「セイアちゃん襲撃事件について、でしたね」
ハナコは真剣な顔になって言った。
「まず実行犯ですが、これはご存知の通りにアズサちゃんで間違いありません。……ですが、セイアちゃんが襲撃されたのが3時に対して、アズサちゃんが侵入したのは2時。……二人はこの一時間、何をしていたんでしょうか?」
「……何かを、話していた……?」
「本人からはあまり聞けませんでしたが、彼女はこう言っていたそうです。「エデン条約は恐らく今のところはトリニティとゲヘナの間に平穏を齎す唯一の手段だろう。そうなれば、アリウスの問題を解決できるかもしれない。だが、アリウスがティーパーティーのヘイローを破壊するなら、キヴォトスは本当に戦火に包まれる。……君はそれを止めたいのか」……と。その後、アズサちゃんは彼女の死を偽装するため、部屋を爆破した。そしてセイアちゃんは、その後は救護騎士団団長、蒼森ミネに託せ……そのようなことをアズサちゃんに伝えたそうです。……ですが、結局今の彼女に居場所は……」
それを聞いて、サクラコは少し考えた。
「……とにかく、白洲アズサさん……彼女がトリニティに転校し、そしてナギサさんを守るために戦い、そして見事に守り抜いた。これは紛うことなき事実です。そして特別試験にも合格。……けちのつけようもありません。……ですが、その彼女の書類が偽装のままというのもバツが悪いでしょう。……ですので私がミカさんに代わって新たな保証人となります。リエさんにもそう伝えておきますので」
「……!ありがとうございます、サクラコさん!」
「元々リエさんのサインがあるならば大丈夫だとは思ったのですが……まあ、ダメ押しということにいたしましょう。……これで、一つの問題は片付いたと言えそうです。なので私はこれで」
そう言って、彼女はスタスタと部屋を出て行って、会議室に残されたのはハナコと先生だけだった。
「これでアズサも大丈夫そうだし……」
「……はい、ナギサさんにはリエさんがいます。彼女はもう大丈夫かと。……だから後は……」
「……ミカ、か」
先生は目を瞑って考え、思い出した。あまり交わした言葉は多くないが、それでも彼女が心からの悪人であるとは思えない。
「ナギサさん、リエさん、ミカさん。外から断じて良いものかは分かりませんが……彼女達は友人というレベルに収まるものではありません。それこそ家族、三つ子の姉妹のような……。真面目で慎重、石橋を叩いて渡るを地で行くナギサさんと、何でも器用にこなしてしまう、八面六臂を体現するようなリエさんと、感情的で活発で、正しく自由奔放なミカさん……。三人とも綺麗にバラバラで、いっつも違うことをしていましたが……それでも私は……「ゲヘナが嫌いだ」というだけでミカさんがお二人を裏切ってこんな事件を起こすとは……」
「……うん、私も同じように思う。ミカがわざわざ二人との仲を自分で引き裂こうとするとは思えないよ」
「……実はこの前、シスターフッドの手を借りてミカさんに会いに行ったんです。……そこに、彼女達も」
「失礼します、ミカさん」
「あ、二人共!いらっしゃい!揃って来てくれるなんて嬉しいな!」
「元気そうで良かった。……これ、新しいショッピングモールのお土産」
「……あ!これCMで見て欲しかったやつ!リエちゃん分かってるね!」
獄中とは思えないほどにフランクに、彼女達は立場を忘れて年頃の少女のような会話を交わす。
「何か不便なことなどは?変わったことなどはありますか?」
「牢屋だからティーパーティーと比べると色々あるけど……まあ全然マシかな!テレビもドライヤーも割とふかふかのベッドもあるし!……にしても、まさかこんなに早くバレてここに入るとは思わなかったなあ。今頃はナギちゃんが入ってるはずだったんだけど……」
「ミカさん……」
「まあ、どっかでは人間万事……人間万事……なんだっけ?」
「「人間万事塞翁が馬」……人生何が起こるか分からないって例え」
「そうそれ!まあ分からないから人生は面白いんだけどさ!」
本当に彼女は囚人で、本当に彼女達は危うく被害者になりかけたのか、傍から見たらそんなことは想像できないほどの会話。けれど、ミカは少し黙った後、少し神妙な面持ちになって口を開いた。
「……本当に、二人が来てくれるなんて思ってなかった」
「……」
「もう、二度と会えないとさえ思ってたんだ」
「……いえ、それはありえません。ミカさんと、リエさんと、私の……私達の仲です。そう簡単には壊れません」
「ふふっ、それもそうだね。……壊れるくらいのこと、しちゃったと思ったんだけどなぁ……」
「言い方が悪いよ、ナギサ。……私達の仲は絶対に壊れないから」
「リエちゃんはそう言うよね。……それで、二人共何しにきたのさ?尋問とかならされ飽きちゃったなぁ」
ミカは少し遠くを見て言った。リエは、私はどこで間違えたかなぁ、とぼんやり考えた。
「……『アリウススクワッド』は……」
「アリウスの生徒会長が作った特殊部隊。結構強いよ。……で、それだけ?アリウスに関しては本当に私、知ってる全てを吐かされたんだけどなぁ。お腹も脳も空っぽになっちゃうよ」
「いえ、それは既に確認しました」
「……じゃあ、まだ隠し事があるとでも思ってるの?そうだなぁ……あ!試しに爪とか剥ぐ?ナギちゃんには出来ないかもだけど……『魔女狩り』のリエちゃんなら出来るんじゃない?」
「ミカ」
「……っ、ご、ごめん。冗談。……でもさ二人共、もうアリウスとかどうでも良くない?
「はい、エデン条約の段階で、アリウスは脅威にはなり得ません」
「そうやって断言するのも私は危ないと思うけど」
「……あ、そうそう。結局、アリウス自治区の行き方は分からなかったよ。多分……錠前サオリ、スクワッドのリーダーしか知らないんじゃないかな?アズサちゃんに聞くのは……あの子口硬いから、結構頑張らないとかもね」
「……そっか、ミカでも
リエは少し目を瞑って思考を回す。その間にもミカは言葉を紡ぎ続けた。
「……でも良かったよ。ナギちゃん、先生にもちゃんと謝れたんでしょ?……先生さ、私のところにも何度も来てるんだ。無理矢理シャーレの権限で連れ出すとかじゃなくて、ただただ会いに来るの」
「……そう、ですか」
「なんか、全部面倒になった気もするよね。先生がどっちかの味方だったら……最悪先生がどっち付かずでも、リエちゃんがどっちかの味方なら……でも結局、二人共中立なんて選んじゃってさ」
「……私悪くなくない?」
「あっはっは!確かにそうだね。……でもさ、結果的にはナギちゃん大勝利じゃん。『トリニティの裏切り者』はこうして牢屋にいて、アリウスはもう脅威にならなくて……あとはエデン条約だけだね」
「……」
「ハッピーエンドだよ、もっと喜びなって!」
そう言って笑うミカに対して、ナギサは涙ぐみながら言った。牢屋とはいえそれなりに上質なカーペットにポタポタとシミが作られる。
「……出来ません……何がハッピーエンドですか……ミカさんが、裏切り者なのに……なんで、なんで……なんでミカさんは……私のヘイローを……」
「……」
「なんで……セイアさんを……あの時……セイアさんが倒れた時……「次は、きっと私だ」って……予知夢なんて特異的な才能を持つ彼女は真っ先に狙われて……ミカさんは政治はアレですし……リエさんはホストの資格を持たないから……なら、次は私だろうって……」
「私今ガッツリディスられた?」
「今は黙ってて」
「……だから、後はタイムリミットが来る前に二人に全部託そうと……ミカさんとリエさんが残される前に、どうしても解決したかったんです……ましてや二人に何かあったら私は……」
「……いいよ、ナギちゃん。これはそんなに悩むお話じゃない。幼馴染への愛情より、ゲヘナへの憎悪が上回った、哀れなティーパーティーがいた、それだけ」
「……それには、もっと別の……!」
まだ縋ろうとするナギサを、ミカは一蹴して笑った。
「あっはは!ほんっとうに、ナギちゃんはナギちゃんだなぁ。……そんな都合の良い話なんて無いよ。私が、ティーパーティーをみんな殺そうとした。それだけなの。ね、リエちゃんなら分かるでしょ?」
「……私には少し難しいかな」
「あっはっは!それならナギちゃんには尚更だね!……結局、二人は私のこういう面を知らなかった。……当たり前だよね。私だってナギちゃんの全てを知らないし、リエちゃんの全てを知らない」
「……それは……!」
「ナギちゃんが一番良く分かってるでしょ?「私達は他人だから」……シンプルな答えだもんね?」
ミカはそう言って、どこか悲しそうに笑う。いや、本人が悲しいのかは分からないが。それでも、リエはそれを彼女の本心だと思った。
「……今日は帰ります」
「……私も」
「……うん、気をつけてね、二人共。私にお見送りは出来ないけど」
来た時よりもドアが重い気がした。
まあ来なかったら自分で描きます
でもやっぱ下さい