ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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なんとか配布石だけでリエ引けたので総力戦で酷使してやろうと思います


記録10:彼女達の色々

「ごめんごめん、遅れちゃった!」

「あっ!先生!丁度いいところに!」

 

 合宿棟の教室に入ってきた先生の下に、ヒフミは答案用紙を持って嬉しそうに駆け寄った。ぱぁーっという効果音と、満開の花のエフェクトが見えそうなくらいには嬉しそうに笑っていた。

 

「昨日先生と一緒に作った模試、早速やってみたんですが、みんなものすごく伸びてるんです!」

「どれどれ……ハナコ8点……アズサ58点……コハル49点……。あっはっは!ホントだね!みんなよく頑張った!ヒフミは現状維持って感じだけど!」

「あはは……合格点は超えてるので見逃して下さい……。それより!みんなすっごく頑張ってます!この調子なら第二回はきっと……!」

 

 そう言って目を輝かせるヒフミ。その後ろでは人一倍張り切ったアズサが問題集に励んでいた。

 

「……紙一重だった。でもモモフレンズの為にも負けられない……!」

「はい!今回は本当に紙一重でした!」

「アズサ楽しそうじゃない?何かあった?」

「そうなんです!実は……」

 

 妙にどこかテンションの高いアズサを見て、先生はヒフミに尋ねる。すると彼女もまたハイテンションで机の上に置かれたぬいぐるみなどの山を指差した。

 

「……何あれ、ぬいぐるみ?」

「だけじゃありません!ペロロ様抱きまくらに……モモフレンズ図鑑に……限定ペロロ様カトラリーセット!それ以外にも沢山のモモフレグッズを賞品として用意したんです!そしたらアズサちゃんとっても張り切ってくれまして!」

「ああ、必ずあの可愛いペロロ様グッズも、ついでに試験にも合格してみせる」

「えっと……優先順位……逆じゃない?まあやる気になってるのは良いことだけど……」

「せ、先生!私も頑張ったんだけど……」

 

 謎の動機で奮起するアズサに苦笑いする先生にコハルは話しかける。彼女は身体の後ろで手を組んでもじもじするコハルの頭を優しく撫でた。

 

「コハルもよくやった!やれば出来るじゃん!」

「はい!伸びしろはコハルちゃんが一番です!」

「と、当然じゃない!私は正義実現委員会のエリートなの!」

「うん!この調子でね!それとハナコは……?」

 

 明らかにふざけているであろう彼女の答案用紙を持って、先生はハナコに呼びかけた。いつの間にか先生の背後に回っていた彼女は「はい、こちらに♡」と猫撫で声で耳元で囁いた。先生の身体がビクッと跳ねた。

 

「っ?!ハナコ!それ禁止!」

「そうですか……残念です♡」

「……それと、前回と比べたら四倍になってるんだからハナコも頑張ったよ!偉い偉い!」

 

 そう言って頭を撫でると、「そ、そうですか……」とハナコは思わず顔を赤らめる。

 

「そ、そう考えたら確かに悪くないのかも……?」

「騙されないでよヒフミ!8点よ8点!」

「……みんな、お疲れ様。今日は百鬼夜行のわらび餅。……多分、紅茶にも合うんじゃない?まあ、最悪アレだったら私煎れるし」

 

 先生の暴論に毒されかけているヒフミを正気に戻そうとするコハル。そんな中に少し遅れて差し入れの紙袋を持ったリエが入って来る。

 

「ありがとうございます、リエさん。……それでは少しお茶にでもしましょうか」

「賛成賛成ー……ってこれ百夜堂の新作じゃん?!よく手に入ったね?!」

「そうなの?頂き物だから分からないや」

「ティーパーティーハンパねぇ……」

 

 ハナコとヒフミがお茶を淹れ、リエが包装を開封してわらび餅にきな粉と黒蜜をまぶしている時だった。唐突に、教室にチャイムが鳴り響く。誰かが来たみたいだった。リエは「私以外に来る人いるんだ」と少し驚いていた。

 

「『あ、あの!失礼致します!』」

「あ、この声は……」

「はい、おそらくシスターフッドの……」

 

 心当たりがあると言わんばかりに呟くリエとハナコ。そしてドヤ顔でアズサが口を開く。

 

「侵入者だな、任せてくれ」

「……は?!ちょっと待ちなさ……」

「『……うわっ?!』」

 

 インターホン越しに彼女の悲鳴が響き、インターホンを経由せずとも爆発音が教室に鳴り響いた。

 

「……これは一体、何が起きてるんでしょうか……?」

「ブービートラップだ。侵入者を検知したら作動するように仕掛けておいた。……リエがここまで来ているということは、まだまだ穴があるっていうことだけど……」

「私を罠に嵌められる奴なんて見たことないから安心して。よく出来てる方」

 

 落ち込むアズサを慰めるリエ。その後ろではヒフミ達が慌てふためいていた。

 

「そ、そんなこと言ってる場合ですかリエ様?!」

「『一体何が起きて……ひゃあっ?!』」

「ほら、逃げ場がない」

 

 どうやらアズサはトラップを連鎖するように仕掛けたらしく、彼女が逃げる先で次々に起こる爆発で教室も若干揺れ、火薬の匂いがここまで届いている。

 

「……うん。上手く行ってる。ここまで来る頃には一堪りもないはず」

「何してるんですかアズサちゃんっ?!!!」

「けほっ、けほっ……けほけほっ……」

 

 そこに現れたのは、シスターフッド所属の一年生、伊落マリーだった。黒いシスター服の上からでも分かるくらい煤まみれで、かなり咳き込んでいる。

 

「だ、大丈夫ですか?その……怪我とかは……?」

「けほっ、今日も平和とあんねけほっ……けほっ安寧がけほっ……あなたと共にけほっ……けほっ、ありまけほっ……ありますように……」

「サクラコ教育徹底してるなぁ」

「そんなこと言ってて大丈夫なのこれ?」

 

 部屋に入って開口一番、激しく咳き込みながらも祈りの言葉を口にする彼女の信心深さとシスターフッドの行き届いた教育に、ちょっとした感動を覚えるリエ。ヒフミは慌てて彼女の下に駆け寄った。

 

「あなたが平和でも安寧でもありませんよね?!本当に大丈夫ですか?!」

「マリーちゃん……ですよね?大丈夫ですか?」

「あ、は、ハナコさん……」

 


 

「温かい紅茶しかありませんがよければ……」

「あ、ありがとうございます、いただきます……」

 

 彼女はヒフミが差し出したティーカップにその小さい口をつけると、こくこくと飲み干した。彼女の名前は伊落マリー。トリニティが誇る「今最も相談をしたいシスターフッドの生徒ランキング」第一位にして、ケモミミがとっても可愛い健気な1年生の見習いシスターである。

 

「申し訳ありません、合宿棟に足を踏み入れたら途端に何かが作動して、それで取り乱してしまいまして……」

「……」

「……!ほら、アズサちゃん……!」

 

 ヒフミは教室の隅でバツが悪そうにしているアズサの腕を握ると、よいしょよいしょとマリーの前まで連れて行った。彼女はまたマリーの顔を見てバツが悪そうに目を逸らしたが、改めて口を開いた。

 

「……その、ごめん。襲撃かと思って」

「えっと……その……?」

「と、ところでどうしてシスターフッドの方がこんなところに?」

 

 困惑しっぱなしのマリーに対して、ヒフミは質問した。少し考えた後に、彼女は言った。

 

「えっと……それはですね、こちらに補習授業部の方々がいらっしゃると耳にしまして……。ハナコさんがいるとは思いませんでしたが……」

「ふふっ、今の私は劣等生ですので。」

「そう……なのですね。承知致しました……」

 

 見知った仲のように話すハナコとマリー。それを疑問に思ったのか、コハルはハナコに不思議そうに問いかけた。

 

「ふーん……ハナコ、シスターフッドの知り合いなんていたんだ?」

「まあ、少しご縁があったとでも言いましょうか。……それで、マリーちゃんは本日どのような用事で?」

「あ、はい。本日は白洲アズサさんに用がございまして。それで伺ったところ、アズサさんの所属する補習授業部はこちらにいらっしゃると……」

「……私に?」

 

 アズサは目を丸くして、自らを指さした。

 

「はい、その通りです。アズサさんに助けられたと仰る生徒さんがおりまして、諸事情あって代わりに感謝を伝えてほしいとのことでしたのでこうして」

「アズサ、そんな良いことしてたの?カッコいいじゃん!」

「いや、特にそんなことは……」

「クラスメイトの方からいじめを受けてしまっていた方がいらっしゃいまして、その日も突然呼び出されてしまったそうです」

「……!そんなことあるんですか……?!」

 

 疑問を浮かべたヒフミに対して、リエはため息を吐きながら答えた。

 

「……まあ、少ない話じゃないよ。私だって裁いた数は両手でも数え切れないと思う。実際今回のもティーパーティーとしては把握できてない」

「はい。トリニティでは酷く狡猾に、陰湿に行われていますから表に出にくいだけです」

「お恥ずかしながら私達も相談を受けてようやく把握したのですが……。なんでもそこに偶然通りかかったアズサさんが助けてくださったとのことです」

「ひゅ〜、通りすがりの救世主とはイケメンだねぇ!」

 

 先生はニヤリと笑ってアズサの肩を小突いた。彼女はようやくピンときたらしく、口を開いた。

 

「……言われてみれば、そんなことがあったような気もする。でも、数で弱者を圧倒しようとするその行為が気に食わなかっただけ。別にそれ以上でもそれ以下でもない」

「しかしその後、正義実現委員会にこの出来事がかなり歪曲して伝わったようで……。その結果アズサさんと正義実現委員会の戦闘に発展し、アズサさんがゲリラ戦を展開して抵抗し続けたと……」

「……それ本当?なら正義実現委員会の名折れだね、申し訳ない」

「いや、リエが謝る必要はない。……でも、もう少し弾薬があればまだ道連れを増やせたな……」

「……とまあ、その方に頼まれて代わりにお礼をするべくここまでやってきたというわけです」

「……分かった、返事代わりにその子に伝えて。「抵抗するのを止めるべきじゃない」って」

「分かりました。お伝えしておきます。……ふふっ、アズサさんは冷酷に暴力を振るう『氷の魔女』なんて噂も耳にしましたがやはり噂に過ぎませんでしたね」

 

 一通りの経緯を聞いて、アズサはしばらく考えた後に答える。その言葉を聞いたマリーはクスッと笑った。

 

「そうですか?結構クール系と言いますか、表情がちょっと読みにくいですし。……それじゃあ、不発弾に引っかかってもいけませんし、私が玄関まで送ります」

「ありがとうございます、ハナコさん。ではみなさん失礼致しました。どうか良い一日を……」

 

 そう言って、二人は教室を出ていった。その背中が見えなくなった時、アズサは「忘れてた」と言わんばかりの表情をした。それを見て何かを察したヒフミが慌て始める。

 

「……まさか、まだあるんですかアズサちゃん……!?」

「いや、万が一失敗した時に道連れするために……」

「『……きゃあああっ?!』」

「……一番すごいのを仕込んだままだった……」

 

 その日一番の爆発が起きた。

 


 

「『先生、12時くらいに少しお邪魔するね』」

 

 そんなリエからの連絡が先生に届いたのは、シャワーを浴び終わった9時頃。あの後先生とリエが改めてシスターフッドへ謝罪へ赴いて、何とか昼間の騒動も丸く収まっていた。

彼女は髪を乾かしながらスマートフォンの画面の上に指を滑らす。

 

「『了解!玄関で待ってればいい?』」

「『ううん、部屋の窓だけ開けておいて。あとは着いたら話す』」

「『一応人払いとかしとく?』」

「『いや、大丈夫。単に私の業務を片付けたあとに行くからそんな時間になるだけだから』」

「『了解!待ってるよ!』」

 

 リエの既読が付くのを見届けてから、先生は溜まっていた書類を片付け始めた。

 


 

 12時頃、部屋のドアがノックされた。もうこんな時間か、と先生は窓の施錠を解いた後、ドアを開いた。

 

「……ハナコか。こんばんは」

「はい。こんばんは、先生」

 

 スクール水着を纏った浦和ハナコが姿を現した。

 

「珍しいね、こんな時間に。あと夏とは言えそんな格好で寝たらお腹冷やすよ?」

「……ヘソ出しのタンクトップにハーフパンツの先生が言っても説得力がありませんよ」

「あはは、それもそうかもね!それで、何の用?」

 

 彼女は少し真剣な眼差しになった。先生は「立ち話もなんだし」と彼女を部屋に招き入れ、ベッドに座らせた。

 

「……実は、アズサちゃんについてご相談が」

「アズサについて?」

「し、失礼します、先生。今は大丈夫ですか……?」

「……っと、お邪魔するね」

 

 先生が聞き返した瞬間、再び部屋のドアが開き、窓が開いた。

 

「昨日より遅くなってすいません、実は……」

「先生、一応三階なんだしさ、折角なら全開にしてもらえるとありがたかったんだけど……」

「……あら」

「……あ」

 

 ハナコは、部屋に入ってきた寝間着のジャージ姿のヒフミと目が合った。先生は、窓の縁に腰掛けた少しブカブカなTシャツを寝間着にしていたリエと目が合った。

 

「人払いはしなくても良いって言ったけど……。生徒と逢引中なんてね。先生そっちの気もあるんだ?」

「……お、お二人共そういう関係だったんですか?!ごめんなさい知らなかったんです許してください!」

 

 ハナコと先生が薄着で部屋に二人きり、そしてベッドに二人で座っているその光景。それを見てリエは「ふふっ」と微笑み、ヒフミは混乱してその場に立ち竦みながらひたすら謝罪している。本当に何故か水着の彼女はヒフミに対して捲し立てた。

 

「待って下さい、ヒフミちゃん今「昨日より遅くなった」と言いましたよね?!ということは昨晩も訪れたんですね?!わざわざ深夜に?!」

「違うんですそんなつもりじゃないんです!ひとまず戻りますねすいませんでしたお幸せに!」

「その前に昨晩、そして今晩何をするつもりだったのかだけ教えていただけませんか?!」

「えっと……私も言い訳したほうが良いのかな?」

 

 二人の様子を見ながら苦笑いする先生。いたずらっぽい笑みを浮かべながらリエは問いかけた。

 

「あっはは、冗談だよ。……でも、実際どうなの?」

「……じゃあ、黙秘ということで……」

 

 そして泣きそうになりながらひたすら頭を下げるヒフミと、彼女をひたすら問い詰めるハナコ。二人が落ち着いたのは、そこからもうしばらくしてからだった。

 

「……なるほど、先生と補習授業部の今後についてのご相談を……」

「ハナコちゃんも相談事で……って水着で来る必要はなくないですか……?」

「落ち着くんですよね、水着。だから私は礼拝も水着で参加しましたし、お散歩も水着で行きますよ?……そうだ、ヒフミちゃんもどうですか?」

「結構楽しいことは私が保証するけど……まあ、バレないようにね」

「いや駄目だよ?というかオブザーバーがそれでいいの?」

 

 ジャージに着替え直したハナコとリエがヒフミを露出に勧誘するのを先生が諌める。結局先生は全く着替えていないため、この場で最も露出度が高いのは彼女ということになるだろうか。

 

「……それで、さっきの続き大丈夫?」

「はい、アズサちゃんについてです」

「じゃあ私と一緒かも。……聞いてっていい?」

「はい、ヒフミちゃんも良かったら」

 

 リエは窓の縁から降りると、三人の下へ寄った。

 

「実はアズサちゃん、夜の間ずっとどこかに出かけてるんです」

「そう、私も変な時間に見かけてね。少し気になったんだ」

「最初は慣れない場所で眠れないのかとも思いましたがそうではないようで……。一度もアズサちゃんが夜に眠ってるのを見ませんし……」

「わ、私もです。アズサちゃん早起きだし、先に寝ることもないので……」

 

 ちょっとしたことだが、寝不足は学習にも大きく関わってくる。二人はアズサについて、心配そうに先生に伝えた。

 

「はい、ですので一度無理矢理にでも寝かせてあげた方が良いのではないかと思いまして……。それに、最近随分不安そうにしてる気がするんです」

「……それは……」

「お二人もですよ?しっかりと睡眠を取らないと身体を壊すように人間は出来てるんです。試験に不合格でもたかが落第、心身の健康と比べられるものでは……」

「……」

「……どうかされましたか?先生」

 

 ため息をつくリエ、言いづらそうにするヒフミ、目を瞑る先生。少しの沈黙を挟んで、リエが切り出した。

 

「……三回落ちたら、退学だよ」

「……な……」

「ごめんね、ハナコ。私が伝えるべきだった。……流石に、ナギサは裏切れなかった」

「……冗談……ですよね?そんなことオブザーバーだって、ホストにだって不可能です。退学はそれ相応の理由と膨大な手続きが必要で……」

 

 該当の校則を諳んじて、ハナコは反論する。しかし、リエはその全ての前提を覆す一言を告げた。

 

「……これで分かる?……「補習授業部には、シャーレの権限が組み込まれてる」」

「……なら……本当に……?」

「……いいよ、リエ。後は私から話すから」

 

 そう言って、先生はナギサやミカ、リエから聞いた話の一部をハナコに伝えた。彼女はほんの小さな声で、その事実につじつまを合わせるように先生の言葉を反芻する。

 

「……そういうこと、なのですね」

「……でも、ハナコちゃんは大丈夫ですよ!本当は優等生なんですよね?!1年生の時に3年生の上位向けの試験まで全部満点でしたよね?!」

「……どこで、それを?」

「あ……ごめんなさい……。その、模試作りの時に偶然見つけてしまって……。……そ、それで、ならあんな点数はわざとですよね……?」

 

 少し不安げな、縋るような顔でヒフミはハナコに尋ねる。

 

「いえ。……ごめんなさい。本当に知らなかったんです。退学なんて……。……いえ、前リエさんの仰っていた通りです。私は、あなた達の足を引っ張ってしまっていたのかもしれません……。本当に、ごめんなさい」

「……いえ、そんな……」

「それで、ヒフミちゃんの言う通りです。あの点数はわざとです。理由は……すいません。隠させて下さい。……ですが、今後の試験で皆さんの足を引っ張ることはない、とは断言します」

「……うん。ありがとね、ハナコ」

 

 暗くなっていたハナコの顔が、また少し明るくなった。リエはそれを見て小さく微笑んだ。

 

「それで、この事実を知っているのは補習授業部では先生とヒフミちゃんだけですか?」

「多分そうだと思います」

「ティーパーティーから漏れてることもない、と保証はしておく」

「……なら、アズサちゃんの不安は試験が理由ではないのでしょうか……。まだなにか私が知らない何かがある……?いえ、それよりも今は補習授業部そのものが……」

「というと?」

 

 ハナコは顎に人差し指を当て、考えるように目を瞑った。そして、先生が問いかけると同時に、彼女は考察を述べる。

 

「……いえ、こんなことを企むのはナギサさんくらいでしょうか。ミカさんにはまず出来ませんし、セイアちゃんは何かを謀るような人じゃない。リエさんであるのなら……名女優と褒め称えるしかありません」

「……」

「しかしエデン条約を控えて何故このような……。……いえ、むしろエデン条約が……?…………」

「えっと……ハナコちゃん……?」

 

 そしてそこから数分、いや、一分も経っていないだろうか。考え込んだ後に彼女は少しスッキリとしたような顔を浮かべた。

 

「……補習授業部はエデン条約の邪魔者を隔離する箱……ということですね。合ってますか?リエさん。」

「当たり。最近頭使ってないから衰えた?」

「今や大半の時間を生き馬の目を抜くようなティーパーティーの渦中で過ごすリエさんに比べられても困るのですが……。まあ、当たっていて良かったです」

「うっそぉ……化け物じゃん……」

「ハナコちゃん?!知ってたんですか?!」

 

 頬杖をつきながら少しからかうリエと、眼を見張る先生とヒフミ。それをよそにしてハナコはまだ喋り続ける。

 

「いえ……それにしてもナギサさんの悪いところが全て出たような策ですね。答えの目前まで辿り着いたと思いこんで、そこで安心して急に大雑把になってしまう。まとめて処理した方が効率的、とでも考えたのでしょうが、思い込みが激しいと言う他ありませんね。挙げ句の果てに先生の善意を利用してシャーレの権限を組み込んで退学処分……細かい部分だけはよく出来ていると言えるかもしれません」

「あっはは!よく分かってるね。フィリウスにいたらナギサに次ぐNo.2になったんじゃない?」

 

 そう言って手を叩いて笑うリエ。ハナコは「そのままそっくりお返しします」と言わんばかりの視線を返した。

 

「お褒めの言葉と受け取っておきます。……ですが、逆に言えば先生は純粋に私達の味方ということ。……本当に、ありがとうございます」

「すごいです、ハナコちゃん!まるで小説の中の探偵みたいな……。そうなんです!ナギサ様に「『トリニティの裏切り者』を探してほしい」と……」

「ふふっ、『まだらの紐』ならぬ『まだらの紐ビキニ』と言ったところでしょうか♡……にしても『トリニティの裏切り者』とは彼女らしいセンスと言えます。何せ今のティーパーティーホスト、すなわちトリニティ総合学園の生徒会長は彼女なのですから。自分にとっての邪魔者を『裏切り者』と呼称している訳です」

 

 ハナコは再び目を瞑ると、補習授業部の名前を一人づつあげ、頭の中でその可能性を調べ上げていく。リエはシャーロック・ホームズというよりもマイクロフトの方を思い出していた。

 

「アズサちゃんは……この時期の転校前不明の転校生と言うだけで疑われるでしょうね。コハルちゃんは特に思いつきませんが……まあ、正義実現委員会の人質と考えれば納得が行くでしょうか。……あら、では何故ヒフミちゃんは容疑者になっているんでしょうか?ナギサさんもよく目を掛けていたはずでは……」

「た、確かに少しお話などはしていましたが私はそんな大層なものじゃ……!」

「……先生、何か知ってる?」

「……さあ?」

 

 少し引き攣ったような顔で首を傾げる先生。深く詮索する必要はないかな、とリエは「そっか」と返事した。

 

「……とにかく、アズサちゃんに関してはもう少し色々聞いてみたいところではあります。その他も私の方で調べておくので……リエさん、オブザーバーの守秘義務に反しない程度で構いません、いくらか情報の共有をお願いできますか?」

「……分かった。ファイルにまとめて共有かけておく」

 

 リエはその場でスマートフォンを開くと、次々に中のデータを仕分け始めた。時計は一時を回っている。

 

「じゃあ、今日はもう遅いしみんな寝よっか」

「同じベッドでですか?嬉しいです♡」

「いやお部屋戻ってね」

「じゃあ、私はこれで。明日中……じゃないね、今日中には共有しておく」

「はい、ありがとうございます。……それでは、おやすみなさい」

「おやすみなさい、先生」

「うん、三人ともおやすみ」

 

 丁度部屋のドアが開いた時、その前をコハルが通りかかった。

どうやら、尿意で目を覚ましてしまったらしい。

 

「……ん……?」

「……あ、コハルちゃん」

 

 部屋から出てきたハナコとコハルの目が合った。徐々に眠気が引いていき、彼女は冷静に状況を判断する。寝間着のハナコとヒフミと同じく薄着の先生。

 

「三人で何やってんのよ!変態!バカ!ド淫乱!」

 

 その頃、リエは寮の自室のバルコニーに飛び乗って部屋に入るところだった。




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