「おぉ! マジか!? アクアさんとかなさんいるじゃねぇか」
鳴嶋メルトは次の仕事といって渡された脚本と出演者の一覧を見ながら声を上げた。自分の実力としては、まだまだ共演などは、と思っていたのだが、こんなに早く機会があろうとは、と半ば驚いていた。だから、共演する以上は下手な演技はできないとレッスンに精を出す日々だったのだが、その日は突然訪れた。
「あれ? 珍しい。かなさんからじゃん」
いつもは仕事の俳優仲間やクラスメイト達から連絡があるが、『今日あま』で一緒に出演したアクアやかなから連絡があることはほとんどなかった。連絡先の下の方に埋もれているぐらいだ。それが、アクア、かな、メルトのグループチャットで連絡があった。
『あんたも東京ブレイドの舞台に出るんでしょう? 合わせの本読みの前に稽古つけてあげるから来なさい』
そのメッセージと稽古が行われるであろう時間帯が書かれていた。参加できる前日に連絡すること、と書かれている。
「あはは、かなさんらしいな」
少し『今日あま』の撮影を行っていたころを思い出した。
『今日あま』の役者グループでかなが音頭を取って苺プロの稽古場へ呼び出し、次回撮影の演技を指導するという形で行われた稽古。なぜか稽古前に役者は体力! とか言い始めてなぜかランニングまであったのは予想外だった。苦しいし、演技できなくて滅茶苦茶怒られた記憶はあるが、一人だけではなく同じように扱かれる仲間もいて楽しかった記憶がある。それに、手本として見せられたアクアの演技はテレビ以外で直接見られて少し役得だった。もっとも、さすがに子供のころからやっているだけあって、半年稽古したぐらいでは届かないことは分かっているが。
「えっと、予定は……っと」
『今日あま』でアクアから雑誌の担当者に紹介されて、モデルとしての仕事も増え、ネットドラマでもそれなりの評価をもらって、ドラマの脇役などで時々使ってもらっており、同期の中ではスタートダッシュに成功した部類のメルト。売れっ子のように毎日ではないが、そこそこ短期間の仕事が入っていることがあった。
「おっ! 結構行けんじゃん。よし! 行くか!」
スケジュールを確認し、事前に送られた稽古日と照らし合わせると、すべてではないが八割ぐらいは参加できそうだった。そもそも、メルトの事務所『ソニックステージ』から東京ブレイドの舞台に出演するのはメルトだけ。一人で稽古しても、メルトには良い、悪いが分からない。自分ではできているつもりでセリフは覚えられても演技にはかなり不安があったのだ。だから、渡りに船、とばかりに参加することにした。以前とは異なり、素人同然の役者は自分しかいないことを忘れて――――
「あんた、やっぱり下手ね」
「そりゃそうですよ、かなさん。だって対象が、アクアさん、かなさん、黒川さんなんだから」
「客には関係ないわよ。舞台の上の役者で比べるんだから」
ぐっ、とメルトは言葉に詰まった。
なぜメルトが急に稽古で総評をつけられているのかというと、時を戻して、稽古日初日、メルトが苺プロの稽古場に向かうと、そこにいたのはアクアとかな、そして、もう一人見知らぬ―――いや、直接は会ったことない女性だった。
「あれ? あんた、あの『今ガチ』の―――」
「『鞘姫』役を務めさせていただきます、黒川あかねです。劇団ララライにも所属しているの。よろしくね」
「あ、はい。『キザミ』役を務めさせていただきます『ソニックステージ』の鳴嶋メルトです。よろしくお願いします」
お互いの役柄を伝えてペコリと頭を下げる二人。
「メルト、来たわね。あかねとも自己紹介は済んだようだし、早速始めましょうか」
かなが仕切る形で始まった本読み。脚本片手にセリフを読むのだが、やはりどうやってもメルトだけが一段見劣りするような演技になってしまう。そこで冒頭のかなの一言だった。
「だが、『今日あま』の時よりも基礎はできてるし、なにより、この脚本が難しいのは俺たちにも責任がある」
「へ? 責任があるって……?」
メルトとしても脚本をもらった時に、今までのレッスンなどで使っていた脚本よりも動きやセリフの強弱で感情を表すような箇所が多く、かなり困っていたのは事実だ。そして、その脚本にアクアたちが関係していると言う。さて、アクアたちは役者ではなかっただろうか? と疑問に思う。
「メルトにも関係しているが、『今日あま』関連で、俺が少しメルトたちを鍛えて、まあまあな出来にしただろう?」
「ああ、まあ、そうっすね」
メルトとしてもあのまま何も知らずに『今日あま』に参加していたらどうなっていたか。あの素人の演技でかなと共演したのか、と思うとある意味恐怖がわいてくる。
「それで、『今日あま』の吉祥寺先生の元アシが『東京ブレイド』のアビ子先生だったわけだ」
「漫画界って狭いんっすね」
そんな繋がりがあったのか、と驚くメルト。そもそも、少女漫画と少年漫画で全然絵柄違うじゃん、と思いながらも東京ブレイドには少年誌のバトル漫画には珍しくラブコメ要素が含まれているサブキャラが多いため、別の意味では納得できた。
「それで、どうしてアクアさんが脚本に?」
「どうやら、『今日あま』を立て直した立役者として認識されていてな、その縁で東京ブレイドの舞台にも立つことになった。ついでに、あかねと有馬とで舞台側とアビ子先生の橋渡しもやっている」
ふむ、とメルトは思った。アクアが間に入って何かやったのだから、またかなさんが関係しているのだろう、と。事実、『つるぎ』役でかなは舞台に出演する。『刀鬼』と『つるぎ』は今後の展開でカップルになる可能性が高いと思われている二人だ。現実に当てはめるのはどうかと思うが、メルトとしても納得できる配役だった。
「そうなんですね! でも、難しくなったってのは……」
「「「あ~」」」
そこでなぜか気まずそうにするアクア、かな、あかね。メルトと視線を合わせられない理由でもあるのだろうか。
「アビ子先生の原作キャラクターへのこだわりがすごくてな、そこを脚本に落とし込むとどうしても舞台用に必要な台詞なんかをカットする必要があってだな……まあ、今回のメインとなるのは劇団ララライっていう一流役者しかいない劇団だから、まあ、大丈夫だろうとなった」
「劇団ララライって……そこの黒川さんが所属してるって言ってた?」
今まで映画やドラマなどの映像しか知らないメルトからすると聞き覚えのない劇団だった。CMなどで流れている劇団は知っているが、そういう類の劇団というわけでもないのだろう。
「そう、まあ、有馬レベルがごろごろいる劇団だと思ってくれ」
「はぁ!?」
なんじゃそりゃ、とメルトは言いたかった。そして、絶句する。確か、出演者は劇団ララライがメインだとアクアは言った。そして、そのほかのメインキャラは、アクアとかな、そして、最後がメルト。どう考えても、レベルが一番低いのは自分だった。そして、今日あまのようにかなが周りに合わせてレベルを落とすことはないだろう。なぜなら、平均値ははるかに上なのだから。
「うへ~、マジですか?」
有馬かなレベルの役者の中に入って演技する。いうなれば、象の群れの中に蟻が一匹入り込んだようなものである。果たして本当に出演できるのだろうか? と思ったが、逆に出演しなければ問題になることに気づいて気落ちした。
「マジだ。だから、事前に呼び出してやったろ?」
「それはありがたいですけど……本当に入っても問題ないぐらいになりますかね?」
「舞台前の一か月の合同稽古でほかの役者に合わせられる程度には鍛えてやるわよ」
さて、それはレベル1の勇者がレベル100の魔王に対峙できるレベルということだろうか? それもたった数か月で。『今日あま』の時とは違い、対象はメルトだけであり、相当スパルタになることが目に見えていた。かなは姉御肌なのは分かっているが、演技に関しては容赦ないお方なので。なお、目の前にはそのラスボス級が3人並んでいる模様。
「え~い! つべこべ言わない! キザミのシーン頭からやるわよ! アクアは男役、私と黒川あかねで女役の代理をやるわよ」
脚本覚えておいてよかった、と突然始まった猛特訓に向かうのだった。
そして、冒頭の「あんた、やっぱり下手ね」というかなの総評に戻る。
「で、でも、キザミの見せ場の匁との対決シーンは感じ出てたと思うよ。―――最初だけだけど」
「そうだな、負ける手前の俺が強い、って感じは出てたな」
ただ貶すだけのかなとは異なり、アクアとあかねはいいところを褒めてくれる。だが、その演技は、嬉しいと同時に少し心苦しい箇所だった。
「ま~、確かにね。あんた、『今日あま』の時にも言ったけど、どういう感情だったのよ?」
『今日あま』でアクアとかなから演技指導を受けた際に、その時の感情を思い出しながら、演技に乗せると言っていた。ならば、キザミのその誰にも負けたことがない万能感はメルトはよく知っていた。
「……その、アクアさんたちに出会う前に、みんな俺に従ってくれて、死ぬほど調子乗っていたころの俺をイメージした」
「ぐはっ!?」
「???」
自分でも恥ずかしいと思っている過去を打ち明けたのだが、なぜかかながダメージを受けており、そんなかなをアクアは同情するような目で見ており、メルトには状況がよく把握できていなかった。
「まあ、有馬の事は気にするな。それで、そのあとの、匁に傷だらけで立ち向かう本当の見せ場のシーンが、感情があやふやな気がするが、どうなんだ?」
「いや~、それは……」
痛いところを付かれたと思った。だが、正直、稽古しながら自分でもどうしていいか分からない部分だ。この際、ラスボス3人がいるこの場で聞いてみようと思った。
「その分からないっすよね。ここでキザミが負けられねぇ、悔しいってのは分かるんですけど、俺、今まで、なんとなくやってきて、流されて……『今日あま』でアクアさんに会ってからはそこそこ自分でも本気でやってますけど、悔しいって思ったことなくて……」
「あ~、なるほど、顔の良さにかまけてのうのうと生きてきたわけね」
かなの指摘は正しい。今まで顔の良さでテキトーにやっていれば、スクールカーストの頂点にも立っていたし、女に困ることもなかった。そして、芸能界にもスカウトされた。もっとも、そこでであったアクアの漢気に当てられて少しは改心したつもりではあるのだが。
「確かに……本気でやっていて、それを誰かに上回られたら悔しいとは思うが……」
「演劇の世界だとそんなことよくあることだから、その手の感情に苦労したことはないかな」
アクアとあかねが困ったような表情で言う。どうやらラスボス級の役者でもそいうことはあるらしいというのが今日の収穫だ。もっとも、最初からラスボス級ではないのだから、当然、成長の過程ではあり得るだろう。
「なによ、悔しいと思わせればいいんでしょう。そんなの簡単じゃない」
そういうとかなは、稽古着のアクアの右側に距離を詰め、アクアの右腕にしがみついた。
「お、おい、有馬」
「黒川あかねも、左側に抱き着きなさいよ」
「え!? え!?」
「はやく!」
「う、うん」
なんだかかなの勢いに乗せられるような形でアクアの左側にあかねがぎゅぅ、と抱き着く。当然だが、アクアは困惑の表情、あかねは抱き着くことに一生懸命という感じで、メルトにも状況がよくわからなかった。そんな中、かなだけが、ただ一人得意げな表情をして口を開く。
「ふっふ~ん、どうよ! メルト、美少女二人を侍らせるアクア。悔しくならない!?」
―――なにやってんだ、この人。
演技で尊敬できる人であることは間違いないが、そこそこ調子に乗ることがあるのは残念だと思うメルト。やがて、メルトの反応が予想と違ったのか、慌て始める。
「え!? あんた、悔しくないの?」
「だって、アクアさんだし。今更じゃないですか?」
メルトからしてみれば、アクアが女に囲まれるなど違和感がさほどない。悔しさよりも先に、ああ、アクアさんならあり得る、とさえ思っている。むしろ、この状況を演技のためとはいえ、許可する彼女のかなに恐怖を覚える。
「ちょっと、あーくん! メルトの牙抜きすぎてただの犬になってるじゃない!?」
「俺のせいなのか?」
「あの……私はいつまで抱き着いていれば……」
はっきり言えば、
「えぇい! だったら、あんたが今、本気になってる演技でひたすら指導して、悔しいって感情を学びなさい!」
「いや、ロボットじゃないんだから」
自分の作戦がうまく行かなかったことに混乱するかなと、それを冷静に受け止めるアクア。なんだ、いつもどおりじゃん、と内心思っていながらも、かなが宣言した内容に戦慄する。
「え? かなさん、マジっすか?」
これから起きるであろう演技指導に困惑するメルト。さすがに本気になったとはいえ、ラスボス級のかなからひたすらに扱かれるというのは悪夢ではないだろうか?
「問答無用よ! さぁ! もう一回、最初からキザミのシーンやるわよ!」
「は~い」
こうなったかなは制御できないことは分かっているので、メルトとしてはこれから始まる演技指導に付き合うしかないのであった。なお、このスパルタな演技指導でレベルが上がることは『今日あま』で十分理解しているため、ラスボス級が蔓延る舞台に叩き込まれることが決まっているメルトとしては半ば望むところではあったが。
※ ※ ※
キャノンファイヤ所属の上野クレハは、一緒に撮影したノノンと一緒に更衣室に戻ってきた時、まだ室内に残ってスマホを見ている後輩を見つけた。本人は、のほほんとのんびりした雰囲気とは裏腹にその大きすぎる胸部装甲をもっている人気上昇中の寿みなみだ。「う~ん、どないしよう?」と似非関西弁で独り言を呟いていた。普通であれば関わりを持たず、おつかれ~、と挨拶をして着替えて帰宅するのだが、今日はなぜか勘が冴えた。
「み~なみ、どうしたの?」
「あ、先輩」
着替える前に、困り顔で悩んでいたみなみに話しかける。後輩にはそこそこ優しく接していることもあってか、いつものふんわりとした笑顔で迎えてくれる。
「なになに? 困りごと? この業界、私の方が先輩なんだから、良ければ相談してみない?」
できるだけ恩を売る形にならないように軽い感じで話しかける。恩を売るというほどに押し付けては相手が逃げてしまう。こういう時は相手が恩を感じる程度に軽いほうが後々、優位に動くのだ。もっとも、そんな考えはみなみの言葉で吹き飛ぶのだが。
「あ~、その、今度、食事に誘われてもうて……」
「あ、男?」
クレハの問いにコクリと頷くみなみ。ああ、よくあることだな、と思うと同時に悩むみなみに純粋だな、と思う。このグラドルという業界の旬は短い。ならば、旬が終わった後はどうするか、旬の時代に作ったコネで生きていくしかないのだ。だから、良い縁であれば受けるし、どうでもいいようであれば断る。みなみはまだ16歳だ。そのあたりが分からないのだろうか、と思ってしまった。
「へ~、みなみを誘うなんてお目が高いね。だれだれ?」
「え~っと、アクアに……さんなんやけど……」
「「ふへ?」」
思わず、隣にいたノノンと変な声を出してしまった。
「あ、アクアって、星野アクア?」
まさか、と思って聞き返すが、またしてもコクリと頷く。
「いやいや、断る理由なくない!?」
自分ならその場で即答だ。なお、隣のノノンもすごい勢いで頷いていた。今、人気のイケメン実力派俳優。しかも、あのアイの義弟で、妹は急遽復活して、JIFでデビューした新生B小町のセンターにして『アイの後継者』星野ルビー。彼を捕まえでもすれば、少なくとも20年は安泰だろうと思われる人物だ。仮に自分が誘われたら、ほいほいついていく自信があった。
「いや、ちゃうんです。食事に行くんやけど、二人じゃ、勘繰られる可能性があるから、グループにしよか? って。アクアさんが三人で、ウチもあと二人呼んでほしいってことなんやけど……」
なるほど、確かに、アクアと二人で食事といって二人で歩いているシーンを取られても週刊誌的にはデート!? という表紙で飾られてもおかしくはない。ならば、友達とご飯を食べに行ったという体にするのはありだ。写真を撮られても合コンという名のグループであっても友達と食べに行きました、と言えるのだから。
そして、みなみが悩むのも無理はない。みなみは同期とあまり仲がよろしくない。というよりも、一方的に敵視されているという感じだが。もっとも、こちらとしても残りの年季が少ない先輩として優しく後輩に接しておこぼれにあずかろうと考えているのだが、同期としては、このおっとりとした雰囲気と誰にも真似できない胸部を持っており、明らかに人気の出る同期など邪魔で仕方ないだろう。だから、多少邪険にはなる。だからこそ、あと二人誘うという点でみなみが悩んでいることは理解できた。そして、自分たちに都合のいい現実であることも。
「ねえ、みなみ、私たちを連れて行ってもらえない?」
「え? 先輩たちをですか? ええんですか?」
「もちろん!」
ぐっ、と親指を立ててノノンと一緒に賛同の意を示す。むしろ、この話が漏れれば、争奪戦になることは間違いない。今のうちに確約することが大事だ。
「なら、お願いしてもええですか?」
「よし! 決まり! ところで、アクアさんが呼ぶ二人って決まってるの?」
星野アクアとの縁は大事だ。だが、それはそれとして狙えるかもしれない残りの二人も気になる。
「えっと、この二人らしいです」
みなみのスマホに表示されたのは七人が写る集合写真に、二つ丸がついている。アクアは目立つ金髪で分かる。そして、残りの六人も端正な顔立ちをしており、モデルであることはすぐわかった。そして、丸が付けられた二人はどこかで見たことがあるような顔をしていた。
「『今日あま』の鳴嶋メルトさんと高山ナギサさんだそうです」
「あ、『今日あま』か」
なるほど、と思った。イケメンを集めたドラマということで、とりあえず見てみたら、意外と演技も頑張ってて、その頑張る姿に感動した派である。なお、となりのノノンと一緒に見て、最後に星野アクアが出て、お互いにびっくりしたところまで趣味は似ている。
なお、彼女たちの好みは年下で、むしろ、アクアに縁のあるこの二人のほうがよくね? とノノンと話したのは、秘密の話である。
※ ※ ※
「それじゃ、今日は酒は厳禁で。料理を楽しんでくれ。乾杯」
アクアの音頭で、軽くグラスを鳴らす。その後、コースで用意されているという料理を口に運ぶ。
「(う、うめぇ……)」
ある日、アクアから、「妹の友達と飯食いに行くんだけど、二人だと困るから一緒に行かね?」と誘われて『今日あま』で一緒に出演した同事務所のナギサと共にアクアと店に来てみれば、後から合流したのは、ドドン! ドドン! ドドン! と胸が非常に目立つ三人だった。明らかに一般人ではないことは分かっていたが、アクアにこっそり聞くと、グラドルが中心の『キャノンファイア』のモデルだったようだ。
先に言ってほしい、と思ったが、さすがに来ている人の目の前でいうことではないと思い直し、自己紹介し、自己紹介され、料理運ばれ今に至る。さすが、アクアが招待するだけあって、個室でしかも、出された料理は美味しい。目の前の美人たちも驚いている様子だった。なお、この時点で、みなみとアクアは二人で会話しており、二人と四人にいきなり別れたような感じだった。
「えっと、メルト君、よね?」
「ん? ああ、そうだけど」
用意された七種の前菜が美味しくて、行儀悪く食べながらの返答になってしまったことを恥じながらメルトは答えた。
「えっと、あなたはクレハさん」
「そうよ、よろしくね」
おそらく雰囲気からして年上だろうとあたりをつけてメルトは「よろしく」と返事をした。
「『今日あま』、全体でみると話がちぐはぐだけど、シーンだけ見れば面白かったわ」
「あ、見てくれたのか? ありがとう」
面白いといわれて上機嫌になるメルト。誰だって自分が出た作品が褒められれば、嬉しくなる。
「そうよ。だから、今日来たんだもの」
「へ~、それは、ありがとうございます?」
なんと返事していいやら。自分に興味があるといわれてうれしいが、今までのクラスメイトとは扱いが違って困惑していた。そんな中、アクアとみなみの会話が耳に入る。
「う~ん、アクア兄さんが選んだ店は品があるってフリルが言うてましたけど、ここまで美味しいとは思わなかったわ~」
「……美味そうに食べるな。俺の分も食うか?」
「ええんですか?」
その質問にアクアは自分の皿を差し出して、空になったみなみの皿と入れ替えることで返事していた。だが、逆にモデルとしてはそこまで食べて大丈夫か? という感想も持つ。
「あんなに食べて大丈夫と思ってる?」
「え? ああ、そうだな。うん、なんかもう少し食事制限とかしてると思ってた」
メルトもモデルである以上、体作りに余念はない。食事制限だってやってるし、食べた翌日はカロリーの計算だってしている。それなのに目の前のふんわりとした美少女は、箸を動かしてパクパクと食べており、アクアはそれを微笑ましく見守っていた。
「グラドルで食べるのが嫌いな子はいないわ」
「え? そうなの?」
「だって、これ、脂肪の塊よ? 食べなかったら痩せるじゃない」
そう言いながら胸の前で腕を組んで、胸を強調する仕草をとる。それを恥ずかしげもなくやっているのが年上の態度を思わせ、少し恥ずかしくなった。
「まあ、もっとも、あの子は特別よ。グラドルの欲しい才能の中でも一番欲しい才能を持っている」
「一番欲しい才能?」
さて、なんだろうか? とメルトは思わず考えるが、簡単には思いつかない。モデルであれば『食べても太らない』が最強だと思っているのだが。だが、それを口にしたところでクレハからは首を横に振られた。
「食べたら胸から太る才能よ」
ああ、と思わず納得してしまった。みなみの胸部は明らかにクレハやノノンよりもワンサイズは大きい。それでいて、過去に見たグラビアではくびれがある美しい体だった。どうやって維持しているのだろうか? と男ながらに思ったものだが、まさか、胸から太る才能とは……。
「ところで、この食事会、アクア君からみなみを誘ったって聞いてるけど、アクア君はみなみ狙いなの?」
「え~、あ~、それは……」
どう答えたものか、とメルトは悩む。本命がいることをメルトは知っているし、あくまでもこの会は、アクアが珍しい店を知っていることを羨んでいたみなみがいると妹のルビーから聞いたことが原因だと知っている。だが、目の前のクレハはどちらかというと色恋沙汰のほうが知りたいらしい。ここで変に否定するとみなみに変な影響が出そうだし、どう答えたものか、と思っていたのだが―――
「まあ、星野アクアのことだもの。そう簡単に答えられないわよね」
「そうだな。うん、アクアさんには世話になっているから」
都合のいい勘違いに乗るメルト。だが、それが逆にアクアがみなみのことを狙っていて、それを公にできないだけだ、とある意味別の勘違いをさせることに気づいていなかった。そして、そのことがアクアに近しいメルトの価値を上げることにも同時に気づかなかった。
「急な話だけど、メルト君、年上の女は嫌い?」
「へ?」
その後、アクアとみなみは様々な種類の料理のジャンルについて美味しい店を語り、ええなぁ~とねだる様な声をみなみが上げていた。その涎をたらさんばかりの表情にアクアが苦笑し、いずれ、連れて行ってやると次の約束を交わすのを後目に、そのお店の解散後、メルトは会ったばかりの年上の女性においしく頂かれるのだった。
メルト君、特訓会でした。なぜか、みなみちゃん食事会で食いしん坊キャラに? ……と思いきやメルト君年上モデルに喰われるの会でしたが。
なお、上野クレハとノノンは名前だけ出ているみなみの先輩だそうです。鴨志田さんの友達のようですが、本人が年下趣味なので、本当に友達という設定です。
ただ、鴨志田さんは、いける! とおもって狙ったところ搔っ攫われた感じで、一方的に敵意を向ける……かも?
次回からようやく合同の本合わせでララライのお姉さま方、姫川さんが登場します!
誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。
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