星の子たちにハッピーエンドを   作:天凪

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鮫島アビ子の激怒

 

 

 

「いぇ~い、バズった」

 

 朝の教室で、いつものようにルビーとアクア、みなみ、フリルで話していると、淡々とスマホの画面を見せてくるので表示された内容を見てみると、フリルの公式のSNSでなぜかフリルとアイとアクアがオタ芸をやっている動画が流されていた。その投稿の再生回数は100万再生を超えており、バズったといってもいいだろう。その前の投稿の謝罪文は一体何なのだろうか? と思うほどである。

 

「なぜ、公式にこの動画が?」

「投稿していた人にDMしたらくれた」

 

 ああ、多分、肖像権侵害やらなんやらで脅したんだろうな、とアクアは理解した。こちらから訴えない限りは罪にはならないが、一般人が法的文書でDMが送られれば、さすがにビビるもの。しかし、それが動画の提供程度であれば喜んで提供するだろう。

 

「しかし、なぜ急にオタ芸なんか考えたんだ?」

「MEMちょを応援しようと思って過去のB小町の動画探してたら、これが見つかったからかな」

 

 何度かスマホをフリックして次の動画を選択し、アクアたちに表示した。そこに表示された動画の投稿日は十数年前、よく残っていたな、と思いながら覗き込んだスマホに表示されているのは双子用のベビーカーに乗って小さな体でサイリウムを振るう赤子の姿。

 

「ばっ!?」「えっ!?」

 

 その動画にアクアとルビーが同時に驚きの反応し、その反応を見てフリルがにやりと笑っていた。当然である。なぜならその動画に映っているのはアクアとルビーが赤子の頃のもので、一番最初に彼らがバズったと言っていい動画だったからだ。

 

「わぁ~、かわええな。……でも、この子ら、誰かに似とるような?」

「誰だろうね。ねえ、アクア、ルビー?」

 

 その問いかけだけでアクアとルビーはすでにフリルにはばれていることがわかった。さすがに特徴的な髪色と双子という時点でほぼばれていたのだろう。

 

「「はい、俺(私)です」」

「えぇぇぇ!? アクア兄さんとルビーちゃんなん!?」

 

 さすがに双子の赤子の正体に驚いたのか大声をあげてしまうみなみ。だが、さらに意地が悪いのはここからだった。

 

「それで、この動画を見て、オタ芸を思いついて過去のB小町のライブ映像から練習したんだよね。で、同じような質問がSNSのコメントに来てたから―――」

 

 ピロリと音を立て更新されるフリルのSNS。内容は、『この動画を参考にオタ芸やりました。さて、誰でしょう?』と書かれており、先ほど見せたアクアとルビーの動画が埋め込まれている形となっていた。

 

「ちょっと待て! フリル!?」「フリルちゃん!?」

「まあ、この動画、よくバズってるから今更じゃない?」

 

 どうやら赤子コンテンツということもあり、十年以上たった今でも定期的にバズっているようだった。

 その後、フリルの動画から何度目かのバズとなり、同時に髪型や年齢からあっさりとアクアとルビーではないか? と憶測が立てられ、『赤子の頃からドルオタ』のアクアと『ドルオタからアイドルへ』のルビーとそれぞれタグが付けられSNS上で話題になったのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「ライブもやったし、雑誌の取材も受けたし、チャンネル配信も上々だし! これで私も一端の芸能人って言っていいよね!?」

 

 とある日、新生B小町のライブのオタ芸の炎上が収まってきたころ、陽東学園で昼食を一緒に食べているフリルとみなみにルビーが確認するような口調で二人に聞いていた。なお、アクアは本日は撮影のため昼食前から早退している。

 

「1000人規模の箱を即完売にできるアイドルのセンターが何いうてはるん?」

「この間、アイドル雑誌のインタビューグラビアが即完売してたよね?」

 

 こいつは一体なにいってるんだろう? という視線を向けられてルビーは日和った。いや、確かにみなみとフリルが言ったことは事実だ。ミヤコからも新生B小町のメンバー全員が褒められていたから理解はしている。ただ、今まで数年間はレッスンばかりでようやく芸能界という場所に足を踏み入れた実感が少ないことが原因だった。

 

 もっとも、はたから見れば贅沢すぎる悩みで、突然出てきた超新星が何か戯言言ってるわ、という感じである。

 

「いや、そうなんだけど、皆が芸能活動の話をするたびに疎外感あって、話に乗りづらくて!」

「私からすると同業者のほうが気まずいまであるけどね」

「あ~、ちょっと分かるわぁ」

「そうなの!?」

「こっちからしたら愚痴のつもりでも、同業からしたら自慢に聞こえたりするんよ」

 

 意外な反応に驚くルビー。もっとお互いに芸能活動の話をしているものと思っていたのだが。ただ、兄はよく現場の話もしていたような……とは思ったが、演技の話はしていたが、どういった現場で、誰と共演したか、などを詳細な内容までは話題にしないことが多かったように思える。

 

「昨日、俳優の堂山君からDMで食事に誘われた話とかしたい」

「それは自慢やろ?」

 

 突然のフリルの話題に苦笑してみなみが指摘する。だが、まあ、言いたいことはわかる。堂山という俳優はアクアと同じ部類でイケメン俳優と呼ばれる俳優だからだ。誘われたとなれば、女としては自慢したくもなるのだろう。

 

「で? 行くの?」

「行かない。なんか、あの人、遊んでるっていろんなところで話聞くし」

「へ~、フリルは遊んでる男は嫌いなんだ。じゃあ、お兄ちゃんから誘われたら?」

 

 残念ながら、堂山はNGだったらしい。ならば、同じような部類のアクアならどうか、というのは興味本位だった。芸能界の現場でいろいろと活動するようになって知ったのだが、自分の兄は意外とその手の噂は多いらしい。黒川あかねに、有馬かな、MEMちょ、不知火フリル―――妹という立場で誰が本命か知らない? とかなとメムが席を外している際にこっそり聞かれたこともある。つまり、遊んでいるとフリルが思っていてもおかしくはないだろう。なお、聞いた時は本当に驚いて、つぶさに兄を観察したが、ルビーからは誰が本命か分かっていない。

 

「行くかな。なぜかアクアが選ぶ店って品がいいっていうか……私と同じ高校生なのになんでそんなお店知っているの? ってパターン多いんだよね」

「あちゃ~、それは―――」

 

 ルビーはその理由を知っている。子役の頃から芸能界にいる以上、先輩の男性芸能人との伝も多いアクアは意外とその手の情報を手に入れる手段が多い。さらに最終手段としては、その手の事は人一倍詳しい壱護という社長までいるのだ。なんだかんだで、隠れ家的なところなどの情報をよく知っていた。

 

「そうなん? ええなぁ、ウチもお願いしたら連れてってもらえるやろか?」

「というか、フリルちゃんって、そんなにお兄ちゃんと食事に行くことってあるの?」

「映画とドラマで共演しているからね。少し遅くなったときとか、現場の話をしたいときとか、よく一緒に食べに行ったよ」

「「へ~~」」

 

 なんというか意外だった。確かに撮影の時、遅くなった場合は外で食べてくるということも多かったが、まさか一人ではなくフリルを誘っているとは思っていなかったし、それにフリルも簡単に付き合うとは思っていなかったからだ。そこまで考えて、今まで気になっていたことが殊更気になった。この手の話になったのだ、どうせなら、と意を決して口を開いた。

 

「あ、あのさ、フリルちゃん、よくお兄ちゃんとツーショット取ったりして、SNSにアップしたりしてるけど―――お兄ちゃんの事、好きなの?」

 

 高校に入ってフリルと同じクラスになってから気になっていたことをようやく聞けたルビー。前々から一度は聞きたいと思っていたことだ。共演者というにはあまりにも男女の距離が近すぎないだろうか、と。アクアは全然意識していないような感じだが、フリルのほうはどうなのか、聞いてみたかった。それは、みなみも一緒なのか興味深そうにフリルを見ている。

 

「う~ん、どうだろう? 人や役者としては好きだと思うけど、異性としてはどうかな?」

 

 おにぎりを頬張りながら答えるフリル。なんだかはぐらかされているような、本心のような。ただ、頬を赤らめたり、動揺したような空気はないので、異性としての好意については本心のようにも聞こえる。

 

「ただ、アクアと仲良いと優越感あるし、虫よけにもちょうどいい。あと、番宣に使うと反応が非常によろしい」

 

 あまりにも現実的な内容に絶句するルビーとみなみ。

 

「なんか、すごい夢が壊れそう」

「うんうん」

 

 イケメン美人のカップルというのは、ツーショットで写っているだけで夢がある。もしかしたら、この二人、というのは、中高生の少女が誰もが想像するものであり、かつ、その想像の餌を延々とSNS上で主にフリルが与えているのだが、現実はこんなものであった。

 

「はぁ~、なんだ。フリルがお姉ちゃんだったら面白いと思ったのにな」

「面白いで、アクアの相手を決めないほうがいいと思うよ」

 

 妹から兄に対する扱いが雑だったことに衝撃を受けているのか、さすがに指摘するフリル。一方のみなみはフリルからの返事を聞いて、少し考えているのか人差し指を顎に当てて、少し上を見ながらう~ん、と唸っていた。やがて聞きたいことがまとまったのか、フリルに向かって口を開いた。

 

「なあ、フリル。なら、アクア兄さんから、告白されたらどないするん?」

「え? 付き合うよ。アクアほどのイケメンだったら誰だって付き合いたいでしょ? それにアクアのあの四方八方に甘い性格が一人に向いたらどうなるか体験してみたい」

 

 微塵の悩みもしないフリルの返答に、さっきまでの回答は何だった? と思いながらも、これまでの会話を気にせず平然と昼食を食べ続けるフリルに、さすが国民的美少女―――大物だ、とルビーとみなみは戦慄するのだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「(あ~、やばい。そろそろ限界かも)」

 

 冷ピタをおでこに貼り、栄養ドリンクを飲みながらメムは一人、アイドル部門の一角に用意された動画編集用PCの前で修羅場に追われていた。今、編集しているのはユーチューバーMEM用の動画である。本来であれば、自宅で行うべき作業であるが、ここ最近の新生B小町のアイドル活動が順調すぎて、帰る時間も惜しいぐらいになっていた。

 

 メムのつらいところは、本業のユーチューバーと業務委託されているアイドルがそれぞれ個人事業主ということである。つまり、一人でなんとかしなければならない。最初のうちはまだレッスンとたまのライブで時間的な都合はついていたのだが、ここ最近は雑誌の取材、グラビア撮影などに追われて本業が手につかなくなっている。

 

 だからといって、FARMからの業務提携も打ち切られたわけではなく、むしろ、インフルエンサーとしての影響度が増えれば増えるほど、企業案件などの問い合わせがくる始末。しかも、余裕がある頃に受けた仕事もあり、日々増加するアイドル活動とユーチューバーの動画編集の作業に殺されそうな勢いだった。

 

 さすがに目に余ったのか、今はミヤコから苺プロへの所属を打診されている。所属すれば苺プロの動画編集部門に編集作業を依頼できるし、マネージメントも可能だ。問題があるとすれば、FARMからの仕事が受けられなくなる可能性があることだが、こちらは今までの縁もあるとのことで、特別に受けられるようになった。通常あり得ない特例なので、ミヤコに確認してみたのだが、どうやらアクアから「今までのメムの活躍によるものだから無下にしないでくれ」と言われたらしく、特例を認めてくれたようだ。

 

 そして、現在は、その過渡期。来週以降は動画については編集部門に絵コンテを渡しておけば、編集してくれるとのことで、その監修さえすればいいはずである。それまで、頑張れ! と自分を励ましながら動画編集を続ける。

 

「メム、大丈夫か?」

「はっ!」

 

 突然、名前を呼ばれて肩を叩かれ、意識が覚醒する。どうやら、少しの間、うとうとしてしまったようだ。目の前の動画編集ソフトは中途半端な状態で止まっていた。

 

「メムがまだいるっていうから、気になって来てみたが……正解だったようだな」

「アクたん……」

 

 起こした相手がだれか、と確認してみれば、そこに立っていたのはアイドル部門の中でも唯一の男性といっていいアクアが立っていた。おそらく、もう帰る頃だったのだろう。稽古着ではなく、私服に着替えていた。時間を確認してみれば、最後に確認した時刻より10分程度経っていた。半分眠っていたようだが、中途半端に寝たせいか、眠気が酷い。

 

「もう帰った方がいいんじゃないか?」

「ありがと。でも……これ……明日が締め切りなんだ」

 

 そうでなければ帰ってゆっくり編集している。だが、締め切りは明日、今日中にほぼ作成終わらないと間に合わないぐらいだ。幸いにして撮影は終わっており、編集だけなのだが、それが意外と時間がかかる。

 

「はぁ……代われよ。このソフトなら多少、操作できる。いつものメムの動画みたいに編集すればいいんだろう? いい具合に出来上がったところで起こすから寝てろ」

 

 ひょいと膝の下に腕を差し込まれたかと思うと、持ち上げられる感触がする。あれれ? とは思うものの、眠気と起きたばかりの頭の回転で、今、自分がどんな状況かよくわかっていなかった。やがて、ぽすっ、と柔らかいソファーの感触がしたと思うと、仮眠用のブランケットがかぶせられたことが分かった。

 

「さて、と。これがコンテか? できてるのは半分ぐらいか」

 

 メムが用意していた絵コンテを見ながら画像を編集するようにPCを操作するアクアを眠りに落ち間近の頭で見る。

 

「(あぁ、やっぱりいいなぁ……)」

 

 親が倒れ、高校を休学し、そこからは自分で頑張らないと、とアルバイトに、アルバイトを重ねて頑張ってきた。そこに弟たちの手助けがなかったといえば嘘になる。だが、それでもどうしても頼りがいがある、とまではならなかった。そこに姉の威厳を見せなければならない、という身内の感情が入っていないとは言えないが。

 

「(あはは……ダメだよぉ、アクたん。夢をかなえてくれて、常に気を使ってくれて、困った時に助けてくれるなんて女の子の夢みたいなことしてくれちゃって)」

 

 夢うつつになりながら、目を閉じる寸前までアクアの動画編集をしている背中を見ながら思う。

 

「(あぁ、私、アイドルになったのになぁ……しかも、弟より年下だし……どうしよっかなぁ……)」

 

 それだけを思って、夢の世界へと旅立つのだった。

 

 

 

「メム! おい、できたぞ!」

「んあぁ…‥アクたん?」

 

 どれほど時間が経っただろうか。寝ている自分にはわからなかったが、時計を見て見れば、どうやら数時間は眠れたようだ。最後の記憶の時よりも眠気はないし、頭もしっかりしている。

 

「動画、一応コンテ通りにできてるはずだからチェックしてくれ」

「あ、うん。ありがとう」

 

 そう言われて、ブランケットを脇に置き、動画を編集していたであろうPCに向かう。すでに編集自体は完成しているようで、再生して構成と内容を確認するだけだった。どうなっているだろうか? と半分不安に思いながらも再生するが、意外と言ってはなんだが、ちゃんとコンテ通り、メムの想像した通りにできているあたりがすごいと思った。

 

「おぉぉ、アクたん凄い! 動画編集できるんだ!?」

「まあ、演出の勉強の一環で、監督のところで勉強させてもらったからな」

 

 いや、この男の技能の深さ凄すぎない? イケメンで、実力派俳優で、動画編集までできるって、何なんだろう? とアクアの存在について悩むメム。だが、あまり悩む時間はなさそうだった。アクアが作ってくれたとはいえ、最終的な微調整が必要で、かつ、締め切りは明日なのだから。

 

「ここまでできてれば大丈夫! 後は、自分でなんとかできるよ」

「そうか? ならいいが、ちゃんと休むんだぞ」

 

 それだけを言うと編集作業に邪魔だったのだろう、壁に掛けていたジャケットを手に取ると部屋から出ていこうとしていた。

 

「あ、そうだ。動画のフォルダにお土産の動画を保存しておいたから、よかったら使ってくれ。ネタとしては十分だと思う」

 

 それだけを言って、部屋から出ていくアクア。まずは、動画の最終微調整が優先だと思うのだが、アクアが残した動画も気になった。少しだけ、と思いながら、今回作成している動画の保存フォルダを見てみると、確かに『アクアからメムへ』と書かれたフォルダが作成されており、中身は動画が一本だけ保存されていた。ファイル名は『ネタ動画』。一体、どんな動画なんだ? と戦々恐々としながら再生してみる。

 

『新生B小町メンバー、MEMちょのいいところについて不知火フリルが語る!』

 

 いきなりのタイトルコールからこれだ。は? と目が点になりながらも動画は続く。どうやらアクアが司会となり、フリルがメムの魅力を語る動画のようだ。そこから15分間、メムは羞恥心に襲われながら、動画を見ることしかできなかった。いや、止めることはできた。だが、確かにネタとしては面白い。自分がひたすらに国民的美少女に褒め殺しされるということを除けば。結局、最後まで見続けたメムが思うのは一つだけ。

 

「アクたん……私にこれをどうしろっていうんだよぉぉぉ!」

 

 なお、最初と最後にメムのコメントをつけて公開したところ、再生数がやばいことになって震えることになろうとは、メムも思いもよらないことであった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 アビ子は激怒した。かの東京ブレイドの脚本家を除かなければならないと決意した。アビ子に舞台は分からない。アビ子は漫画家である。ペンを持ち、魂を削って作品を作ってきた。そうであるがゆえに自らの作品ついては人一倍に敏感であった。

 

 舞台の脚本ができたと出版社の編集部から受け取り、内容を確認したところで、アビ子は激怒していた。自分が才覚を発揮して、魂を削ってまで生み出したキャラが、都合よく改変されていることに。

 だが、同時にブレーキも踏めた。事前に分かっていたからだ。だから、アクアを含めた舞台に立つ役者が相談に乗ると言ってくれた。ならば、ここでは何も言うまい。少なくとも彼らはアビ子が満足できるほどに作品を愛してくれたのだから。この脚本を作ったやつを除くかどうかはそれからでよい。何より、アビ子にはこの脚本が舞台演出上の良し悪しも分からないのだから。

 

「それじゃ、帰ってから確認して、指摘箇所を送ります」

「え? あ、はい、お願いします」

 

 至極まっとうなことを言ったつもりだが、なぜか編集が酷く困惑した表情をしていた。まさか、ここで一つ一つ癇癪気味に指摘するとでも思ったのだろうか。失礼だ、とアビ子は思った。なお、当たり前であるが、編集はそのつもりでメモ紙まで用意していた。

 

 アビ子は受け取った脚本の数冊を鞄に入れて編集部から帰宅する。今日は入稿日だったので、時間的な余裕があっただけだ。帰宅後はまた来週の原稿を書かないといけない。アシスタントはいるが、全然使えないし、また時間が近づいたら自分がやるのか、と憂鬱にもなるが、気を抜いてファンから見捨てられるよりましだ。それに、今のアビ子には、東京ブレイドについて共有できる仲間もできた。

 正直、脚本の出来には業腹だが、彼らを呼ぶ理由ができたことについては感謝したかった。

 

 電車を乗り継いで、ようやく帰宅する。さて、彼らといつこのふざけた脚本について話をしようか。スケジュール的には次の入稿日の後がいい。では、場所は? 前回はアクアが用意した。今回はアビ子が呼び出すのだから、アビ子が用意すべきだが、あんなお洒落な場所は知らない。というか、アビ子が平然と会話できる場所など極わずかである。そして、その第一候補となり得る仕事場を見て戦慄した。

 

「(あれ? 私、この汚部屋にあのイケメンと美女を呼ぶの?)」

 

 積み上げられたごみ袋、床に散らばるクズ原稿の数々、積み上げられた資料、インクで汚れた机が並ぶ部屋。どう考えても人を呼ぶ―――しかも、芸能界でも有名人を呼ぶような場所ではない。ならば、アビ子に取れる選択肢はもう一つしかなかった。

 

『どうしたの? アビ子先生』

「―――先生、お願いします。部屋を貸してください!!」

 

 吉祥寺頼子―――アビ子の師匠ともいえる先生の部屋しか思いつかないのであった。

 

 

 





次回、脚本談義です。東京ブレイドの独自解釈付きで談義します。


誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。

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