ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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リエの髪型はほぼほぼムツキ


記録14:決戦、七千二百秒前

「こんなのやだ!分かんない!やりたくない!」

「あうぅ……そう言わないで、今はみんなで力を合わせてどうするか考えないと……」

「今は知恵を絞らないとどうにもならないからね!」

 

 何とかあの後ゲヘナから脱出し、合宿棟の教室で迎えた夜。「正義実現委員会のエリート」という肩書きはどこへ行ったのかの聞きたくなるほどの弱音を吐くコハルと、彼女を宥めようとするヒフミと先生。教室の雰囲気も最悪の中、アズサは黙々と新しい問題に打ち込み、ハナコは少し教室の端で物思いに耽っていた。

 

「にしてもまたここに戻ってくることになるなんて……このままじゃ私達みんなまとめて退学に……」

「っていうかそうじゃん!ティーパーティーが私達を退学させようとしてるなら私達にはどうしようもなくない?!」

「一応、一週間後には第三次特別試験もありますが……ここまで妨害されると厳しいものがあります」

 

一週間で範囲が三倍になったテストで90点以上を取れという無理難題をナギサからの妨害を乗り越えた上で突破する、それは今の彼女達の心を折るには十分な壁であった。

 

「……うう……無理ぃ……絶対無理だってぇ……私バカだからそんなの出来っこない……頑張ったのに……頑張ったのに……」

「コハル……」

「コハルちゃん……」

 

 その目に涙を浮かべて机に突っ伏すコハル。なんとか宥めようとする彼女達だったが、どう言葉を掛ければ良いのかが分からない。ハナコさえ、「ここにリエさんがいれば」なんて事を無意識に考えてしまっていた。

 

「……今日はもう、休みませんか?このままでは解決できるかもしれない問題まで解決できなくなります。一旦休んで、それから考えませんか?」

「そう……ですね……」

「……みんな、お疲れさま」

 

 そしてしばらくの沈黙の後に、ようやく彼女が発せた言葉。「そうするしかない」とみんなそれに同意して、彼女達は失意の中で眠りについた。

 第三次特別試験まで、あと6日。

 


 

 そして翌朝一番、彼女達が集まっていると突然教室の扉が開き、大きな二つのキャリーケースを転がしたリエが姿を現した。普段とは違う、どこかピリピリとした空気を纏っている。よく見ると若干服装も乱れていて、余程急いで来たように見える。

 

「り、リエ様?!」

「先輩?!その……とりあえず……」

「みんな、本当にごめん。ティーパーティーを、ナギサを止められなかったオブザーバー()の落ち度だった。……本当に、ごめん」

 

 教室に足を踏み入れるなり、リエは深々と頭を下げた。その長いサイドテールが長い脚に絡み、床に擦れる。

 

「あ、謝らないでください!リエ様のせいじゃありませんよ!」

「はい、リエさんがあのようなことをする方ではないのは存分に理解していますから」

「……大丈夫だよ、そんな事しなくても」

 

 先生がそう言うと、彼女はようやく頭を上げた。そしてハナコから荷物について尋ねられたリエは、両手で引いてきたキャリーケースを彼女の方へ滑らせた。ゴロゴロとキャスターが回る音が鳴る中、それはヒフミの座っていた椅子の脚に音を立ててぶつかる。少し彼女は驚いた後、そのキャリーケースとリエの顔を交互に見た。「開けて良いんですか?」とヒフミが恐る恐る尋ねると、彼女は黙って首を縦に振った。

 

「……!これ……」

「よろしいんですか?リエさん?」

「好きに使って」

 

 彼女の持ち込んだキャリーケース、その中にはビッシリとノートや教科書、参考書、BDが詰まっていた。どれもかなり使い込まれていた形跡があって、分かりやすいように線なんかも引いてあり、名前欄にはそれぞれ「朝日奈リエ」と書かれている。好奇心からその内の一つを手に取り、パラパラと捲ったアズサは思わず「……凄いな」と感嘆の声を漏らした。

 

「しばらく顔出せなくなりそうだから、それが最後の差し入れ。存分に酷使してやって」

「リエさんはこれからどうなさるのですか?」

「止められる……と断言は出来ないけど、ティーパーティーをどうにかする。……流石に、二人をほっとけないから」

 

 新たな教材を捲る彼女達に背を向けて教室を出ようとしたリエにハナコが声を掛けると、彼女はそう答えた。「……リエさんなら、そうしますよね」とハナコは小さく呟いた。

 

「……そうですか。健闘を祈ります、リエさん」

「うん、私もみんなの健闘を祈ってる」

 

 そう言って、リエは補習授業部に手を振って合宿棟を少し早歩きで去っていく。

 

(……あの子達があれだけ頑張ろうとしてるのに、私一人諦める訳にはいかないな)

 

 帰り道、彼女は自らの頬をバシッと叩いた。

 


 

「ハナコ!この問題どうすればいいの?!」

「私もそこで詰まってるから教えてほしい」

「……二次方程式ですね。ここで判別式を使うと……」

 

 補習授業部模試、結果。浦和ハナコ、100点。白州アズサ、87点。下江コハル、81点。阿慈谷ヒフミ、83点。

 第三次特別試験まで、あと5日。

 

「ハナコちゃん、ここの訳なんですが……」

「そこはここから推測すると意味を絞れるので……」

「コハル、数学のノート次貸してほしい」

「分かった!すぐ終わらせるから!」

 

 補習授業部模試、結果。浦和ハナコ、100点。白州アズサ、89点。下江コハル、87点。阿慈谷ヒフミ、88点。

 第三次特別試験まで、あと4日。

 

「ヒフミ、古典の辞書は……」

「はい、これですね。それでリエ様のノートは……」

「ハナコ、ここって……」

「……はい、そういうことです」

 

 補習授業部模試、結果。浦和ハナコ、100点。白州アズサ、94点。下江コハル、90点。阿慈谷ヒフミ、94点。

 第三次特別試験まで、あと3日。

 

「ハナコ、間違えたところなんだが……」

「……それはここの単語が……」

「ヒフミ、この問題分かる?」

「はい……これはここを……」

 

 補習授業部模試、結果。浦和ハナコ、100点。白州アズサ、93点。下江コハル、88点。阿慈谷ヒフミ、89点。

 第三次特別試験まで、あと2日。

 

 補習授業部模試、結果。浦和ハナコ、100点。白州アズサ、95点。下江コハル、89点。阿慈谷ヒフミ、89点。

 

「グラフのここの部分が間違ってるんじゃないか?」

「……みたいですね。……じゃあ、ここはなんで……」

「多分ここの値を加え忘れていますね。コハルちゃんはここの平方完成が間違ってます」

「……!ホントだ……」

 

 第三次特別試験まで、あと1日。

 


 

「……明日……なんだよね……」

「はい、明日……私達の命運が懸かった試験が……」

「何も心配することはない。……必ず合格する」

 

 正真正銘、補習授業部最後の日を彼女達は迎えようとしていた。一日の大半を勉強に費やした2週間はまもなく終わろうとしていた。

 

「はい、アズサちゃんの言う通りです。私達は頑張ってきたんですから、あとは最善を尽くすのみです」

「うん。……みんな、よく頑張った!」

「先生……気が早いですよ……」

「今こんなに感情的なら、明日の今頃は……ふふっ、楽しみですね♡」

 

 感極まった先生が、補習授業部をまとめて抱きしめる。まだ早いとは分かっていながらも、四人とも嬉しそうに笑顔で応えた。

 

「……というわけで補習授業部!明日は全力を尽くしましょう!」

「はい♡」

「……ああ」

「うん!」

「頑張れみんな!」

 

 決意にみなぎる中、彼女達は合宿棟での最後の眠りについた。

 


 

「……」

「……アズサ、ちゃん……?」

 

 呼び出しを受けたアズサは、夜中に一人合宿棟を抜け出した。隣で寝ていたハナコに、彼女は心の中で「申し訳ない」と呟いて。

 

「おまたせ、サオリ」

「時間丁度。流石だな」

 

 トリニティ総合学園の敷地を抜けて、集合場所に指定されたトリニティ郊外の廃墟へ向かうアズサ。集合時間丁度に到着し中に入ると、そこにいたのは彼女の属するアリウス分校の特殊部隊、『アリウススクワッド』のリーダー、錠前サオリだった。

 

「アズサ、日程が変わった。明日の午前中、学園内で指示を待て」

「……?!待って、サオリ。明日は……」

「明日は……どうした?」

 

 明日は補習授業部の第三次特別試験だ、そう言いかけた彼女だったが、それを言ったらますますヒフミ達が危険な目に合うのは分かっていた。彼女は何とかそれを飲み込んで、その場しのぎの適当な嘘をついた。

 

「……ま、まだ準備が万全じゃない。今決行するのはリスクが高い」

「いや、もう決定した話だ。準備を間に合わせろ」

「……」

 

 そう言って、サオリはアズサの言葉を一蹴する。返す言葉が見つからなくて、彼女は口を閉ざした。

 

「これで全てが変わる。私達も、トリニティも、キヴォトスもな」

「……」

「ティーパーティーホスト、桐藤ナギサのヘイローを破壊する……それだけがお前の役割だ。分かってるな?」

「……」

「お前の実力は信じるに値する。上手くやれ、百合園セイアと同じように」

「……分かった」

 

 数ヶ月前に発生した、百合園セイア襲撃事件、その実行犯こそが彼女だった。アリウス分校と内通した聖園ミカの手引きによってトリニティ総合学園に入り込み、彼女を未知の技術で作られた『ヘイローを壊す爆弾』で殺害する、それこそが彼女に与えられた仕事。そして今回、新たにアリウス分校は彼女に桐藤ナギサの殺害という役割を与えたのだ。

 

「……準備しておく」

「ああ、期待してるぞ」

 

 彼女は何も言わず、頷いた。物陰からそれを見ていたハナコは、思わず口を押さえ、そして息を殺して逃げ帰った。

 


 

「こ、こんばんは……先生……」

「……ヒフミも眠れない感じ?」

「そんな感じです……」

 

 いつものように先生の部屋を訪れたヒフミ。彼女の顔を見るなり「おそろいだね」と先生は小さく笑う。時刻は1時を回っていたが、彼女は部屋の机でパソコンを弄っていた。

 

「……いたぁ……」

「こ、コハルちゃん?」

「……だって今部屋誰もいないんだもん……アズサも……ハナコも……」

「失礼しますね、先生」

 

 二人が話していると、眠そうな目を擦るコハルと、少し遅れてハナコも合流する。一人だけ制服に着替えていたから、「誰かと会ってたのかな」とヒフミは少し考えた。

 

「少し用事がありまして、外の方に出てたんです」

「……こんな夜中に?」

「ふふっ、密会というやつです。それと、私達の明日の試験場所なのですが……」

「第19分館ですよね?まさかまた……?!」

 

 ヒフミの顔から血の気が引き始める。「残念ながら」とハナコは首を縦に振り、掲示板を開いた。

 

「……「エデン条約に関する機密書類の保護」という名目でティーパーティーからの要請によって正義実現委員会の殆どがそこに派遣されるそうです。一帯に厳戒態勢が敷かれていると。それに加えて、本館の方では戒厳令も出されているようですね」

「か、戒厳令……?!」

「はい、おそらくエデン条約締結までは誰一人としてあの建物には入れないでしょう。それこそ、ティーパーティーくらいしか……」

「ちょっと待って、なら明日の試験は……?!」

 

 思わずコハルは声を上げた。また新たに増える問題、立ち塞がる壁に彼女達は頭を抱えながらも、何とか解決策を絞り出そうと奮闘する。

 

「……そうだ!私がハスミ先輩を説得すれば……!」

「……いえ、それは不可能に近いと思います。もし彼女が私達に味方すれば、それはティーパーティーに対する明確な裏切り、ハスミさんも正義実現委員会から除名されるかもしれません」

「で、でもリエ先輩は……!」

「リエさんはホストに次ぐオブザーバー、トリニティ総合学園内での独断による行動が許される唯一の人間です。ハスミさんとは訳が違う。……ナギサさんには私達を合格させる気はサラサラ無いようですね」

「……そんな……どうして……」

 

 思わず涙目になって「でも……でも……」と呟くコハルの横でハナコは思考を巡らせる。そしてヒフミがガクッと項垂れて少しの間が空いた時、アズサが姿を現した。

 

「……私のせいだ」

「あ、アズサちゃん?!どこ行ってたんですか?!」

「……」

「みんな、私から話がある。どうか聞いてほしい」

 

 少し申し訳無さそうな、話しづらそうな顔をしながらも、彼女は口を開いた。3人はゴクリと唾を呑み、そしてハナコはわずかに視線を落とした。

 

「……アズサちゃん?」

「ど、どうしたの?具合でも悪い?」

「はい、身体が震えて……」

「……今まで、みんなに隠していたことがあった……。でもこれ以上は隠せない……。だから、聞いてほしい……ティーパーティーが探している『トリニティの裏切り者』は、私だ」

 

 そう言って、アズサは項垂れた。しかし先生が少し考える程度で、それを聞いたヒフミもコハルもキョトンとしているだけだった。

 

「……私はアリウスの、アリウス分校の人間だ。今は身分を偽ってトリニティに潜入してる」

「アリウス?潜入?……何の話ですか?」

「……全然分かんない……」

 

 困惑する彼女達にハナコは少し顎に指を当て、そして徐ろに話しだした。

 

「……アリウス……かつてトリニティが合併する際、唯一反対した分派と覚えています。その後はトリニティに弾圧されキヴォトスの何処かへ逃げたと聞いていましたが……」

「ああ、間違いない。ここに来るまでは私もずっとアリウスの自治区にいた。それで今は……任務を受けてここに……」

「……なるほど」

「その任務が……ティーパーティーの桐藤ナギサ、そのヘイローを破壊すること」

 

 その言葉に、誰もの目が変わる。

 

「っ?!」

「……マジ?」

「嘘?!それって、それって……!」

 

 ヘイローを破壊する、それがどういうことかを彼女達は反射的に理解した。各々が思わず声を漏らす中、ただ一人ハナコは黙ってそれを聞いていた。

 

「アリウスはどんな手を使ってでもティーパーティーを潰そうとしてる。聖園ミカを騙して私を学園に忍び込ませ、百合園セイアと桐藤ナギサを襲撃しトリニティ総合学園を手中に収める……そういう算段だった」

「確かに、ティーパーティーに隙があるとすればミカさんになるでしょうが……」

「……あれ、リエは……?」

「そもそもオブザーバーは、ホストがあって初めて成り立つものです。「ホストを全員排除すれば無力化出来る」……そう踏んだのではないでしょうか」

 

 首を傾げる先生に、ハナコは少し解説する。

「なるほど」とその事について納得はしたものの、浮かんでくる疑問は絶えない。

 

「えっと……つまり……?」

「ちょ、ちょっと待って?何の話?今の私達には関係無くない……?嘘だとは思わないけどなんで急に……?」

「……」

 

 一見補習授業部とは何も関係がないように聞こえるその話に、ヒフミとコハルは理解が追いつかないようで、目の前のアズサに尋ねる。ハナコは情報を整理するように目を瞑り、先生はその話を黙って聞いている。

 

「……明日の朝、ナギサを狙ってアリウスがトリニティに侵入する。私は、彼女を守らないといけない」

「あ、明日ですか?!」

「……明日の朝なら、確かに全ての条件が噛み合います。だから……」

「……ああ」

 

 小さく呟いたハナコに、アズサはコクリと頷いた。

 

「待ってよ!アズサはティーパーティーを倒しに来たんでしょ?なんで急に守るって話になるのさ!」

「……アズサちゃん()()は、最初からその為にトリニティに来た……そういうことですよね?」

「……!」

 

 彼女が問いかけると、アズサは思わず目を見張った。そして返事の返ってくる前にハナコは続ける。

 

「ナギサさんを守るために、桐藤ナギサ襲撃に参加する、いわば二重スパイ。その準備をするふりをして、実際は裏切って、ナギサさんを守るための準備をしていた。……でも、それは何故ですか?誰の命令で?」

 

 正解不正解は置いておいて、辿り着いた自分なりの考えをアズサに尋ねるハナコ。アズサは黙って、その首を横に振った。

 

「……これは、私の独断だ。ナギサがいなければ、エデン条約は確実に空中分解する。……そしたら、またキヴォトスは一層混沌に陥ってしまう。……そしたら、また第二のアリウスが……」

「……甘い、甘い話ですね。『楽園(エデン)』くらい甘いお話です。……トリニティを騙し、アリウスを騙し、全てを騙したアズサちゃんが本当に『トリニティの裏切り者』なんですね?」

「……本当に、ごめん。好きなだけ恨んでくれて良い。……むしろ、そうしてほしい」

 

 アズサがそう言うと、先生はクスッと笑って彼女を抱きしめる。

 

「生徒を恨むわけ無くない?私は先生だよ!」

「……先生?」

「きっと、問題は「信じること」が足りなかったこと。ナギサも、ミカも……信じられなかったんだよ。互いのことが」

 

 そう言って、先生はアズサの耳元で優しく言う。それを見たハナコが、またおもむろに口を開いた。

 

「……ごめんなさい、アズサちゃん。少し、意地悪してしまって」

「ハナコ?」

「……補習授業部は、少し特殊で、特別で、不思議な存在でした。ナギサさん、ミカさん、リエさん、先生、私達……それぞれの運命が結び目のように絡まって……なんだか奇妙な場所でした」

「……」

「けれども楽しくて、充実していて、甘い日々、甘い時間だったと思います。……それは、アズサちゃんもそうだったんでしょう?」

「……!」

 

 ハナコの問いかけに、彼女は再び目を見張った。そして黙って、ゆっくりとその首を縦に振る。

 

「アズサちゃんが本当に私達を裏切るつもりなら、いくらでも姿を消すタイミングなんてありました。……でも、そうしなかったんです」

「ハナコちゃん……」

「一緒に勉強して、一緒にご飯を食べて、明るい先生がいて、優しい先輩がいて、それで同じ目標へ向かって頑張る……そんな時間が、あまりにも楽しかったから。……『学ぶ』ことの楽しさを、知ったからなんですよね。アズサちゃん?」

「……分からない。でも、一緒に問題を解くのは楽しかった。一緒にプールで遊ぶのも楽しかった。……どれも、手放したくなかったのかもしれないな……。……それに、まだやりたいことも、知りたいことも沢山残ってる。だから……だから私は、みんなと、まだ別れたくない……」

「……アズサちゃん……」

 

 少し涙目になって、アズサは話した。まだ未練が沢山あると、まだみんなと一緒にいたいと。時計の針は2時に差し掛かろうとしていた。

 

「……同じようなことを思っていた生徒の話をします」

「……?」

 

 ハナコはゆっくりと切り出した。

 

「その子はたまたま何をやっても上手く出来てしまうような子で、周りから期待されてしまうようなタイプで……その子も周りの期待に応えられてしまって……いつしか、本当のその子を見てくれる人なんて、ほとんどいなくなってしまいました」

「……そっか」

 

 少し潤んだような目の彼女の話に、先生は穏やかに相槌を打つ。そして無意識に涙を湛えながらハナコは続けた。

 

「その子にとっては、トリニティ総合学園は嘘、偽り、欺瞞、それに目を覆うような権力への執着に満ちた、気持ちの悪い檻でした。何度も退学しようと考えては、誰にも話せずに仮面を被って過ごす……そんな日々が続く中で、その子の先輩は言ったんです。「そんなのつまらないでしょ?」と」

「それは……」

「その先輩は、自由な人でした。それに、嘘に塗れてるのを分かっていながら、トリニティ総合学園を愛していました。そんな先輩が、その子を引き止めました。「だから本当に好きなものが見つかるまで、ここにいたい理由が見つかるまでもう少しだけ待ってみて」と。……けれど、結局好きなものは見つからなくて、その子はあえて試験を台無しにすることで退学になろうとしたんです」

「……それって……」

 

 「もしかしてリエのこと?」、そう言おうとして、先生は喉元まで上がってきたその言葉を再び飲み込んだ。

 

「……アズサちゃんは補習授業部がなくなったら、元の場所に帰ってしまうんですよね?……なのに、アズサちゃんはその子と違って一生懸命でした。……その子は思ったんです。「なんで、こんなに一生懸命なんだろう」って。アズサちゃんがいつも言う通り、「『vanitas vanitatum.(全ては虚しいもの)』のはずなのに」って。……けれど、アズサちゃんはいっつもそこで終わっていなかったんです。「それは今日最善を尽くさない理由にはならない」と。……それで、ようやくその子は分かったんです。「学校ってこんなに楽しいんだ」って」

「……ハナコ……」

「下着でプール掃除をしたり、みんなで水着になってみたり、その先輩も遊びに来たり……隠さないって、こんなに楽しいんだ、普通のことってこんなに楽しいんだって」

「……って、あれ下着だったの?!」

「ふふっ♡」

 

 みんな、徐々に気づき始めていた。『その子』はハナコのことだと。彼女はそれだけ胸に抱え込んでいたのだと、初めて補習授業部は知った。

 

「アズサちゃん、まだまだやりたいことがあるんですよね?海に行ったり、遊園地やお祭りに行ったり、ファミレスでドリンクバーも飲んでみたいって。……その為に、ナギサさんを守るんですよね?」

「……ああ。何としても彼女を助けたい」

「……そうですよね。その答えが聞けて何よりです。……アリウスからナギサさんを守る、試験にも合格する、それが私達が救われる、最高の答えではありませんか?」

 

 ハナコは問いかけた。けれど、アズサは自信なさげに、込み上げる何かを堪えながら答える。

 

「でもそれは物理的に不可能……試験開始も襲撃の時刻も同じ9時……」

「な、なら他の人に助けてもらうというのは?!」

「いえ、私達が目的を果たす為には、それではまだ足りません。……ですので、こちらから仕掛けましょう。罠や策謀に巻き込まれてきた私達ですが、今度はこちらが巻き込んで差し上げましょう。なにせここには正義実現委員会のメンバー、ゲリラ戦の申し子、ティーパーティーホストから寵愛されている自称平凡な生徒、トリニティのほぼ全てを知る人、シャーレの先生がいます。……トリニティ最高戦力の彼女のサポートも」

「……!」

 

 そう言うと、ハナコは少し黙った後にアズサに向けて頭を下げた。

 

「……それと……ごめんなさい、アズサちゃんが話していたこと、実は少し知ってたんです。本当に、ちょっとだけですけど」

「……そういうことか」

「はい。実は、さっきアズサちゃんが出ていった時に、こっそりとその後を追いかけて、それで誰かと話しているのを聞いてしまって」

「そう、だったのか……」

「はい。それで、先程、リエさんからも。「もしかしたらだけど」と少し教えていただきました。……それと、アズサちゃんへのプレゼントだそうです」

 

 そう言うと、ハナコはリエから預かっていたメモをアズサに手渡した。トリニティ総合学園に隠された正義実現委員会の武器庫について事細かに記載されている。

 

「……これは……良いのか?」

「はい、「正義実現委員会のものをどう使おうとティーパーティー()の勝手じゃない?私は私の仕事をするから、あとはよろしく」だそうです」

「……リエっぽいね」

「……それで、これだけの戦力があるんです。……トリニティ程度、数時間で終わらせられますよ♡」

 

 ハナコはフッと微笑んだ。




何の大きさとは言いませんが

リエ>>>ミカ>>>>ナギサ>(越えられない壁)>>>セイア

です
何の大きさとは言いませんが
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