「あーくん! ルビー!」
「アクアくん! ルビーちゃん!」
「アクア兄さん! ルビー!」
三者三様の呼び方でリビングに飛び込んできたのは、学生組であるかな、あかね、みなみだった。だが、彼女たちが案内された部屋に飛び込んでみると、そこにいたのは、台本を読んでいるアクアと携帯で掲示板やSNSの反応をみているルビー、メムの三人だった。
「あ、先輩、あかねさん、みなみ。学校終ったんだ」
「お先に来ているよ。こういう時、学校に行ってないのは便利だよね」
最初に反応したのは、見ていたスマホとPCから顔を上げたルビーとメムだった。そこには悲壮な表情ではなく、いつものような軽い態度だった。
「あ、いらっしゃい~。今、お茶準備するから座ってて」
台所にいたアイがそう言いながら、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出そうとしていた。
あまりにも日常の風景に飛び込んできたかなとあかね、みなみは呆然とする。自分たちの心配は何だったんだ? と。彼女たちが来たのは苺プロの事務所ではなく、星野一家が住んでいるマンションの一室だ。今のアイ、アクア、ルビーは当然ながら外出は難しい。しかし、会いたいという事情が重なり、普通であれば気が抜ける居場所である星野家に初めて招待したのだった。
「ところで、学校の様子どうだ?」
台本から目を離して、気になっていたのか、彼女たちにアクアが尋ねる。陽東高校の芸能科はある意味で、芸能界の縮図のようなもの。まだ芸能ニュースにはなっていないが、ネット上でもあれだけ話題になっているのだから知らないというわけがない。ならば、そこでの様子が気にならないわけがなかった。だが、そのアクアの問いになぜか微妙な顔をするのがかなとみなみ。
「う~ん、まあ、思ったよりもネガティブではない感じね」
「むしろ、ルビーとアクア兄さんがほんまにアイさんの子供か? って確認のほうが多かったなぁ」
そりゃそうか、とアクアは少しだけ納得できた。なぜなら、アクアたちの年代は、アイといえば、大女優なのだ。アイドルだったことを知っているぐらいだ。しかも、そのアイドルグループはどこかの大規模グループのように世代交代して生き残っているわけではない。つい最近、新生として復活したが、過去のB小町は別物としてとらえられている。
そうなるとどうなるか? アイという32歳の女優に子供がいた、という情報のみになってしまう。つまり、違和感がないのだ。だから、アイに対してはネガティブにはならずに、むしろ、同級生であるアクアとルビーに対して注目が集まっていた。
俳優、女優の子供が芸能界にデビューすることなど芸能界ではよくあることである。ただし、親が大物であればあるほど『親の七光り』という言葉が付きまとう。そういった意味では、アクアとルビーは事情が事情とは言え、うまく隠したものであると言える。そして、隠したうえで若手芸能人の中では、頂点に位置する活躍を見せている。
アクアは、言うまでもなくドラマ、映画、モデルと誰もが認める若手芸能人の中で頂点に位置する不知火フリルと同様の活躍をしており、今後を考えても並び立つ存在となっている。
ルビーは、アイが所属し、すでに解散しているB小町を復活させ、今では全国ツアーでも場所によるが2000人規模の箱は十分に埋められ、今後はいつドームに挑戦できるか? というほどに活躍するアイドルになっている。
だから、アイの子供と言われても、思い浮かぶのは、ああ、そうなんだ、という納得である。確かに親の事は影響するかもしれないが、彼らのライバルであるアクアとルビーはむしろ、この出来事でさらに知名度が上がると考えれば、収支的にはトントンか、少しプラスとなるだろう。
特にルビーなどはあのアイの娘で、そのルックスも継いでる。今まで、躊躇してきたアイの古参オタを取り込めるとなれば、影響度の拡大は間違いないだろう。なお、父親については考えないものとする。
「あの……アクアくん、もう大体わかってるけど、念のため確認させてほしいな。アクアくんとルビーちゃんはアイさんの実子なの?」
その瞬間、空気が張り詰めたような気がした。もう、ここまで半ば、当然のように扱っていた情報だったが、確かに最終的な確認は終わっていない。だから、こうしてあかねが最終確認として聞いてくれたのは、その場のかな、みなみ、メムとしても渡りに船だった。
「うん、そうだよ~」
しかし、その張り詰めた空気とは裏腹に軽い感じで、答えたのはダイニングでお茶を用意していたアイだ。
「ママ!?」「母さん……」
驚いたように叫ぶルビーに対して、呆れたような声をだすアクアが対照的だった。だが、そんな二人を気にしないようにお盆に麦茶を入れたカップを運んできたアイは、未だに立ったままの三人にリビングのソファーに座るように促して、それぞれの前にカップを置く。
「もう、だいたいバレてるんだからよくない?」
からからと笑うアイはもはや開き直っているといっていいだろう。確かにネット上でも世間一般的にも週刊誌の記事は事実と言われているが、確証は握られていない。たとえ、アイのライブシーンとルビーのライブシーンが比較されたバージョンの動画や、ルビーを黒髪に変えてみた場合の比較動画があちこちで上がっていたとしても、他人の空似という言葉もあるように実子という言葉は、使っていないのだから。
もっとも、これから少し後の壱護の会見ですべては表ざたになるのは事実だが。
「そうだったのね……まあ、確かに考えてみれば、アイさんと仕事した時にあーくんとルビーもいたものね」
かなが納得したように頷くが、それは幼少の頃の話だ。あの「それが始まり」という五反田監督の作品にして、アクアをバーターとしてアイを採用した映画の話である。なんでこんなところに子供が、と思ったが、アイの息子であれば、コネという話で出演したのも納得できる話だ。もっとも、かなは五反田監督がアクアとアイの関係性を知らないことを知らないが。
「で、この話、どうやって着地させるつもりなの?」
この問題について核心を突いたのはかなだった。いつまでも、アイ、アクア、ルビーでこの家に籠っているわけにはいかない。何かしらの決着をつけざるを得ないだろう。その方法を確認したのだが、アクアは冷静にスマホを操作するとそのネットニュースを表示させた。
『本日、〇〇時より、×△週刊誌に掲載された記事に関する会見を行う』
その臨時ニュースを見て、かな、あかね、みなみ、メムが固まっていた。その情報を誰も知らなかったからだ。
「まあ、前からもしもの場合に備えていたってだけの話だ。すべてはそこでの壱護さんの会見次第だな」
伸るか反るかというギャンブルとまではいわない。そもそも、芸能人の不祥事で記者会見はよくある話だ。不倫や反社会との関係があった場合にも限られるが。今回の場合は、女優の隠し子騒動。仮にアクアもルビーも一般人なら無視という方法も取れただろう。だが、アクアもルビーも芸能界の一線で活躍している。つまり、けじめが必要なのだ。その場所に苺プロの社長が会見する。しかも、ネットで生放送だ。
「まあ、大丈夫だよ。佐藤社長も伊達にここまで苺プロを育てたわけじゃないんだから」
いつの間にか用意した自前のカップに注がれた麦茶を飲みながらアイが抜群の信頼を寄せたような口調で語られれば、後輩である彼女たちは口つぐむしかないのだった。なお、社長の名前を間違えていることは、その場の空気が誰も訂正することを許さなかった。
※ ※ ※
星野家のリビングにある大きなテレビの前に置かれているソファーにその場の全員が座っていた。最近のテレビはネットの番組も見られるので、便利だね~、とアイが言っていたが、まさかその機能がこんなタイミングで役立つとは夢にも思っていなかった。
テレビに映し出されているのは苺プロの公式チャンネルからライブ映像である。今は、テレビには芸能ニュースを取り扱う記者とカメラが映っていた。基本的に付き合いがある媒体には招待状を送ったということだから、結構来ているのだろう。
「あ、ミヤコさんと壱護さんだ」
やがて、時間となったのか、司会者の席にミヤコが現れた。同時にいつものだらしない格好ではなく会見用に決めた壱護も弁護士と思われる男性を伴って会場に入って席についた。一礼するとマイクのスイッチを入れて口を開いた。
『それでは、定刻となりましたので、会見を始めさせていただきます』
なぜか司会であるミヤコがあいさつしただけなのだが、パシャパシャとシャッターが切られたのはなぜなのだろうか。これが今回の主役である壱護なら分かるのだが、と困惑しているような様子が見て取れた。
『それでは、社長お願いします』
『苺プロの社長、斉藤壱護です』
さすがに会見というだけあっていつものふてぶてしい態度は封印していた。そこには謙虚に会見に臨む社長の姿だった。
『今日発売された〇〇週刊誌のうちのアイと星野アクア、星野ルビーが親子という記事ですが―――』
そこで一瞬、間を置いた。まるでドラマの謝罪会見を見ているようだったが、残念ながらこれは現実で次に発せられる壱護の言葉も分かっている。
『―――事実です。アイと星野アクア、星野ルビーは親子関係です』
その瞬間、先ほどのミヤコと同じようにシャッターが切られた。さすがにフラッシュとシャッター音は先ほどもよりも多い。その音が止むまでにかかった時間はいかほどだっただろうか。少なくとも短時間ではなかった。
そこからはアイの経歴の説明だ。産婦人科にかかった時にはすでに妊娠期間の20週を超えており、堕胎を行うとしても相当の危険性があったこと、本人が産むことを望んだため隠すことを決めたこと、それから出産予定日に無事に自然分娩で双子を産んだことなどある程度の説明だ。ただし、その中に報道陣が望んだ情報は入っていないであろうことはアクアにも分かった。
『最後に、今回の記事はプライバシーの侵害として民事上の問題として訴訟を起こさせてもらう。もちろん、損害金も含めてだ』
そこは芸能プロダクションとして引けない一線だ。さすがに一切、訴訟を起こさないのは弱腰と思われても仕方ない。特にアイとアクア、ルビーの関係は苺プロ総出で隠してきたことだ。それが、まさかのテレビ局の不手際で髪の毛などを集められて、遺伝子検査まで出されたとなれば、強気に行くしかない。口調が崩れているのもそれだけ怒りを抱いているという証拠で許されるレベルだろう。
ここまでは想定通りだ。会見を見ている面々も誰も不安な表情を浮かべていない。
『それでは、質疑応答に移りたいと思います。質問は簡潔にお願いします。また、同じ内容の質問に関してはそこで終了とし、次の方に移らさせていただきます』
つまり、長々と回答に困る質問をするな、自分の手柄のために何度も同じことを言わせるな、ということである。それでは、と質問を求めるとバババッと報道陣の記者の手が上がった。その中の一人をミヤコが指名する。
最初に自分の所属と名前を言うのは定番であり、指名された記者も名乗ったあと、質問を口にした。
『単刀直入に聞きますが、星野アクアさんと星野ルビーさんの父親は誰なんでしょうか?』
ああ、当然だよな、とアクアの周囲でソファーに座っている全員が思っていることだった。確かにアクアとルビーがアイの子供であることは、ほぼ確定であることは記事が出た段階でわかる。だが、それは母親だけである。ならば、父親は? というのは共通の疑問であろう。
おそらく、この会見の核心に近い質問だろう。だが、その質問に対して壱護はふてぶてしい笑みを浮かべて答えた。
『俺たちはあの週刊誌とは違うので、父親からの許可がもらえない限りは個人情報保護の観点から何も言えません。もっとも―――』
そこで言葉を区切って笑みを浮かべる壱護。その表情からは誰もこの話題にはついていけないだろう、という余裕が見て取れた。もっとも、彼の言葉を聞けば納得できるのだが。
『アクアとルビーの父親にあたる男はすでに故人です。だから、許可は一生取れないでしょうな』
画面の向こうから、ああ、と残念がる報道陣の声が聞こえたが、一部の記者は目を光らせていた。故人というキーワードで推測しようというのだろう。つまるところ、普通に亡くなったとすればかなり年上が相手と推測できるからだ。
「あーくん、ルビー、本当なの?」
一方、星野家のリビングでは、その事実を知っているアクア、ルビー、アイ以外から疑惑の目が向けられていた。これ以上の追及をかわすために故人にしたのではないか、という疑惑もあったからだ。
「ああ、俺たちの遺伝子上の父親にあたる存在はすでに死んでいる」
敢えて突き放した言い方をしたのは、アクアにとっては父親という存在は、赤の他人に近い感覚だからだろう。それを理解したのか、かなも何も言わなかった。
『ああ、そうそう。故人の亡くなった原因は正確には言えませんが、世の中には色々な原因がある。老衰、事故、事件、そして、病死など、です』
壱護の言葉は記者を牽制するつもりだったのだろう。老衰するような年上の人間だと騒ぎ立てる記者に対して、それ以外の死因もあり、事故や事件、病死などでは若くても可能性はある。いや、むしろ、アイの相手がそういった相手ではないと主張するための発言か、あるいは、本当は老衰してもおかしくないような年上が相手なのか。真実は誰にも分からなかった。
もっとも、アクアとしては、まさか神様に殺されたなんて誰も考えないだろうな、と思っていた。
そうこう考えていると次の記者の質問に移っていた。
『念のため確認させていただきますが、事件性はないのですか?』
『ありません。少なくともそういったことはなかったことは分かっています』
新しい事実にまたどよめきが走る。事件性の有無はある意味必要だった。なぜなら、事件性があるということは、アイは何かしらの被害者ということになり、アクアとルビーはその犠牲とも言える存在になるからだ。だが、事件性がないということは、今度は逆に面倒な事態を推測させてしまう。
『つまり、アイさんは、その男性と恋仲になって、アクアさんとルビーさんが生まれたということでしょうか?』
『いや、それも違います』
おそらく、アクアがその場にいて、記者だったとすれば、疑問符が大量に浮かんでいただろう。壱護の言葉はつまり、恋人でもない相手の子供を孕んだということなのだから。
『あれは、恋でも愛でもなかった。ただの確かめる行為だった。とはアイから以前に聞いた言葉です』
確かめるとは、何を確かめるのか? という疑問も浮かんだ。だが、この場合は、恋か愛を確かめると考えるのが妥当だろうか。そうすると、前の質問と合わせると、非常に陳腐だが、仲がよかった男性が、病気で余命がなく、気持ちを確かめるために行為に及んだと安い妄想も可能だろう。
『もっとも、もう10年以上前の話です。しかも、思春期の頃の話です。記者さん、高校生の頃、何を考えていたか、覚えていますか?』
壱護の逆質問と思春期という都合のいい言葉。少年と大人の狭間で、安定しない期間を表す。そして、壱護の逆質問をひっくり返せるだけの答えを記者は持ち合わせていなかったのだろう。たとえ年配の記者で40代としても、同じように十数年前、つまり20代について回想したとすれば、記憶は曖昧だからだ。関係ないと攻めることはできる。だが、それによって自身が何かしら攻められる可能性がある。攻めてスクープをものにするか、自己保身に走ってこれ以上は突っ込まないか。どちらもあり得たが、記者としての勘で後者を選んだ。
『アイさんに保護者として、堕胎は勧めなかったのでしょうか?』
次の記者も直球勝負だった。だが、相手の話には飛ばない。もっともスクープと思われた相手がすでに死んでいる。しかも、恋仲でもなかった、となれば、かなり記事としてのインパクトは弱い。アイドルを続けながら、裏では実は男がいて、しかも、不倫で、子供も産まれたとなればいくらでも飾り付けられるのだが。だから、次の記者は逆張りへの情報を集めることにしたのだろう。
『まず、第一に初診で20週を超えているだろうという診断でした。そのため、堕胎の危険性のほうが高いという判断が一つ。そして、私がアイの保護者だったことを知っているのであれば、アイの経歴もある程度知っているでしょう?』
『ええ、まあ、存じています』
アイの経歴としては苺プロは隠していない。施設育ちで、壱護からスカウトされてアイドルになったことも。さすがに親から虐待されたことまでは明らかになっていないが。
『なら、家族を望む16歳のアイに、お腹の中で育つ子供を殺せとは言えないでしょう』
卑怯だな、とアクアは思った。アイが施設育ちで一人だったのは知っている。家族を知らなかった彼女が家族を望むことは悪か? という否定しづらい事実だ。そして、堕胎を殺人という。表現の違いだ。だが、堕胎と殺人では与える印象が異なる。結局、認識の違いでしかないのだろうが。
それよりも、アクアと同じ世代でアイのプロフィールの詳細を知らないかな、あかね、メム、みなみのやはり同性として心情察するものがあったのか、暗くなる表情のほうが気になっていた。もっとも、その元凶であるアイは、恥ずかしいこと言うなぁ~、と呑気に会見を見ているのだが。
その後は、アクアとルビーが生まれた後の話題になった。アイドルと子育ての二足わらじは問題なかったのか? という質問などが主だったが。もっとも、その回答で矢面に立ったのは、壱護というよりも、ミヤコであり、社長命令でアイドルの子供の面倒を見させられたミヤコにはむしろ同情の視線が集まっていた。
そして、そろそろ、手を挙げる記者も少なくなってきた、というタイミングだった。
『色々、衝撃的な事実が明らかになりましたが、結局、アイさんは、ファンを裏切ったと言っていいのでしょうか?』
なんだとぉ! と憤るルビーを他所に、ああ、ここか、とアクアは思った。今までは比較的、友好的か中立的な記者を選んだのだろう。少なくとも会見会場は、少なくともアイを非難というよりも、親から虐待を受けた少女が子供を産んで家庭を作った、という温かい感じの空気が生まれていたからだ。それをひっくり返す様に出される質問だった。
『裏切った、ですか? それはいいえ、と明確に否定させてもらいましょう』
『なぜです? アイさんはアイドルの間に子供を作るような行為をし、実際に子供まで産んでいる。ならば、ファンを愛している、と何度もアイドル時代に叫んだ言葉は嘘でしょう』
確かにアイドルのライブのMCで「愛してる」と叫ぶのはお約束だ。アイも何度もドームライブで叫んでいる。だが、それが嘘かどうかは、アイ以外には分からないだろう。だから、壱護は、はっ、と鼻で笑ってやった。
『もう、10年以上前はアイドルの全盛期でいろいろなグループが乱立するような群雄割拠だった。その中でB小町は少なくとも、ドームツアーが行えるアイドルにまでなっていた。ファンを裏切って、嘘の愛を叫ぶアイドルができる偉業ですか?』
そう言われれば、記者も何も言えない。なぜなら、それでもその愛は嘘だ、と言えば、それはつまり騙されたファンが愚かということになるし、その愛は本物だった、となれば質問に意味がなくなるからだ。だから、答えは沈黙だった。
『伴侶を愛する愛と子供を愛する愛は別物でしょう。アイにも同じことが言える。アイはアクアとルビーを愛していた。そして、ファンも愛していた。だから、B小町は伝説となり、アイは究極で無敵なアイドルと言われるまでになった。これでいいでしょうか?』
これ以上、記者が言えることなかった。結局、何を言おうとアイの実績がすべてをねじ伏せていた。
その後は、細々とした質問が続き、最終的には、アイにアクアとルビーという子供がいたこと、経緯はともかくアイが望んだ結果だったことが明らかになるような会見だった。そして、最後に数日後にアイ、アクア、ルビーでインタビューに応じるという壱護の言葉で会見は閉じようとしていた。だが、最後に手を挙げた記者が、最後の質問を発した。
『もしも、アクアさんとルビーさんの父親が生きているとしたら、どうなったでしょうか?』
それは、叶えられるの事のないイフだ。だが、壱護が少し考えた後、口を開いた。
『さて、もしものことは分かりませんが、おそらく引退日に白いバラを100本ぐらい用意していたんじゃないですかね?』
もしもの世界を知っているアクアとしては壱護の言葉に、ははは、と頬を引きつらせるしかないのだった。
「ふふふっ」
「どうしたんだ? 母さん?」
会見が終わった後に笑ったアイにアクアが疑問に思って聞いてみる。
「いや、あの時の私は、嘘を愛にしたけど、今は愛を嘘にしたんだなって思って」
ああ、なるほど、とアクアは思った。嘘はとびっきりの愛といったアイドルは、今は愛を理由に嘘を事実にした。どちらが正しいかなんてアクアには分からない。子供だからだろうか。これから、もしかしたら大人になるうえで分かるのかもしれない。だが、少なくとも、この会見を見て満足そうに笑うアイを見て、この世界は嘘ではないのだろうと思うのだった。
※ ※ ※
壱護は、料亭で呼び出した相手を待っていた。
「あれ? 遅れたかな」
そう言って、女将に案内されたであろう鏑木に「お先にいただいているぜ」とお猪口を掲げて壱護は応えていた。
「いやいや、お見事でしたね。アイくんの会見は。まさか、不知火フリルまで用意してるとは」
「あれは、アクアの勝手な伝だ」
心外だ、という風に不貞腐れる壱護。
結局、会見の後、それぞれ記事が続報として出された。悪意があるものもあれば、好意的なものもある白黒入り混じった状況だ。そんな中で、必殺の一撃がけりをつけた。国民的美少女と言われる芸能界の頂点に位置する不知火フリルの発言だった。
『同じ女性としては、16歳で双子を育て上げていることを尊敬するよ』
もはや、これだけでアイに悪意を持つ記事はかけない。フリルがそういうのだから、となるからだ。まるで、白を黒にするように曖昧な評価に対しては影響力が強すぎる女優の参戦だった。もっとも、話題になったのはその後の言葉だろう。
『アクアのファーストキスを奪う私としてはお義母さんに挨拶に行かないといけないかな?』
もちろん、これは番宣としての発言なのだが、もちろん、10にも100にも誇張されて記事にされるのは世の常だ。父親が亡くなっているというのが原因なのかもしれない。死んでいる人間―――しかも、10年以上前となると追跡が難しいのだ。しかも、事件ではなく、鮮度が命の芸能界のニュースとしては非常に話題にはなりにくい。だから、今生きている話題に注目が移るのは無理もない。もっとも、これは壱護が用意したものではなく、フリル側がドラマの番宣として乗ったものであるが。
「それで、僕が呼ばれた理由としては―――」
「アクアとルビーの父親……見当がついてるんだろう?」
直球勝負だった。いや、曖昧にする方が危険だという判断だろう。そして、少し考えたあと、すでに用意されていた日本酒を口にしながら、鏑木は口を開いた。
「そうだねぇ……劇団ララライ。そこに答えがあると思っているよ」
「ちっ、やっぱり、知ってやがったか」
くくっ、と笑う鏑木。もしかしたら、あの会見時から考えていたのかもしれない。アイの真実として知っているのは金田一と姫川だ。後は、そのワークショップに紹介した鏑木じゃないか? とアクアが忠告したから念のため、と思っていたのだが、後から聞けばアイも恋愛相談として鏑木を頼っていたのだから、事実が明らかになれば、鏑木から情報が漏れれば、真実にたどり着くのは容易だとはすぐにわかった。
「ほれ、これで貸し借りなしだ」
「ほう、拝見するよ」
アイの事を黙っているのが貸しとして、それは無限に使えるチケットのようなものだ。だから、早めに返すのは無理はない。もっとも、それはあくまでも芸能界で、その貸し借りの原則を守る鏑木を信頼してこそだが。そんな、鏑木へ壱護が、数枚の企画書を放り投げる。
「ほぉ、これは……いい企画だね。できれば、早めにやりたいけど……」
「一応、最優先で予定は空ける予定だ」
「なら、早めに調整しないといけないね……」
上機嫌に酒を飲む鏑木。不本意そうに料理をつまむ壱護。
料亭の高級なテーブルの上に投げ出された企画書の表紙にはこう書かれていた。
『深掘れ☆ワンチャン! 星野一家を深堀り!』
会見編です。本当は、芸能界のネタとして一服盛られたアイが……みたいな展開を考えていたのですが……
ちょっと近年の芸能界的のネタ的にNGかな? って、路線を変更しました。
ここでは、病弱な薄幸美少年が不治の病で卒業まで待てないアイと愛を確かめる行為を行った、という妄想が蔓延る世界としてください。
実際は吾郎を殺そうとして逆に神に殺された少年なんですが……
いやいや、原作を見ているともう、早めに完結したほうが正解じゃないか? と思います。
次回は深掘れ☆ワンチャン! の星野家編です。
誤字脱字報告毎回ありがとうございます。大助かりです。
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