「(MEMちょです。アクたんに連れられて事務所に来たら空気が変なんだけど!?)」
アクアに連れられてやってきた苺プロの事務所。正面の入り口は締まっており、裏口からアクアのカードキーを使って建物に入ったメムは、先導するアクアに従ってある一室へと連れてこられていた。アクアがノックの後、部屋に入ったため、メムも連れ立って部屋に入ったのだが、そこには四人の女性がいた。
彼女たちは真ん中のテーブルに置かれたPCを中心として座っており、うち二人の雰囲気が暗く、逆に残りの二人の雰囲気は明るい。特にアクアの顔立ちによく似た少女の視線はメムに期待するようにキラキラ輝いていた。
しかし、雰囲気が暗く、目が死んでいる女性はどこかで見たことがあるような――――と思い、誰に似ているんだろうか? と考えていると一人だけメムの記憶にヒットする女性がいた。そして、彼女はこの苺プロにいてもおかしくない人物だ。
「あ、あの! もしかして、元B小町のアイさんですか!?」
「ふぇっ!? そ、そうだけど………」
不躾ということは分かっている。だが、目の前に最推しを前にして、黙っていることはできなかった。アクアの隣から離れて、アイに近づくと、手を差し出した。
「あの、ファンなんです! 握手してもらえますか?」
「え、ええ」
アイはまだ正気に戻っていないのだろう。メムに言われるままに、差し出した手と握手をしていた。手を通じてアイの温かみを感じる。テレビの向こう側でしか見られなかったメムがアイドル目指す原点となったアイドルと握手してもらえた。もう、今日は、アイドルになることを夢見られただけでいいんじゃないか、と思ってしまうほどに感動していた。
「なになに!? メムちょは、アイ推しなの!?」
「え、あ、はい」
アイと握手している間に割り込んできたアクアに似ている少女が、嬉しそうに話しかけてきた。その目に浮かんでいるのは期待だった。もしかしたら、同担かもしれない、という期待だったのだろう。
「ミヤコさん! アイ推しに悪い子はいないよ! もう、メムちょでいいんじゃないかな!?」
「はぁ、ルビー、いくら何でもそれはないわ」
ミヤコさんと呼ばれた女性が頭が痛い、といわんばかりに額を押さえてルビー(?)と呼ばれた少女の言動を嘆いていた。
「いきなりびっくりさせて、ごめんなさい。メムさんよね? アクアに連れてこられたのは分かっているから、そちらに座ってもらえるかしら?」
「あ、はい。私も、ごめんなさい。アイさんがいたから、つい」
ミヤコという女性に言われた通り、指定された椅子に座るメム。アクアはどうしたのだろうか? と見渡してみれば、邪魔にならないように壁に寄りかかって立っていた。
「最初に私が自己紹介するわね。斎藤ミヤコ―――苺プロの副社長で、アイドル部門の責任者よ」
彼女の顔は見たことがある。苺プロのアイの公式SNSに顔が出ており、アイと同じく年齢詐欺のあだ名で呼ばれている女性だからだ。メムも確認したことがあるが、アイの卒業コンサートとアクアの中学卒業、高校入学と顔に老いを感じないのはなぜなのだろうか? と疑問に思ったものである。
「それで、あなたは、人気ユーチューバーにしてインフルエンサー『MEM』。ユーチューブチャンネル登録者数は100万近くて、ティックトックフォロワー数も100万超えている、ネット上の超有名人といっていいみたいね。そして、事務所は『FARM』と業務提携している。あなたがアイドルするにしても、苺プロからアイドル業務を依頼する形で問題なさそうね。―――で、ここまでで違う点はあるかしら?」
ミヤコの問いにメムは首を横に振った。ここまでメムについて調べられていることに正直驚いていた。何か調査のために呼ばれたと思っていたから。自分の契約についても聞かれると思っていたのだが、どうやら調査済みのようであった。
「それで………問題なければ、あなたにアイドル業務の契約を―――と言いたいのだけれど、あなた、何かいわなくちゃいけないことがあるんじゃないかしら」
ギクリとした。このまま、契約が進められれば、と思ったが、アクアにもばれているような素振りを見せられたし、もちろん、その上司ともなるミヤコにもばれているのだろう。本当はメムの触れられたくない部分。だが、絶対に触れなければならない部分。メムがアイドルをできない一番重要なファクターに。
「はぁ、大体わかるわ。あなた、骨格から幼く見えるけど………年齢、サバ読んでいるのでしょう?」
「(やっぱりバレてたぁぁぁぁぁ!)」
ばれていることが恥ずかしくて、つい俯いてしまう。周囲の人間の表情がどうなっているか見たくはなかった。
「まあ、個人でやっている子が年齢をサバ読むなんてよくあることよ、気にしないわ。……で、本当はいくつなの?」
ミヤコの優しい声にメムはほっ、と安堵した。
どちらにしても契約するのであれば、身分証明として生年月日などは分かってしまうのだ。それに素直に告げて、アイドルになれるというのであれば、メムは年齢を告げることに―――躊躇はするが仕方がない。
「えっと……その……」
周りには聞こえないようにミヤコに近寄り、ミヤコもメムの意図が分かったのだろう、周りに聞こえないように耳を近づける。そして、告げられるメムの本当の年齢。
ミヤコは最初は、ふむふむ、と聞いていたが、本当の年齢を口にした瞬間、驚愕の表情をしていた。
「がっつり盛ったわね!!」
「申し訳ございません~~」
メムからすれば、理由があるといえど、年齢を詐称してきたことについては謝ることしかできない。
「公称18歳だから………なかなかの肝の据わり具合ね」
「数えないでください!」
ひのふの、と公称の年齢と実際の年齢の差を数えだすミヤコを羞恥心から全力で止めた。
「え? メムちょって本当は何歳なの?」
「20歳ぐらいじゃないの?」
そのやり取りに疑問を持っていたのかルビーともう一人の少女がそれぞれメムの年齢について疑問と予想を言葉にする。だが、メムからすれば、それだけ若く見られていることに嬉しく思うべきか、これから回答する年齢に罪悪感を覚えるべきか分からなかった。しかし、本当の年齢を口にしないと話が進まないと思ったのか、おそるおそる本当の年齢を口にした。
「………25歳です」
しばしの沈黙。誰もが、そのメムの公称の年齢と今聞いた実際の年齢のギャップに驚愕の表情を浮かべていた。
「あ、でも、お姉ちゃんも、この間、20歳の時のアイドル衣装で歌って踊って、20歳と変わらないって言われていたから、いいのかな?」
「………ルビー、その話は恥ずかしいからやめて」
ルビーはメムの本当の年齢について考え、直近の事を思い出したのか、さらっと口にする。その言葉に衝撃を受けたのはメムではなく、アイのようだった。まさかの身内からいきなり年齢について恥ずかしい事実を暴露され、思い出したくないのか、顔を赤くしていた。
「ってか、あんた、25歳で高校生として『今ガチ』に出て、アクアにいいようにされていた訳? しかも、アクアに告白までして……メンタル最強ね」
「ぐふっ!」
それはメムからすれば一番触れられたくない部分だった。メムが名前も知らない少女がその一番触れられたくないことを口にし、メムの心にぐさりと槍をさすようなダメージを与える。
周囲の雰囲気も、ああ、そういえば、という何というか気の毒なものを見るような視線になっていた。アクアが何も言ってくれないのが唯一の救いだろうか。
思わず膝をついてしまい、せめての言い訳とばかりに18歳を名乗らざるを得なかった事情を話した。
アイドルを目指していたこと、弟が二人いるシングル世帯だったが、母親も応援してくれたこと、オーディションではなかなかの結果も出していたこと、しかし、途中で親が倒れて、高校を休学して働き始めたこと、弟二人は大学に入学し、親は元気になったが、その時にはメムは23歳になっていたこと、ほとんどのアイドルオーディションの年齢制限に引っかかったこと。ならば、とばかりにユーチューバーで現役JK(笑)でやっていたら思った以上に受けて、引っ込みがつかなくなったこと。すべてを話していた。
「あはは、やっぱりダメですよね。25歳がアイドルなんて………」
もしかしたら、と夢見ていた。だが、やっぱりあったのは年齢という名の壁で、諦めるしかない、というつらい現実だった。
「だそうよ。ルビー、有馬さん。どうする?」
ミヤコが視線をルビーと有馬と呼ばれた少女に視線を投げかける。メムは、もしかしたら、この二人がアイドル仲間になる少女かもしれない、と思った。
そして、そのミヤコの視線を受けて、ルビーがこぶしを握りながら、がばっ! と立ち上がる。
「年齢なんてどうだっていい! アイドルに年齢なんて関係ないよ! だって、憧れは止められない!」
キラキラと輝く星の瞳で夢物語のようなことを口にするルビー。その場にいた誰もが、その憧れがあれば、夢を見ていればアイドルになれる、という奇麗事を言うのが、彼女らしいと思ったのか苦笑していた。
「……まあ、さっきはああ言ったけど、私も年齢でぐだぐだ言われた側だから、気持ちはちょっとは分かる」
先ほどは年齢の件で、メムの心に大ダメージを与えた少女は、先ほどのメムの言葉を聞いて、滂沱の涙を流していた。どうやら、メムの話は彼女の心にも刺さったらしい。メムへの共感はちょっとではなさそうだった。
「はい、結論は出たわね。歓迎するわ。ユーチューバー『MEM』。苺プロ、アイドル部門―――『新生B小町』へようこそ」
ミヤコから差し出された手が、メムがようやくアイドルになれるという現実を実感させた。
「はい、よろしくお願いします!」
メムは笑顔で、そのミヤコの手を取るのだった。
※ ※ ※
「やったぁぁ! メムちょ! これからよろしくね!」
ようやくメンバー決まったことが嬉しかったのだろう。ルビーがメムに駆け寄り手を握るのを見て、アクアは安堵した。ようやく、新生B小町が原作通りにユニットを組むことができたからだ。
「はいはい、ルビー、嬉しいのはわかるけど、後にしてちょうだい。メムさんの加入で、新生B小町のメンバーも三人になったので、いよいよプロジェクトが始動します」
そう、今までは極秘扱いだった『新生B小町』プロジェクトはついに最低限のメンバーとなって、ようやく日の目を見ることとなった。
「まずは、今日加入したメムさんもいることだし、メンバーの自己紹介からね。まずは……メムさん、いいかしら?」
「あ、はい!」
最初に指名されたのは、先ほど、めでたく加入となったメムである。
「ユーチューバーやってます! メムです。よろしくお願いします!」
「『人気ユーチューバー』メムさんには、明日から早速いろいろやってもらうわ。申し訳ないけれど、しばらく休みはないものと思ってちょうだい」
「えっと………そんなにあるんですか?」
淡々と告げられたミヤコの言葉に驚くメム。いきなり加入したメムにそんなに仕事があるとは思っていなかったからだろうか、冷や汗をかいているようにも見える。
「そうよ。ほかの子たちは準備に時間をかけられたけど、メムさんは時間がないから。ブロマイド用の写真や衣装の採寸、ダンスと歌のレッスンと盛り沢山よ」
「あ、あははは………」
なるほど、アイドルといえば確かに、という仕事だが、その仕事量に乾いた笑いしか出なかった。
「あと、一番重要なのが、来週に公開される『新生B小町』の告知動画の後に一番最初に紹介されるメムさんの自己紹介動画ね」
「「「告知動画?」」」
さらりとミヤコの口から出てきた告知動画という単語を初めて聞いたのかルビー、かな、メムのそれぞれの口から疑問の声が上がった。
「そうよ。あのB小町の名前を継ぐ新生B小町だもの。苺プロにとって失敗は許されないわ。だから、大々的に煽るの。まあ、もう大体できているのだけどね」
原作ではB小町はアイ死亡後にドーム公演もできずに解散してしまった。だから、ルビーがB小町を名乗ることはできても、屋台骨を失っていた苺プロで、B小町はユーチューバーから地道に始めるしかなかった。だが、ここではドーム公演後、ノリに乗ったB小町は全国ライブを行った後、武道館で盛大に解散しており、アイドルといえば、という伝説のグループなのだ。ゆえに、その名前を継ぐ彼女たちはもちろん、苺プロとしてもプロデュースに失敗は許されないため、潤沢な予算を使ってB小町再結成の予告動画が作られていた。
「そして、最初にメンバーとして紹介されるのがメムさんよ」
「だよね」「でしょうね」「ですよねぇ」
少し考えれば容易にわかることだ。B小町の復活という予告動画の後に『人気ユーチューバー』であるメムが最初に紹介される。メムの動画から導線を引っ張れば、最初から100万人近い登録者の目に留まるわけで、知名度という点では爆発的に増えるだろう。
「あと、その自己紹介動画と一緒にアイドルになった経緯もメムさんのチャンネルで公開してもらうわ」
「へ?」
「だって、いきなり苺プロのB小町のアイドルとしてデビューします、って言われても、全く経緯がわからないじゃない。『今ガチ』でアイドル志望とは言ってたけど、じゃあ、どうしてB小町に? ってなるでしょう。そもそも、このプロジェクトはオーディションもしてないのだし」
確かに、とその場の全員が頷いた。
「だから、『今ガチ』の現場でアクアにスカウトされたって話をちゃんとしてほしいの」
ミヤコの言葉を聞いて、メムは動画の構成を考えたのかやや考えた表情をした後に困惑した表情へと変えた。
「えっと、それだとアクたんは演出上とはいえ、振った女をスカウトした男で、私は振られたアクたんを追いかけるみたいにスカウト受ける痛い女になるんですけど………」
「大丈夫よ。『アクアが熱心にスカウトしてくるから、仕方なく受けた。アイドルとして人気が出て、逆にアクアが告白してきても振ってやる。だからみんな、応援してね』、って言えばいいわ」
「「「えぇ………」」」
あまりにもドライな対応方法に、本来であればB小町の人気に関わり恩恵を受けるはずのメンバーからの反応も渋かった。
「アクたん、ミヤコさんがこんな風に言ってるけどいいの?」
「いいんじゃないか? 俺としてはスカウトは会社からの指示って言えるし、『アイドルとして推せる』と俺が言ったのも嘘じゃないんだから。使えるものは全部使っとけ」
「そうなんだ………わかった。じゃあ、その路線で作っておくね」
なにやら腑に落ちないような表情をするメム。確かにその方法であれば、アイドルを頑張る理由にも繋がるため説明はしやすい。もっとも、一つだけ抜けている点があるとすれば、メムがアイドルとして人気が出て、アクアが本当に告白してきた際に、受けることができないことが問題だが、それには誰も気づかなかった。
「はい、じゃあ、次は有馬さん」
次に指名されたのは有馬かなだった。立ち上がるとペコリと頭を下げて自己紹介をする。
「有馬かなです。役者がメインのつもりだけど、アイドルやることになりました。よろしくお願いします」
「『歌って演じる天才役者』有馬かなさんね。基本的にはアイドルやってもらうつもりだけど、ある程度人気が出てきたら役者としての仕事も振れると思うわ。でも、少なくとも卒業まではアイドル中心でお願いね」
「はい、分かりました。……で、私につけてる『歌って演じる天才役者』って何ですか?」
「あなたたちのキャッチコピーよ。有馬さんの楽曲の権利も何とかギリギリで買い取れたからよかったわ。これで有馬さんがセンターの楽曲もできてひとまず安心ね」
「ひぃっ!?」
突然、告げられたまさかの宣言に驚くかな。かなにとって、『ピーマン体操』も含めてだが、歌は黒歴史なのだ。まさか、その楽曲の権利を苺プロが買い取っているとは思ってもみなかった。
「な、なんで……?」
理由も分からず困惑するかなだったが、その理由をミヤコはあっさりと答える。
「なんでって、苺プロのアイドルメンバーの楽曲を買い取らないわけないじゃない。幸いB小町の楽曲は昔のアイドルアイドルしたアップテンポな曲が多いから、テンポがゆっくりした曲があるとセトリが楽なのよね」
「え……まさか……」
かなは嫌な予感がした。今の言葉をそのまま解釈すると、昔のかなの曲をB小町で歌う。しかも、その際のセンターはかなのつもりらしい。
「そうよ、ソロをアレンジしないといけないけど、新生B小町用に編曲してリリースするわ」
「嘘ですよね!? 全く売れなかった曲ですよ!」
『ピーマン体操』以外、というのは口にしなかった。あれはかなにとって一番の黒歴史だからだ。だが、ミヤコはそんなことは関係ないという態度だった。
「売れなかったのは、売り方が悪かったからよ。歌も曲も悪くなかったわ。ただ、売り方を考えずに世に出して売れる曲ではなかった」
ピーマン体操が売れて二の矢を狙ったんでしょうけど単純すぎるのよ、とミヤコは憤っていた。売れない曲というのはたくさんある。だが、それは歌や曲が悪いわけではない。そもそも、歌手ではなかったかなに歌わせるのに何の宣伝もせずに売れると思うのが悪いのだ、とミヤコは言う。
「任せときなさい。権利売った事務所が後悔するぐらい売ってやるわ」
その自信ありげに笑うミヤコが頼もしく思えると同時に、どうしてもかなには聞きたいことがあった。
「ミヤコさんだったら、私の事、どうマネージメントしましたか?」
「え? 有馬さんの事? そうね、ピーマン体操の後は、同じくファミリー楽曲で……アクアとセットで楽曲出すのもいいわね。その後も、アクアとセット売りかしらね? 意外と男女の子役って少ないから、別事務所じゃなければアクアと一緒に売れたと思うわ。小学校高学年でも今ならSNSなんかで匂わせで話題作って、幼馴染の少女漫画の実写化とかで売れたかもしれないわね。そのうち『アクかな』コンビでモデルも兼務していれば、今のアクアぐらい売れていたかもしれないわね。有馬さんの顔も十分可愛いし」
ああ、大手の事務所のマネージメントってここまで違うんだ、とかなは思った。放っておかれたマネージャー、現場に露出を増やせと難題を言う母親、ほかに女を作る父親。自分が悪いんだと思っていたが、違ったのだと苺プロに来て初めて思った。だからこそ、かなのプロデュースをミヤコに任せようと思った。例え、自分の黒歴史が表に出たとしても。
「ミヤコさん、よろしくお願いします」
「はい、任されました。あ、だけど、ピーマン体操はさすがに無理だったわ。あれ、カラオケの印税えぐいみたい」
「へ?」
ミヤコ曰く、子供の頃、大流行したピーマン体操は、今でもネタで高校生たちに歌われるぐらいには知名度が高く、誰もが知っているために初対面で歌えば、共感性が持てるということで、カラオケの歌われる回数は結構あるらしい。そのため、権利者に入る印税もすごいことになっているらしく、権利を買い取るのは難しかったようだ。
「……あぁぁぁぁぁ」
一番の黒歴史が未だに高校生の年代で健在なことを知って、苦悩するかな。少し調べれば分かるとはいえ、ミヤコの口からは聞きたくない事実だった。
「はい、それじゃ、最後、ルビー」
そして、最後の三人目に呼ばれたのは、ルビーだった。彼女も立ち上がると頭を下げた。
「星野ルビーです! 私は表には出てないけど、ずっとアイドル目指して稽古してました。よろしくね!」
「『アイの後継者』星野ルビーよ。基本的にB小町の楽曲はこの子がセンターになるから。有馬さんとメムさんは、それぞれの楽曲を用意するからちょっと待ってね」
ミヤコは、ルビーがセンターになることを前提にしたことによる誤解を与えかねないと慌ててかなやメムに説明したが、一番気を取られてたのは、もちろんルビーのキャッチコピーだ。
「『アイの後継者』って………」
「事実よ。ルビーは小学生のころからずっとアイさんから稽古見てもらっていたみたい」
「えぇぇぇぇ!?」
かなが話すまさかの事実にメムがルビーとアイを見比べるが、アイは胸を張って、『この子は私が育てた』とばかりに得意げな顔をしているし、ルビーはルビーで、自信満々に微笑むだけだった。
「は~、これはすごいことになりそうだね」
B小町は伝説だ。だが、その中でも無敵で究極のアイドルと呼ばれたアイの名前は別格だ。その後継者をアイドルとして名乗るのは、絶対的な自信が必要だった。誰もが恐れ多いと慄く中、正式に後継者を名乗るのだから、それはアイドル界隈は騒然となるだろう。それを無謀と取るか絶対的な自信と取るかは、ファン次第だろう。
「はい、全員の自己紹介は終わったわね。『新生B小町』がデビューするのは次の『ジャパンアイドルフェス(JIF)』よ。いきなり大舞台だから、特別な指導者を用意しているわ。アイ」
今まで何も語らなかったアイが立ち上がる。その双眸に輝く星を宿しながら、少女時代の容姿とほぼ変わらないまま彼女は笑う。彼女がアイドル時代に所属していた、苦い思い出も、楽しい思い出もあるグループの名前を継承するアイドル達を導くために。そして、いつか夢見た
「は~い、みんな、ちゃんとアイドルできるようにびしばし鍛えるから、覚悟してよね」
かくして十数年ぶりにB小町の復活の舞台は整った。あとは、それを表舞台に出すだけだ。新生B小町。彼女たちがデビューするのはジャパンアイドルフェスと相成るのだった。
※ ※ ※
その日、一本の予告動画によってアイドル界に激震が走った。
『新生B小町』
あのB小町の名前を継ぐグループが現れたのだから当然だ。そして、一週間ごとに紹介される新規メンバーたち。
―――『人気ユーチューバー』MEM
―――『歌って演じる天才役者』有馬かな
―――『アイの後継者』星野ルビー
まったくの新人があの『アイ』の後継者を名乗る事態に動揺しないわけがない。
彼女たちのデビューの舞台は『ジャパンアイドルフェス』だ。
アイドルオタクたちの反応は分かれた。あるものはアイの後継者なんて無理だ、と嗤い、あるものはもしかしたら、と期待し、あるものは本当にB小町の名前を継ぐ資格があるのか、と見極めようとしていた。
どの反応にしても、新生B小町の公式チャンネルには未だアイドルによくある自己紹介動画と雑談動画しかない。ならば、ファンたちの想いを見極める舞台は『ジャパンアイドルフェス』しかなかった。
その日、ジャパンアイドルフェスの入場券を求める人が殺到し、事務局は対応に追われた。彼らとてこんなに大きな話があるとは思っていなかったからだ。
なお、アクアから忠告を受けた鏑木のおかげで比較的大きな箱に『新生B小町』を入れていたのは、助かった、とまた鏑木の評価を上げるのだった。
『今ガチ編』から『ファーストライブ編』へ繋ぐ話でした。次回からいよいよファーストライブ編です。
ただ、話の内容としては、本編みたいにアイドルの練習よりも、ルビーと吾郎先生に焦点が当たると思います。
誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。
もしよろしければ、感想、評価(感想欄より下から可能)をよろしくお願いします。励みになりますので、感想を一言でも頂ければ幸いです。
新生B小町
・ルビーが最初のメンバー。ダンスが得意。歌は矯正済み。小学生の時から稽古している。
・有馬かなが2番目のメンバー。歌が得意。ダンスも人並み以上に踊れる。持ち歌の時のみセンターとなる
・メムちょ。過去の憧れを叶えた3人目のメンバー。へたうまの曲は味があるとしてあまり強制しない方針となった。
・ジャパンアイドルフェスがデビューの舞台。それに向けて特訓中。
・アイは特別講師。完璧主義者で容赦なく指摘するが、やる気は十分。
・ネット上ではB小町の名前に動揺が走ったが、メンバーを見て、派閥が生まれる。
・まだデビューしていないので、メム派が多いが、なぜかモデル系に推される有馬かな派も強い。
・ルビーは、宮崎のとある医師が推している。(最推しではない)