記録92:禁断の夏休み二度打ち
「リエちゃんさぁ、最近太ったよね?」
「え、え?」
相変わらず夏休みと言っても業務量が少ないだけで普通にお仕事はしているティーパーティー。
エデン条約、色彩騒動なんかも終わってだいぶ平和になったとはいえ、そこは流石に三大校の一角トリニティ総合学園、仕事が少なくなることはあっても無くなることは決して無い。
実際今この瞬間もナギサの机の上にはフィリウス派の書類が山積みだし、ついさっきまではセイアとミカの机にはそれぞれサンクトゥスとパテルの書類が山積みだった。
まあ過去形ということはそういうことである。
現在リエの机にはサンクトゥスとパテルの残り、無所属、そしてアリウスと、合計では5桁枚あると言われても疑わないほどの書類の山。
ミカが突如として爆弾発言をぶつけたのは、リエが暑さで机に突っ伏しながらも必死に書類を片付けていた、そんな瞬間である。
「……待って、今なんて言った?」
「だから、リエちゃん、太ったよね、って」
「な、なぁっ……な、ナギサ!?私太ってないよね!?」
「おや、リエにしては珍しいくらいに焦っているね。私の勘が正しければこの前の健康診断で2kgほどの体重増だと思ったんだが」
「いや、それは、だからっ……ほら、筋肉って、脂肪よりずっと重いから……」
元々暑さには別に強くない、というか普段はだいぶ弱い側のリエにとって、ここ連日の酷暑は苦痛でしかなく、その上で山積みになった大量の書類。
冷えピタを貼ってまで業務に臨んでいる今のリエにはオブザーバーの品格及び容量90%低下くらいのデバフが掛かっている状態で、もう明らかにどこをどう見たって休むべきだし、それはナギサもほぼ同様。
業務の手を止めてまでぐわんぐわんとナギサを揺さぶり、「ねえナギサ!?私太ってないよね!?」と尋ねる彼女だったが、ナギサがそれに気がついたのは3回目辺りだった。
「……あ、何ですか?リエさん」
「ミカとセイアが私のこと太ったとか言うんだけど!?これおかしいよね!?」
「リエさんが太った……いえ、太ったというよりはムチッとした感じでは……?」
「ムチッと!?私が!?私が!!?」
「あ、はい。特にずいぶんと胸とお尻が柔らかくなったような……」
「ねえナチュラルに触ってる!?なんで!?……っていうか!ナギサこそこの前の健康診断バッチリ太ってたじゃん!私ナギサが「体操服の分は引いておいてもらえますか」ってミネに言ってたの聞いたんだけど!?」
「な、何故それを!?ミネさんには口外無用と伝えておいたのに……!?」
「だって私ナギサの後ろ並んでたじゃん!」
「ああもうその場で!?」
「っていうか下着も買い替えたばっかでしょ?サイズアップしてたの更衣室で見えたし!」
「な……というか、最近リエさんも買い替えるスピードがどんどん早くなってるみたいですが!?まさかここに来て成長期だと!?」
「そっちこそ──!」
普段の二人からでは全く以て有り得ないようなやり取りを繰り返すリエとナギサ。
それを傍らで見守っていたミカとセイアはいよいよ事態が深刻になってきていることを理解する。
流石にこのままだと駄目だ、二人共死ぬと。
友人としても、ティーパーティーの同僚としても取り返しのつかないことになる、と。
これはまずい、非常にまずい。
そう悟ったらしい二人は「ちょっと購買行ってくるね〜」と席を外した。
「セイアちゃんあれヤバくない?」
「そうだね、極めて危機的な状況と言えるだろう。私達の中で一番トリニティの生徒会長として名が知られていて、その通りの業務をこなしているのはナギサだし、ティーパーティーの書類仕事、特に会計分野に至っては相当な割合をリエ個人に頼っている。二人が再起不能となればまともに引き継げるかも怪しいな」
「──こちら計11点で2500円となります」
「領収書はティーパーティー宛で頼むよ」
「かしこまりました」
「うわセイアちゃんコーラとか飲むんだ……」
「ミレニアムに行った時にハマってね」
そして500のペットボトルを両手で抱えるセイアと、購買前のベンチに腰掛けるミカ。
普段は軽口を叩いたり皮肉ったりおちょくったりするような仲の彼女達だったが、いざこうしてなれば本当にどうにかしなければと頭を悩ませる。
セイアも言った通り政治家としての腕はなんやかんやでナギサが一番で、書類仕事もリエにだいぶ手伝ってもらっていて、迷惑を掛けてしまっているという、どこかで彼女らがああなってしまった責任を感じている二人。
どうにかして助ける手段はないものか、と頭を悩ませていると、ミカは「あ!」と何か思いついたように手を叩いた。
「ね、セイアちゃん!バカンスしようよバカンス!」
「バカンス?」
「そう!ほら、そろそろ使いたいねって話してたティーパーティーのプライベートビーチあるじゃん!あそこ行こうよ!」
「なるほど、三浜村か……確かに、あそこだったらトリニティからもだいぶ離れている。二人も仕事を忘れることが出来るかもしれない、か」
少し考え、セイアは「良いじゃないか」と首を縦に振る。
「だよねだよね!」とミカも嬉しそうに頷いた。
「しかし……私達だけでは少し心配が残るな。せっかくなら先生も巻き込むとしようか」
「あはっ、良いね良いね!せっかくなら楽しいこと山盛りにしちゃおう!」
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