あと、前回、全体を見ていただいた方がいましたが、量が多く単純に取り入れられないため、直接文言を修正して、取り入れました。ありがとうございました。
黒川あかねの母はこの日、いつもよりきれいに着飾り、そわそわしながら娘の帰宅を待っていた。
先日、彼女の娘であるあかねから、『大事な話があるの』といわれて、しかも、同時に人を連れてくるといわれた。これで例の状況を疑わない親はいない。しかし、今まで色気の一つも見せなかった娘だ。驚きと同時に、ようやく春が来たと喜ぶべきか、とも考えた。ともあれ、あかねの母親は状況を受け入れ、あかねがどんな彼氏を連れてくるのを今か、今かと待っていた。
そわそわしながら待っていると、やがてピンポーンとインターフォンが鳴った。本来であればあかねはこの家の住人なのだからインターフォンなど不要で入ってくればよいのだが、玄関で出迎えたいと思ったあかねの母がお願いしていたのだ。
やっときた、という思いと早く見たいという思いが重なりながら、リビングからそそくさと玄関へ向かい、ドアを開けた。開いたドアの向こうには男女が立っていた。もちろん、女の方は娘のあかねだ。
対して男の方は、目立つのは金髪、太陽の光を浴びて艶が輝き、細い髪がストレートになっていた。あとはサングラスをかけてマスクをしており、まるで有名人のような―――と思っていたところで、彼がおもむろにサングラスとマスクを外し、そのいつもテレビや雑誌で見ている顔に思わず叫びそうになった。
「えっと、星野アクアくんだよ」
「お久しぶりです。あかねのお母さん」
そう言われて、数年前、適当な服で遊びに出かけた娘が、全くの別人になって帰ってきたことを思い出した。確か、その時隣にいたのも『星野アクア』で、今日のお礼にとお茶を飲んで帰ったのを覚えていた。もっとも、それからは彼が顔を出すことはなく、あかねからも特に何も聞いていなかったので、あの時だけ、舞台での共演者ということで遊びに行ったのだろう、と考えていた。
もっとも、後から聞くと、あかねの女らしさがまったくない格好に業を煮やして手入れしてくれた、というのだから、母親として少し恥ずかしかった。
「えっと……とりあえず、上がって頂戴」
いつまでも玄関で立っているわけにはいかず、あかねの母はアクアを迎え入れ、リビングへと向かうのだった。
リビングのテーブルにアクアとあかねが隣り合って座り、正面にあかねの母が座る。なお、あかねの父は、最初は同席しようとしたが、仕事が抜けられず、無念の不参加である。
「え~っと、それでアクアさんは、今日はどうしてうちに来たのかしら?」
本当は察しがついているが、相手から言わせるのが礼儀というものだろう、とアクアに水を向ける。
「はい、今日はあかねの事務所の件で来ました」
「事務所?」
あかねの母は想定した言葉とは別の言葉が飛び出し、驚いた。てっきり付き合う報告かと思っていたからだ。しかも、提示された用件があかねの事務所についてとなると意味がわからない。
あかねの母が困惑している姿にアクアも困惑したのか、視線をあかねの母から、あかねへと変えていた。
「話してなかったのか?」
「だって………心配かけたくなかったし……」
「はぁ………家族想いなのはあかねのいいところだと思う」
「アクアくん……」
やっぱり、今日は付き合い始めた報告ではないだろうか? と目の前の光景と先ほどの言葉、どちらを信じていいのかわからなくなってしまう。
「けど、ちゃんと話しておかないと、俺が何しに来たのかわからないじゃないか」
「………ごめんなさい」
慰めるようにあかねに声をかける姿と身を縮こませながら謝るあかね。
え? いや、だから、付き合いの報告に来たんだよね? とむしろ、先ほどの言葉のほうが信じられなくなってきたんだけど、と驚くあかねの母。ただし、本当に驚くのはこれからだ、ということを彼女は知らなかった。
「ああ、あかねのお母さん、最初から説明させてもらいますね」
――――そこから、アクアの驚愕的な説明が始まった。
自殺者も出ている恋愛リアリティーショーに出演させられ、しかも、その説明も一切なく、さらには手助けもなく、ただ延々と出演させられるだけ。今でこそ、あかねの出番も増えているが、もしも、アクアの手助けがなければ、出演時間は短く、事務所から無理難題を言われた可能性もある、という話を主にアクアから、アクアの話を補足するようにあかねから聞かされた。
「え!? あなた、そんなことになってたの!?」
先ほどのほんわかした雰囲気はいっきに霧散し、今は娘の心配をするしかない母親。いつもであれば、演劇の舞台のチケットを渡してくれるはずの娘がネットの番組に出るとしか聞いておらず、しかも、見ないでくれという言葉と彼女自身がネットに疎いことも相まって全くチェックできていなかった。
もっとも、あかねとしては逆に最初から見られていたら見られていたで、今は逆に羞恥心で死にそうになっていただろうが。なお、本当に見ていた場合、母親としては娘の恋愛観に絶望するのだが。
「どうして言わなかったの?」
「だって………心配かけたくなかったし……」
言えなかったことが後ろめたいのか、うつむいたまま目を合わせず、ぼそぼそと口にするあかね。言いにくいことはわかる。ただ、これはそれで済む問題ではないことも分かっていた。
「………アクアさん、ありがとうございます。娘を助けてくれたんでしょう?」
「いえ、俺は少し助言しただけです」
助言した結果が自らの過去を切り売りして、お世話になっている劇団の女性先輩の黒歴史を暴露しているのだから、アクアとしても助けたと自信を持って言える立場ではなかった。
「それで、ご相談ですが、事務所を―――移籍しませんか?」
「移籍?」
そう、アクアからしてみれば、これが本題。これを言うために今日来た、というのが真相なのだから。
「そうです。このままだと、あかねに人気が出たとして、どんな仕事になるのかわからないでしょう?」
まあ、それはそうだ、と思う。アクアの話を聞いていれば、本来は事務所から恋愛リアリティーショーについて説明があり、そこで契約書に捺印するのだが、今回もいつも通りと思ってあかねが持ってきた契約書に捺印するだけだった。つまり、事務所側は危険性があることを周知する説明を省いたのだ。これは番組側から出した出演条件にも違反するもので、本来であれば事務所にペナルティーがあるはずだった。(番組側は説明と承諾を前提とし、フォローを事務所側に依頼する内容である)
「だから、俺の所属する苺プロにあかねをスカウトしたい」
「でも……今の事務所は―――」
「小さいころからお世話になっているのは重々承知していますが、その信頼を裏切ったのは相手です。うまくいけば事務所の手柄、失敗したらあかねだけがダメージを負う――――そんな事務所でいいんですか?」
まるで悪魔のような囁きにも聞こえるが、子を守る母親としてはアクアの提案に乗りたいところだった。しかも、聞けばフォローも完璧で、あかねが事務所を退所する際の手続きについては苺プロの法務部の人(弁護士資格有)が同行してくれるようで、一方的に言いくるめられることはない、といわれた。
デメリットとしては、今、事務所側が受けている仕事が、苺プロに移管できない場合は、報酬は事務所が受け、マネージメントは苺プロが行うということになる。もっとも、その件についても苺プロに支払われるあかねの取り分をそのまま渡してくれるというのだから破格だ。つまり、苺プロとしては、引き継いだ仕事の利益はゼロ、むしろ、あかねのマネージメントの分、赤字になる。
「あの………どうして娘にそこまで?」
条件だけを聞けば、メリットのある提案だということはわかる。だが、あまりにもあかねに有利が過ぎる。相手がアクアでなければ詐欺に聞こえるほど。だから、どうして、と母親としては聞きたくなる。
「あかねは、演技の才能があるのは間違いありません。下手な事務所に所属して潰されるのはごめんだからですよ。俺は、あかねの女優としての才能を信じているから」
まるで当然のように伝えられるアクアの言葉。その言葉を聞いて隣に座っていたあかねは顔を真っ赤にしていたが、幸いなことにアクアが話しているのは母親であり、その顔を見られることはなかった。
その表情を見れば、なんとなく娘の気持ちはわかるのだが、野暮なことをいうつもりはなかった。それに、あかねのその反応だけでアクアの言葉を信じようと思う気持ちになる。だが、最後の最後に決めるのは自分ではないことも知っている。
「あかね―――あなたはどうしたいの?」
「私は……アクアくんと同じ事務所で仕事したい」
理由がアクアの信じる事務所で仕事したいのか、アクアと仕事したいのか、どちらが理由かよくわからなくなる回答だったが、今の事務所に未練がないことはわかった。どちらなのか、ということについては後で母娘の会話としよう、と思うと、あかねに向けていた視線を改めてアクアに向けて頭を下げた。
「娘をよろしくお願いします」
これこそ、最初に想定していた理由の締め言葉じゃないか? と疑問に思いながらも、母親の礼儀としてアクアに頭をさげ、あかねの事務所の移籍に向けて動き出すのだった。
その日の夜、さすがにアクアからの言葉を聞いて、ネットに疎いなどを理由に見ないわけにはいかない、と過去の配信も見られるサイトで改めてあかねが出演している配信を見たのだが、あまりの娘のポンコツぶりに頭を抱えるのだった。
※ ※ ※
「ゆきユキとアクあか、どっちもいいよね~」
「そうかな? 私は、アクMEMがいい。あの微妙にアクア以外にはお姉さんぶってるMEMちょがさ~」
「そうそう、前の配信あたりからフリルチャレンジも本当にチョロくなったし」
少し耳をすませば、この陽東高校の通学路を歩く高校生たちから『今ガチ』の話が聞こえる。しかも、今日は配信後の最初の平日だ。芸能科があることもあって、陽東高校の学生はこういった芸能系の話題には目ざとい。特に中高生に人気のドラマ、漫画、配信などは学校で生きていくための必須科目ともいえる。
「もうすぐ最終回か~」
「もっと見たいよね」
配信された再生回数や視聴者数から分かっていたことだが、今回の『今ガチ』は今までのシリーズの中でも高水準で人気が高いと言える。それは星野アクアが参加していることにも、不知火フリルが注目しているMEMちょが出ていることも、正統派な鷲見ゆき、熊野ノブユキの恋愛模様といった様々な歯車がうまくかみ合った結果といえるだろう。
「前のシリーズで最後にキスしたから」
「え~、超期待。ゆきユキかな? アクあかかな?」
「アクア君は無理でしょう、ピュアクアだよ~」
他人の恋愛模様を見て何が面白いのやら、と有馬かなは思いながら通学路を歩く。もしも、この場で、「そのアクアは演技だから騙されるんじゃないわよ」と叫んだら、どうなるだろう? と少しの破滅的行動に駆られるが、そんなことをしても『今ガチ』はなくならないし、アクアの人気が落ちるわけでもないだろう。むしろ、信じられないほうが可能性としては高い。
最近、『今ガチ』の後、アクアがほかの女の名前と並んで呼ばれると心が不安定になる。ならば、見なければいい、聞かなければいい、とも思うのだが、後で知った時に愕然とするのも嫌だし、変に意識していると自覚するのも嫌なので見ている。
もっとも、この程度の不安定さであれば、放課後のレッスンの前にアクアから差し入れがあるくらいで晴れるようなものなのだ。
ちなみに、その差し入れは、ルビーがアクアに「先輩が、なんかパフォーマンス落ちるから機嫌とって!」という言葉で試されたものだが、今のところ効果を発揮している。
「有馬……有馬かな」
考え事をしていたからだろうか、自分を呼ぶ声に気づくのに時間がかかったのは。しかも、その声は今まで考えていた相手―――星野アクア。
声のした後ろを振り返ると、かなの思った通り、アクアがいつもの学園仕様の格好で立っていた。
「なぁ……今から学校さぼって、遊ばね?」
「いく!」
秒で応えた。
※ ※ ※
「学校サボって遊びに行くとか不良じゃん! あり得ない、まじあり得ない~」
ご機嫌そうに不満を口にする有馬かなを見ながら、なぜ、かなを遊びに誘ったのだろう? と自分でも思う。
原作再現でも考えたのだろうか。もうすぐ、『今ガチ』の収録も終わるという中、有馬かなの背中を見ていた時に不意に言葉に出してしまったのだ。
「不満ならやっぱりやめとく?」
「そうはいってない」
不満げな言葉を口にしながら遊びに行くことは否定しないかなをアクアは不思議に思う。そもそも、原作でもこの場面は疑問であふれている。アイをトレースしたあかねに抱いた感情を整理するために有馬を当て馬にしたのだろうか? と考えるが、ここにいるアクアは別人だし、あかねはアイをトレースしていないため、わからなかった。
「で、どこ行く? ディズニー? 東京タワー?」
「学校さぼっていく場所が、そんな張りきった場所を提案する度胸がやべぇな」
「だって、制服でさぼったら周りの視線気になるでしょ! 私服に着替えるのも時間のロスだし! あの辺、制服多いし!」
ごもっとも、とアクアは思う。さぼって遊ぶことを提案したが、補導などされれば、面倒だ。ならば、制服姿が多い場所を選ぶというのは間違いではない。それ以上の感情が含まれていたかどうか、アクアには知る由もない。
「そうだな………だったら――――」
アクアがかなを誘ってから近場でタクシーを拾い、連れてきたのは、東京の某所の水族館だった。
原作のアクアは公園でキャッチボールをしていたが、別に何かを考えてかなを誘ったわけではなく、なんとなくで、今後のことも考えたかったので、アクアがいつも考え事をするときに行く場所に誘ったのだ。
「ここって水族館?」
「行くぞ」
連れてこられた場所が意外だったのか、タクシーから降りたかなが呟くが、有無を言わせずアクアは水族館の受付に進む。アクリル板の向こうから「いらっしゃいませ、チケットは購入済みでしょうか?」と問う、受付の女性。アクアはタクシーで移動する最中に購入していたチケットを差し出した。
「高校生カップルで」
「はぁ!? あ、あんたカップルって!?」
先に購入していたWebチケットを受付に見せ、「確認しました。楽しんでください」とお姉さんにいわれると、後ろで慌てるかなを無視して入口に向かう。なお、その受付のお姉さんはすべてを悟ったように微笑みながらアクアたちを見送っていた。
「わぁ~」
最初は不満げだったかなも、水族館の中に入ると歓声を上げていた。平日ではあるため、人影はちらほらだが、近くの学校の修学目的もあるのか制服姿もちらほらみられる。
「こっちだ」
「あ、待ってよ」
何度も来たことがあるアクアは目的の場所へ向かうためにかなに声をかけて先導する。
「あんた、よく来るの?」
「まあ、たまに。気分転換とか、考え事したいときに来る程度だ」
見つけたのはなんとなくだった。館内が薄暗く、自分の顔も目立たないため、場所的にはちょうどいい。あと、今から向かう場所は人気も少なく考え事をするときにひどく重宝した。この趣味を知ったルビーは、深海でぼぅとしてるみたい、とコメントを残していた。
「気分転換ならもっと親しい人と一緒に来ればよかったんじゃない? ルビーとか」
「いや、妹に学校さぼらせられないだろう」
「シスコンきも………」
かなに罵倒されるが、実際、ルビーの成績はアクアとは異なり、結構壊滅的だ。アクアには人格としての記憶はないが、吾郎とリンクしている医師としての知識はある。そのため、偏差値としては70を超える。ルビーは逆だ。アクアの知る原作では享年が12歳であるが、それまで小学校にも通えなかった子供だ。つまり、自我があるだけで学校の成績という点では一から学んでいるといっていい。かなから罵倒されるのもルビーの成績を知れば、さぼらせる方がやばいと気づくだろう。
「なら……黒川あかねか、MEMちょは? 仲良いみたいじゃない」
「いや、悪くないけど。仕事仲間だし……あくまで私的な気分転換だから、なんか付き合わせるのは悪い」
「私ならいいっていうの!?」
「有馬は、なんか気を使わなくてもいいような気がして」
「使えや! コラ!」
なんとなく、この辺は原作の知識に引きずられているんだろうな、とアクアは思う。気を使わなくていい女友達、それが有馬かなに抱くアクアのイメージだ。そのイメージに引きずられて、今日もなんとなく、原作を再現するように誘ってしまった。
「さて、ここだ」
「――――クラゲ?」
水族館のコーナー。クラゲが入った水槽が周囲を囲む部屋で各水槽の前には休憩用なのか、鑑賞用なのか椅子もおかれていた。アクアは、一つの水槽の前におかれた椅子に座ると目の前の水槽の中でフワフワと浮いているクラゲを注視する。沈んでは浮かび、沈んでは浮かぶ。ただそれだけの姿。いつまでも代り映えのしない光景を目に入れながら考え事をするのがアクアの楽しみだった。
「地味な楽しみ方ね」
「地味でいい。ここは、楽しむためじゃなくて、気分転換にくるだけだから」
それだけ言うと、諦めたようにかなもアクアの隣に座り、水槽の中にいるクラゲを眺める。
「………そろそろ『今ガチ』も大詰め?」
「ああ」
「実際、あんたはどうするの? 評判だと黒川あかねかMEMちょだけど」
「まあ、あかねとお茶を濁しておしまい、になるだろうな。番組で本当に恋人になるなんて影響が大きすぎる」
「ふぅ~ん」
ただ聞いてみましたと言わんばかりに興味なさげな返答。しかし、声の調子はご機嫌とばかりに高いし、口元は歌いだしそうなほどに緩んでいた。
「興味本位だけど、仕事とかいろいろ抜きにして、あんたはどういったタイプの女が好きなの?」
「タイプ?」
「そう、あるでしょう? 年上が好きとか、年下が好きとか……背が高いほう好きとか、低いほうが好きとか」
「難しいことを聞くな……」
そう、難しい。
同じような質問をされ、原作の星野アクアは、雨宮吾郎と星野アクアの境目があいまいだ、と評していた。だが、雨宮吾郎の代わりとなるこの場にいる星野アクアは、本来この身に入るであろう雨宮吾郎と類似点を多く持っただけの人間の魂だ。
しかも、その代償として、この【推しの子】を原作とした知識以外をほぼすべて欠落している。性格などは生まれ育った環境によって左右されるという。ならば、ここにいる星野愛久愛海は一体誰なのだろうか?
生まれ育った十六年がまったく影響しないとは考えられない。だが、一方で、この身に定着している【推しの子】の星野愛久愛海の影が影響しないか、といえばそれはないだろう。その影を追って、ここまで来た。
つまり、ここにいる星野愛久愛海は、この世界の星野愛久愛海だ、と結論付けるしかない。自分が誰だ? などと中二病のようなことを考えなければならないとは―――
もっとも、考えていた胸糞悪い悲劇回避はあかねを『今ガチ』で助けたことでそろそろ達成しそうだ。だが、そのことが逆にこの場にいる星野愛久愛海の存在意義を疑うことになる。これからどうすればいいだろうか? 何を考えればいいだろうか。星野愛久愛海はそれがわからない。ここまでは頑張らなければ、とやってきた道だ。
だから、有馬かなへの回答はこうなる。
※ ※ ※
「好きだと自覚できた女が、俺のタイプじゃないか」
「はぁ? ふざけてるの」
まるで、お茶を濁すような回答に有馬かなは憤慨した。
もっとも、具体的に年下が好き、とか、背の高い女が好き、とか、胸が大きな女が好きとか言われれば、それはそれで憤慨しただろうが。
「仕方ないだろう? 俺は今まで恋をしたことがないんだから」
「………え? あんた、『今ガチ』のあれって演技じゃなかったの?」
アクアの回答はかなにとっても予想外だ。売れっ子のイケメン実力派俳優。それだけ聞けば、現場でも女に粉かけて遊んでいると思っていた。
「さすがにあそこまで照れるのは演技だが、恋愛がわからないのは事実だ。なにしろ、今まで恋なんてしたことがないからな」
「でも……映画の時も、今回のドラマもなかなか恋愛要素あって演じてたじゃない」
それはどちらとも不知火フリルと共演した作品だ。どちらもほのかな恋心を演じる役ではあった。だが、かなの言葉を聞いたアクアは困ったように笑う。
「有馬からそう見えたならうまく演じられたのか? よくわからないが、想像でしか演じられなかったからな。本格的に演じるとなるとやっぱり不安だよ」
自らの演技が認められたことが嬉しかったのか、あるいは、恋愛を知らない身で演じた自分が認められたことが面白かったのか、苦笑を浮かべるアクア。そこに嘘の色は見えなかった。
「へ~、ふ~ん、へ~」
いいことを聞いた、とかなは思った。今のアクアは恋愛については真っ白なキャンパスのようなものだ。ここに誰が色をつけられるかで、アクアの今後の恋愛観にも影響するだろう。
「さっ! いつまでもここでぼぅ、とクラゲを見てないで一緒に回りましょう! 私、水族館初めてなんだから!」
「は? 水族館だってデートスポットだぞ。有馬ならいくらでも来られただろう?」
その言葉にイラっとした。そんな尻軽な女だと思われていることに。
確かに、苺プロに所属して、直後に『今日あま』のヒロインに抜擢されて、芸能科の二年生の名も知らない男子に声をかけられることは多かった。だが、それは今後、苺プロという事務所で大成するかもしれない有馬かなというトロフィーに唾つけしようという下心しか見えなかった。だから、彼らの誘いには一度も乗っていない。レッスンだ、撮影だ、となんだかんだと退けてきた。
もっとも、あの苺プロの新生B小町としてのデビューだ。レッスンをさぼることなどできるわけがないのも事実だが。
「失礼ね! 水族館だって、遊園地だって、とにかくデートはあーくんとするのが初めて! 一番最初!」
笑顔で言うかなの言葉を聞いたアクアは一瞬驚いたような顔をして、そのあと、ふっ、と気を緩めたように笑う。
「それは光栄だな。有馬かなの初デートを俺が? エスコートは必要か?」
そう言いながら片手を差し出すアクア。
もしも、立場がなければ即答しただろう。だが、アクアもかなも芸能人で、『今ガチ』で評判で、かなはアイドル予定だ。ここで目立つわけには行かない。
「いらないわよ。でも、あんた、ここ慣れてるんでしょう? だから、案内ぐらいはしなさいよ」
「はいはい、仰せのままに」
クラゲたちがふよふよと浮かぶだけの部屋からアクアとかなが入口付近から再度順路をまわるために出ていく。彼氏彼女というには若干距離の遠い位置を保ちながら、彼らは平日の水族館を楽しむ。一つ一つの水槽で今まで見慣れているのか魚の解説を得意げにするアクアに向かって思う。
「(あーくんに恋愛を教えるのは、絶対私なんだから!)」
なお、出口のお土産屋でお揃いのイルカのキーホルダーを購入し、アクアにつけさせ、かなは引き出しに仕舞うのだが、それはアクアとかなだけの秘密だった。
あかね:母親にあいさつ。娘をよろしくといわれる
かな:平日に水族館デート、お揃いのキーホルダー
えっと、特にいうことはありません。前回のMEMに続いてこのざまです。なお、あの「一番最初」は言わせたかったので、デートの内容変えても整合性撮れるように頑張りました・・・
ここでは、オリ主という扱いのアクアがアクアであることを悩むシーンがたぶん特徴です。原作と血筋が色濃く出てますが。まあ、原作知識+復讐なしのアクアくんと思っていただければ、と思います。(前世の名前すらないので・・・)
誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。
もしよろしければ、感想、評価よろしくお願いします。励みになりますので、感想を一言でも頂ければ幸いです。