星の子たちにハッピーエンドを   作:天凪

38 / 57
GOAの脚本

 

 

 

「「「う~ん」」」

「ど、どうですかね? ひどくないですか!? あの子たちをこんな風に改変して! このキャラはこんなこと言わないし! こんなことしないってことばかりで!」

 

 吉祥寺頼子は、荒ぶるアビ子の隣でアクアがお土産として持ってきてくれたケーキを紅茶と一緒に嗜みながら脚本談義を聞いていた。

 アビ子から部屋を貸してくれ、と連絡をもらった際はどうしようか? と悩んだものだが、その後送られてきたアビ子の部屋の写真を見て、さすがにこれは入れられない、というかアビ子の師匠として恥ずかしいため、仕方なく仕事部屋の一室を貸した。もっとも、アクアが来ると聞いて日ごろは呼び出すか、定期的にしか来ないアシスタントが全員、一目見ようと自主的に集まったのには笑ってしまう。

 しかして、アクアも慣れたものなのだろうか、事前に今日部屋にいる人数を聞いて、手土産を持ってくるのだから。それが高級菓子店のケーキなのだから、芸能人ってこういう気配りがさすがだ、と思った。

 

 さて、アクアたちが来て、なぜか頼子も一緒に台本を読んで、――本来は頼子は東京ブレイドの舞台の関係者ではないためNGなのだが、そもそも出版社側には保護者のような立ち位置で見られているため、問題ない―――そして、微妙な顔で唸るアクア、あかね、かなの三名と荒ぶるアビ子という構図になっていた。

 

「―――それに!」

「アビ子先生、不満があることは十分にわかったので、とりあえず整理しましょう」

 

 アビ子の暴走を止めたのはアクアだった。アビ子はイケメン、美女に弱い。真正面から目を合わせられれば、さすがに暴走状態のアビ子でも動きが止まってしまう。そう考えると、脚本の相談者にこの三人がいるというのは非常に助かることではないだろうか、と頼子は考えていた。

 

「まず、あかね、この脚本は、舞台脚本としてはどうなんだ?」

「鞘姫役としては一言いいたいことはあるけど、舞台脚本としては、ちゃんとしていると思うよ」

「まあ、『今日あま』の脚本より100倍ましよね」

 

 かなの言葉に確かに、と同意するアクア。そして、その意見には頼子も賛成していた。『東京ブレイド』の脚本と比べると『今日あま』の脚本のなんと雑というか―――原作の一部を持ってきてつぎはぎしただけ、名シーンなどはちゃんと再現できていたのがよかった、というべきだろうか。それでも、実際のネットドラマでは、最低限『今日あま』の雰囲気が出ていたのは、アクアとかなの尽力あってこそ、と知っており、頭が上がらない。アビ子とアクアたちの関係を見ていると、もう少し踏み込むべきだった、と今では後悔している。

 

「俺も同意見だ。大体、ストーリー展開は原作に準拠しているしな」

「でも!?」

 

 頼子も読んだ限りでは確かに、各キャラのセリフが増えていたりしたが、ある程度違和感がない程度には調整されていたし、ストーリーも原作を読んでいなくてもある程度は理解でき、後追いで原作を読んでも舞台とちょっと違うな、と違和感を感じて、補完されるぐらいであることは想像できる。

 

「アビ子先生の言いたいことは分かっています。それとこれとは別ってことも。以前、お話した通り、この脚本は舞台映えを意識したGOAさんが解釈した東京ブレイドの舞台版です。だから、どうしてもアビ子先生の東京ブレイドとは齟齬が出てしまいます。今から、それを指摘して、修正箇所を洗い出しましょう」

 

 そう言って、アクアはノートとペンを取り出した。そこに三つの丸を書き始める。

 

「まず、アビ子先生が気にされていた各キャラクターについて整理しましょう。俺の解釈ですが、キャラクターによって改変されていないキャラと少し改変されているキャラ、別人キャラのグループに分けられると思います」

 

 ふむ、と頼子は思って、近くに置いていた台本を手に取ってパラパラとめくる。キャラクター単位で見ていくと、確かに、と頷ける部分がある。

 

「例えば、ブレイドはどうですか?」

 

 アクアは主人公のブレイドを例にとる。頼子も興味本位でブレイドの部分だけセリフやト書きを読んでみるが、なるほどと納得した。

 

「そう……ですね。言われてみれば、ブレイドだけで見ると、キャラの柱は変わっていないと思います」

 

 アビ子がそういうと一番左の丸に『ブレイド』と名前を書く。

 

 脚本の中でブレイドがあまりキャラが変わっていないと感じる理由は簡単だった。彼だけ原作とほぼ同じセリフしかない。もちろん、舞台で分かりやすくするために単語を省略したり、説明を加えたりしているが、それでも、最低限だ。キャラが崩れるというほどに改変されていない。そして、その煽りを食らったのが、ほかのキャラなのだろう。

 

 同じようにキャラクター名を挙げて、丸の中にキャラクター名を書いていく。ブレイドの枠の中に入るのは『つるぎ』、左側の枠と真ん中の枠の間に『キザミ』そこから右の枠に入っていくにつれて『刀鬼』『(もんめ)』、そして、一番右の枠に『鞘姫』の名前の順番で入っていった。ほかのキャラも大体は真ん中の枠の中であり、人数比だけ見ると山のようになっていた。

 

「一番左が『改変無しグループ』、真ん中が『違和感ありグループ』そして右が『別人枠』です」

 

 おぉぉ、という歓声がアビ子、あかね、かなの間で上がった。確かに、キャラクターの改変性を整理する分にはわかりやすい。

 

「でも、なんで『鞘姫』が一番右のグループなのかしら?」

「そうだね。今回の準主役級の一人なのに……というか、もはや解釈が違い過ぎて、演技できる自信ないんだけど……」

「そうです! あれは『鞘姫』じゃありません!」

 

 やはり役者の立場としても気になるのだろう。頼子としても、このグループ分けを見れば、せめて主役の『新宿クラスタ』、相手役の『渋谷クラスタ』の主要メンバーぐらいは準拠すべきではないか、と原作者の立場からしても思う。

 

 う~ん、とあかねとかなは考え、アビ子はひたすらに愚痴っているが、その中で唯一、言いにくそうにアクアが口を開いた。

 

「まあ、理由はだいたい分かる。理由は二つあって、一つは舞台演出上のキャラ改変だな。鞘姫のキャラクターとしては心優しく、今回の『渋谷抗争編』でも死人が出ることに忌避していたほどだ。だが、それを舞台上で演出するのは難しい。漫画と違って表情なんかがよく見えないからな。だから、逆にした。『新宿クラスタ』と『渋谷クラスタ』の戦闘シーンに客が集中できるように好戦的にしたって感じだろう」

「なんですか!? それ!!」

 

 アビ子が憤るが、気持ちはよくわかる。舞台を映えるものにしたい、と考えるのは舞台に関わるものであればそう考えるだろう。だが、そのためにキャラを犠牲にするのはどうなのだろうか。もっとも、これも原作者からの視点だから、彼らには彼らの言い分があるのだろうが。そう考えているのは頼子だけではないようで、演劇に関わるあかねとかなも気まずそうにしていた。

 

「そ、それで、あーくん、もう一つは何なの?」

「あ~、それは……」

 

 一つ目で暗くなった雰囲気を何とかしようとしたのかかなが、努めて明るくアクアに尋ねるが、二つ目も暗い理由なのか、アクアが若干言いにくそうにして言葉に詰まる。だが、その場の全員の注目が集まっていることに気づいたのだろう。ようやく口を開いた。

 

「鞘姫は、ここから先、登場することが少なくなってる。しかも、最初の『刀鬼』との婚約者という立場が、今では『つるぎ』に成り代わってる。つまり、もしも今後の舞台があったとしても、元の性格に再改変する必要がないキャラクターだから、都合よく使えるんだよ」

「うぐっ!」

 

 激昂するかと思ったが、どうやらこればかりはアビ子も自分にも非があると悟ったらしい。アクアの言うことを頼子は理解できていた。『東京ブレイド』の本編での最新話で『鞘姫』の描写はもうほとんどない。カップリング論争もすでに『刀鬼』と『つるぎ』がほぼ決まっているような描写も、やや入っているぐらいだ。だが、それは、アビ子にとってはつらい指摘だろう、と頼子は思った。なぜなら、そのカップリングは、アビ子の才能によってできたものではなく、ファンの声によってできたものだからだ。だから、もしも、最初の設定どおり、鞘姫を扱っていれば、こんな都合の良い扱いされなかったのではないか、という葛藤はあってしかるべきである。

 

 一方、そんな漫画家の内心を知らない役者たちの反応は、あかねはずぅん、と暗くなっており、かなはなるほど、と頷いていた。アクアだけは、アビ子が落ち込んでいたことに気づいたのか、フォローするように優しい口調で慰めるように言う。

 

「あとから出てこないからと言って簡単にキャラクターを変えていいわけではないですよ。だから、最初の指摘は見つかりましたね。『鞘姫のシーンはすべて没。原作を100回読み直してこい』でいいと思いますよ」

「え? そんな指摘でいいんですか?」

「大丈夫じゃないですかね? むしろ、こちらがこの改変に怒っていることを明示したほうが良いと思いますよ」

「じゃ、じゃあ、それで」

 

 多少きつい言葉かと思ったが、相手にこちらがどれだけこの改変を許していないか、ということを分からせるという点では的確である。

 

「でも、GOAさんも分かってて改変してるんじゃないかな?」

「だが、それを原作者NGなら、鞘姫のキャラに合わせて舞台でも映えるように脚本を書くべきだ」

「あはは、アクアくんは厳しいこと言うね。さっきアクアくんが言ったように舞台で原作の鞘姫を演じるのは大変だよ?」

「じゃあ、あかねはこのままの鞘姫と原作通りの鞘姫のどちらが演じやすい?」

 

 先ほどのアクアの説明によると舞台脚本の鞘姫は確かにひどい改変はされているが、舞台的には映える仕様らしい。逆に原作の鞘姫は舞台では冴えないキャラクター。それを舞台上で演出しようとすれば、脚本と役者の難易度が上がるのは道理だ。

 

「う~ん、確かに難しいかもしれないけど、やっぱり原作の鞘姫のほうが解釈しやすいかな」

「そういうことだ。あかねなら、多少難しくなっても問題ないはずだからな」

 

 なんというか、『今ガチ』で見ているときは初々しいカップルのような空気だったが、こうして役者として話している二人は、お互いの実力を信頼しているコンビのようで、また違った雰囲気がある。これはこれでまたネタが捗ると考えてしまうのは漫画家としての業か。

 

「あ~、それにしても、やっぱり『刀鬼』の相手はこのまま『つるぎ』で進むのかしらね?」

 

 そんな空気が気に入らないかなが、割り込むように別の話題を提供する。しかも、そのカップリングはアクアが演じる『刀鬼』とかなの演じる『つるぎ』という話題だ。恋敵の空気を邪魔する感じで実にいい。だが、アビ子の師匠としてはその話題はやめてほしいとも思うが、アビ子も気になっているようだったので、そのまま進めてもらった。

 

「それはどうだろうな?」

「なんでよ!?」

 

 おそらく『東京ブレイド』の大多数の意見であるカップリングを否定するアクア。そんな彼に驚くかなと、鞘姫の事を想っていたのか俯いていたあかねも驚いて顔を上げる。しかし、役者っていうのは自分が演じる役にここまで入れ込むのだろうか? と思ったが、反応が面白いので、そのままにしておこうと思った。なお、アビ子も興味深そうに話を聞いていた。

 

「確かに、『刀鬼』と『つるぎ』のカップリングは静と動の掛け合いで面白いし、敵陣営だった男女が惹かれて、結ばれるという展開にも味があると思う」

「そうよね! そうよね!」

「………」

 

 今度は逆にかなが元気になり、あかねがずぅんと落ち込む。見ていて飽きない三人だな、と思う。

 

「この舞台の渋谷抗争編から、一緒に組む相棒の二人で、結構付き合いは長いし、それとなく二人の匂わせも描写されているが、刀鬼がもしも本気で『つるぎ』に惹かれていたら、『鞘姫』にけじめをつけてない点が気になる」

「けじめ?」

「俺の感覚だと刀鬼は、『男は女を守る』とか言う鞘姫への忠義に厚い時代錯誤的な奴だ。なら、もしも、『つるぎ』に惹かれていたとしたら、けじめをつけないとキャラに合わなくないか? ということは、逆説的にはそれがないなら、まだ『鞘姫』を想ってるんじゃないか?」

「アクアくん……」

「ちっ」

 

 なるほど、面白い説だと頼子は思った。否定していないからこそ、そのままの関係性であるという解釈は面白いと思った。それはアビ子も同じだったのか、アクアたちの会話に耳を傾けながらすごい勢いでスマホをフリックしていた。

 

「だって、そうじゃないと刀鬼は『つるぎ』に惹かれながら、『鞘姫』の婚約者って立場で渋谷クラスタのNo.2を維持しているクズじゃねぇか」

「ぐはっ!?」

 

 アクアのとんでもない暴言に一番傷を負ったのは作者のアビ子である。確かに、そのあたりは放置されていて、同盟後の新宿クラスタへの援軍の将として刀鬼を送っている。刀鬼の立場としては強さでもNo.2なので問題ない立場ではあるが、ボスである『鞘姫』の婚約者という設定が影響しているという考えはあり得るだろう。だからこそ、よくよく現状を考えるとクズになりかけている刀鬼の設定に対してアビ子がダメージを受けているのだろうが。

 

「じゃあ、今の刀鬼とつるぎの扱いは何なのよ」

「俺の想像でしかないが……『渋谷クラスタ』の人間はだいたい上から下まで静の人間だったわけだ。つまり、動の『新宿クラスタ』とは逆の存在。なら、そんな真逆の存在と一緒に行動するようになった感覚も性別も異なるつるぎに対する感情は――――『面白い女』じゃないか?」

「なによそれぇ!?」

「「ぶっ」」

 

 かなの悲鳴には悪いが、思わず吹いてしまった。刀鬼からすれば、今まで全然周囲にはいなかった女性で、かつ、実力も自分に迫るものがあるとすれば、観察するには面白い女と言えるだろう。まるで、どこかの少女漫画のようなセリフではあるが、そう考えてもおかしくはないと思う。

 

「まあ、もっとも、そのあたりの答えを持っているのはアビ子先生――――どうされました?」

 

 今までの会話を聞いて居たたまれなくなったのか、高速で動いていた指は止まり、テーブルにうつ伏せになって顔を見せないようにしていた。おそらく、キャラが! と言っておきながら、そのあたりの設定がぶれていることが恥ずかしいのであろう。

 

「アビ子先生、先ほどのアクアくんの話、どうなんでしょうか?」

「今までの連載から刀つるですよね?」

 

 アビ子に迫るあかねとかな。いやいや、東京ブレイドの設定があなたたちの関係に影響するわけじゃないんだから、と言いたくなったが、とても言える空気ではない。そして、アビ子としても、いや、どちらかはっきりと応えることは危険だと考えたのだろう。あうあう、といって回答になっていない。もっとも、アビ子の場合、美人なあかねと美少女なかなに迫られて混乱しているところもあるのだろうが。

 

「えっと、あの―――そ、そのあたりは今後の展開もあるので、話せませんが、鞘姫も出す予定ですよ」

「うわぁ~」

「そうなんですね……」

 

 鞘姫が出ることが嬉しいのか、はたまた、まだ目があることが嬉しいのか分からないが、喜ぶあかねと対照的に決まりじゃないのか、と落ち込むかなが面白い。ただ、アビ子に言うべきことがあるとすれば、前回の打ち合わせでの二人の態度を見て決めたことを決まっていたように言うのはどうなのか? ということぐらいである。

 

「さ、さあ、脱線はこれくらいにして、残りも指摘しましょう!」

 

 アビ子としても刀鬼、鞘姫、つるぎの話題にはこれ以上触れられたくないのか話を逸らす。もっとも、本題は脚本についてであり、アビ子の言うことは正論である。時間も限られているので、アビ子の提案に同意したのか、それぞれが脚本を広げて、本題に戻るようだった。

 

「やっぱり、この長々とした説明台詞は嫌いです。うちの子はこんなこと言いません」

「だったら、誰にどういう風に舞台を説明させるか、あるいは、演技させるかを指摘したほうがいいかもしれませんね」

「あんた、軽く言ってるけど、突き詰めると演技全振りの役者泣かせの脚本になるわよ」

「あっれぇ~、かなちゃんは自信ないんだ。たぶん、ララライのみんなならできると思うよ」

「私は問題ないわよ! 私たちだけじゃなく他にも役者いるんだから、そこに気を使いなさいって話で―――ってメルトいるじゃない。しかも、新宿クラスタの『キザミ』」

「まあ、あいつならまた人参ぶら下げて、稽古場に呼べばいいだろう。合わせ稽古の前に鍛えれば見られる演技にはできるはずだ」

「メルトさんって、あの『今日あま』の?」

「モデル上がりだから、どうしても演技はまだまだなところがあるが、基本は仕込んだから練習をさぼってなければ見られるはずだ」

「さぼってたら、私が十倍にして、鍛えてやるわよ」

「私も協力するよ! ララライで新人っていないから楽しみだな」

「あの……嫌だって言ってるの私ですけど、本当に大丈夫ですか?」

 

 アビ子の指摘から次々に解決案が浮かび、懸念点を指摘するが、そこで役者側の大変さと新人が出てることに気づいて本当に大丈夫だろうか、と怖気づくアビ子。漫画家からは実際の舞台の上に立つ人間の大変さは分からない。確かに、作品は汚されたくないが、下手な人に演じてもらうのも嫌だ、というのは事実だ。

 

「アビ子先生、いいんじゃない? アクアさんは、あの『今日あま』の作品を見られる形まで持って行ってくれたんだから。役者としては信頼していいと思うわよ」

 

 『今日あま』の時は大変だったんだろうな、と改めて頼子は思った。演技素人のモデルを使って、『今日あま』の作品がそれなりになったのは、アクアたちの手腕もあるのだろうから、頼子としては彼らが大丈夫だと、言うのであれば、任せればいいと思う。

 

「えっと、それじゃ、うちの子達が、うちの子らしくできるように協力してください」

 

 アビ子のお願いは満場一致で可決され、東京ブレイドの脚本家―――GOAへの修正箇所は分厚くなって返却されるのだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「GOAくん、どうだい? アビ子先生からの返信は?」

「いや~、随分なラブレターになって返ってきましたよ」

 

 あはは、と困ったような笑みを浮かべて脚本家のGOAがそう答えた。

 

 アクアに言われて八割程度の完成度ではある脚本を編集部に送って、アビ子が確認した脚本の指摘が戻ってきたのだが、それは封筒に入っており、編集部、権利者が見られないように封印までされていた。理由としては、原作者の指摘が直接届かないと細部まで修正されない可能性があるから、と至極当然な指摘で、まあ、アクアあたりが調整したんだろうな、と雷田は思っている。

 

「鞘姫あたりは想定通りだったのですけどね、まさかブレイドまで指摘があるとは思っていませんでした」

「どうしてだい?」

 

 雷田からアクアの助言を聞いたGOAは確かに悩んだ末にあの第一稿を出した。『キャラクターの変更はNG』と言われたが、全く原作と同じにはできない。それでは、脚本家の意味がない。だから、原作と同じにはできないが、そうでなければキャラクターの変更だ、と言われる可能性もある。ならば、どこまでがOKで、どこまでがNGか検証する必要があった。観測気球のような脚本、それが第一稿だ。つまり、鞘姫の明らかな改変が指摘されるのは想定通りだった。

 

 だが、それ以上に全く変更していないブレイドにも指摘が入る。これは想定外だった。

 

「ブレイドは原作そのままですからね。ただ、まあ、『セリフは変更してもよいので、キャラの柱がぶれないように舞台に映えるようにしてください』なんてコメントされたら脚本家としては燃えるしかないでしょう」

「ああ、それは最高の煽り文句だ」

 

 原作通りなら脚本家は必要ない。それはそうだ。だから、脚本家は、原作を生かしつつ、それを舞台にいかに反映させるかについてプライドを持っているといっていい。だから、逆に原作者から、原作通りじゃなくてもいいからキャラに芯を通した脚本を作ってくれ、と言われて創作意欲が湧き立たない脚本家はいないだろう。

 

「まあ、逆に鞘姫のほうは『鞘姫のシーンはすべて没。原作を100回読み直してこい』ですからね。でも、指摘をもらった点を組み合わせれば、大体、アビ子先生が許せるラインがなんとなく見えてきましたよ。この一回ではダメでしょうけどね。次回はもっと少ないはずです」

「はぁ、よかったよ。指摘が書かれた脚本とは別にノートまでついてきたときはどうしようかと思ったけど」

 

 やっぱり、アクア君の助言は聞いていてよかったと思った。これが舞台の分からない原作者を丸め込んで、GOAの脚本を通して、実物を見てからひっくり返されていたら大変なことになっていただろう。

 

「まあ、僕としては、舞台の役者さんが大変なんじゃないかと思ったんですけど、アビ子先生の傍に演出家の人でもいるんですかね? いろいろ助言が書かれていて助かりますよ。でも、この視点だと役者の物なのかな?」

「たぶん、両方だと思うよ」

 

 雷田の記憶が正しければ、アクアは中学生の時に劇団ララライの演劇に出演している。そこで金田一から、何かしら学んだとしてもおかしい話ではない。なんだかんだで、あの人は演技ができる人には甘いから。特に、俳優の姫川などは金田一が一から育てたといってもいいのだから。

 

「よぉぉし! これで脚本の問題はクリアできそうだ! 東京ブレイドの舞台に向けて大きく前進したぞ!」

 

 結局、東京ブレイドの舞台脚本はGOAとアビ子が数回のやり取りをし、最終的には直接会話をして細部を詰めて完成するのだった。

 

 

 






脚本完成しました! 東京ブレイドの脚本話で逆にダメージを受けるアビ子先生でした。
そして、地獄の特訓が確定したメルトくんの運命はいかに!?

東京ブレイド
・アニメ化作品。発行部数は5000万部で連載中(幽遊白書、犬夜叉、銀魂レベル)
・少年誌のバトル物にして珍しく男女カップリング多数
・クラスタという単位でバトルしている。今回は新宿と渋谷
・本誌では刀鬼とつるぎのカップリングが有力視されているが、ヒロインキャラの鞘姫も一応設定としては生きている。
・刀鬼は渋谷抗争編の後、同盟を組んだ渋谷クラスタに出向
・つるぎとタッグを組んで抗争をしのいでいく。その間の掛け合いでカップリングがファンの反応が高い
・後日、鞘姫が秘めた恋心を側近に相談し、一念発起する。
・同盟の報告に戻った刀鬼とついてきたつるぎ、婚約者として仲を深める鞘姫で三角関係勃発し、またファンの反応がある。
 ⇒負けキャラに有利になると逆に応援したくなる現象
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。