるが、ルビーとしては十分に見えたのだろう。うっとりするようにMEMちょのダンス動画を見ていた。

 

「どうだ? インフルエンサー、ダンスも今から鍛えれば十分。事務所には所属しているようだが、ネット関係の委託業務らしい」

「おまえ、まさか……」

「そうだ、新生B小町のメンバーに俺はMEMちょを推薦する」

 

 その場にいた全員に衝撃が走る。新生B小町のメンバーの招集は急務である。しかし、いきなり新生B小町のオーディションなどを開くと混乱が予想されるため、極秘裏にスカウトなどを雇って探している最中だったのだ。だが、やはり器量の良い候補は大手に行く傾向があり、単純に苺プロという名前だけでは捕まえられない状況となっていた。

 そんなところに、メンバーの推薦をするのがアクアだ。

 

 一人目は有馬かなだった。ルックス、歌唱力共に問題なし、役者のためかダンスの体力も問題なく、ダンスの精度については指導すれば問題ない、との認識で事務所を抜けた後にスカウトしようかと思ったところに転がり込んできたという苺プロとしては幸運というほかない候補生。

 

 そして、二人目がMEMちょらしい。確かに、話題性、そして、ルックスとダンスは問題なさそうだ。歌唱力がわからないのが少しネックだが、苺プロには、これでアイドル目指していたのか? という疑問符が付くほどの音痴を修正したノウハウがある。ルックス、歌、ダンスの三本柱をアイドルとするなら二本あれば、十分に戦えるというのが苺プロとしての判断だ。なお、必須なのはルックスというのがアイドルのつらいところではある。

 

「でも、この子がアイドル志望なんて聞いたことないけど………」

 

 苺プロはネット関係にも手を出しており、それなりにノウハウもあり、日夜マネージメントできるタレントを探している。MEMちょはミヤコのアンテナには引っかかってなかったようだ。

 

「『今ガチ』に参加すれば、それを確認できる。俺にはアイドル志望なら話題にせざるを得ない知り合いがいるからな」

 

 そう言うと、アクアはメムの踊ってみました、の動画をあさるルビーを抱きしめながら一緒に視聴する元究極のアイドルであるアイに視線を移した。

 アクアの公式設定としてはアイは、アクアの義理の姉―――斉藤夫妻の養子縁組しているため―――となっている。さらに、アイが有名となった映画に出演するためにバーターとしてアクアが出演したことも結構有名な話である。(アイが自分が売れ始めたきっかけはアクアにあると答えたインタビュー雑誌より)

 

 もっとも、アイの件がなくとも、アクアには原作知識があるため、MEMちょが元アイドル志望で、夢破れてユーチューバーをやっていることも知っているのだが。

 

 アクアとしても存外、新生B小町のメンバーが揃わないことにはやきもきしていた。苺プロの規模がアイが死ななかったおかげで成長しており、新生B小町のメンバーもすぐ見つかると思っていたのだが、原作のように能力があるメンバーを見つけるのはなかなか難しいようだ。MEMちょの加入も、まだ、かなしかメンバーが決まっていないという状況でなければ、無視していたかもしれない。

 

「なるほど、悪い話ではないわ。今年のJIFに間に合わせるためにはギリギリでしょうけどね」

「えっ? 新生B小町の復帰ライブってJIFが目標なんですか?」

「それはそうよ。B小町の名前のグループがデビューするイベントなんだから小さな箱ではできないわ」

 

 確かに、とその場の全員が頷く。どう考えても小さな箱でやれば、パンクするだろう。だからと言って中規模、大規模でできるか? といわれると、新生B小町にどれだけ人が集められるかわからない以上、野外の合同ライブイベントというのは、都合がいい。それに仮にMEMちょを加入することができれば、B小町の名前につられた古参オタとMEMちょのファンで集客見込みは立てられるだろう。

 

「JIFかぁ~、懐かしいね」

「そうだよね、お姉ちゃんもB小町でメインステージに立ったんだよね」

 

 それにB小町がJIFのメインステージに立ったこともあり、関連性としては十分だ。アイは当時の事を懐かしみ、ルビーは当然のように動画で知っているため、お互いに感慨深く頷いていた。

「でも、まだメンバーは私含めても二人ですよ? 最低三人は必要でしょう?」

「大丈夫、その時は、代役を考えていたから」

「代役って、ミヤコさん、そんな人がいるなら最初から入ってもらえばいいんじゃ!」

「いや、無理でしょ。候補はあなたの隣にいる人よ」

 

 代役になれるほどの人物がいると聞いてルビーは、そのまま新生B小町に加入してもらえればアイドルユニットとして正式に活動できると喜んだ。

 ただし、その代役がルビーの隣にいるとなると話は別だ。

 

「お姉ちゃんじゃん!?」

「私!?」

 

 姉妹(親子)揃って驚く。当たり前だ。確かにアイなら代役はできるだろう。そもそも元祖B小町の絶対的なセンターだ。

 問題になるとすれば、年齢だけだが―――

 

「あなた、この間のヒットソングで、歌ってたじゃない。アイドル時代の衣装着て」

「あれはお仕事!」

 

 懐かしのヒットソングという番組で久しぶりにアイドル服を着て歌って、踊ったアイだったが、当時と何ら変わることがない美貌と目を引き付けるパフォーマンスで会場を沸かせていたのは記憶に新しい。なお、検証動画で、東京ドームの時と番組の比較動画が作成され、年齢詐欺とコメントが乱舞していた。

 

「最後の手段よ。参加しないって選択肢もあるんだから。まあ、だから、ここで三人目が推薦されたのはいいことね」

 

 どう見ても本気だった、と誰もが思うのだが、話はこれで終わり、といわんばかりにミヤコが話を締めたので話題はもう一人のほうに移った。

 

「MEMちょについてはわかったわ。それで―――もう一人の黒川あかねは?」

「………黒川あかね」

 

 その名前を聞いて一番に反応するのはやはりかなだ。そして、その他のアイ、ルビー、壱護、ミヤコはその名前に聞き覚えがなかったのか首をひねり、アクアが彼女の名前を上げた理由がわからなかった。

 

「黒川あかねは、劇団ララライの中でも天才役者といわれる女優だ」

「劇団ララライって………ああ、アクアが休止していた間に参加した演劇の劇団じゃなかったかしら?」

「アクアが、休止?」「劇団ララライ?」

 

 その場にいた誰もがアクアのドラマや映画の出演を休止したことを知っていたが、唯一、かなだけが、その事実を知らずに疑問の声をあげ、やや呆然と小さくアイが劇団の名前を呟いたのは誰にも聞こえなかった。

 かなの記憶では、アクアが世間の芸能媒体から消えた期間はなかったと思う。いつも自分が出番がない中、アクアだけが先に進んでいるようで、悔しく思っていたのを覚えているからだ。

 

「まあ、休止って言ってもドラマとか映画の映像だけどね」

「何か理由があったんですか?」

「中一から一年ぐらいだったかしら? 成長期でね。身長が変わりすぎちゃって撮影ができなくなりそうだったのよ」

「成長期………」

「あの頃は、骨が痛かったな………」

 

 まさかの理由で驚くかなと思い出したのか、アクアの表情に苦いものが浮かぶ。アクアは成長期で伸びるタイプだったらしくその傾向は小学校高学年からあり、中学に進学しても映像系に出演し、撮影に半年もかけると服は合わなくなる、共演相手と目線が上がる、と違和感を感じるものになりそうだったため、しばらく休止としたのだ。

 

「あの後、少し年上の高校生役を拾ってきた俺の慧眼に感謝しろよ」

 

 しばらくドラマに出ていなかったせいで、テレビがメインの女性層からは急に大人びたとギャップが印象的に残り、結果としてアクアが一気に子役から若手俳優にイメージをチェンジできたのは確かに壱護の成果であるだろう。

 

 そして、その休止期間中、空いている期間を学びに使おうとモデルの仕事をしつつ、その日のみで完結する演劇へ参加した過去がある。その時にメインになったのが、劇団ララライだ。

 

「その時、一緒に演劇に共演したのが黒川あかねだ」

「ああ、あの時の」

 

 ようやく思い出したようにミヤコが言う。さすがに当時は共演する団体や人物は覚えていただろうが、あれ以降、アクアは演劇の出演はなく、関係がなくなったため、記憶できていなかったのだ。

 

「それにしても、あなた、よく覚えていたわね」

「共演した中では唯一の同年代だったしな。それにあの演劇の舞台は得るものも多かった」

「確かに、あの後からアクアの演技()もだいぶ上達してたね」

 

 母親としても息子の成長は覚えていたのだろう。アイとしても、アクアが急成長したタイミングは覚えていたようだ。

 

「それで、過去に共演しただけの黒川あかねとその恋愛リアリティーショーに出る理由がどう繋がるのよ?」

 

 過去にすでに共演していた同年代の女がいたことにイラついたのか、やや不機嫌な様子でかなが問いただす。

 

「黒川あかねはこんな番組(恋愛リアリティショー)に出られるような性格をしていない」

「性格って? え? 根暗だったりするの?」

「違う。簡単に言うとクソ真面目ってやつだ」

 

 アクアは当時のあかねもメモ帳を片手に演出家のいうことを一言も聞き漏らすまいとメモしていた様を思い浮かべた。その言葉と自らの役への理解の解釈を一致させ、昇華させる様はまさしく未来の黒川あかねだ、としみじみ思ったものである。

 

「真面目なのはいいんじゃないの?」

 

 ルビーは不思議そうに尋ねる。確かに真面目という言葉に負のイメージはない。だが、こと状況によってはそれがマイナスになることもありうることをルビーは知らない。

 

「普通は、な。ただ、あかねの場合、何でも真に受けてしまう傾向がある。リアリティショーじゃ、致命的になりかねない」

「そうね、リアリティショーの歴史も長いけど、今まで自殺者が50人を超える番組企画だものね。その大半が、番組の中の言動を悪しざまに罵る誹謗中傷に耐えきれなかった結果ね」

「えっ!? じゃあ、万が一、黒川あかねさんが何か番組内でやっちゃったら………」

「まあ、サンドバッグ状態からの引きこもりまでは十分に考えられるわね」

 

 所詮、赤の他人からの誹謗中傷なんだから、気にしない、なんてメンタルであれば問題ないだろう。だが、匿名の誹謗中傷を真に受けてしまう性格だったら? 炎上してしまったら? 芸能人でテレビに出ている以上、明日はわが身として考えるならば、怖気立つものである。もっとも、今のルビーは無名、かなは先日の『今日あま』の評判がよし、アイ、アクアは誹謗中傷の類は過激派のファンによる垢BANか、苺プロの法務部による開示請求から内容証明までのコンボで駆逐できる。

 

「で、でも、真面目でも、ただお話すればいいだけなら―――」

「それが、あかねは、演劇以外に興味なくてな………俺も、共演した時は会話できるのが演劇の内容や役への解釈ばかりで困ったものだ。俺が共演した時は中学生だったが、いろいろ規格外でな………」

「へ~、あの黒川あかねに何かあったのかしら?」

 

 興味を持ったのはかなだった。やはり、過去の因縁だろうか、とアクアは思ったが、今はとりあえず、あかねが心配だ、という共通認識を持つことが必要だと考え、中学時代のあかねについて話すことにした。

 

「まず、シャンプーが親が買ってきた薬用シャンプーのみでリンスはなしだった」

「ぐふっ」

 

 アクアの呆れたといわんばかりの口調に約一名が非常にダメージを受けていた。なお、究極のアイドルである。だが、彼女を擁護すると、施設から出てきたばかりで、人間不信にも近いものがあり、最低限の清潔さがあればよい、という思考だったのだから、仕方ない。

 

「スキンケアも全くやってなくて、日焼け止めすら塗らないこともあった」

「ぐふっ」

 

 思い当たる節があるのか、究極のアイドルと呼ばれた彼女に二本目の矢が刺さった。なお、アクアの言葉に信じられない、という表情の女性陣。なお、壱護だけは裏でダメージを受けている彼女に気づいていたが、それは昔なじみのよしみで気づかないふりをした。

 

「だから、そういうケア用品を含めて一緒に買うために休日に誘ったんだ」

「あ、もしかして、デートしてたの?」

「はぁん?」

 

 うきうきした様子で問うルビーに対して、デートという言葉に過敏に反応するかな。だが、アクアはそれとは対照的にやや困ったような表情を浮かべていた。

 

「デート……と思ってくれていたら、まだ救いがあったかもな」

 

 当時、あかねの女子力―――役者としては外見の手入れも重要なので、当然のことなのだが――――が心配で誘った買い物。ただ、端から見ればデートじゃないだろうか? と気づいたのだが、使命感に駆られて、気づいたのは買い物当日だった。なお、さすがに相手が女性だったので、それなりの格好―――普通の男子の気合を入れたに近い―――をして待ち合わせ場所に向かったのだが、そこで待っていたあかねは――――

 

「母親に買ってもらったダサいシャツとパーカーとジーパンだったんだ。しかも、メイクなし」

「ぐふっ!」

 

 男の子と買い物に行くというのに、まったく頓着せず、しかもメイクなしで来られる度胸がアクアには信じられなかった。しかも、それを全く気にせず、アクアを迎え入れるあかねに当時はくらくらしたものだ。

 なお、究極のアイドル―――アイも格好には無頓着で、例の彼に出会うまでは、全くおしゃれなど気を使っていなかったので、息子にあきれた様子でいわれる態度に三の矢が刺さっていた。

 なお、またしてもミヤコ、ルビー、かなはドン引きだ。たとえ仲が良いとは言えない男子としても、二人で出かけるのであれば、それなりの格好というものがあることを彼女たちは知っている。ましてや、一人は既婚者、一人は恋する乙女、一人は芸能人だ。

 

「だから、その日に上から下までみっちり指導した」

「上から下って………」

「変な意味じゃない。美容室で髪を整えて、デパートの化粧品コーナーでナチュラルメイクにしてもらって、服を買いそろえただけだ」

 

 原作では、それなりにおしゃれなどもできていたようだが、おそらく劇団ララライの女性陣が頑張ったのだろう、とアクアは予測していた。

 

「今まで困らなかったのか? と聞いたんだが、本番ではメイクさんがいるし、普段は稽古ばかりしてたから、と」

「なんというか………、天才役者の肩書とは別の一面が見えて嫌だわ」

「そんなわけで、普通の学生のようなコミュニケーションもやや絶望的だな」

 

 なお、劇団ララライのお姉さま方は、休日を境に垢ぬけたあかねに対し、事情聴取を敢行し、アクアとの関係に悶えていたのだが、演劇の公演が終わると同時に縁が切れたことを知ると、さすがにあかねに女について指導したのだった。

 

「聞く限りだと、リアリティーショーには映えない性格のようね。どうして、今回、出演したのかしら?」

「焦ったんだろうよ」

 

 ミヤコがアクアからあかねの性格を聞いて、不思議そうにつぶやくと、それに回答するように壱護が受けた。

 

「たぶん、その黒川あかねは演劇の世界では天才だろうよ。だが、テレビには出てない。次は映像演劇に手を出したいんだろう」

「だけど、それだけ実力があるなら」

「カメラで撮るドラマと舞台の演劇は質が違うからな。演劇で天才と呼ばれても、映像でどう映えるかはやってみないとわからない。誰かが最初の貧乏くじを引くのを虎視眈々と狙っていたんだろうが、それにしびれを切らして、事務所が映像に手を出したってところじゃないか?」

 

 さすが社長だけあって、経営戦略的な視点は的確なものなのだろう。あかねの今の状況を的確にとらえていた。

 

「じゃあ、何もしないで目立たなかったら………」

「まあ、売るために出るんだ。何か派手なことしろ、と事務所から言われても仕方ないわな」

 

 『今ガチ』の恋愛リアリティーショーは基本的に土日に集まりイベント通して交流を深めるものだ。だが、その拘束時間に反して公式の映像は時間が限られる。つまり、ドラマなどの脚本がある物とは異なり、番組側の演出によっては露出の時間が変わるということだ。

 

「分かるだろう? 俺の懸念が。あかねのように、一般的なコミュニケーションは壊滅で、クソ真面目に相手の言葉を真に受けるような性格だったら―――」

 

 その時のアクアの言葉で彼らの心は一致した。

 

 ――――地雷じゃね?

 

「杞憂で済めばいいんだが、万が一の場合に、あかねほどの才能が演劇の世界から消えるのは勿体ない。後で俺が知れば後悔するだろう。だから―――」

「分かったわよ。そこまで聞いて反対はできないわ。でも、万が一で、あなたは本気にならないでよね」

「そのあたりは弁えている」

 

 もっとも、番組の趣旨的に匂わせ程度は仕方ないと割り切るべきだろう。

 

「それじゃ、まとめるぞ。俺は『中学生時代に仕事に専念しすぎて普通の学生生活を過ごせなかった代わりに、このリアリティーショーで疑似的な経験をしたい星野アクア』という立ち位置で参加する。ただし、本命は、『MEMちょの新生B小町新メンバーに値するかの確認』と『黒川あかねのフォロー』を目的とする」

「あくまでメムさんが本命で、あかねさんはついでだからね」

「分かっている」

 

 本心では逆なのだが、そのあたりはどうでもいい。この二つが本命だと思ってもらえれば、アクアの計画としては成り立つのだから。

 

「じゃあ、俺は鏑木さんに許可取れたことを話してくるから」

 

 そう言いながら、アクアはスマホをもって部屋から出る。ここで話せばいいのに、という視線も感じたが、何が悲しくて、妹と親のいる目の前で恋愛リアリティーショーに出る話をしなければならないのだろうか。思春期男子にはつらい状況だった。

 

 部屋を出て廊下の突き当りで、アクアはスマホの電話帳から『鏑木勝也』の電話番号を見つけてタップする。

 数回のコール音の後に勝也が出た。

 

『やあ、アクア君、どうだったかね?』

「許可取れましたよ」

『取れたのかい!? よくあのミヤコ副社長が許してくれたね』

「まあ、疑似でもいいから青春的なことやりたいって言ったら許してくれました」

『……カバーストーリーまで完璧とは。恐れ入ったよ』

 

 カバーストーリーとは何だろうか? と思ったが、鏑木Pには気になる人がいると伝えていたことを思い出したが、彼に本命の目的を知られるわけにはいかない。

 

「さて? 何のことでしょう?」

『そういうことにしておくよ。わかった。事務所からの通達があり次第、参加を認めよう。ただ、さすがに君をほかの参加者と同じ扱いにはできないから制限はかけさせてもらうよ』

「問題ありません」

 

 アクアの目的は参加すれば果たせるのだから、多少の制限は問題なかった。

 

『それじゃ、正式なスケジュールは事務所経由で連絡するから』

「よろしくお願いします」

 

 その言葉と共に、スマホの通話が切れる。通話終了の文字を見て、ポケットにスマホを仕舞うと、廊下の窓の向こうに見える夕陽を見ながら呟いた。

 

「とりあえず、計画は順調って言ったところかな」

 

 思っていた以上に有名になりすぎて、『今からガチ恋始めます』などという番組には出られなくなっていたことをあとから気づいて慌てたが、何とか出られるように仕向けただけの成果は出たようだ。もっとも、これで土日も拘束されることになるが、誰か一人が後で死ぬことを知るよりもはるかにましだと思えた。

 

 さて、後は、この全く変わった状況で、何とかできるか、と考えながら、アクアは皆が待つ部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 





 長くなりましたが、苺プロ編です。あかねの過去は模造ですが、中学の卒業写真(ひどいね)を見ると芋娘だったので、高校に入る際に劇団ララライのお姉さまが面倒見たのかな? と妄想しました。

 次回はようやく『今ガチ』第一回です。楽しんでいただければ、と思います。

誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。

もしよろしければ、感想、評価よろしくお願いします。励みになりますので、感想を一言でも頂ければ幸いです。


黒川あかね
・中学時代にアクアと共演
・その際に役者として最低限のケアを教えようとしたが、そもそもの女子力が低くてアクアに指導される。
・母親は友達と出かけてきます、と言って帰宅後は垢ぬけたあかねに腰を抜かす。なお、送ってきた相手が男の子で驚く
・帰宅後に話を聞いて、あの格好で送り出したことに後悔し、後で星野アクアと聞いて二度目の衝撃
・垢ぬけた姿に劇団ララライのお姉さま方(東ブレで共演していた)に根掘り葉掘り聞かれる
・共演終了後、どうなった? と聞かれ、え? 別に何も連絡してませんよ、というか連絡先も知りません、といわれ絶望
・以後、あかねの女の子としての意識を磨くことを決意
・一応、普通程度にはケアできるようになったが、肝心の女心は勉強中
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