星の子たちにハッピーエンドを   作:天凪

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前話の最後を「あーくん」に変更しました。

前回同様、全体を見ていただいた方がいましたが、量が多く単純に取り入れられないため、直接文言を修正して、取り入れました。ありがとうございました。



今ガチの終わり

 

 

 

 鷲見ゆきは、『今ガチ』の休憩室で一人、紙コップに入れたコーヒーを飲みながら一息入れていた。

 

 この部屋は定点カメラなどがなく、確実に配信に映らない部屋として設定された場所だ。いくら恋愛リアリティーショーで日常を撮影されるとはいっても、すべての行動がカメラに撮られるとなれば、参加者の気持ちが持たない。だから、こうした絶対に配信に使われない部屋が用意されるのだ。ここでの言動はすべて配信にならない安全地帯。

 

 そこで一人、鷲見ゆきは紙コップでコーヒーをすすっていた。別に意味があるわけではない。ただ、この部屋から出れば、『今ガチ』の鷲見ゆきとなる必要があり、熊野ノブユキと森本ケンゴを惑わす小悪魔ムーブとして演じる必要があるため、ここで心の休息を取っていただけだ。

 

「あの………ゆき、ちょっといいかな?」

 

 その安全地帯に招かれざる客―――そういうのは酷だろう。少なくともキャラクターとしては、ゆきよりもはるかに楽なキャラクターを演じる黒川あかねが現れた。別に妬む気持ちはない。この番組で一番目立つというのは鷲見ゆきのスタンスだ。あかねは元の状態であれば、目立つというよりも埋没するキャラクターだった。それが、アクアの助言からアクアに絡むようになり、ようやく普通レベルになったといっていい。

 仮にあかねが浮上しなかった場合は、アクアにも粉をかける必要があるか? と考えていたゆきからすれば救世主のような存在でもある。

 

「なにかな?」

「ゆきは………最終回、どうするつもり?」

「それは、最後のお楽しみじゃないかな?」

 

 そう、恋愛リアリティーショーは最後の告白シーンが最大の見せ場だ。その予定を漏らすことはできない。一部の例外を除いては。

 

「まあ、あかねにならいいかな? 私は、ノブもケンゴも断るつもりだよ」

 

 ゆきの回答に驚くあかね。なぜなら、この番組のメインとなっているのはゆきとノブユキとケンゴの三角関係だ。それが、最後は誰も選ばない。そんな選択肢が演出上あっていいのだろうか? と、あかねは思う。

 

「ただ、まあ、裏ではわからないけどね」

 

 パチン、とウインクをしてあかねを惑わせるようにゆきが言う。それは、つまり、番組上では付き合うと公言しないが裏では、付き合うということだろうか? とあかねが困惑するのも無理はない。恋リアが映された映像がすべてだと思うと真実を見誤るということだ。

 

「そっか……、撮影で受けないなら大丈夫かな?」

「あれ? あかねには何か作戦がある感じ?」

 

 あかねの様子から何かを感じ取ったゆきがあかねとの距離を詰めて問いただそうとする。

 

「そ、その、作戦っていうか……アクアくん、誰か一人でも告白受けたら演出上で必要ないから、必ず断るかなって」

「あぁ~、あり得る」

 

 『今ガチ』に限らず恋愛リアリティーショーの最大の見せ場は告白シーンであることは間違いない。そこで、例えば参加者全員がカップルにならなかったとしよう。間違いなく、今までの配信は何だったんだ!? と最後の最後で評価を落とすだろう。微妙な天秤の上で揺れつつも、最後にどちらに傾くか? というのを楽しみにしつつも、全部が敗北は面白くない。たとえ一組でもカップルが生まれるのが視聴者の求める演出だ、というのはゆきも理解していた。

 

 ならば、仮にアクアに肯定的な意見を出させるというのであれば前提条件として、そもそも、アクアが告白する、あるいは告白される前にカップルが成立していないことが条件。アクアの順番が最後であることがなお望ましい。

 

 つまり、アクアを罠にかけるのであれば、最後であり、かつ誰も告白を受けていない状態、という展開に持っていく必要があるのだ。そして、今回の『今ガチ』で、最大の障壁となるのは、小悪魔ムーブでノブユキとケンゴをもてあそんでいるゆきである。彼女がどちらかのアプローチをカメラの前で受けるというのであれば、そもそもの達成条件が満たされないところだった。

 

「それで、それでどうするの?」

「えっと――――」

 

 ゆきに顔を寄せてあかねは、最終回で計画していることについて話すのだった

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 今日はいよいよ収録の最終日。時刻は夜、雰囲気の出ている海辺の公園で、『今ガチ』の出演者たちが集まっていた。お互いに口数が少ない。この後の告白シーンの収録を考えるとそうそうワイワイやれるほど強い心臓を持っているわけではない。

 

 星野アクアは、ほぼ目立たないように出演者の中に紛れながら、撮影開始の時を待っていた。ただ、心中はあまり緊張していない。ドラマの撮影でもよくある時間だ。失敗できないことを考えるとどちらかというと演劇に近いかもしれない。隣に立つあかねを横目で見ても、あまり緊張していないように見える。

 実際の演劇ではホールにいる客の視線が集まるのだが、気にする視線は収録ではカメラ一つでいいのだ。ならば、その緊張の度合いはやはり異なるのだろう。

 

「は~い、それではカメラ回しはじめま~す!」

 

 スタッフのその声が響き、いよいよ最後の収録が始まる。

 

「それじゃ、俺が最初に行かせてもらおうかな?」

 

 自ら持ってきたのであろうギターを肩から掛けていた森本ケンゴが一番最初に名乗り出た。まっすぐと鷲見ゆきの前に行くと、ジャーン、とギターをかき鳴らし、なぜか突然演奏を始めて歌い始めた。もっとも、さすがにレーベルなどに楽曲を提供しているだけあって、オリジナルソングと思われる曲は、うまいと思える出来だったし、歌詞もしっかりと『今ガチ』の思い出に合わせて練られていた。もっとも、それが告白する際のラブソングか? と問われれば、少し首をひねりたくなるような歌であった。

 

 その時間はわずかだったと思う。少なくとも白けるような時間ではなく、最後まで弾き切ったケンゴはまっすぐゆきのほうを見て、告白の言葉を口にする。

 

「ゆきさん、付き合ってください」

「う~ん、ごめんね」

 

 非常に軽いやり取り。だが、その結果をケンゴは分かっていたのだろうか、特に傷ついた様子も見せず、だよね、と笑っていた。

 ケンゴがゆきに告白するのは、まあ妥当であり、振られるのも大体わかっていたためだろう。

 

 この最終日の告白タイムにおいて、ルールはない。ただし、演出はある。少なくとも、誰かから告白を受けるか、あるいは告白する、というルールだ。もっとも、最終日に告白もせず、告白されない、という出演者は、いったい何のために参加したのか? ということもあり、空振りが分かっていても告白せざるを得ない、という状況もあるのだ。ケンゴもその一人であろう。

 

 ケンゴの役割としては、鷲見ゆきと熊野ノブユキの三角関係の当て馬に近いものがあった。彼自身もそれを自覚しているからこその告白と一番槍だったのだろう。楽曲は自分のアピールだろうか。ラブソングでもなかったし、もしかしたら、次の曲の構想だったのかもしれないが、それはアクアにはわからなかった。

 

「さ~て、次は俺かな?」

 

 そういって、片手にバラの花束をもって現れたのは熊野ノブユキ。ベタだな、とは思うものの赤いバラは確かに目立つ。恋愛リアリティーショーという非日常としては、よいアイテムかもしれない。ノブユキも先ほどケンゴを振ったゆきの前に立つと持っていたバラの花束を差し出した。

 

「ゆき、俺と付き合ってくれ」

 

 差し出した赤いバラをそのままに頭を下げるノブユキ。アクアとしてはここで告白を受けると思っていた。今までの流れからしても受けても何も急な展開ではない。むしろ、彼らの恋が成就するかが、注目の的だったのだ。

 

「えっと、ノブと『今ガチ』やるの楽しかったよ。でも――――ごめんなさい」

 

 あれ? とアクアはここで疑問に思った。原作知識でゆきとノブユキが付き合っていたのは覚えている。だが、それを受けたのは『今ガチ』の最終日ではなかったのか? と。収録の最終日で覚えているのはアクアがあかねにキスしたところが衝撃が大きかったのは覚えているが、その前は適当に流されていたような気がする。細かいところまで覚えていないのだ。

 

 つまり、この流れから付き合い始めるのだろうか? と目の前の現実を忘れるように思考した。

 

 これで、ケンゴ、ノブユキ、ゆきはある意味、三角関係の流れを清算した。結果はカップル不成立だったが。であれば、次の組み合わせは決まっている。ここまでの主役だった三人の視線はメムに向けられていた。一方の視線を向けられたメムはわたわたとしていた。

 

 

 

 メムとしては想定外だったのだ。ゆきとノブユキのカップリングがほぼほぼ決まっている中、ケンゴあたりが安牌として告白してくれることを願っていた。どう考えても主役は、ゆきユキとアクあかのコンビであり、あぶれたもの同士でつじつま合わせをすればよいと思っていたのだが、まさかの予想に反してケンゴがゆきに告白した。

 

 こうなれば、組み合わせは、『本命+あぶれたもの同士』から、正統派の三角関係と邪道派のトリオとなる。

 

 そして、現在、正統派の清算は終わり、邪道派のトリオに手番が移ったのだが、ここで最初に先陣を切る役目を与えられるのがメムだ。本命がアクあかなのだから、その結果がわかった後でメムが告白しても何の意味もない。ここで日和れば、空気を読めない、というレッテルが張られ、今まで築き上げてきたユーチューバーとしての名声もどうなるか。

 

 もしも、最初期の頃のままだったら、間違いなく告白できただろう。だが、先日のアクアからアイドルとして推せるの発言以降、メム自身もアクアに対する感情のコントロールがうまくいかない。フリルチャレンジといわれるお遊びもあっさりと引っかかってしまうほどに。

 

「えっと、えっと」

 

 独り言で時間を稼ごうとするが、全員の顔には怪訝な表情が浮かび上がっている。お前の番だぞ、と背中を無理やりに押されているような。プールのウォータースライダーで順番待ちをして、頂上からの高さに怯えて覚悟を決めているのに後ろの客の視線が気になるあの一瞬のような感覚だった。

 

 とはいえ、いつまでもそのままというわけにはいかない。女は度胸、と覚悟を決めるとメムはアクアの前に立った。

 

「あ、あのさ、アクたん、フリルチャレンジとかいろいろやられたけど、うん、今となっていい思い出かな? それで、もしよかったらなんだけど、これからも一緒に遊ばない? 今度は、恋人として」

 

 前の二人に比べると随分と不器用な告白だったかもしれない。だが、言いたいことは伝わったようだ。

 

「………ごめん、MEMちょと遊ぶのはいいが、そういう関係にはなれないな」

「ですよねぇ」

 

 断られること前提の告白だったはずだった。つまり、予定通りの回答。だが、思っていた以上にアクアに断られた事実はきゅぅと心を締め付け、今の表情を見られないように俯いてしまう。

 

「別にMEMちょが嫌いなわけじゃない。俺がアイドルになったら推せるって言うぐらいMEMちょは可愛いと思う。だけど、俺は―――」

 

 いつまでも落ち込んだような恰好をしていたからだろうか、アクアが慌ててフォローするような言葉を早口で口にする。フォローのつもりのその言葉、だが、過去に夢破れた彼女にとって、それ以上の誉め言葉はなかった。

 

「な~んてね! 最後にフリルチャレンジ成功した?」

 

 ばっ、と顔を上げると、メムは奇麗に笑っていた。それを見たアクアは少し驚いた後、ふぅ、と安心したように息を吐いて口にする。

 

「やっぱり、MEMちょは笑っている方がいいかな」

「はっはっはっ、調子いいこと言っちゃって! はいはい、次は本命だよ!」

 

 メムのほうに向いていたアクアの体を肩を掴んでひっくり返し、後ろで待っていたあかねの正面に向けてあげた。

 

 

 

 アクアにとっては先ほどのメムの告白もどきのほうが予定外だった。いや、よくよく考えるとケンゴがゆきへ告白した時から考えるべきだったかもしれない。原作とは異なり、トリオに別れた組み合わせ、ならば、演出としてはこの流れが正しい。そして、最後は―――黒川あかね。この『今ガチ』で最悪を回避した少女がアクアの前に立っていた。

 

「あ、あの―――アクアくん、どうだったかな? 私、アクア君の役に立てたかな?」

「ああ、あかねのおかげで、少しは恋愛ってやつが分かったと思う」

 

 ここでいうのはお世辞でもなんでもよい。全く分からなかったでは話にならないので、アクアも調子を合わせる。

 

「よかった。あ、あのさ……だったら、これからも私と一緒に恋愛のお勉強続けられないかな?」

 

 それは、アクアも想定していた言葉だった。だが、想定外が一つ。つまり、この場で誰もカップルが成立していないということだ。鉄板だと思っていたゆきユキだったが、まさかの拒否であり、最後の最後で、アクアがあかねの告白ともいえない言葉さえも、拒否することは演出上さすがに難しいと思った。

 

 だから、精一杯、あかねの提案を受け入れたような笑みを浮かべて肯定を口にする。

 

「そう……だな。あかねさえよければ、これからも一緒に勉強してくれるか?」

 

 アクアの返答を聞いたあかねはもしかしたら、アクアに断られるかもしれないと思っていたのだろう。意外そうな顔をして、アクアの言葉の意味をかみしめて、満面の笑みを浮かべる。

 

「はい! 喜んで!」

 

 それはある意味カップル成立なのだろうか。だが、カップルというにはやや幼い光景だったのだが、最後の最後に爆弾を落としたのはあかねだった。

 すぅ、と目をつむるとアクアの前に顔を持っていく。

 

「なんのつもりだ?」

「―――キスしてもいいよ? もしかしたら、いっきに恋愛、分かっちゃうかも。私、アクアくんなら平気だから」

 

 選択肢をアクアにゆだねたあかねに、はぁ、と心の中でため息を吐いた。確かに、『今ガチ』の視聴者は告白にキスシーンを期待していただろう。だが、その期待はここまではすべて空振りだ。ここで、一気に元を取ろうという考えはわからなくはない。わからなくはないが……ここで本当にキスをすれば、この着地点に意味がない。しかしながら、すげなく拒否するのは、憚られる。だから、ここで取れる最大の妥協点は―――

 

 アクアはあかねの言葉に苦笑を浮かべる。

 

「それは、ちょっと俺にはハードルが高いかな。だから、これで許してくれ」

 

 アクアは一歩あかねに近づくと、前髪をかきあげ、おでこにそっと口づけるのだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

『カップル成立?』

 

 ハテナマークの付いた何とも自信のないエンディングカードで、『今ガチ』の最終回は終わりを告げた。

 場所は苺プロ事務所のアイドル部門の一室、いつものメンバーで最後の『今ガチ』を見ていたのだが、やはり今回もお通夜のような暗い雰囲気になってしまった。

 

「―――あぁぁ、もう! なぁにが、『これで許してくれ』だっ! しっかり断りなさいよ!!」

 

 やはり、一番最初に憤慨したのは、かなだった。

 

「なんで、でこチューよ! 私なんて、手すらつながなかったのに! あの男は!」

 

 以前のようにアクアなんて、と思いかけたが、前回の反省をいかした。あの男は毒のようなものだ。ひとたび回れば、離れられなくなる。解毒したころに、そろそろ、なくなってきたんだろう? と優しくする、悪い男なのだ。だから、最初から解毒しなければいい。

 

「は、ははは」

 

 いつもは引き出しにしまっているキーホルダーをかなはポケットから取り出した。青いイルカのキーホルダー。アクアが持っているのは白いイルカのキーホルダーである。アクアとかな以外は持っていないお揃いのキーホルダー。それだけがかなの心を慰めていた。

 

 一方、毎週のように義弟(息子)のあの男と似たような所を見せられているアイとしては、そろそろ限界が来ていた。見るたびに言動があいつと重なって。あいつと同じようになってしまわないか心配で、心がつぶれそうになる。

 

「あ、あはは、やっぱり芸能界って怖いね。うんうん、今すぐアクアを引退させないと。大丈夫だよ、だってアクアは偏差値70の天才だもん。今から進学校だって行けちゃう。そこからいい大学に入って、ちゃんとした会社に入って、いいお嫁さん貰って――――」

 

 ぶつぶつとアイにとって都合のいいアクアの将来像を呟くアイ。その様子をルビーがあきれた様子で見ていた。

 

「ねえ、ミヤコさん、マ……お姉ちゃんが、なんかお兄ちゃんの未来を勝手に決めてるんだけど……」

「はぁ……ふんっ!」

「あいたっ!」

 

 ぺちん、とアイの頭を軽く叩くミヤコ。それでようやく正気に戻ったのか、頭を抑えて、叩いたミヤコを非難めいた目で見つめる。

 

「はぁ、アイ、いい言葉を教えてあげる」

 

 それは、彼女の今までの人生経験で培った金言なのだろうか。やや、溜めて、アイの困惑するような表情を無視して口を開いた。

 

「イケメンはね、何をやってもイケメンなの。むしろ、一般社会にアクアを解き放つ方が怖いわよ」

 

 ガーンとまるで衝撃を受けたようにアイが仰け反る。芸能界という非一般的な世界に生きるよりも、普通の高校、普通の大学のほうが良いと思ったのだが……

 

「あのね、今のアクアは注目の的なの。つまり、下手なスキャンダルは致命的。だから、あれで済んでるの」

「――――あれで、少しなの?」

「当たり前じゃない。あの子が普通に高校生やってたら、日替わりで彼女が変わっててもおかしくないわよ」

 

 日替わり定食でもあるまいし、と思ったが、もしも、芸能人でないアクアがその枷から解き放たれたら、自由に女の子を口説けるとなったら、確かに被害は甚大になることは容易に想像ができた。いや、逆にアクアが喰われる未来もあったかもしれない。

 

「だから、恨むなら、あの子の両親の遺伝子を恨みなさい」

 

 それはアイの秘密を知らないかながいる中ではギリギリの言葉。あのイケメンを生んだアイの自業自得と言いたかったのだが、アイからしてみれば、あの男の遺伝子が悪さをしているのよ、という風に聞こえて、思わずソファーに身をゆだね、口から魂が飛び出しそうな衝撃を受けるのだった。

 

「あの、ミヤコさん、キーホルダー眺めて笑う先輩や、魂抜けてるお姉ちゃんも気になるんだけど、あのお兄ちゃんの最後は大丈夫なの?」

「う~ん、そうね。まあ、問題ないと思うわ」

「えっ!? でこチューまでしたんだよ!?」

 

 身体的接触が悪いとは言わない。ドラマでも普通に見るからだ。だが、これは恋愛リアリティーショー、そこまで匂わせるのは悪手だとルビーは思ったのだが。

 

「仕方ないわよ。本命だと思っていたゆきユキが空振り、アクアだってメムさんの誘いを受けるわけにも行かなくて、最後の砦となった黒川さんしか盛り上げる場面がないのは映像系の人間ならわかるわ。それに、キスしたわけでも告白したわけでもない状況だもの」

「え? じゃあ、今のあかねさんとお兄ちゃんの関係って……」

 

 その言葉を口にしたとたん、ミヤコの顔が曇った。本当は指摘してほしくなかった一面だからだ。

 

「そうね、まあ、良く言えば『友達以上、恋人未満』かしら」

「じゃあ、悪く言ったら?」

 

 無垢な表情でルビーが酷なことをミヤコに聞く。だが、ここで誤魔化せるような感じではない。だから、はぁ、とため息を吐いて正直に答えた。

 

「悪く言ったら『キープ』でしょう」

「『キープ』! え? そんな感じだったかな?」

「そうよ、分からないから質が悪いのよ。正式な恋人じゃないから破局宣言はしなくていいし、付き合うときは誤魔化せるし、都合のいい女ってやつね」

「えぇ~、お兄ちゃん不潔……」

 

 さすがに思春期の女の子にキープだのなんだのはきつかったらしい。普段は兄を貶めるようなことは言わないのだが、今回ばかりは違った。

 

「あのね、あれはアクアが誘導したんじゃなくて、黒川さんが望んだのよ。都合のいい女でいいから付き合ってください、って」

「え? そうなの?」

 

 本当に不思議そうな顔をして問い返すルビーにさすがのミヤコも辟易する。

 

「あなたもアクアと一緒でもう少し女心とか恋愛とかを勉強した方がいいかもね………」

「むぅ、失礼な! 私だって、恋愛とか完璧だし!」

「どの口がそれを………」

 

 やっぱりアイドルとして活動する前に芸能界の女として注意すべき点はしっかりと教え込むようにしよう、とミヤコは改めて思うのだった。

 

「う~ん、でも、お兄ちゃん遅いな。もしかして、MEMちょの勧誘失敗したのかな?」

「それはないから安心しなさい」

 

 そう、今日は『今からガチ恋始めます』の最終話の配信日であり、同時に出演者のお疲れ様会が開催されている日である。その中でアクアが改めてメムに新生B小町に勧誘すると聞いていたのだが、そろそろお開きで、MEMちょを勧誘したなら連れてこられる時間帯になっているはずだった。だが、アクアから連絡の一つもない。それをルビーは心配していたのだが、ミヤコは全く心配していなかった。

 『今ガチ』の最終話で見せたメムの表情はまだアイドルという存在に憧れている、夢見ているがゆえの表情だ。ならば、それをあの男から釣り針として差し出されれば―――

 

 ブーブーという音と共にルビーが自分のスマホを見る。そこには待望の知らせがSMSで入っていた。

 

「お兄ちゃん、もうすぐ着くって! MEMちょと一緒に!」

「そう、よかったわね」

 

 アクア、そして、MEMちょという名前に今まで現実逃避していたかなとアイも意識を現世に戻す。

 そして、しばらく待った後、コンコンというノックの後、「入るぞ」という聞きなれた声とともに一室のドアが開くのだった。

 

 

 

 





今ガチのの最終回です。あそこ漫画でもダイジェストでよくわからなかったので、アクアくんも正確に記憶残ってませんでした。
そのための変化球! なお、もちろん、裏ではあかねとゆきが―――これは次回。
MEMちょの勧誘も次回となります。


誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。

もしよろしければ、感想、評価よろしくお願いします。励みになりますので、感想を一言でも頂ければ幸いです。
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