「っていうわけでバカンスしようと思うんだけど、先生もどうかな?」
ミカが電話をかけると、電話越しの先生は「『いいじゃんいいじゃん!』」なんて大層楽しそうに頷いた。
シャーレの先生こと本名
そろそろ婚期迫ってきてるよな、でもキヴォトスじゃ出会いもないもんな、と焦りがちになるここ最近において、夏のバカンスなんていうのは嫌な現実を忘れさせてくれる最高のカンフル剤。
彼女は二つ返事でミカとセイアの誘いを引き受けた。
「『……で、ちなみになんだけど……リエとナギサ、そんなにヤバいの?』」
「ああ。控えめに言って致命的だ。……そうだな、これは実際に聞いた方が分かりやすいだろう」
そう言ってセイアは通話をスピーカーに切り替えると、部屋の片隅のデスクで必死に事務作業に励んでいる二人の方へとこっそりスマホを近づける。
そこには止めどない万年筆やらタイピングやらの作業音、そしてやけに明るい二人の会話が響いていた。
「リエリエ、あとどれくらい書類残ってるー?」
「うーん、私が胸に挟めるくらいー」
「300枚?」
「500枚!」
「「あっはははははは!!!」」
「『えトリニティ終わったじゃん』」
「少なくともエデン条約以来の危機ではあるね」
「だからお願い、助けて先生!」
「『もちろんだよ!こういう時に頼られるのが私の仕事だし!』」
「……え、バカンスですか?」
「別に良いけど……予定、入るかもっていうのだけかな」
「そう、ですね。流石にこの場で「大丈夫です」と断言できる話では……」
そう言って言葉を濁す二人を押し切り、ミカはなんとかバカンス行きの約束を取り付ける。
そして二人は「気分転換」と言い張り、リエとナギサを強引にショッピングモールへと連れ出した。
「ほらほら、二人共今年の水着も買ってないでしょ?この場でパーッと買っちゃおうよ!」
「そうは言っても、前使ったのがありますし……」
「うん。あんま使えてないからほぼ新品みたいなものじゃない?」
「おや、少なくともリエは違うだろう?あの撮影の後金具が弾けておしゃかにしたじゃないか」
「あ、そっか……」
「すっかり忘れてたな」と頭を押さえる彼女の顔はやはりだいぶ疲れ気味。
ナギサもベンチに座って小さく欠伸していて、休みどころか睡眠時間さえちゃんと確保できていないんじゃないかと、改めて心配になる。
けれど心配したら余計に頑張るのが二人の性故に、ミカはあえて明るく「水着買ったらフードコート行こうよ!あそこのパスタ屋さんすっごく美味しいんだって!」なんて振る舞っていた。
「分かった。じゃあお昼はそこにしよっか」
「……あ、そう言えば。リエさん、例の書類なのですが……」
「ああ、あれ?あれは……」
「……」
せっかく連れ出したのに、すぐに仕事脳に戻ってしまった二人。
ミカがちらりとその視線をセイアに向けると、彼女は「ああ、分かっているとも」と頷いた。
「あれだけの負担を強いてしまっているのは我々だ。その罪滅ぼしというわけではないが……少しくらい、それを忘れられる場というものを用意して然るべきだろう。まさか、君が責任者になるなんて言い出すとは思わなかったけどもね」
「だって、私を助けてくれた幼馴染のピンチなんだよ?だから、今度は私が助ける番だと思うんだ。……あ、もちろん、みんなの力も借りるけどね!」
「ああ、ぜひそうしてくれ。今回ばかりは私も助力を惜しむつもりはないからね」
そう頷いたセイアに「あのセイアちゃんがこんなに素直とか珍しー☆」なんてくすくす笑うミカ。
そして彼女は「ほら、水着見に行くよー!」と仕事の話をしていた二人の手を引き、ショップへと繰り出した。
「……うん、うん、了解。じゃあ、そういうことでよろしくね」
「どうかしたの?アツコ」
「うん。リエ先輩たち、お休み取るんだって。だからその間のお仕事、少し手伝うことになったんだ」
「はあ……やっと休み取るんだ。ティーパーティー、ここ最近も働き詰めなんでしょ?
「……お、おまたせしました……!やっと図書委員会の仕事が終わったので……!あ、店員さん、このいちごチョコミルクレープデラックスをお願いします!」
「ふふっ、相変わらずだね」
アリウスは皆さんの想像の2倍くらいトリニティで幸せにやってます