「母さんと俺たちの関係がばれた」
『はぁぁぁぁ!?』
その場にいた全員の驚きの声が唱和した。もっとも、アクアとしても無理もないと思っているが。
場所は星野家のリビング。アクアが大事な話があると集めた面子は、アイ、ルビー、壱護、ミヤコと宮崎の吾郎を除いたアクアたちの出生の秘密を知る面子だ。そして、集めた理由をいつまでも焦らしても仕方ないと思ったアクアが、開口一番口にした言葉が最初の言葉だったが、さすがに与えた衝撃は小さなものではなかった。
「ど、ど、どういうことだ!? い、いや、ニュースにはなってねぇから、拡散するような奴にバレたわけじゃなさそうだが……」
さすがに苺プロの大黒柱の致命的ともいえるスキャンダルがバレたということもあり、社長の壱護が一番、目に見えて慌てていた。アイ、ルビーは絶句、ミヤコは他方への影響を考えこんでいるという感じだった。
「最初から説明する。まず、バレたのは二人。姫川さんと金田一さんだ」
「姫川は、あの姫川大輝か? それに金田一ってのは……?」
役者として有名な姫川の名前はさすがに知っていたようだが、演出家の名前までは知らなかったようだ。ただ一人だけ顔色を変えたのはアイだけだ。アクアはそれを見ないようにして、言葉を続けた。
「劇団ララライの総責任者で舞台東京ブレイドの演出家でもある」
「そうか。二人とも東ブレの関係者か……で、分かったが、なぜバレたんだ? 少なくとも見た目だけじゃお前らが親子とはバレないはずだ」
アイとアクア、ルビーの親子関係は年齢が近すぎて隠し子と簡単には認められない利点があった。少なくともアイが生きている以上、致命的な証拠でもなければ、誤魔化せるはずだった。アイドルをやっていた16歳の時に妊娠して子供が二人いるなどということが、そう簡単に認められない。少なくとも全員の認識としては、そうであった。
「それが……実は、最初は俺たちの父親が誰かが分かって―――」
「はぁ!? お前らの父親だぁ!?」
「しかも、姫川さんは俺たちの異母兄だった」
『えぇぇぇぇぇぇ!?』
「そこから劇団ララライの金田一さんがアイの事を知っていて、そこからだな」
『………』
今までアイが頑なに話そうとしなかったアクアとルビーの父親が判明し、しかも、実は姫川大輝が腹違いの兄だったなどという事実は情報の爆弾となってその場にいた全員を襲った。なお、もちろん、その叫び声にはアイも含まれていた。彼女としても姫川大輝の存在は青天の霹靂の事実だろう。
「ちょ、ちょっと待て。情報量が多すぎる。一つずつ確認させてくれ」
それはその場の総意だった。誰もがもたらされる情報の大きさに頭を悩ませていた。
「まず、お前たちの父親の話からだ。―――誰だ?」
端的な問い。ここに余計な情報不要という壱護の意志が込められているように聞こえた。それに対して、アクアは顔を今まで驚きの言葉しか発していない自らの母親であるアイに向ける。
「母さん、いいんだな?」
それは最後の確認。アクアの口から果たして父親と思われる名前を出していいのか? という意味だった。本来であれば、アイの口から伝えたほうがいいのではないか? と思ったのだが、アイは任せるという風にコクリと頷くだけだった。もしかしたら、アクアの答えが間違っているかもしれないと思っているのかもしれない。あり得ない話ではない。そもそも、この答えが間違っていれば、この話し合いの大半に意味がなくなるのだから。もっとも、アクアだけはこの答えが正しいということを知っていたが。
「―――カミキヒカル」
「はぁ? 誰だ? そいつは?」
芸能界に長くいる壱護も聞いたことがない名前だった。ミヤコも首をひねっている。そして、当事者のアイは、はぁ、と大きくため息を吐いていた。その仕草だけでアクアが口にした名前が本当の父親だということがよくわかろうというものだ。
そして、ルビーは、アイの態度から正しいということが分かったのだろう。どうしていいか分からず、おろおろとしていた。
「劇団ララライの元天才役者だった人間だ」
「それで金田一って劇団ララライの人間が出てくるんだな? それで、元ってことは今は芸能界にはいないのか?」
居場所を知ってどうするのか? ということもあるが、もしも芸能界から離れているにしても口止めの話し合いは必要と思ったのだろう。相手がアクアたちの事を知らなければ、知らさないほうがいいのだが、どこから漏れるか分からない話だ。希望的観測を持ちたくない気持ちはよくわかる。もっとも、壱護の懸念は取越し苦労なのだが。
「故人だよ。16年前に亡くなっている」
「なっ!? 死んでるのか?」
「ニュースにもなったみたいだ。もっとも、このころは母さんたちも忙しかったから知らないんだろうけど……」
忙しい理由は、アクアとルビーの出産と子育てだ。ただでさえ大変な子育て。しかも、アイには絶対にバレてはいけないという重圧もあったはずだ。だからこそ、気づかなかった。あらかじめ用意していた過去のWEBニュースの記事をタブレットに表示させるとテーブルの上に差し出した。それを覗き込む壱護、ミヤコ、ルビーの三人。その記事には、カミキヒカルが宮崎の山中の崖の下でナイフで刺された状態で見つかったとの報道記事があった。
「……母さんはもう知ってたみたいだな」
「そうだね。さすがに調べてたよ」
一人だけ参加していないアイ。理由は簡単だ。その情報をすでに知っていたからだ。アイは足を組んで頬に手を当てて、彼らが読み終わるのを待っていた。その表情からは、何も読み取れない。悲しんでいるのか、怒っているのか。彼女が情報を知っているとすれば、もう十年以上前になるのだ。気持ちの整理をするには十分な時間だったということだろう。
「それで、なぜこのカミキヒカルとアクアが親子だって調べてみようと金田一さんは思ったんだ?」
「俺とカミキヒカルが似ていたみたいだな」
「あぁ? 16年も前に死んだ人間とか? よくわかったもんだな」
壱護は感心したように頷いたが、逆だろう、とアクアは思った。16年前に死んだ天才役者と呼ばれた少年。死んだからこそ、天才役者と呼ばれるほどの才覚を持っていたからこそ、印象に残るには十分だ。そして、その死んだカミキヒカルと同い年になってみれば、なるほど容姿が似るのは当然と言える。だから、調べた。もっとも、金田一に言われた女癖の悪さについてはアクアは言及しなかったが。
「こいつが死んだ場所は、宮崎だったんだな」
「しかも、高千穂町って……」
「せんせの病院の近くだ!」
アクアとしては、そこに気づいたか、と思った。気づかなければよかったのにとは思ったが、いずれ問題となる部分だ。
「アイっ! お前まさか!?」
ここまでパズルのピースが揃えば、壱護でもなぜカミキヒカルがそこにいたのか分かる。
「……そうだよ。カミキ君には私が教えた」
「お前、何をやったのか分かってるのか!?」
アイが出産する場所は、トップシークレットだった。少なくともアイもそれは理解していると思っていた。それがこんな形で裏切られていたことがわかった壱護としては怒りしかないだろう。それが分かるから、アクアはあえて止めなかった。それは目をつむって状況を見守っているミヤコもなのだろう。唯一、ルビーだけが、どうしよう、どうしよう、と混乱していたが。
そして、それはアイも理解しているのだろう。「ごめんなさい」と呟いて俯かれてしまえば、壱護としても責めることができない。結果論ではあるが、アイもアクアもルビーも無事なのだ。問題があったのは事実だが、都合のいい事実だけ考えれば、カミキヒカルが宮崎に来たからこそ
もっとも、実はカミキヒカルがこの後、雨宮吾郎をリョースケを使って殺したうえで、ドーム公演直前には間接的にアイを殺すはずだったと思えば、やはり奴がそこで死ぬのは必然だったとさえ思うのだが。
「一つだけ。カミキヒカルには残念だが、あの日、吾郎医師が不審人物を見つけている」
「まさしく、巻き込まれたってやつか……」
事前情報がなければ、そう考えるのが事実だろう。アイとしても顔を見ているならまだしもリョースケという名前だけではファンとして認知ができなかったようだ。ここでの結論はカミキヒカルはアイに会いに来た病院で不審者に追われて崖から落ちたという不運な事故だ。ただし、このリョースケが未成年ということもあって東京出身という詳細まで知らされていないため、いろいろな情報が不足しての結論となっていた。
「よしっ! とりあえず、もっと言いたいこともあるが、死者について語っても仕方ない。次に、姫川大輝だが……」
「それは文字通り、カミキヒカルを同じ父親とした異母兄弟だな。母親の名前は姫川愛梨」
意外と大物の名前が出てきて驚く壱護とミヤコ。さすがに朝ドラに出ているような女優であれば聞いたことがあるのだろう。そして、その死因についても。
「心中とは聞いたことがあったが……って、ちょっと待て!? 姫川愛梨の旦那の名前はカミキヒカルって名前じゃなかったはずだぞ!?」
その場にいた全員が気まずそうな表情を浮かべて『托卵』という言葉が浮かんだ。
「それもカミキヒカルが死んだというニュースの時に発狂したものらしい」
もはや、本日何度目になるか分からない、絶句という表情をしていた。カミキヒカルがアイ以外にも子供を作ったこともだし、姫川愛梨が別の男と結婚して、托卵として姫川大輝を育てていたこともそうだ。もはや情報量が多すぎて的確に処理できていなかった。姫川大輝とカミキヒカルの年齢を考えると十一歳の時の子供ということにたどり着かないほどに。なお、後日、改めて計算した時に、まるで深淵を覗いたときのように絶望の表情を浮かべてしまうのだが。
なんというか、芸能界の闇が限りなく濃縮されたような現実に誰もが逃げたがっていた。だが、ここで逃げても仕方ない。後から現実が追いついてしまうからだ。
「……と、とりあえず、分かった。もはや死んだ人間については後回しだ。今は、生きている人間の姫川と金田一について考えるぞ」
さすが社長というべきか。現実主義的に話の方向性をまとめた。
「それについては、後日、日付を合わせて話をしたいと、姫川さんと金田一さんから打診はもらっている」
「おぉ! そうか!」
少なくとも話をせずに決裂とはいかなそうだった。それについては壱護としては喜ぶしかない。ここで歩調を合わせません、となれば万が一の時に行動できないからだ。もっとも、あちらとしても、アイとカミキヒカルの出会いの場が劇団ララライのワークショップとあって尻に火がついている状態なのだが。
後日、顔合わせの会場で、お互いに緊迫した話し合いの中、最後にルビーが大輝に対して「お
※ ※ ※
「どうしたんだ?」
「ん……アクアか」
あのカミキヒカルについて話をして、夜も更けた頃、ベランダからの景色を見ていたアイが心配でアクアは話しかけた。アイも決して景色を単純に見ていたというわけではないのだろう。ただ、ぼうとしていた、というほうが正しいだろう。
「今日の話……アクアたちの父親についてどう思った?」
「そうだな―――」
はっきり言えば、どうでもいい、というのがアクアの感想だった。確かに自分が生まれている以上、父親がいたことは間違いない。そして、もしも、あそこで死ななかった(天罰だが)場合に起きる悲劇も知っている身としては、よくぞ死んでくれた、というほかない。だが、アイとしてはどうだろうか? 少なくとも身体にリスクがある子供を孕む行為をするほどには身体を許す存在だったのだ。情がなかった、というと嘘になるだろう。
「俺の親は愛してると言ってくれた母さんだけだよ」
「アクア……」
そう、それが答えでいいと思った。少なくともアクアにとっては親とは、愛情をこめて、愛してると伝えてくれたアイだけでいい。あの悲劇を生み出すはずだったカミキヒカルについては考えなくていいと思っていた。ただの遺伝子上の父親である、というだけである。
「そっか、私はちゃんと家族を作れてたんだ」
今まで考えていたことは何だったんだろう? と解放されたような表情をして、双眸に宿る星がアクアを見つめる。
「ありがとう、アクアが私の息子でよかった」
「……俺も母さんが母さんでよかったよ」
はて、原作で吾郎はアイに普通の子供を産ませてやりたかったといった。原作で疫病神は魂が宿らない子供といった。ならば、本来はアクアもルビーも死産で、そこを神の温情でさりなと名も分からぬ誰かが宿ったのが、今のアクアとルビーだ。ルビーはいい。さりなとしての自覚があるからだ。だが、今のアクアには―――愛久愛海には前世がない。ならば、ここにいるのは本当の意味で愛久愛海なのだ。だから、母からの感謝は素直に受け取り、母への感謝は素直に示すべきだと思った。
お互いに微笑みあう暖かい空間。だが、その直後、アクアの肩をがしっ、とつかむと真剣な表情でアイはアクアに願う。
「アクア……お願いだから、カミキ君みたいにはならないでね!」
「……え? あ、うん」
なぜあんなサイコパスと同じようなことをしないようにと母親から注意されるのだろうか? と心底アクアは疑問に思うのだった。
※ ※ ※
「はい、あーくん、あ~ん」
「……あ~ん」
やや困惑した表情をして、ぱく、とかなが差し出したフルーツを口にするアクア。その表情には僅かながらに照れがみえ、意識してもらえていると思うとかなとしても嬉しく思う。
もっともテーブルを挟んだ向こう側で、にやにやと酒の入ったグラスを片手に見守る姫川大輝と取り巻きのお姉さま方がいなければだが。そして、アクアを挟んだ先で、ジュースをグラスに注ぐあかねも邪魔といえば邪魔だ。そして、同じようにフルーツを運ぶんじゃない! とは思うが、ここの店の意義を考えれば無理もないことだった。
さて、そもそもの始まりは、舞台東京ブレイドの終了後の打ち上げにあった。舞台が終わるのは夜半遅くとはならない。晩御飯ぐらいは、用事がなければ出演者で行くことはよくある。そして、アクアは割と仕事がなければ積極的に参加するタイプだ。当日の舞台上での演技などが気になるのだろう。この辺りはライブの後に飲み会するバンドマンと変わらない。
そして、幸か不幸か、かなにはアイドルの仕事がある。舞台の後にライブって、どれだけ酷使するんだ!? とは思うものの、ユニットのルビーとメムは舞台は関係ない。役者とアイドルを両立するとしたかなの仕事であるだけだ。ただ、やはり距離的な拘束はあり舞台の後は都内の箱がせいぜいだった。そして、さすがに連日とはならない。ライブだけでも結構カロリーを使うのだから。だから、毎回ではないが、アクアがいく打ち上げにはかなも参加するようにしていた。
アクアに不穏な気配が生まれたのは舞台が開幕してしばらくしてからだ。打ち上げのあと、さらに二次会へといく役者は多いが、それでも小さな人数に分かれることはよくある。そして、その中で開幕当初は考えられなかった姫川大輝と星野アクアという組み合わせでよく二次会に行っているという情報を劇団ララライのお姉さまからあかね経由でかなは入手した。しかも、行先は会員制のキャバクラのような場所だと。
いやいや、アクアは未成年だろう!? というツッコミはできない。なぜなら、ソフトドリンクを飲めば少なくとも合法だからだ。もちろん、会員制ともなればこっそり飲むことはできるだろうが。だが、それは問題ではない。問題になるとしたら、むしろ、酒よりも、女である。
「「怪しい……」」
それがかなとあかねの共通認識だった。むしろ、女という悪の道に導く姫川大輝こそが悪という認識だった。あかねとしても、劇団ララライの先輩としての恩はあれど、悪の道に導く大輝は敵として、かなと共同戦線を張るほどである。
だから、いつものように二次会へアクアを誘おうとしている大輝に二人は詰め寄った。
「待ってください! アクアくんをこれ以上、変な場所に連れまわさないでください! 姫川さん」
「ん~、黒川か。変な場所とはなんだ。会員制のちゃんとした場所だぞ。それに、成人して、変に連れ込まれたら、こいつがすぐさま喰われるぞ」
―――それはそうだ。
かなとあかねの心は一つになった。もしも、慣れずに男が御用達の場所へいきなり連れ込まれれば、百戦錬磨のキャストに簡単にベッドに引きずり込まれるアクアまで容易に想像できるあたりが、ひどいとは思ったが、事実とも思えた。何言ってるんですか!? と反論するアクアだったが、彼の主張は華麗にスルーされた。
「だから、勉強のために俺が連れまわしてるんだ」
「「余計なお世話です」」
そう答えたものの、果たしてそうだろうか? という疑問は尽きない。もしかしたら、今のうちに大輝の監視の下で女を軽くあしらえる経験を積んだ方がいいのではないか? という考えも思い浮かんでしまう。さて、どうやって肩に腕を回されているアクアを取り戻そうか、と考えている最中に、大輝が思わずいいことを思いついたとばかりの笑みを浮かべて、かなとあかねに聞く。
「そうだ、アクアだけで不安なら、お前たちもついてくるか?」
興味がなかった、といえば嘘になる。芸能界にいれば、秘密の会員制のクラブの話を小耳に挟むことはよくある。そして、そこでキャストが決まるということもよく聞く。だから、興味がないわけではない。なにより、月9の主演男優が、通うような場所だ。連日、アクアも連れまわされているとなれば、監視のためにも同行するのも悪くはない。そう、あくまでも監視のためである。
そうやって理由をつけて、ついてきた会員制の一見さんお断りのクラブ。そこは、芸能界だけでは食っていけないレベルの女性が働く場所で、なるほど顔面偏差値的なことでいえば、一般的な容姿に比べて、十分に上澄みが集まった場所と言えるだろう。
さすがに女性が来ることは想定していなかったのか、一瞬、奇妙な目で見られたものの、ソフトドリンクを勧めてくるあたりは未成年の扱いにも慣れているのだろう。そして、当たり前なのだが、彼女らのターゲットとして、大輝とアクアの周囲にキャストが集まる。メインはもちろん大輝なのだが、アクアの周りにも成人しているが若い女性が集まっていた。もちろん、男性向けなのでキャストが集まらない場所で座ってソフトドリンクを飲んで見守っているかなとあかねはイラッとする。
さすがのアクアも気まずいのか、冷や汗をかいて、どうしようか? と悩んだ表情をするのだが、キャストたちはそれを気にせず、挑発するようにアクアに身体を寄せて、話しかけている。それがさらに怒りのボルテージを上げる。アクアとしても大輝の紹介の店で、キャストに近づくな、とは言えないので、愛想笑いで誤魔化しているが、戸惑っているのは間違いない。それだけが、怒髪天を衝くかなとあかねの感情を押さえているといってもいい。ここで、デレデレしていれば、今すぐ立場を教えてやったのだが。
それをにやにやと見守る大輝。ここまで連れ込んだ責任を取れ、と言いたくなったのだが、それを口に出す前に大輝が動いた。
「そうだ、有馬と黒川がアクアのキャストをするか?」
「「「へ?」」」
アクアとかなとあかねの疑問の声が重なった。
「お前たちもいつ夜の仕事の役どころが来るか分からないだろう? なら、ここで経験してみるのは役作りのいい経験になるんじゃないか?」
まるで取ってつけたような雑な言い分。だが、ないとは言い切れないところがいやらしい。今はまだ未成年だからないかもしれないが、あと、2、3年後にはあり得るかもしれない役どころ。それを経験できるいい機会、と考えれば、大輝の提案を無下に断ることはできない。いつの時代だって大義名分は大事なのだ。
「し、仕方ないわね! あくまで経験のためだからね!」
大義名分があれば動きやすいのがかなの素直なところだ。だから、少し離れたソファーから立ち上がって、今までアクアの隣に座っていたキャストと入れ替わるようにアクアの隣に座る。なお、席を離れる際のお姉さまの揶揄うような笑みはおそらく忘れない。そして、一歩遅れて、あかねがかなとは反対方向に座る。ここでは、あくまで夜の蝶の役を演じるための経験と割り切ったかなとあかねだが、流されるままに接待される男としての役が振られたアクアとしては困惑の一言だ。
だが、ここまでの流れを導いた大輝は苦笑しながら、さらに場を整えた。
そして、冒頭に戻る。フルーツの盛り合わせを食べさせるかな。そして、ソフトドリンクをグラスに注ぐあかね。もっとも、劇中であればそれは酒になるのだろうが。
「ほらほら、もっと距離詰めて!」
「外野、うっさいわよっ! って、黒川あかね、アンタはアンタで距離詰めてるんじゃないわよ!」
本場のキャストが大輝に抱きつくかのように距離を詰めていることを見せつけるようにヤジを飛ばし、それに反論するかなを後目に言われるがままに身体がくっつくように距離を詰めるあかね。あかねの顔は紅潮しており、相当無理しているのが分かる。かなとしても、そこまで見せつけられれば、距離を詰めないわけにはいかず、少しずつアクアとの距離を詰めていた。たとえ、そのやり取りが大輝と周りを囲む本職からにやにやと見守られようとも避けられない戦いはあるのだから。
もっとも、一番困惑しているのは、こういう場に一番慣れていないアクアだったのだが。
その後、抱き着くような距離であ~んとフルーツのセットを食べさせられるアクアと楽しそうにキャストを演じるかなとあかね、その姿を酒の肴にしながら笑う大輝と店のキャストたちは大いに盛り上がり、その日の夜は更けるのだった。
アイ「注意した直後に、女二人を侍らせてキャバクラって……」
アクアと姫川さんが仲良くなりました。カミキヒカルとアクアと姫川さんの話を書いたら終わった感じですね。
次回は、東京ブレイドからプライベート編へと繋がるお話になるかと思います。
誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。
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