星の子たちにハッピーエンドを   作:天凪

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黒川あかねの恋愛観

 

 

 

「アクア兄さん、そういえば、この間、食事に行った先輩たちが『ごちそうさま』言うとったで」

「満足してくれたなら何よりだ」

「いやいや、あれはほんま美味しかったわ~」

 

 あの時の味を思い出しているのか、うっとりとするみなみ。アクアとしても、その満足そうな顔を見れば、味の上位に入る店を選んだだけの甲斐はあったと思った。

 

「え? お兄ちゃん、みなみちゃんとご飯食べに行ったの?」

「お前が言うからだろう? 寿が羨ましそうにしてたって」

 

 アクアがみなみとご飯を食べに行こうと思った理由は、ルビーから「なんか、お昼にフリルちゃんとご飯食べに行った話してたら、みなみちゃんが羨ましそうだったから、どこか連れて行ってあげて」と言われたからだ。

 

「はわわわ、アクア兄さん、そんな話で誘ってくれたんか?」

「まあ、ルビーやフリルとだけ食べに行って、寿だけってのは確かに悪いと思っただけだ」

 

 友達二人がそうとは思っていなくとも自慢げに話しているのを聞いたら、嫌な気持ちにもなるだろう。それが友人の兄が連れて行ったものだとしても。だから、アクアとしてはみなみを食事に誘ったのだ。

 

「ふ~ん、アクアが男性俳優らしいことやったって耳にしたけど、本当だったようだね」

「フリル、いつも思うんだが、どこから噂を拾ってきてるんだ?」

「これでも芸能界きっての国民的美少女と称された不知火フリルだからね。どこにでも耳はあるよ」

「……こいつを相手にすると何もできなくなりそうだな」

 

 はぁ、と大きくため息を吐きたくなる。確かにフリルの知名度からして、協力する人間はたくさんいるだろう。それが噂という形でいろいろな情報が耳に入る。あり得ない話ではないし、むしろ、その可能性のほうが高い。

 

「それで、俺の『男性俳優らしいこと』ってのは何なんだ?」

「え? 自覚ない?」

 

 心底驚いた様子でアクアを見るフリル。だが、そんな目で見られてもアクアには全く身に覚えのないことだった。

 

「グラドル集めて後輩と合コンしたって聞いたけど?」

「合コン?」

 

 いや、その手の話は聞いたことはある。聞いたことはあるが、アクアが合コンをやった認識はなかった。

 

「マジなんだね……アクア、いいことを教えてあげる。男女同じ人数でご飯食べに行ったら、それは合コンなんだよ」

 

 はっ!? と気づいたようにアクアとみなみが顔を見合わせる。アクアの認識としては二人で食べに行って万が一があったらみなみにも迷惑がかかるからグループで行こう、という程度の提案だったのだ。それが合コンと呼ばれるようなことになっていようとは気づいていなかった。

 

「本当に気づいていなかったみたいだね。まあ、いいんじゃないかな。アクアも芸能人らしいことやってるんだし」

「……いいのか?」

「むしろ、今までやってなかった方がおかしいぐらいだし」

「……芸能界って怖いところだったんだな」

「子役の頃からどっぷり漬かってるアクアが何か言ってる」

 

 疲れたように呟くアクアに、可笑しいものを見たような表情で笑うフリル。そして、その原因となったみなみは顔を青くしていた。彼女としてはただ、楽しく美味しいお店でご飯が食べられればそれでよかったのだ。そして、期待を裏切らない味を堪能しただけだというのに、それ以外の目的が入ってしまった。誘ったのはみなみだ。そこに責任を感じていた。

 

「わ、私、先輩たちになんてことしたんやろ……」

「……大丈夫じゃない? 『ごちそうさま』って言ってたんでしょう?」

 

 へ? という顔をみなみはしていた。その表情を見て、フリルはなんだか自分がえらく汚れているような気がした。

 

「あ~、みなみはそのままでいてね」

「フリルちゃん、どういう意味なん!?」

 

 意味が全く分かっていないみなみ。ご飯を食べておいしかったと思う少女はその体とは異なり、心は純真なままでいてほしいと思うフリル。

 

「それはそうと、私も最近は、呼ばれてないんだけど、アクア」

「いや、もう撮影終わっただろ。来期は共演ないし」

 

 アクアからしてみれば、フリルとご飯を食べに行っていた理由は、遅くなったときのついでや、演劇について話したい時など、共演したことによる理由がほとんどである。ならば、共演のドラマも撮り終えたことでフリルとの絡みはほとんどなくなったといっていい。ならば、わざわざご飯を食べに行く理由はないのだが、なぜか女性陣からは不評なようだった。

 

「アクアは分かってないね。共演が終わって、すぐアクアとの投稿が減ったら、本当にただのビジネス上の関係になるよね?」

 

 それとも、私の関係はビジネスだった? と聞かれれば、アクアとして気まずい気持ちになる。フリルとの関係は少なくともアクアの中ではビジネスライクのようなものではなかったからだ。だから、それを言われれば、アクアとしては白旗を上げるしかなかった。

 

「……はぁ、分かった。空いてる日に行くか」

「朝からでもいいよ」

「勘弁してくれ」

 

 なんの理由もなくご飯を食べに行くだけでも気後れするのに、朝からとなるとさらに別の意味も含まれるではないか、と辟易してしまう。

 

「え? お兄ちゃん、フリルちゃんとご飯行くの!? 私も行く!」

 

 そこに交じってきたのはルビーだった。さらに、みなみも羨ましそうにアクアを見ている。どうしたものか、とフリルを見てみれば、楽しそうに笑っていた。

 

「分かった、分かった。予定が空いてる日にみんなで行くか」

 

 やった! とはしゃぐルビーと手を叩いて喜ぶみなみ。面白くなってきたと微笑むフリルに若干懸念を覚えるが、このくらい学生の間ならありだろうと思っているアクア。

 だが、この話を新生B小町内部でした結果、かなとメムも参加を希望し、そこから、かながあかねに自慢し、あかねがアクアに確認し、なら来るか? と誘い、さらに参加者が広がることをアクアは知る由もなかった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「そういえば、東京ブレイドの中核になる劇団ララライって、どんな演劇するんです?」

 

 いつもの稽古場で、アクア、かな、あかねが揃っている中、ふと思い出したようにメルトが口にした。メルト認識では有馬かな、黒川あかね、星野アクアレベルがゴロゴロといる演技つよつよ集団というイメージしかなく、実際の劇団を見たことがないのだ。

 

「あら、あんた、見たことなかったの?」

「かなさん、俺、もともとモデルで、『今日あま』がデビュー作なんですよ? それまで演技なんて、テレビのドラマとかでしか見たことないですよ」

 

 メルトの口から告げられたのは、極めて一般的な感想だった。今日日、演劇を見る学生というのは、パイとしては小さい方だろう。そんなメルトの言葉にあかねが少しがっかりしていた。さすがに主戦場の演劇の舞台が見たことないと直球で言われるのは堪えるのだろう。

 

「あ~、そうよね。じゃあ、見ましょうか。苺プロも俳優部門があるだけあって、映像資料はたくさんあるから。あーくん、確か、ララライのもあるわよね?」

「演劇の映像資料で劇団ララライがなかったら、さすがにモグリだろう」

 

 アクアがそういうと劇団ララライの実力が認められていて嬉しかったのか、あかねは沈んでいた表情を明るくさせていた。この人もいろいろと忙しいな、とこっそりメルトは思う。

 

「それじゃ、早速見に行きましょう。あ~、映像としては新しいのがいいから最新のものを見ましょうね~」

 

 実に楽し気に見る作品を口にしながら、稽古着のまま映像が見られる会議室へと移動する四人。そして、かなの言葉に慌てたのが、あかねだった。

 

「え!? ら、ララライの最新の演劇って……!?」

「そ、あんたが若きエースとして売り出した主演級の役をやってる演劇よ」

「えぇぇぇぇ!?」

 

 実に楽しそうにえぐいことを言うかな。確かに演劇とは観客に見られるものだ。だが、わざわざ知り合いが揃ってみるのとは意味が異なる。当然、出演したことによる誇りはあるだろうが、それはそれとして気恥ずかしさがないとは言えないのだろう。

 

「あら、でも、古いのを見てもメルトの役に立たないわよ。それに、東京ブレイドに出ているメンバーもほとんど出てるし。ねえ、いいわよね。あーくん?」

「まあ、確かに、その方が参考にはなるだろうが………」

 

 アクアの視線があかねに向けられる。その視線にはわずかに同情の色が込められていた。ただ、かなの言う通り、勉強するとなれば、ほぼ同じメンバーが出ている演劇がいいのも正しいのだ。だから、あとはあかねの判断に任せるというのだろう。

 

 あかねが考えたのは数秒。それは腹を決めるためのものだったのだろう。

 

「はぁ~、分かったよ。鳴嶋くんの勉強になるなら、大丈夫だから」

「よし! 決まりね!」

 

 笑顔のかなの一言であかねが出演する劇団ララライの演劇鑑賞会が決まるのだった。

 

 

 

「………ララライの人たちも凄かったっすけど。黒川さん、凄かったんすね」

「まあ、劇団ララライの若きエースは伊達じゃないってことだな。俺も参考にしたい部分が結構ある」

「そうかな? えへへへ」

 

 メルトは今まで見ていた演劇の映像に驚いていた。特に黒川あかねが演じる役は、東京ブレイドの鞘姫とは全く異なるタイプの役であるが、メルトの目から見てもその役柄通りに演じられていることが容易にわかる程度には凄かった。アクアからも参考にしたいと言われるほどの演技で、その言葉に照れたのか、嬉しそうにしながらも顔を伏せていた。

 

「ちょっと、あんたたち! 私の演技と比べてどうなのよ!?」

 

 その態度に切れたのがかなだった。いや、確かにあかねが出演した作品を見せて揶揄うことには成功したが、こうして、手放しに高評価を与えられると、それはそれとして悔しいらしい。

 

「か、かなちゃん? 同じ作品に出たわけじゃないんだから、そんなの分からないよ」

「それに有馬の最終作品『今日あま』だしな」

「す、すんません」

 

 あかねの言う通り、同じ舞台に立っているわけではないので、比べることは難しく、またアクアの言う通り、最後にかながちゃんと出演したのは『今日は甘口で』のネットドラマだが、こちらはメルトが謝る通り、周りの演技に合わせているため、比べるまでもないレベルの差がついていた。仮にあの中に入って演技すればまた感想も違うのだろうが。

 

「ふむ、となると、有馬が主演やってた頃の映像持ってくるか。ちょっと待ってろ」

 

 そういうと、アクアは席を立ち、部屋を出て行った。

 

「え? ちょっと待って、私が主演やってた頃って……え? まさか……」

 

 そのまさかだった。アクアが持ってきたのは一枚の映像記録媒体。待ちなさい! というかなをあかねが押さえて、アクアもかなの言葉が聞こえないように映像を再生させた。

 

 保存されていたのは一本のドラマ。そして、出てきたのは子役時代のかなだった。しかも、まだ折れる前の自分勝手に演技をしていた頃のかなとしては黒歴史ともいえる時代の物であった。

 

「おぉぉ! かなさん、ちっちゃいな。髪型変わってないけど」

「子役時代だからな」

「ちょっ! 止めなさい! 止めなさいよぉぉぉ!」

「まあまあ、かなちゃん。私のも見たんだから、ね?」

「あんた実は結構根に持ってるでしょ!」

 

 やや後ろがうるさいが、邪魔しないようにあかねが押さえているせいか、止められることはなく、映像は続く。やがて、諦めたのか、後ろからかなの声はなくなり、映像に集中できたが―――

 

「これはひでぇ………」

「ちなみに、有馬が本気で演技した場合の『今日あま』になったであろう作品だ」

 

 周りとのレベルに合わせず、かなだけが一人で無双していた。多分、他の子役も一生懸命演技していたのであろうが、それでも目に留まるのはかなだけで、他の子の演技のレベルを下に見せていた。

 

「はぁ~、子供の頃からかなさん凄かったんすね。『今日あま』みたいに俺たちに合わせることもできて、こんな演技も出来るなんて……」

「いや、どうだろうな?」

 

 そういうとアクアは、後ろの隅で膝を抱いて暗い雰囲気で蹲っているかなに近づいた。先ほどまでかなを押さえていたあかねは少し離れたところからその様子を見ている。

 

「もういいだろう? 子役時代とは違って有馬の演技についてこられる役者だっていっぱいいるんだから。前に言ったが、俺はこの時代の自分が一番だって輝く有馬かなの演技が一番好きだ。だから、もう一度見たいというのは我儘か?」

「あーくん……」

 

 なんか急に二人の世界に入り始めたんですが……と事情が分からないメルトからすると急な話でついていけず、ああ、こりゃ、黒川さんも見せつけられるみたいで落ち込んでるんだろうな、と思って、隣を見てみると、なぜか、こぶしを握り締めて、ファイトっ! という感じで声援を送っていた。

 

 いろんな女の子と遊んできたけど、やっぱりまだまだ分からないことが多いな、と思うメルトだった。

 

 なお、この後、演劇についてあれこれ議論した後、今回の舞台は映像とは異なるステージアラウンドだから、ちゃんと事前に体験しておけよ、とアクアから言われ、一人で行くのもなんだから、と前回の合コンでお世話になったクレハとデートで行くのだった。もちろん、メルトがお持ち帰られたのだが。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 東京ブレイドの舞台の顔合わせの当日がやってきた。アクアとかな、そして、メルトが並んで予約されているスタジオへ向かって歩いている。

 

「そういえば、今回の公演って鏑木Pが外部キャスティングに絡んでいるらしいですよ?」

「ああ、あの人が……だから、メルトもいるのか」

 

 劇団ララライとアクア、かななどの錚々たるメンバーの中にメルトがいることが疑問だったが、鏑木が絡んでいるのであれば、納得できた。アクアは雷田と鏑木の連名でのオファーだったが、単純に最近の芸能界では、アクアへのオファーは鏑木を通すのが確実だ、という噂からかと思っていたからだ。

 

「あんたも、なかなか大変な環境に放り込まれるみたいだけど、頑張りなさいな。そこそこには鍛えたつもりよ」

「はい! かなさん」

 

 メルトとしても共演者の中に載っているメンバーと共演するのはなかなか度胸がいる。アクアたちとの稽古の中で劇団ララライの演劇の映像も見たことで、レベルが段違いなのが分かっているからだ。

 

「じゃ、行くわよ!」

 

 かなが先陣を切って今日の顔合わせが予定されているBスタジオへと足を踏み入れる。

 

 そこからは、自己紹介し、ちょうど10分前に入ってきた総合責任者の雷田に促される形で、それぞれの紹介が始まった。アクアからしてみれば、見知った顔が大半だったので、特に顔と役柄の認識合わせに問題はなかった。ただ、一つ、問題があったとすれば、主人公『ブレイド』を演じる主演が、寝ていたことぐらいだろうか。

 

 演出家の金田一の発案により、主演がほとんど揃っているため、本読みまでやることになった。時間にして30分後ぐらいだろうか。雑談か準備を進めてくれ、といって金田一はスタジオを後にする。それを見届けてアクアは、一番会いたかった奴に会うことにした。

 

「お久しぶりですね。姫川さん」

「あぁ、アクアか、なんか大きくなったな」

「ははは、そりゃ、俺と姫川さんが共演したのって、中学の時の舞台ですからね……それはそうと―――」

 

 しばらく会っていないおじさんのようなことを言う姫川に笑いながら中学生時代だから当然だろう、と返しながら、不意を突くように右手で大輝の顔をつかんだ。

 

「あいたたたたた、なにすんだ?」

「なにすんだ? じゃないですよ。『今ガチ』で変なことあかねに吹き込んだのを忘れてませんよ」

「ああ、あれか……事実だし、俺のおかげで盛り上がったからいいじゃないか」

「だから、これで済ませてるんですよ」

 

 それだけ言うと、アクアは大輝の顔から手を離した。

 

「まったく、不知火フリルからフリルチャレンジとか羨ましいことやってもらってたくせにな」

「見たんですか!?」

「まあ、俺、不知火フリルのフォロワーだし……」

 

 つまり、色々なあれこれの写真も見られているということで、思わず、膝をついてしまった。

 

「おい、どうした?」

「……笑ってくださいよ。フリルにいいようにされている俺を」

「自慢か?」

 

 男たちがじゃれあっている一方、ララライのお姉さま方代表である化野めいと吉富こゆきは、かなの周囲に集まっていた。

 

「わぁ~、かなちゃんだ。やっぱり、かわいい!」

「ロリータっぽいファッションが似合うよね!」

「な、なんですか?」

 

 突然、馴れ馴れしく絡んでくる年上の役者にビビるかな。しかも、あのララライのメンバーだ。そんなかなを助けるためか、あかねがくすくすと笑いながら近づいてきた。

 

「あっれ~? かなちゃん、もしかして今の自分の職業忘れちゃった? ア・イ・ド・ルだもんね~」

「!? まさか!!??」

 

 そう言って、二人を見ると背後から取り出したのはCDケース。しかも、かなが見覚えのある曲名がプリントされたものだ。すなわち『Full moon B小町 Arrange Ver.』である。

 

「ひぃ!」

「いや~、オリコンにも乗ってさ、いいよねぇ」

「あかねから勧められた時はどうかな? っておもったけど、いいよねぇ~、B小町の曲」

 

 一人、慄くかなを後目に二人がうんうん、とお互いの感想に頷きながら述べ始める。

 

「「というわけで、サインください」」

 

 さぁ、とばかりに差し出されるCDケースと油性ペン。状況的には初めてではない。握手会とサイン会などアイドルのお仕事としては基本である。だが、それはあくまでも、アイドル有馬かなとして心づもりをしてから仕事するときの事。今この場にいるのは、役者である有馬かなのつもりだったため、アイドルとしてではない。だから、どう反応していいのか分からず、あわあわあわ、とどう対応しようか、考えた結果―――

 

「わ、私、稽古着に着替えてくるので!!」

 

 隅に置いていたバッグをつかむと、その場から逃げ出すことを決断するのだった。

 

「あ~あ、逃げられちゃった」

「あかね、あんたの推し、ファンサ悪いんだけど~」

「あはは、たぶん、ここに来てアイドルとして扱われるのが意外だっただけだと思います」

 

 あかねとしても、意外だったので、フォローしようとしてもできない。てっきり何気なしにサインして、応援よろしく、ぐらいはできると思っていたのだ。思っていた以上にかなは役者としての自分とアイドルとしての自分を切り分けているのかもしれない、と考察するあかねであった。

 

 なお、この後、稽古着に着替えたかなは先ほどの逃走を謝罪し、CDに慣れた手つきでサインするのだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

「有馬かな、このあとメシどう?」

 

 その言葉が端を発して役柄の『新宿クラスタ』でご飯に行くことが確定していた。つまり、姫川大樹、有馬かな、鳴嶋メルト組である。

 

「じゃあ、アクアくん、私たちは『渋谷クラスタ』組でご飯行かない?」

「ああ、いいかもな。話したいこともあるし。鴨志田さんもどうですか?」

「俺はパス! 今日は用事あるし」

「あ、なら私は行く! あかねとアクア君に聞きたいことあるし!」

「私も私も!」

 

 ならば、とばかりに『渋谷クラスタ』組もご飯に誘われるのも道理だ。もっとも鴨志田朔夜は欠席のようだが、そのほかのララライのめいとこゆきは参加するようだ。

 

 ただし、そうなると納得がいかないのがかなだ。アクアも主役級なのだから、こっちに来ればいい、と誘う始末。

 

 いやいや、かなちゃんは主役の姫川さんと話がしたかったんじゃないの? と思わずあかねは声に出さずにツッコミを入れてしまった。

 

 正直、本読みでかなが本来のあり方である「私を見て」という太陽のような演技ができていたことは、アイドルデビューしたころから追っているあかねからしてみれば、不思議でもなかった。どうやらアクアによる説得もある様だったし。あかねが本来見たかった演技であるため、内心押し殺しながら応援した甲斐があったというものである。

 

 駄々をこねるかなをアクアが「次は有馬のために美味しいお店を調べておくから」と宥めすかしているのを聞いて、複雑な気持ちになる。あと、それを呆れた目で見ている姫川大輝には、あなたは外部から来た人間に同じようなことしているでしょう、と長年ララライにいたメンバーとしては言いたい。

 

「(まったく、お互い(・・・)大変な相手に恋しちゃったね)」

 

 あかねがその気持ちを理解したのがいつかは正確なところは分からない。ある日、交換日記を読み返していたら、『今ガチ』のポンコツな恋愛勉強の配信動画を見直していたら、いやいや、もしかしたら、あの事務所移籍の話をした時からか、もしかしたら、もっと前、中学生のあの変身デートの時からかもしれない。気が付けばアクアの事を好きになっていたというのが正しいのだろう。もっとも、気づいてからは『今ガチ』の義理デートのたびにドキドキが止まらないのだが、アクアはそれに全く気付いていないのが腹立たしい。

 

 そして、多分、かなは認めないだろうが、あの態度を見て、気づかないほうがおかしいだろう。恋愛一年生のあかねにだって分かる。もっとも、あのまだ恋愛の「れ」の字すら分からないアクアには通じないかもしれないが。

 

 『今ガチ』で恋愛の第一歩はお互いを知ることです、と書かれていた恋愛のハウツー本をみた。だから、調べた。星野アクアの事を。

 

 おそらく、知能指数は幼いころから高い。アイの初出演の映画ということで映像に残っていた『それが始まり』の中でアクアは不気味な子供として出演し、演技をしていなかった(・・・・・・・・・・)。つまり、一歳の頃からすでに演技をせずとも十分に年上という印象を与えられるほど知能指数が高いとみて間違いない。そして、それと家庭環境で妹がいることがアクアの恋愛音痴の原因だと分析した。

 

 アクアの精神年齢からして、おそらく小学生など妹と同じだろう。一般的に恋をする相手は同世代だ。だが、アクアは同世代を同世代とみなせない。妹と同じように扱ってしまう。それは、遺憾ながら、中学生の頃、ララライでなんの身だしなみも知らなかったあかねを放置できなかったことと一緒である。苺プロに所属して妹のルビーと話す機会もあったが、彼女は彼女で、アイドルとしてのカリスマ性は惹かれるものがあるが、知能という点でいえば年相応である。これが、仮にルビーが姉であったら酷いことになっていただろう、と他人の家庭ながら思ってしまった。

 

 だから、アクアが同世代を恋する相手としてみなすことができたのは、おそらく最近だ。そして、そのきっかけはあかねだと思っている。あの『今ガチ』で恋人つなぎとして指を絡めたとき、あの時の映像を見ているが、ノブユキたちが追いついたときはアクアは恥ずかしがる演技をしていた。だが、指を絡めた直後は、まだ演技ではなかった。あかねを意識して恥ずかしがっているように見えた。後で演技したのは最初の照れを隠すためだろう。

 

 つまり、ようやくアクアが同世代として認められる年代に周囲が追いついた。だから、もしもアクアが初恋をするとすれば、これから周囲に集まっている女の誰かだ。

 

 この中で一歩有利なのは、多分、意識させたあかねだと思っている。あと『今ガチ』の件で、恋人らしいことをできる大義名分も持っている。これはほかの女の子にはないアドバンテージだ。一番強敵になると思っているかなは、今はアイドルだ。そして、アイドルが仕事である以上、その役柄には真摯になる。かなには恋愛などしてはいけない、とブレーキがかかるであろう。もしかしたら、自分の気持ちを見ないふりするかもしれない。さらに、かなはアイドルという仕事を放り出してまで恋には邁進できない理由がある。アイドルとして活動して、ようやく注目を集めるようになったのだ。今後のことを考えるとスキャンダルなどキャリアの傷にしかならない。これまで干されてもしがみついてきた世界に生き残るチャンスが生まれた。ならば、それを捨てることはしない。かながアイドルを卒業するまでの数年。この時間があかねにとっての最大のチャンスだと考えていた。

 

 苺プロに所属して、アクアに一番近しいと思われるルビーに聞いたことがある。アクアの恋愛について聞いたことがあるか? と。返ってきた答えは「恋は落ちるものって言ってたよ」とのことだった。ならば、あかねはアクアの恋愛観に沿った恋愛をしようではないか。

 

「(ねぇ、アクアくん。アクアくんは、エスコートされて一緒に落ちるような恋が好きかな? それとも、後ろから突き落とされるような恋が好きかな? 私はどっちでもいいけど、これからも一緒に恋愛勉強していこうね)」

 

 

 

 

 





やっぱり、平日の連日更新は無理でした。これからも、こんな感じになるかと思います。

さて、ララライのお姉さまグループの化野めいと吉富こゆきさんでした。一応、本編キャラです。
なお、これ以降、名前以外に会話はほぼない模様・・・なので、渋谷クラスタの役かどうかも想像です!

最後にあかねの本性がでました。うん、だいたいこんな感じです。
次回以降も稽古場など舞台を中心に進めていきたいと思います。


誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。

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