星の子たちにハッピーエンドを   作:天凪

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星野アイの嘘と愛

 

 

 

 【推しの子】の黒幕最有力候補のカミキヒカルの死、という衝撃の事実を知ってから一年。

 星野兄妹はそろって幼稚園へ通える年齢となった。原作と同じ幼稚園かどうかはわからない。ただ、制服は似たようなもので、やや高級感が漂う保育園だった。

 

 それは戸籍上の親である壱護とミヤコが、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長する芸能プロダクションの社長だからだろうか。

 星野アクアが子役として、売れっ子になっているからだろうか。あるいは、その両方とも思われる。

 

 現在の苺プロダクションは、アクアとアイの二年前の映画初出演からさらに成長していた。

 

 アイは映画、ドラマ、モデル、ラジオ、バラエティー、アイドルとマルチタレントぶりを極めつつあり、現在、最も売れているアイドルの一人といっていい。

 

 アクアは少し成長しているが、変わらず子供服のモデル―――一般品だけではなく高級服のブランドからも―――としての地位を確立しつつあり、「天使のように可愛い子供モデル」ともいわれていた。本人はいやそうだったが。とはいえ、その容姿については否定できない。そもそも、服のモデルとはこの服を着たらこうなれる、という幻想が必要なのだ。浮世離れした容姿はその最も強い武器となっていた。

 

 また、五反田泰志監督から始まった映画、ドラマにも出演していた。こちらは演技指導を受けながら、少しずつ規模を大きくしている。

 ただ、泰志からアクアへの扱いは、当初は「行け、出番だ」「うっす」というような対応から「先生、お願いします」「わかった」というようなレベルまで変わっている。

 これは単純な成長と需要と供給のバランスが崩れてきたからであるのだが。やはり出演するだけで、注目度が上がり、子役としてのインタビューに対応できる賢さを持ち、容姿的にも優れているため視聴率に絡む宣伝ができるのは大きい。

 

 なお、演出の勉強ということでたまに泰志の家(実家)で、映像の勉強もしている。泰志からしてみれば、子役、モデル、映像技術を学習する驚異の存在だった。

 

 あの映画で共演した有馬かなは、まだまだ天才子役としての地位は健在。アクアとは異なり女児であり、用途もことなるため、アクアとは競合しなかったことが原因だ。当然、そうなると天才子役の共演、というタイトルを狙う映像方もおり、現場ではアクアに喧嘩を売るかなという事態も見受けられるようになった。もっとも、ほとんどがアクアに窘められ、かなが言い返せなくなる、という結末がほとんどだったが。

 

 そして、苺プロダクションの規模が大きくなるにつれて収入も当初とは比べ物にならないほどになっている。

 

 作中で有馬かなが、お金は子役時代に腐るほど稼いだ、と言っていたが。なるほど、使える子役とはこんなに稼げるのか、とアイとアクアとルビーが渡された給与明細を見ながら目を回していたほどだ。もはや、当初の2X万の給与でため息をついていた星野一家はそこにはいなかった。

 

 また、知名度に合わせてセキュリティのしっかりした家への引っ越しも必要になってきた。アクアは、この住居の選定に関してはかなり横から口を出した。当たり前だ、いくら黒幕がいなくなったとのお墨付きがあったとしても、何らかの要因で似たことが起きないとは限らない。

 

 入口はコンシェルジュ兼警備つき、地下駐車場での送迎可能、フロアの移動には専用キーが必須という、過剰にも思えるマンションを選択していた。さすがに過剰じゃないか? とも思ったが、ここで万が一アイに何かあれば、アイドル部門としては終わり―――下手すれば苺プロダクションが傾く可能性も考えると過剰ともいえない気がしていた。また、斉藤社長夫妻にはアクアとルビーが生まれる際に不審者がいたという情報もあったため、事務所と折半でそのマンションに決めた。

 

 ――――なお、セキュリティが高いということは設備も高級なものが多く、施設育ち、底辺アイドルとして過ごしてきていたアイ、そして病室という小さい部屋しか知らないルビー、前世の記憶で部屋の記憶などは飛んでいるアクアは、各々、部屋の豪華さにしばらく呆然としたのだが、余談である。なお、部屋としては一人一つあるのだが、寝室は同じにしたことは言うまでもない。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 星野アクアは、幼稚園に通いながら幼児としての日々を過ごしていた。原作ではアクアは京極のサイコロ本を読んでいたが、現世のアクアは―――

 

「は~い、いいよ。こっち向いてね。はい、OK」

 

 ―――ある時は高級そうな服を着てカタログの掲載されるモデルとなり………

 

「カット20、カット!」

 

 ―――子役としてドラマに出演し………

 

「んじゃ、頼むぜ、早熟」

 

 ―――泰志監督が撮る映画に出演し………

 

 と、子役として現場に引っ張りだこだった。もっとも、これは最初の現場で名刺をひたすらに配ったり、ファンサービスとばかりに写真を撮りまくったのが原因だ。

 少なくともアイへの手助けになれば、と考えていたのだが、逆にアクアの知名度が増え、さらにそれに応えるように対応していたら、さらに増えてしまった。増えて、増えて二年も経てば、知名度は天才子役といわれた有馬かなに匹敵するようになったのには、驚いたものだ。

 

 アクアとしてはここまでする必要はないはずだった。なにせ、悲劇となる因果は既に切れており、あとはアクアとして最低限、監督との縁が切れなければいいと思っていたからだ。

 

 それなのに、応えたのは、第一に苺プロダクションの知名度アップ。アイドル路線以外の領域にも広めるためにも必要だった。第二にアイの知名度アップ。アイドルと子役、領域が異なるとはいえ、完全に分かれているわけではない業界だ。片方で有名になれば、それだけパイプは増えるというもの。事実、アクア経由でアイの仕事も増えたこともある。そして、第三に―――

 

「おお、すげぇ………」

「お兄ちゃん、何でも買えるね………あ、ママが出てるテレビを録画するために大容量ハードディスク買おうよ」

 

 星野愛久愛海と書かれた通帳に刻まれた数値に戦慄するアクアとルビー。なお、鑑賞するためのテレビはすでにアイの給与で購入済みだ。その下には当然、録画用の機材も残っている。

 

「無駄遣いはしないようにしてくださいね。アイはそこら辺緩いかもしれませんが」

「わかってる」

 

 妹のルビーが不穏なことを言っていたので、同じ部屋にいた経理担当のミヤコが釘をさす。なお、斉藤夫妻もこのマンションに住んでいる。一応、戸籍上は親子になっているアイ、アクア、ルビーと一緒にいることで、アイと一緒に住んでいることをカモフラージュするためだ。今日はアクアがオフで、アイが仕事のため、斉藤夫妻の家にきて、アクアに今月分の給与明細を見せていたのだ。

 

「将来に向けて投資なんかで増やしておくか………」

「相変わらず子供らしくないわね」

 

 アクアとしてはあまり物欲もないため、将来の投資をしようとしていたのだが、やはり子供の発想ではない、とミヤコに呆れられた。そうだよな、とアクアも思うが、使い道がない死に金を持っていても仕方ないのだから、投資という選択肢はいいだろう。あるいは、ルビーがいうように映像機器にこだわってもいいかもしれない。

 

「(―――それはそうと、東京ドーム公演は来週か………)」

 

 つい先日行われたB小町の東京ドーム公演の前祝いが行われ、とうとうか、と思いながらドーム公演について思いをはせる。

 確かにあの疫病神は、因果はなくなったといった。だが、それが本当にどこまで信じられるかはわからない。もしかしたら、嘘かもしれない。見落としている何かがあるかもしれない。だから、油断はしなかった。この新居を決める時の基準もアクアが助言したものだ。

 少なくとも原作の時のように不用意にリョースケが部屋の前に来て、インターフォンを鳴らすことはないだろう。出待ちを狙ったとしても、このマンションは地下から直通の駐車場もあるし、当日はそこから家を出ることになっている。

 

「(―――念のため人事を尽くしたつもりだが………、そもそもアイは父親に連絡したのだろうか?)」

 

 そう、原作のアイが殺されるきっかけとなったのは、アクアとルビーの会話が盗み聞かれ、ルビーの口から父親はいないではなく、処女受胎というやばい単語が出てきたからだ。今世ではそんな会話はしていない………と思う。だから、そもそも、襲撃という事態は起きようがないのではないか? とも考えている。

 

「(………まったく、最終日まで気が抜けないな。もっとも、あのカミキヒカルの性格だとやっぱり一番危ないのは当日の朝だけどな)」

 

 才能の絶頂から死という形で底辺へ落とし、その才能を奪ってしまったことで命の重さを感じるというサイコパスを思わせる言動を鑑みれば、やはり一番危険なのは当日の朝だ。

 

「(やっぱり、当日はアイに防刃ジャケットも装備してもらうべきだろうか?)」

 

 そう考えて、アクアは自らに与えられているスマホからなんでも揃うと有名なネットスーパーを表示させ、防刃ジャケットと検索するのだった。

 なお、決済された履歴を見てミヤコが慌てるのは翌日の話である。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 星野アイは、街中に珍しくなった公衆電話の受話器を握っていた。格好は帽子にサングラスという芸能人御用達の格好で、シャツとジャケットという雑誌やテレビでは見ないような服装でアイだと気づかれないようにしていた。

 

 今日はドラマの収録の日だ。来週はドーム公演だというのに、撮影のスケジュールは待ってくれない。今は休憩の時間を使って外に出ていた。

 

 電話の向こうに出るはずの相手は、アイの元カレ――――つまり、アクアとルビーの父親だった。

 

「(………アクアの姿を見てるとあいつを思い出す)」

 

 ドラマにも出演するようになったアイの息子であるアクア。彼の演技を見ているとあのワークショップで出会った彼を思い出させる。もちろん、幼児とティーンでは背格好などは異なるのだが、ただ、雰囲気は似ていた。おそらく、アクアは将来、彼に似たような役者になるんだろうな、と。できれば、女癖の悪さは似てほしくないものである。

 

 だから、アクアのためにも一目、彼と会わせるのもいいかもしれない、とそう考えたのだ。また、アクアとルビーは賢い。幼児の年には見えない賢さを見せるため、彼とあっても問題ない、と判断した。判断したのだが――――

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません』

 

「はぁ!?」

 

 せっかく決意したのに、受話器の向こうから聞こえた機械音声に怒りをぶつけるようにアイは声を上げた。これが最初なら番号を間違えたか、と思ったのだが、よくよく確認しながら打ってこれで3度目だ。どう考えてもこのMNP全盛期の時代に電話番号が変わっているとしか思えない。

 

「変わったなら連絡しなさいよ!」

 

 がちゃん、と受話器をたたきつけて、アイは公衆電話のボックスから外に出た。すぐ近くにある自身のポスターをしり目に歩き出す。そろそろ撮影の再開だからだ。

 

 晴天の街中、歩道を歩きながらアイは考え事をしていた。

 

 ――――私は誰かを愛したかった。

 

 アイの根源はそこにある。誰からも愛されず、ゆえに愛され方がわからず、ゆえに愛し方もわからない少女。それが星野アイという女性だった。

 

 ――――私は、子供たちを愛しているのだろうか? 私は、ファンを愛しているのだろうか?

 

 自問自答するが、答えはでない。ただ、と思う。

 

 ――――アクアがテレビに出て彼にも、私にも似たような演技をしているときに胸が温かくなった気がした。ルビーが私のダンスを覚えていて、真似しようと踊った時も同じように感じた。果たして、これは何の感情なのだろうか?

 

 アイはその感情を知らない。嘘だと偽ったわけではないはずだ。心の底から感じる何か。その答えをアイは求めていた。もしかして――――という期待を込めて。

 

「来週はドーム公演か………」

 

 日差しが眩しい。アイドルとしての集大成ともいえるドーム公演が近づいていた。

 

 ――――もし、もしも、嘘をついてきた自分がアイドルの頂点ともいえるドーム公演が終わったら、何か得ることができるのではないだろうか。

 

 そんな小さな期待と予感を胸にアイは撮影所へと戻るのだった。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 何事もない日常が過ぎ、一週間。やっと、という感じでB小町東京ドームの当日を迎えていた。

 

「お兄ちゃん、なんだか、今日は朝からイライラしてない? 今日はママのドーム公演だよ? 楽しまないともったいないよ!」

「――――わかってる」

 

 どうしても気がせいてしまう。原作では今日がアイが殺される当日なのだ。

 関係者としてドーム公演に行くための準備をしながらもアクアはどうしても、気が気じゃなかった。ちょっとした物音にも過敏になってしまう。そんな様子をルビーはいらいらと受け取ったのだろう。

 

 わかっている、と言いながらも態度が変わらないアクアに、もう、と悪態をつきながらルビーも準備を進めていた。

 時間が経過し、そろそろ出立という時間に、ピンポーンとインターフォンが鳴った。

 

「あ、社長かな?」

 

 そのインターフォンを聞いて、アイは無防備に玄関に向かう――――ところを慌てて、アクアがスカートをつかんで止めた。

 

「アクア?」

「ちゃんとカメラで確認しないとダメだ」

 

 それは斉藤社長からも口酸っぱく言われていたことだが、引っ越してからは知り合いしかいなかったため、気が抜けていたのだろう。

 

「あ、そうだったね。ごめんごめん」

 

 息子に指摘されて恥ずかしかったのか、拳で小さく頭を叩きながら謝り、改めてドアに設置しているカメラからの映像が見えるモニタの前に立ち、応答のボタンを押す。すると真っ暗だったモニタには現在、インターフォンを押している人物が映り――――

 

「センセー?」「吾郎医師?」

「え? せんせが来たのっ!?」

 

 アイが吾郎を呼ぶときの名前が聞こえたのか、ルビーも反応し、アイの下からモニタを覗き込む。そこに映っていたのは――――B小町の法被を着て、アイ最推しTシャツを着て、鉢巻をしているただのドルオタだった。

 

『あ、社長が時間だって。準備もあるから僕が呼びに来たんだ』

 

 室内の声が聞こえたのか、自分の姿が映っていることがわからないのか吾郎は何も気づかない風に呼び出しを続ける。

 

「………え!? センセーって私推しだったの!?」

 

 吾郎と病院で知り合って4年近く経って知る衝撃の事実だった。

 

 

 

 

 高級マンションの廊下に似つかわしくない格好でアクアとルビーを抱いた吾郎が地下駐車場へ向けて歩いていた。

 

「っていうか、本当にセンセって私推しだったんだね」

「あれ? 話してなかったっけ?」

「うん、センセがドルオタなのも今、知ったよ」

「ああ、だから社長たちが泣いていたのか」

 

 まさか、人が多い東京を避けてわざわざ宮崎まで行ったのに、患者が担当医の最推しなんて事実は斉藤社長も知りたくなかっただろう。

 下手をすると裏切られた、と思われて、リークしたりすることも考えられたのだから。なのに、彼は真摯にアイの出産を医師としてまっとうしてくれた。

 なお、理由を聞いて「ファン(奴隷)はいつだってアイドルが一番ですから」と答えたところ、また号泣したのは記憶に新しい。

 

「しかも、その『無限恒久永遠推し』キーホルダー、休止前のバージョンだし。古参オタ?」

 

 法被に縫い付けるようについている古いキーホルダーが揺れる。キーホルダーの事を聞かれて吾郎は何かを思い出したのか少し悲しそうな顔をし、ルビーはそれを心配そうに見ていた。

 

「これはね、昔、僕の患者がくれたものなんだ。この子もアイが最推しでね………生きてたら彼女も絶対見に来たと思うから、今日は代わりに身に着けてるんだ」

 

 さりなのことを思い出しているのか、陰りの宿った表情をして、それを慰めるようにルビーがぎゅーと吾郎の腕にくっつく。

 

「大丈夫だよ! きっとその子も一緒に見てるよ!」

「そうだといいね」

 

 ルビーはさりななのだから、それは慰めでもなく事実なのだが、それを知らない吾郎は幼児に慰められたことを少し恥ずかしく思ったのか、苦笑しながら表情を改めた。

 

 なお、仮に現在までさりなが生きた場合はアイと同じ20歳であるため、子供の一人か二人ぐらいはできていてもおかしくない。

 

「おぉぉい、遅いぞ。早く行こうぜ」

 

 地下の駐車場に着くと運転手にハンドルを握らせ、壱護とミヤコが待っていた。もう待ちきれないのか、遠足に行く前の子供のようである。

 

 アイは仕方ないなぁ、とも言わんばかりに苦笑し、車へと乗り込むのだった。

 

 ――――行先はB小町ドーム公演会場、東京ドームへ

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 舞台裏で今か今かと開始の合図を待っているB小町の面々。アイドルにあるような円陣も終わり、あとは開始を待つだけだ。

 アイ以外のメンバーはやはりこの大きな会場、アイドルの頂点といっていい会場に緊張しているのか、ややこわばったり、無表情になったりしている。

 

 開始のアナウンスが始まり、一曲目のイントロと一緒に舞台へと全メンバーが飛び出した。もちろん、センターはアイだ。

 

 一曲目を歌い始める。声が震えていないか、表情は笑顔か? いつものように嘘をつけているか?

 問題ない。いつも通りのパフォーマンスで歌えている。踊れている。ファンのみんなも笑顔でサイリウムを振っている。

 大きな舞台。だが、すべてがいつも通り、嘘をついてファンに愛を歌って、笑顔を見せている。

 

 ――――あぁあ、ドームまでくれば何かわかると思ったんだけどな。

 

 少しだけ何かわかると期待していただけに落胆がないといえば、嘘になる。だが、それがアイにとっての普通だ。

 いつか嘘が本当になる日を心待ちにしてアイドルを続けてきた。一番といわれるドームまで来た。それでも届かなかっただけだ。ならば、まだ嘘をつき続ければいい、それが本当だとアイが感じ取れるまで――――

 

 落胆といつもの諦めで心が支配されそうになった時、アイの目に奇妙な動きをしている面々が目に入った。

 前面のファンクラブ用のシートではなく、一階席後方の関係者席。そこで振るわれるサイリウム。前面のファンクラブの面々が振るうのと同じように振るわれるサイリウム。よく見なくてもわかる。

 

 ――――アクア、ルビー、また何やってるの?

 

 以前も小さな箱でやっていたオタ芸をこの東京ドームという場所でも披露していた。

 

 ルビーは、笑顔で、嬉しそうに、でも明らかにファンクラブの面々よりも切れがある振り方でサイリウムを振っている。なお、その動きにシンクロして吾郎もオタ芸を披露していた。格好も相まって明らかに関係者からは浮いているが、本人は気にせず笑顔だ。

 アクアは、無表情だが、必死にサイリウムを振っていた。動きはファンクラブやルビー、吾郎ほど切れがある動きとは言えない。だが、以前とは異なる箇所があった。以前は、アクアが持っているサイリウムはほかのメンバーだったはずだ。だが、今のアクアが持つサイリウムは――――二本とも赤だった。

 

 ―――まったく、二人ともママが大好きなんだから………

 

 それを見たアイは、心の底から湧き出てくる歓喜を抑えられない、感動を抑えられない、愛おしさを抑えられなかった。

 

 観客席がざわつく、笑顔になる。当たり前だ、今までこれがB小町センター、アイの歌だ、ダンスだ、と思っていたのに、そこからさらにギアが上がったのだから。

 

 今のアイは湧き上がる感情のままに歌っていた。踊っていた。そこに嘘はない。ただ、彼らへの愛だけで歌って、踊っていた。

 

 ――――嗚呼、わかった…これが本当の………

 

 

 

 

 

 万雷の拍手の中、アンコールまで歌い切ったB小町の面々は舞台からはけ、それぞれの控室へと戻っていた。

 B小町のレベルになるとそれぞれの個室が用意されていた。当然、アイも個室だ。

 

 さすがに長時間続けて歌って踊っていればその疲労は半端なものではなく、アイは用意されていたパイプ椅子に座って汗をぬぐっていた。

 まだ頭の中は、しっかりと回っていない。終わったという安堵とライブの中で感情を持て余していた。ただ、今すぐやらなければならないことは理解していた。いや、アイが今すぐにでもやりたいのだ。

 

「アイ、入るぞ」

 

 そんなことを考えているとノックがなり、声から斉藤社長と理解したアイは、は~い、と許可を出すと、すぐさまバンっ、とドアが開き、小さな体が飛び出してきた。

 

「ママぁぁぁ!すごかったぁぁぁぁぁ!!」

 

 それは感涙で顔がぐちゃぐちゃになったルビーだ。アイは走りこんできたルビーを体で受け止めて、抱き上げてやると持っていたタオルで涙を拭ってあげた。

 ルビーの後から入ってきたアクア、壱護、ミヤコはそれぞれは微笑ましそうにその様子を見ていた。

 アイに涙をぬぐわれたルビーは、ママ、すごかった! すごかった! と壊れた人形のように繰り返し、アイはそれを笑顔で聞いている。おそらく、伝えたいことはたくさんあるのだろうが、ありすぎるからだろう。

 

 そんなルビーの話を聞きながら、アイは、アクアに向けてちょいちょいと手招きをする。アクアはなんだろう? と不思議に思いながらアイに近づき、ある程度、近づいたところでアイがパイプ椅子からルビーを下ろし、アクアとルビーを強く抱きしめた。

 

「うん……うん、やっぱりだ。これは嘘じゃない。やっと言える」

 

 二人を抱きしめながら俯いているため表情はわからない。だが、その声色は間違いなく喜色に満ち溢れていた。

 

「―――アクア、ルビー、愛してる」

 

 

 

 嘘をいつか本物にする少女の願いは叶った。それは、一人の少女の旅路の終わりでもある。

 

 この日、東京ドームで行われたライブはファンの間で話題となり、ライブ映像の売り上げもすさまじく、以後、伝説のライブと呼ばれることとなる。

 

 




無事に東京ドーム公演終了です。アクアの境遇がだいぶ違うので説明してたら長くなりました。
一応、物語の最初で死んだアイの答えは見つかりました。さて、続きはどうなることやら。

第一部はこれで無事に終了です。幼少期編とでもいうべきでしょうか。

次回からは本編の芸能界編に入ります。本編と同じく入試編からで、いろいろ変わった部分は過去編とかで回想形式にしようと思います。
ただ、今まで一日二回更新してきましたが、連休が終わったので、さすがに頻度は減ると思います。

誤字脱字報告ありがとうございます。読み返しても抜けるのはなぜでしょうね?

もしよろしければ、感想、評価よろしくお願いします。励みになりますので、感想を一言でも頂ければ幸いです。



星野アイ
・本編と同じく嘘を本物にしたい少女。
・愛する対象が欲しくアクアとルビーを産み、本編では愛を見つけた。
・吾郎が最推しであることにドーム当日に気づいた。
・カミキヒカルの件は事件性もなく事故とみられたため扱われた時間が短かった。
・後日、アクアと同じように公共のネットで調べたところ、死んでいることがわかり、死んだなら連絡しろ! と無茶を言う。
・愛を見つけた少女はさらに輝きを増し、究極のアイドルの名に恥じないパフォーマンスを見せるだろう。
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