宮崎への撮影兼旅行から少し月日が流れた。
新生B小町は、その後、PVとMVが届くまでは旧B小町が活動していた時に拠点としていた各地方のライブハウスへあいさつ回りに勤しみ、ライブを全国各地で行っていた。箱としての規模は大きいというものではなかったが、それでも連日の完売御礼となっており、全国に新生B小町の名前を売り出したのだった。
星野ルビーは相変わらず、親から引き継いだルックスと天性のダンスの才能を開花させたライブでファンを魅了し、ルビー推しのファンを量産していた。なお、宮崎での撮影直後の福岡公演では、吾郎がライブに来ていることを知っており、その姿を見つけた瞬間から、その輝きはより増し、ほかの会場よりも信者を増やしていた。さらに、原作とは異なり、壱護が社長として動いているため、ライブだけではなく、Nステのような歌番組にも出演し、新生B小町の知名度をより上げることに成功していた。
有馬かなは、ルビーと同じくライブや歌番組への出演に加えて、ネットドラマの出演したことで、別方向に注目が集まっていた。
かなが主演級として出演したネットドラマは、そこそこ有名な少女漫画が原作であり、幼馴染と引っ越してきた転校生の三角関係がメインの恋愛ドラマだ。かなの役柄は幼馴染で、負けヒロイン。最終回近くで、主人公に告白し、幼馴染を傷つけないために口ごもる主人公を笑顔でヒロインの元へ送り出した後に、こっそりと「ばか」と呟いて悔し涙を流すシーンがあるのだが、それが名シーンとして、話題になっていた。さすが、10秒で泣ける元天才子役だと。ただし、今回は子役の頃のように泣きじゃくるものではなく、恋心を抱いた相手に対する涙であるため、子役のイメージは完全に払拭できたといえるだろう。このドラマをきっかけに負けヒロインとして確固たる地位を確立したかなであるが、いずれシナリオ的にかな=負けヒロインの構図を崩せるかが勝負になっていた。
なお、ヒロインに告白を譲って涙を流すシーンについてルビーが「あっれ~、誰かに振られるシーンでも想像したの? 先輩」と傷を抉るようなことを口にしていたのは通常運転だった。
最後のメンバーであるメムは、平常運転だ。アイドル活動を楽しんでいるし、ユーチューバーとして生配信や動画作成をしている。ただし、その頻度は、さすがにアイドルを始めるよりも減っている。その代わり、新生B小町の動画の露出が増えて、どちらのチャンネルからも導線を繋いでいる以上、どちらにもプラスの影響があるとしか言いようがない。現に登録者数も微増ではあるが、伸びている。個人のユーチューバーとしてはMEMちょは破格の成功といっても過言ではなかった。
さて、そんな順調な新生B小町の面々であるが、時間が欲しいと言われたMVが作成されるとさらに風向きが変わった。ヒムラによって全盛期よりもはるかに冴えた楽曲とアネモネのプライベート作品ともいえるMVが作成され、投稿した結果が、2000万PVを超える化け物級の動画となってしまった。バズがバズを産んだ結果、さらに新生B小町というアイドルは世間に広まった。中でもルビーの天真爛漫な表情と、誰かに向けた愛しているの表情は、よりオタクによる関心を産み、アイの後継者の名に恥じない結果となっていた。
新曲の発表も追い風になっていた。過去曲だけならば呼ばれない歌番組への出演も増え、まさしく新生B小町は、人気アイドルへの道を歩み始めていた。
アクア淑女同盟のメンバーに関しては、フリルはいつも通り、マルチタレントとして、バラエティー、楽曲、ダンス、ドラマにと大活躍だった。フリルが登場するだけで、視聴率が2、3%変動するのだから、影響力という意味では若手では一番と言えるだろう。
フリルとは異なるが、寿みなみも活躍の場を増やしていた。メインはグラビアだったが、アクアの助言によりSNSでコスプレ路線も増やしていた。残念ながら青年誌のグラビアだけで生きていけるほど甘くない、という助言からだ。なお、業界内ではむしろアクアが紹介する若手芸能人との恋のキューピット役としてのほうが知名度は高かったりする。
黒川あかねも映画の主演を務めあげた後、かなと同じようにいくつかのネットドラマの主演を演じ始め、地上波に出てくるのも時間の問題とされるほどに実力派の女優として名を上げていた。
相変わらず、といえば、アイも主演しかできない女優として、もう主演しかできないならシリーズ化してしまえばいい、という判断の下、いくつかシリーズ化されたドラマを順調に片付けていた。アイの
なお、宮崎旅行から帰宅後、アクアがいないところで、ルビーから淑女同盟について聞き、「だ、大丈夫。アクアが一人を選ぶなら大丈夫だから」と自分を納得させようとしていたのがルビーにとって印象的だった。その後、ルビーが、「最後まで選べなくて、みんなに食べられちゃったりして」と冗談めかしていうのだが、それが容易に想像できたのか、「ぐぅ」とお腹を押さえて呻くのだった。
そして、あの宮崎旅行の最後の芸能人として活躍しているのは星野アクアである。あの旅行以来、出演するドラマ、バラエティーのすべてに高評価が得られている。あのすべてを魅了するといわれたアイに似たような現象を起こしていると言っているも過言ではない。アクアをみれば、魅了される何かがあると言われるほどである。その代償として、大人に片足を突っ込んだアクアに対してアプローチが激しくなるが、それはアクア淑女同盟の面々で何とかとどめられていた。
アクアもさすがに不審に思いながらも、余計なスマホの連絡先を増やすことなく過ごして、宮崎旅行から半年ほどが経過し、アクア、ルビーたちは二年生に進級し、あかね、かなは三年生に進級したのだった。
※ ※ ※
「おはよう、アクア。今年も同じクラスになれてうれしいよ」
「いや、芸能科は一クラスしかないだろう」
学年が上がった初日、教室の端に張られた席順に従って座っていたアクアに対して、久しぶりに顔を合わせるフリルが奇妙なことを口にするため、呆れたような口調でアクアが答えていた。芸能科は一クラスしかなく、基本的に卒業までクラスメイトは変わらない。もっとも、アクアの場合は、最近は教室にいる時間よりもドラマの撮影や、モデル撮影、雑誌のインタビュー記事、バラエティーの収録など仕事をしている時間のほうが多いぐらいだった。
「アクアは情緒がないね。芸能を嗜むものとして、学園ものなら一度は言ってみたい台詞じゃないか」
「まあ、分からなくはないが」
アクアとして、よい作品に触れることは刺激にもなるため、エンタメ系の漫画なども嗜んでいる。その中で、学園物の年度が上がった際のお決まりのセリフだろう、と言われれば、頷くことしかできなかった。
「それにしても、全員上がれたみたいでよかったね」
「それはルビーの事を言ってるのか?」
それ以外にいる? という風に小首を傾げる国民的美少女。あざとい仕草ながら見惚れてしまうのは仕方ないことだろう。
「ぎりぎりだったみたいだけどな」
「最近はまた忙しくなってきたみたいだから仕方ないけど……単位制で緩いんだからもうちょっと頑張ってほしいよね」
テストのギリギリ前に苺プロにかな、フリル、みなみ、アクアと泊まり込みで勉強していたのが懐かしい記憶だ。そのテストはルビーの足りない点数を上積みするための進級テストだったことは付け加えておこう。その際には苺プロの事務所の合宿部屋を使っていた。なお、メムは一切役に立たなかったことは言うまでもない。
そもそも、忙しさという尺度だけで言えば、新人アイドルであるルビーよりも、売れっ子―――若手の中では一番売れているフリルとアクアのほうが忙しいのは言うまでもない。それでも単位が取れる程度には、フリルもアクアも勉強はしている。しかも、アクアは全国模試で偏差値だけで言えば、70を確保できるレベルだ。その明晰さは最近のクイズバラエティーで遺憾なく発揮されていた。
「そういえば、『東京ブレイド』の舞台続編が決まったんだって? おめでとう」
「ああ、ありがとう。あかねの出演がないのが残念だがな」
東京ブレイドの舞台の続編が発表されたのが最近だ。アクアが言うように次は新宿クラスタと別のクラスタの抗争なので、アクアの刀鬼の出番はあるが、渋谷クラスタ所属である鞘姫の出番はない。もっとも、あの舞台以降、雑誌のほうでは鞘姫の出番も増えて、スピンオフ作品のほうでも鞘姫の出番は増えてきたので、このまま舞台が続けば、いずれ出番は出てくるだろう。
「舞台、ドラマ、モデル―――アクアもさらに人気出てきたみたいだね」
「ありがたいことにな」
それは偶然か、あるいは必然か。結論付けることはできないだろう。だが、あの宮崎旅行からアクアの仕事が増えたことは事実だ。以前からイケメン実力派俳優として有名だったが、さらに一段上がった感じである。今は壱護社長の手腕により、ある程度制限したうえでの仕事量になっているが、それでも若手芸能人の中では国民的美少女と謳われるフリルと同じ地位を獲得したといっても過言ではない仕事量だった。
「どうかな? オーディションもせずに、最初から星野アクアに依頼が来る状況は?」
「確かに気まずいものがあるな」
フリルに問われて、アクアは少し苦い表情をした。最初からオファーが来るのはありがたい。ただ、それがその役なら星野アクアがよい、というキャスティングではなく、とりあえず最初に星野アクアとなるので、この役ならあの人のほうが、と脳裏に浮かぶ場合もある。
有名な原作で、実力というよりも星野アクアという理由でオファーが来ており、そのせいで作品の質が落ちるかもしれない。しかし、それでも事務所の関係から受け入れなければならない状況がある。作品をよくしたいのに自らが汚す要因になり得る罪悪感というか、二律背反に似たような感情は以前、フリルと共演した時に相談されたように嫌なものである。
だから、だからこそ、アクアはその時と同じ回答を返した。
「だからこそ、選ばれた作品の質を上げるために努力するさ」
アクアと同じ事務所で、今はアイドルとして足掻いている有馬かなという女優のように、という言葉は口に出さなかった。いくら何でも、フリルの前で別の女優の名前を出すのは、お前は努力していない、というような気がして。
「増長していないようでよかった。なら、アクアが挑戦してない分野も頑張らないとね」
「役者としては、やれることは全部やってるつもりだが……?」
ドラマ、映画はもちろんのこと、バラエティー番組にも出演し、モデルもやっているアクアだ。これ以上、男性俳優として手を出していない分野と言われてもそう簡単には思いつかない。やや悩んでいると呆れたように、はぁ、とため息をついてフリルが教えてくれた。
「楽曲だよ」
「ああ」
フリルから指摘されれば、確かに、とアクアはポンと手を叩いた。フリルは歌って踊って、演技もできるマルチタレントであるが、アクアは俳優として演技に突き抜けているといっていい。楽曲の件を忘れたのは、ルビーがアイドルとして歌って踊っていることも影響しているかもしれない。
「来期に『安楽椅子探偵』の第二期があるよね?」
「ああ、俺にもオファーは当然来てるしな」
『高校生探偵は安楽椅子で熟睡する』というアクアとフリルが共演するのもので、主演のフリルが安楽椅子探偵として、アクアが助手として駆けずり回って証拠を集める役回りだった。
「そのエンディングを私が歌うんだけど」
「安楽椅子探偵がアクティブすぎるだろ……」
元来の意味で言えば、安楽椅子探偵は、安楽椅子で一室に居ながら、情報だけで犯人を見つけるタイプの探偵だ。つまり、ものぐささで言えばとびっきりなのだが、そんなヒロインのフリルがエンディングを歌うというのは、役から若干離れているような気もしていた。
「アクアは、ギターでもやらない? 今から練習すれば間に合うと思うよ」
「いや、無理だろ。俺、ギターなんて触ったことないぞ」
ギターに関する記憶といえば、そういえば、『今ガチ』のケンゴがいつも背負っていたな、程度のものだった。
「ライブとかするわけじゃなくて、エンディングで歌っているところに、ギターを弾いてるふりでもすればいいんだけど……ドラマのエンディングとかだと歌番組に出る可能性もあるから無理かな」
アクアによっぽどギターでもやらせたいのか、あるいは同じエンディングに出たいのか分からないが、人差し指を顎に当てて、宙を見ながら可能性を考えるフリル。だが、何かに気づいたように、あっ、と小さく声をあげると、にやにやとした笑みを浮かべてアクアに視線を合わせていた。
「ダメだね。アクアにはもっと練習しないといけないことがあるからね」
「……なんだよ。そんなものがあるのか?」
いつもの揶揄うような笑みに嫌な予感を覚えながらも、演技については妥協を許さないはずのフリルの性格を鑑みて先を促す。アクアがそう言うと、フリルは、その整った顔を近づけると、近くの学友には聞こえないほどの声量でアクアが練習すべきことを伝えた。
「二期の『安楽椅子探偵』は最終回でキスシーンがあるからね。アクアはキスの練習をしないとね」
「――――っ!?」
思わず顔が赤くなるのが分かった。それはフリルとのキスシーンを思わず脳裏に思い描いてしまったからである。その表情を満足そうに見るフリルと手のひらで顔を覆って隠すアクア。満足したようにふっ、と微笑するとフリルはアクアから顔を離して、後ろを向いて自席へと移動しようとしていた。
「ああ、練習が必要だったらいつでも呼んでくれていいからね」
当たり前のように言うフリルに何も言えないアクア。あの宮崎旅行以来、こうして仲間内で異性を感じる場面が増えたような気がした。それは今の状況があの【推しの子】とは完全に異なることが分かったからか、あの変な加護を与えた神の所為か分からない。ただ、この今にも飛び出しそうなほどに高鳴る心臓を抑えるのが精一杯だった。
だから、気づかなかった。アクアから見えないように背を見せているフリルが耳まで真っ赤にするほどにいっぱいいっぱいだったということに。
※ ※ ※
「みなみ、機嫌がいいけど、何かあった?」
「え~、そうやろか?」
お昼時、アクアが
「それで、何があったんだ?」
フリルの後を継いだのはアクアだった。ここは問い詰めるという体を取った方が話が早いと思ったからである。そして、思った通り、やや躊躇う素振りを見せた後、ここだけの話という風に顔を近づける仕草をしたので、アクアとフリルもつられて耳を近づける。
「あのな、今日聞いた話なんやけど、うちの写真集が出るんや」
「「おおぉぉ、おめでとう」」
その報告に素直にアクアとフリルは祝福の声を上げた。グラビアアイドル―――グラドルが写真集を出すのはある意味、一つの成果と言っていい。みなみも雑誌のグラビアやSNSのコスプレや自撮りで稼いでいたが、ここで写真集というのは一つのゴールでもあった。なお、キャノンファイアは、所属のグラドルでカレンダーも毎年作成しているのだが、今年分はみなみも参加していたため、アクアとルビーは入手済みで、ルビーに至っては季節に関係なくみなみの月を飾っていた。
さて、戯言はともかく、みなみの態度にも納得がいった。自慢したいが外部に簡単に言える内容でもなく、さりとて、自慢したくないかといえば、自慢したいに決まっている。だからこそ、ここだけの話でアクアとフリルに話したのだから。
「ありがと……その、それで、アクア兄さんも、買うてくれるん?」
なぜか、恥ずかしそうに上目遣いに問いかけるみなみ。そんな態度に疑問に思いながらもアクアは答えた。
「もちろん、買うぞ」
むしろ、ルビーなら保存用、鑑賞用、布教用が複数で10冊ぐらいは購入しそうだ。なにしろ、幼少期にはおギャバブランドなどという単語を口にしていたぐらいだから。
だが、アクアがはっきりと答えたことで、なぜかみなみは微妙な表情をしていた。嬉しいような、恥ずかしいような。そんな表情がいったりきたりしていた。その表情を見てアクアは何か悪いことでも口にしただろうか? と不安になってくる。その感情が表情に出ていたのか、みなみは慌てた様子で、その大きな胸の前で否定するように手を振る。
「ああ、違うんよ……その、嫌とかではなくて……やっぱりウチの写真集となると結構、水着とかが多いから、それをアクア兄さんに見られると思うと少し恥ずかしくてな……ははは、グラドルが何言ってるんやろな?」
あ、なるほど、と思うと同時に、自分に見られることが恥ずかしい、と言うみなみに、アクア自身も気恥ずかしさを感じて、もじもじと照れる。そんなアクアを目の当たりにして、やるね、と好敵手を見るような目で見るフリルというある意味、カオスとなった空間だった。
そして、不意にそんな空気を読まないように、突然教室の扉が勢いよく開けられ、がんっ! と大きな音がする。その向こうにいたのは、今日の午後から出席予定のルビーだった。
「うわぁぁぁぁん! アクえもん! 助けて~!」
そんな風に泣きながら教室に入ってくるルビーに、今までの空気を霧散させて、はぁ、と呆れたようにため息を吐きながらアクアは口にした。
「はぁ、どうしたんだ? 一体?」
「実は、新生B小町がリポーターやってる『深掘れ☆ワンチャン!!』って番組があるんだけど」
「ああ、あれか―――」
その場にいた全員の脳裡に、ネット番組とは言え、番組の内容が思い浮かぶ。
ネット番組でしかできないようなギリギリのラインを狙うが、業界の影響度は高いという不思議な番組で、原作ではルビーがアクアへの当てつけのように持ち込んだ企画でルビーがリポーターをやっていたが、今は、単純に壱護が取ってきた仕事だ。むしろ、アクアがゲストとして参加したぐらいである。
「ADの吉住さんに聞いたら、今度のコスプレ企画の参加者はいないわ、コスプレは東京ブレイドなのに版権の許可がなかなか取れないわ、とかで、どうしようぅぅ!?」
おそらく、今日の午前中は、その打ち合わせもあったのだろう。涙目で慌てているルビー。だが、業界を良く知っているアクアとフリルからすれば、お前は何を言っているんだ? と、呆れるようにはぁ、とため息を吐くレベルだ。
「とりあえず、落ち着け。今のところ、参加者で決まってるのは、誰なんだ?」
「えっと……コスプレイヤーのメイヤさんとミミちゃんの二人だよ」
なるほど、とアクアは思った。原作通りだと。おそらくADの吉住シュンが用意できた二人なのだろう。もっとも、両方とも地雷が埋まっているコスプレイヤーなのだが。
「あと、何人必要なんだ?」
「それは……あと一人は欲しいかも……」
たった一人かと思うかもしれないが、その一人のハードルが高いのだろう。何より、ネット上とはいえテレビ番組となると、ハードルが高くなる。一般人からはなかなか難しいだろう。むしろ、縁もゆかりもなかったのに出演を決めたメイヤという女性がすごいと言える。
「だったら―――みなみ、出てみないか?」
「えっ!? ウチ?」
まさかのキラーパスに驚くみなみ。みなみとしてはSNSや雑誌で軽いコスプレ―――アニメキャラではなく、メイドやチャイナ服であるが―――はしているが、コスプレイヤーと言われれば違うと思っていたからだ。
「いや、コスプレイヤーはメイヤさんやミミさんがいるから、後はコスプレしてくれる人で妥協してくれると思う。だから、宣伝と思っていいんじゃないか?」
その言葉はみなみも納得できるものだろう。要するに画面にコスプレしてくれる人が少なければ番組的に映えないということだろう。その中で、みなみは確かに目立つ。いろいろな意味で。そこにネットとはいえ、番組に出ることはみなみにもメリットがないとは言えない。だから、少し考えて、事務所に相談してから、と回答を得ることに成功していた。
「あとは、版権だが、有馬がいるなら裏口が使えるだろうに……」
「え? 裏口?」
何のこと? とルビーが首を傾げるが、むしろ、アクアとしてはかながこの状況を知らないのか? と思った。知っていれば、対処しそうだが、と思ったが、現場の調和を優先するかなだ。むしろ、現場は現場の動きがあると敢えて聞かなかった可能性がある。ここまで切羽詰まっているとは思っていなかったのだろう。
「アビ子先生への直談判だよ。東京ブレイドの舞台に出た有馬なら直接連絡できただろうに」
「あっ!」
今更気づいたように声を上げるルビー。最初からかなに相談していれば、すぐに解決できたかもしれない問題だった。もっとも、ルビーとしても、よくわからない問題に直面して動揺したこともあるかもしれないが。
そして、この問題もアクアが直接、著作権者のアビ子に連絡を取って、そこから許諾が下りたのだった。ただし、そこには番組に条件が付いた。その条件とは、コスプレの番組にアクアとかな、あかねが、舞台の衣装で出演することだ。低予算のネット番組では不可能なキャスティングだったのだが、アビ子の出演料は最低限にし、化粧のアシスタント経費は番組負担にしたうえで東京ブレイドの次回舞台の宣伝も踏まえてという荒業で、どうにか出演は許可されるのだった。
最終的にコスプレを深掘りした回は、とてもネット番組では出演できないような刀鬼のアクア、つるぎのかな、鞘姫のあかねという豪華すぎる本家本元のコスプレと、番組からルビーとメイヤ、ミミ、みなみという豪華なラインナップで放映されることになり、ディレクターの漆原はもちろん、ここまでの道筋を作ったとされるADの吉住の評価も爆上がりだった。
なお、コスプレの現場には、購入したばかりと思われる一眼レフを構えたアビ子が会場に現れたり、その性能を十分に発揮できず、番組のカメラマンに撮ってもらったり、とハプニングはあったものの、笑い話である。
そして、原作では一番問題になったメイヤへのセクハラインタビューであるが、そこは、アクアがルビー経由で入れ知恵をして、新生B小町で唯一アダルトの称号を得ているメムがインタビューすることで、何とか原作のように機嫌を損ねずに撮影できていた。もっとも、番組の意向としてギリギリを攻めるラインと、メムの女としての矜持が激しくせめぎ合い、番組のインタビューの後、アクアは胃薬を差し入れするのだった。
そんなこんなで、深掘れワンチャンで知名度上げた新生B小町はさらに世間への露出度を上げてトップアイドルへの道を突き進むのだった。
※ ※ ※
すべてが順調だった。ルビーを含めた新生B小町はアイドルとして着実に歩みを進め、アクアは役者として賞をもらい、若手の中では頭一つ抜けた役者となって、若手を代表するような役者として着実に経験を積み重ねていた。
だから、信じられなかった。一寸先は闇という言葉がある。その言葉のように、まさか、闇に突き落とされるような事態が起きるとは。
アクアにとってその始まりは一本の電話からだった。
スマホの着信音がする。アクアの個人スマホの着信音が鳴るのは稀だ。仕事の話であれば事務所のマネージャー経由であり、個人には直接届かない。そして、個人の番号を知っている人間は、この時間帯はアクアはすでに寝ていることを知っているからだ。
だから、この着信はよっぽど緊急だとアクアも判断できた。だから、着信の相手を見ずに、電話を取る。
「はい、アクアだ」
名乗ったものの通話先の相手からは中々、返事がない。緊急じゃないのか? と寝ていたところ起こされたアクアは若干の苛立ちを覚えていた。冷静になれば、その沈黙は戸惑いだとわかっただろうに。そして、やがて意を決したような呼吸音の後、スマホから声が聞こえた。
「寝ているところ悪かったね。ただ、これはそんなことを気にしている場合じゃないんだよ」
スマホから聞こえてきたのは、不知火フリルの声だった。しかも、その声色は焦りや戸惑いを含んでいた。それが本当でなければよい、と祈るような声色だった。やがて、本当に言いたくないが、言わなければならないという感じでフリルは口を開いた。
「――――アクア、ルビー……君たちはアイさんの隠し子なのかな?」
そのフリルの半ば確信を持ったような言葉に、アクアは心臓が凍るような衝撃を受けるのだった。
フリルさんも揶揄いがいっぱいいっぱいの状態でした。魅力度マックスだから仕方ないですね。
コスプレは、アビ子先生の独壇場になってしまいました。
そして、最後はスキャンダル編の導入です。なお、フリルを選んだ理由は、あの情報通のシーンからです。
次からはスキャンダル編ですが・・・解決にはあまり時間を使いたくないのが事実ですね。
とりあえず、アイを含めて星野家として活躍させたかったというのがあります。
最近は遅れて申し訳ない。スキャンダル編は早めに終わらせたいと思います。
誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。
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