ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

15 / 109
凄い長編になりました


記録15:守りたいもの、捨てれないもの

「良い夜だね、ハナコ」

「……突然ですね、リエさん」

 

 第三次特別試験の前夜、トリニティに戻って来たハナコは唐突にリエに呼び出された。メッセージにはただ一言、「答えが分かった」と。

 

「……それで、何の答えですか?」

「『トリニティの裏切り者』」

 

 仄かに街灯の灯る下、彼女は言い切った。その目を見て、ハナコは余程の緊急事態が起きていると確信した。『魔女狩り』の苛烈な瞳でも、『監視者(オブザーバー)』の見通すような瞳でもない、どこか強烈な、燃え滾るような意志を宿したような瞳。これが本来の『朝日奈リエ』の目なんだ、とその熱に当てられてハナコは思った。

 

「……誰に伝えましたか?」

「ハナコが初めて。そろそろ、自分から言うかもしれないけど」

「……」

「アズサだよ。ナギサが探してるの」

 

 ああ、やっぱりそうか。けれども実際、そのように考えたら幾つかの事実に完璧に辻褄が合う。ハナコは思考を巡らせて冷静に考えた。その様子を見たリエが「もしかして知ってた?」と尋ねるとハナコは「つい先程」と答えた。そしてそのままに、何故彼女は私に伝えたのだろうと考えていくと、彼女が次に発する言葉はすぐに決まった。

 

「……それで、リエさんが探しているのは?」

「流石だね。でも、それは少し後で。……それでさ、彼女アリウス」

「……そういうことですか」

 

 彼女達の会話は明らかに省略されていたが、それでもハナコはその省略された箇所を瞬時に頭の中で補って、虫食いになった事実を自らの手で埋め直す。補習授業部に関する全てを、もう一度。しばらくの思考を挟んだ後に、そういうことか、と理解してハナコは口を開いた。

 

「それで、何故私に伝えたのですか?」

「手遅れになりそうだと思ったから。この辺は……私じゃ上手く説明できないかな。もしかしたらだけどの話になるし、本人から聞いて。……そうそう、それと……これ。彼女に渡しておいて」

「……これは……」

「学園内に隠されてる武器庫のデータ。存分に使って。私急ぎの用事あるからそろそろ行かないと……」

「よろしいんですか?」

「正義実現委員会のものをどう使おうとティーパーティー()の勝手じゃない?私は私の仕事をするから、あとはよろしく」

 

 そう言ってその場から去ろうとする彼女の背に問いかける。彼女はおもむろに振り返ると、唇に人差し指を当て、小さく口を開いた。

 

「……結局、誰なんですか?リエさんが探しているのは」

「いいよ、そんなに知りたいなら教えてあげる。間違いなく、裏切り者は──」

 

 たかが5分もないやり取り。けれど、それはトリニティ総合学園の命運を確かに変えていた。

 


 

 トリニティ総合学園内に偏在する、避難用のセーフハウス、中でも最もセキュリティの高い屋根裏部屋にナギサはいた。明日さえ、第三次特別試験さえ乗り越えればエデン条約は無事に調印される。彼女は甘ったるい紅茶に口をつけながら、半開きの窓の隙間から夜空を眺めていた。

 

「……もう、紅茶のお代わりは結構です。おやすみなさい」

 

 ノックされたドアに、そう返す。けれど、ナギサの考えに反してそのドアはおもむろに開いた。

 

「可哀想に、眠れないんですね」

「……?!浦和ハナコさん……?!」

「まあ、当たり前ですよね。いよいよ明日ですから。不安で不安でたまらないですよね、ナギサさん?」

 

 浦和ハナコだった。思わず目を見張り、一瞬息が詰まる。ティーカップを持つナギサの手が固まった。

 

「……どうしてここに……?!」

「私がここにいる理由ですか?何故ここを知っているかというお話ですか?後者であればもちろん、全てのセーフハウスとローテーションを知っているからなのですが……前者であれば内緒です♡」

 

 指先にも力が入らない、いや、そこに力を割く余裕すらなかった。傾いたティーカップから冷めた紅茶が溢れ、スカートに大きなシミを作る。だが、ナギサはそれに気が付かない。ハナコの声は、自らの荒くなった呼吸で掻き消される。それでも、僅かにその声を聞き取ろうと耳に意識を集中させる。

 

「あら?後者の方でしたか?でしたらもう少しだけ教えてあげますが、きちんと例外も把握しております♡心の底から震えるような時はこの秘密の屋根裏部屋ですよね♡」

「何故それを──」

「動くな」

 

 口を開こうとしたナギサの背に、カチャリという音とともに冷たい感触。そこから身体が凍ってしまうんじゃないかと思うくらいに酷く冷たかった。白洲アズサが、彼女の背にそのアサルトライフルを突き付けていたのだ。

 

「……!」

「もちろん、警備の方々は片付けてありますのでご安心下さい♡」

「白洲アズサさん、浦和ハナコさん……まさか……裏切り者は二人……?」

「ふふっ、単純な上に浅はかですねぇ♡私が裏切り者なのをあの方が見逃してくれるとでも?」

 

 あの方、ハナコさん、先輩……。それを理解したナギサの顔が一気に青ざめる。「……あ……あ……」と声にならないうめき声が漏れた。

 

「……リエ……さん……?」

 

 ティーカップを持っていたその手から、すっと力が抜けた。パリィンという甲高い音が鳴って割れた。

 

「……嘘……ですよね……?」

「ふふっ、まあリエさんさえも駒に過ぎませんので♡」

「……誰、なんですか……?」

 

 固まったその手は、ティーカップを持っていたままの形を保っている。「それは、誰なんですか……?」と、その目は、もはや縋るような目線をハナコに向けていた。

 

「……答え合わせの前に、一つだけ。……本当に、ここまでする必要があったのですか?ヒフミちゃんとコハルちゃんを犠牲にする必要はあったんですか?」

「……それ……は……」

「補習授業部です。ナギサさんの気持ちが分からない訳でもありませんが、『シャーレ』まで巻き込んで、ここまでする必要はあったのですか?」

 

 思わず声が詰まる。目をそらそうとしても、どうしても外れない視線にナギサの呼吸は浅さを増していく。

 

「最初から怪しかった私やアズサちゃんは仕方ないとも言えるかもしれません。しかし、あの二人にはあんまりな話だと思いませんか?」

「……でも……」

「特にヒフミちゃんはナギサさんと仲良しだったじゃないですか。……ヒフミさんがどれだけ傷つくと?」

「……でも後悔は、後悔だけはしていません。後悔だけはしてないんです!……これは、必要な、犠牲ですから……」

 

 スカートから更に滴り、床に作られた紅茶のシミにナギサの溢した涙が落ちた。それを見て、ハナコはゆっくりと言葉を伝えた。

 

「では、私達のボスから最後に」

「……ボス……?」

 

 ハナコは精一杯の笑顔を浮かべ、声色を明るくして言った。

 

「あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ」……とのことです♡」

「……ぇ……?」

 

 声にならない吐息がナギサの口から漏れると同時に、アズサは引き金を引いた。

 


 

 深夜の学園を、二人は気絶したナギサを抱えて歩いていた。

 

「こちら目標を確保。弾倉丸々一つ密着で叩き込んだから一時間は気を失ってるはず」

「『わ、分かりました……』」

 

 連絡を受けたヒフミが少し戸惑いながら無線を切った。それを確認した後に、改めてアズサはナギサを背負い直す。

 

「ふふっ♡それではアズサちゃん、準備はよろしいですか?」

「ああ、問題無い。……これで本当の『トリニティの裏切り者』が炙り出せる……?」

「……はい。彼女の性格的にも、間違いなく姿を現すでしょう。ですので、それまで持ちこたえます。大丈夫ですね?」

「もちろん。……ところで、最後のアレ、必要だった?」

 

 街灯が淡く照らす路地を行きながら、アズサはハナコに問いかけた。彼女は少し黙った後に口を開く。

 

「……あれは、ちょっとした仕返しです。ヒフミちゃんとコハルちゃんだけ酷い目に合うなんてちょっと納得行かなかったから、少し意地悪しちゃいました。……身勝手でしたね」

「……そうか」

「はい、後で謝らないといけませんね」

 

 ハナコがそう言うと、アズサは「そうした方がいい」と頷く。「ですよね」とハナコは苦笑いした。

 

「それで、アリウスの兵力はどれくらいか分かりますか?アズサちゃん一人で十分な時間は稼げますか?」

「詳しいことは知らされてない。……でもこっちに来てからずっと備えてたから、誰が相手だろうと十分時間は稼げる。いざとなれば武器庫での補給も出来る。……にしても、リエはゲリラ戦も出来るのか……」

「……分かるものなのですか?」

「ああ、幾つか武器庫に即席爆発装置(IED)が混ざってたんだが……ほら、これは作る人間によって十人十色に仕上がるんだが、彼女のはとんでもない。もはや芸術と言っていいくらい完璧に作られてる。こんなのアリウスにも作れるのはそうそういない」

 

 そう言って、リエが作ったらしいIEDを取り出して楽しげに話し始める。ハナコはそれを聞いてまた少し苦笑いすると同時に脱線しかけた話を戻す。

 

「……それで、具体的にはどうするんですか?」

「……そうだった。まず、学園の周辺に作っておいたトラップや塹壕に誘い込んでゲリラ戦を仕掛ける。その後は……そろそろ仕掛けるタイミングだ。合流地点で待っててくれ」

「はい、健闘を祈ります」

 

 二人はT字路で分かれると、銃を構えてそれぞれ別の方向へ走り出す。かくして星の瞬く下、トリニティ防衛戦の火蓋は切って落とされた。

 


 

「……あった、ここだ」

「セーフハウスを発見!ターゲット確認できず!」

 

 トリニティに隠されたセーフハウス、その秘密の屋根裏部屋にアリウスは足を踏み入れていた。白洲アズサ(スパイ)からの報告では、既に桐藤ナギサを拘束した、とのことで、彼女達は作戦を前倒して決行した。塞がれていたセーフハウスの扉がC4爆弾によって吹き飛ばされる。

 

「ああ、情報通りだ。スパイと合流する、速やかに探せ」

「『こ、こちらチームⅣ!奇襲されています!』」

「……?!どういうことだ!」

「『スパイです!白洲アズサが裏切っています!こちらは─ト─ティ─前─……』」

「応答しろ!応答しろ!……どういうことだ……?!」

 

 一瞬の間を置いて、壊滅したチームⅣの無線が途絶えた。同胞であったはずの彼女の裏切りに動揺を隠せない彼女達であったが、彼女の手、言葉によってアリウスの生徒達はより強く揺さぶられる。

 

「『理解が遅いな。裏切りはそれ以上でもそれ以下でもない。目標は既にこちらが確保した』」

「どういうことだ?!どうしてそんなこと……!」

「『今日は試験があるんだ。……絶対に受からないといけない試験が』」

 

 彼女達が知っている任務に従順で逆らうことのない白洲アズサの姿は何処にもなかった。代わりにそこにあったのは、自らの居場所を守るために戦う一人のトリニティの姿だった。

 

「『だから、早く手を引いてほしい』」

「……は?」

「『逃げるなら早い内を勧める。間もなく正義実現委員会が出撃するから』」

 

 その一言と共に、無線はプツンと切れた。部隊の副官が、彼女に問う。

 

「……撤退しますか?」

「いや、間違いなくブラフ。彼女の情報によれば、正義実現委員会は絶対に動かないはずだ。……裏切り者を粛清する!続け!」

 


 

 アズサは気絶したナギサを背負って合宿棟への道を駆け抜けた。背後では仕掛けていたブービートラップや地雷の爆発音が鳴り響いている。数を減らしながらも、アリウスは彼女を追いかけていた。

 

「……ここです!ここに彼女はターゲットを伴って!」

「ここが本拠地というわけか……入り口は?!」

「二箇所のみ!そのうち一つはバリケードで塞がれています!」

「……バリケードを破壊して侵入しろ!『スクワッド』から連絡が来た!増援も間もなく到着する!速やかに叩き潰せ!」

 

 周囲を偵察した部下の報告に指揮官は「覚悟しろよ白洲アズサ」と呟き口角を上げる。そして入り口を塞ぐバリケードに爆薬を貼り付け、ほとんど間を置かずに炸裂させると大きな穴が開く。アリウスが足を踏み入れた、合宿棟の閑静なロビーに火の粉が舞っていた。

 

「分かってた」

「……なっ?!」

 

 その奥で待ち構えていたアズサは、入り口付近の家具に向けてアサルトライフルを掃射した。仕込まれていた爆薬が連鎖的に炸裂し、アリウスを吹き飛ばす。

 

「退くな退くな!所詮一人だ!数で押し潰せ!」

「……」

 

 強引に中に押し入ったアリウスだったが、それさえもアズサの想定内であった。彼女の手によって巨大な火薬庫と化した合宿棟は、あらゆる場所でアリウスの進路を塞ぐ。

 

「ぎゃあああっ?!」

「く、クレイモアだ!一つじゃない!ハズレだ!撤退!」

「ゴミ箱……いや、IEDだ!逃げろ!」

「なっ?!」

「……っ!まだだ!もうその先は構造上行き止まり!進め進め!」

 


 

「……っ……」

「……ここまでのようだな」

 

 アリウスは物量に物を言わせて、ついに彼女の喉元へ迫る。けれど、アズサもハナコと合流し臨戦態勢。

 

「よく逃げたじゃないか、白洲アズサ」

「……なるほど、かなり減らしましたね」

 

 互いに銃を構えながら、緊迫した空気の中牽制し合う。アズサはアリウス生達のガスマスクの先の目を見据えた。

 

「桐藤ナギサはどこだ?」

「教えない」

「……早く吐け。こうしているうちにもこちらの戦力は増える一方だ。どうあがいても無意味だぞ」

 

 ジリジリと後退する二人と、それを僅かに上回る速度で距離を詰めるアリウス。それでもアズサの照準はそれぞれの頭部を確実に捉えていた。

 

「……『スクワッド』は?」

「スクワッドの手を煩わせるような仕事でもない。既に部隊で数えても10を下らないだけの戦力が送り込まれてる」

「……スクワッドを呼ばなかったこと、後悔すると思う」

 

 そう言って、反転したアズサとハナコは部屋の奥へ駆け出した。それを追うアリウスの百を優に超える足音が部屋中にこだまする。

 

「……なるほど、待ち伏せか」

 

 一階、体育館まで降りて、ついに先生と補習授業部は集合した。

 

「ああ、ここまで来たら互いに逃げられない」

「楽しんでいる余裕はなさそうですね」

「ああもう!やってやるんだから!」

「せ、先生!指示をお願いします!」

「うん!みんな派手にぶちかましてあげて!」

 


 

 体育館内にも入念に張り巡らされたトラップ、先生の指揮、補習授業部の強い思いによって、アリウスは増援が追いつかないほどの大打撃を受けていた。辺りには崩れ落ちたアリウス生の山ができるほどで、彼女達自身も勝利が近づいて来ているのが分かってくる。

 

「……な……」

 

 指揮官が恨み言のような何かを呟きながら、その場に倒れ伏した。何処か穏やかな顔だった。

 

「……やったん……ですか?」

「……ああ、全員戦闘不能。この場は突破した」

「……ったぁ!みんな、お疲れ様!」

「……いえ、まだです」

 

 そして最後の一人が倒れるのを見届けてから、彼女達はその場で抱き合った。だがただ一人、ハナコだけはその警戒を解くことはなく、口を開いた。

 

「……え、どういうことですか?」

「まだアリウスの増援は来ます。それに……」

「だ、大丈夫じゃない?もうハスミ先輩にも連絡したし、すぐ正義実現委員会が……」

「へえ、まだそんなこと思ってるんだ?」

 

 聞き覚えのある声が響いた。そして次の瞬間、大きな爆発音が響いてぞろぞろとアリウスの増援が姿を現す。間違いなく千は下らないような人数が。

 

「嘘?!」

「……この人数……大隊どころじゃない。アリウスの、最低でも半分が出張ってきてる」

 

 次々と彼女達を囲むように体育館に入ってくるアリウスの集団。先生は響いた聞き覚えのある声にも何も言わずに歯を食いしばる。

 

「今の声……」

「……やはりそうでしたか」

 

 そして増援が補習授業部を包囲し終えると、軽やかな足音が一つ響き始めた。ただ一人、それは戦場において異質な雰囲気を纏っていた。

 

「そんなに驚かなくてもよくない?私は先生と会えて嬉しいな」

「……なんでここにいるの……?」

「そうだなぁ……。「この人たちを呼んだのは私だから」かな?」

 

 そう言うと、彼女は楽しげにネタをバラし始めた。

 

「随分と今日静かだったでしょ?私頑張ったんだ。命令が届くところ全部に命令出して足止めして、邪魔になりそうなものは全部片付けた。……そうそう、リエちゃんも外に用事があるからいないよ。どうしようって思ってたからかなり助かったな。ナギちゃんを襲う時に邪魔されないか心配だったんだよね。でも気付かれなくて良かった良かった」

 

 まるで子供が満点のテストを親に見せるような、あまりに異常な無邪気さで笑う彼女。それをただ、先生は黙って聞いている。

 

「……聖園、ミカさん」

「あはは、まあ分かりやすく言うと『黒幕登場☆』ってとこかな?」

 

 ティーパーティー、聖園ミカ。補習授業部の目の前に立つと、彼女はその指を唇の前に立てて微笑んだ。

 

「私が本当の『トリニティの裏切り者』。ごめんね?先生」

「……ミカ……様……?」

「でさ、早速なんだけどナギちゃんがどこにいるか教えてくれないかな?あんまり時間無いんだよね、私」

「……」

「別にあなた達もついでに消しちゃってから考えても良いんだけど……ほら、あんまり上品じゃなくない?」

 

 「違う?」と彼女は笑顔で同意を求める。いつもと変わらない笑顔で、いつもと変わらない口調で、いつもと全く違うことを彼女は口にする。先生は事態を少し整理するように目を瞑った後、彼女に問いかけた。

 

「……何で?」

「そっかぁ……気になっちゃうなら教えてあげるよ。……私ね、ゲヘナが嫌いなんだ。とってもとっても、心の底から嫌いなの。なんか角とか生えてて気持ち悪いじゃん?」

「だからナギサさんを消して、エデン条約を台無しに……?」

「えっとあなたは……リエちゃんの後輩の……そうそう、浦和ハナコ!水着着てた子だ!あははっ、いつ思い出しても笑っちゃう!……まあ、そういうことかな、多分。嫌いなやつと仲良くしなさい、なんてそんな話誰だって嫌じゃんね?それにあのゲヘナだよ?隙見せたらすぐやられるに決まってるじゃん。本当、ナギちゃんも変に優しいというかお花畑というか……『楽園』に目が眩んじゃったのかな?」

 

 ミカは無邪気に笑って話を続ける。

 

「だから、その為に協力してもらったの。「エデン条約をぶっ潰さない?」ってね。アリウスも元はトリニティなんだから、私達と同じようにゲヘナが嫌い。もしかしたら私達より嫌いかも。……ほら、いろいろ都合が良いでしょ?和解は出来て、ゲヘナは潰せて、一石二鳥。すごいでしょ?先生」

「……じゃあ、アリウスは最初からクーデターの為に……?」

「……あー……確かにそうだね。ナギちゃんからホストの座を奪うんだもん。……白洲アズサだよね。あなたのことはちゃんと覚えてる。あんまりよく知らないし、ぶっちゃけ興味もないけど、でもあなたはとっても大切な存在。……だって、今からナギちゃんを襲った犯人になってもらわないとだから」

「……!それって……?!」

 

 彼女の言葉に、ようやく先生は顔色を変える。「あ、やっと?」と言わんばかりの表情で先生の目を見た後に彼女は続けた。

 

「あ、スケープゴートとか生贄って言った方が分かりやすい?誰かが罰せられて初めて人はよく眠れるようになるからね。いやー、にしても「ナギちゃんが襲撃された」って聞いた時は本当に驚いたよ。……でも、蓋を開けてみれば補習授業部なんて。案外手間が省けたのかな?」

「……ミカは、生徒会長になりたいの?」

「そうそう……っていっても権力の為じゃないよ。私はゲヘナをキヴォトスから消し去りたい。トリニティの穏健派を消し去って、アリウスを組み込んで、新たな武力を得たトリニティとゲヘナの全面戦争……これが私の計画。よく出来てるでしょ?」

「……お話は以上ですか?」

 

 ハナコが口を開いた。いつになく鋭い目線で、ミカの琥珀のような目をじっと彼女は見据えている。ミカは「そんな目も出来たんだ」と思いながら彼女に問いかけた。

 

「……何か言いたいこととかあるの?浦和ハナコ」

「いえ、その計画は計画で終わる、というだけです。あなたが負けますので」

「随分な自信だね?千人を超えるアリウス相手にしてさ」

「……もう一度言いましょう、あなたの負けです」

 

 笑顔を浮かべていたミカは、少し目つきを鋭くして言い返すが、ハナコは一歩も引こうとしない。ヒフミやコハルが「なんでそんなに……」と言わんばかりの目線を彼女に向ける中、ミカはようやくその自信の根拠を掴んだ。そして僅かに怒ったような目で、彼女は問いかける。

 

「……そういうこと?」

「……?!トリニティの生徒が一部こちらに……!」

 

 リウスがざわめき、補習授業部が困惑する中、ミカとハナコだけは動じずに互いの目を見ていた

 

「それってどういう……」

「どういうことだ?!」

「……!確認できました!大聖堂から……シスターフッドが!」

 

 バリケードの無い、開かれたもう一つの入り口から揃った足音が響く。空の端の方が白み始める中、彼女達は体育館に姿を現した。

 

「……あはは、中々頑張ったんじゃない?」

「多少の取引です。トリニティの命運に比べたら大したものではありません」

「……前例のないことではあります。ですがトリニティの存亡の危機とあれば話は別。……シスターフッド、これより戦闘を開始致します」

 

 リーダー、歌住サクラコ率いるシスターフッドがアリウスに、聖園ミカに銃口を向けた。

 

「……あはっ。いいね、これでそこそこやりごたえが出てきたかな?人数はこっちの方がずっと多いけど……ま、そっちには先生もいるもんね。……でも、舐めてもらっちゃ困るなぁ」

「……?!なんでシスターフッドがここに……」

「にしてもシスターフッドかぁ……邪魔者もまとめて片付けられると考えたらお得かな?」

「……まだ余裕ぶりますか、ミカさん」

「……じゃ、始めよっか」

 

 ミカがその手に持ったサブマシンガンを構えると同時に、再び戦いの幕は開けた。

 


 

「おお、みんな結構耐えるね?」

 

 他の誰もが消耗する中、彼女ただ一人は僅かに傷を負っただけで、何事もなく笑っていた。共謀者であるアリウスの想像さえ遥かに凌ぐ圧倒的な個人戦力、彼女はその片鱗を鮮やかに見せつける。先生の指揮の下、1000人以上いたアリウスも残り100人いるかどうかというところまで削ったが、補習授業部もシスターフッドも限界が近づいてきていた。

 

「……でも、そろそろおしまいかな。よくやったよ、あなた達も、シスターフッドも、先生も。本当によく頑張ったんじゃない?」

 

 そう言って、彼女は肩で息をする彼女達の下へゆっくりと歩いていく。息を荒げながらも未だ鋭い眼光を向けるハナコに対して、ミカは問いかけた。

 

「ねえ、ナギちゃんはどこ?」

「……させません……!」

「サクラコちゃんも、無駄な足掻きは良しなよ。あなた達の負けなんだから。カッコつけて出てきた割にはそんなにだったね?」

 

 倒れながらも引き金を引いたサクラコの銃撃を背中で軽く受け止めて、彼女は軽口を叩く。けれど、その余裕は次のハナコの言葉によって奪われた。

 

「……いえ、()()()()()()()()

「……どういうこと?」

 

 シスターフッドを憐れむかようなミカの言葉に、ハナコは強く答えた。ミカが、少しだけ驚いたような顔をする。

 

「そもそも、ミカさんはトリニティ総合学園において最上級の武力を持つ方です。先生の指揮があっても補習授業部では勝てないほどの。それにアリウスの軍勢が付いているとなれば、シスターフッドがいても勝負になるかどうかのレベルです。……そんなことは、想定内。シスターフッドの役割も時間稼ぎに過ぎません」

「……そもそも負け戦に挑みに来たってこと?」

 

 不思議そうに首を傾げるミカに、ハナコは断固として否を叩きつける。

 

「あなたは見落としたんです。その方が、自分に都合が良かったから、それを「偶然」と思ってしまった。……トリニティ総合学園にはあなたに対抗可能な戦力は()()()()()()()

「……負け惜しみはそこまでにしておけば?」

「いえ、何度でも言います。あなたの負け、と」

 

 ハナコがそう言い放った瞬間、ミカの真正面の壁が派手に吹き飛ばされた。誰よりも早く、それに反応したミカは爆煙の中に弾丸を放つも弾かれて甲高い音だけが響く。

 

「容赦はいらないよ。ミネ」

「ええ、分かっています」

 

 ミカは呆然とした。聞き慣れた声だった。見慣れた仕草だった。

 

「……う……そ……」

 

 オブザーバー、朝日奈リエ。救護騎士団団長、蒼森ミネ。

 

「……これより、制圧を開始する」

「救護が必要ならば、そのように」

 

 シスターフッドさえもブラフに使ったトリニティ最後の切り札。それは確かに、夜明けの前に届いていた。




リエとヒフミのダブルパンチ食らっちゃったナギサ様かわいそうですね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。