ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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トリニティ生の感情は翼に出るらしい


記録23:調印式

 トリニティ総合学園から、通功の古聖堂までは数十キロ。リエとナギサは後輩の運転するセダンに揺られていた。

 

「……あと少し、ですね」

「だいぶ緊張してるね?……大丈夫だって、何かあっても私がどうにかするから」

 

 時刻は10時程、調印式の時間は12時から。十分すぎるほどの時間の余裕はあるが心の余裕はあまりないようで、ナギサはさっきからずっと外と車内を交互に眺めたり、太ももを人差し指でトントンと叩くなどと忙しない様子を見せていた。

 

「あ、あの……」

「どうした?」

「その……手を、握ってもらえませんか……」

 

 そう言って翼をヘナっとさせて、ナギサは少し恥ずかしそうに右手をリエの方へ差し出した。

 

「……はあ。しょうがない」

「……やっぱり、リエさんは温かいですね。冬の日の焚き火みたいです」

「冷房の効きすぎじゃない?……まあ、気が済むまで握ってあげる」

「あの、ナギサ様、リエ様」

 

 唐突に、運転席の後輩が口を開いた。サイドミラーに映る顔を覗くと、少し赤くなっている。

 

「お二人が長い付き合いで、深い仲というのは重々承知なのですが……その……」

「その……?」

「えっと……車内で惚気けるのは止めて頂きたいです……」

 

 そう言われて、二人も手を繋ぎながら赤面した。

 


 

「『この配信をご覧の皆さん、こんにちは!クロノス報道部、川流シノンです!』」

 

 第一回公会議の舞台ともなった『通功の古聖堂』前の広場の周りでは、クロノスジャーナリズムスクールのレポーター、川流シノンが中継を行っていた。彼女が修復後初公開となる古聖堂の紹介や、エデン条約の概要を現場から解説しているその後ろでは、トリニティのティーパーティー、そしてゲヘナの万魔殿が校旗を掲揚しながらにらみ合っている。

 

「『そしてご覧くださいこの光景!果たしてこれが手を取り合おうとする生徒達の姿なのでしょうか?!熱はこもり空気は張り詰め、まさしく一触即発といった様子であります!やはり私達の良く知るトリニティとゲヘナであったようです!』」

そういうの煽らないでよ!さっさと進めないとどうなっても知らないから!こんなビッグイベント滅多にないフィーバータイムなんだよ?!

「『……さて、外野も面倒なことになってきたところで次のお話です!先程、連邦生徒会による緊急記者会見が行われました!』」

 

 彼女の手振りとともに、中継画面は連邦生徒会のオフィスに切り替わる。

 

「『……以上で、会見を終わります』」

「結局連邦生徒会長は失踪したままなんですか?!」

「あれから連邦生徒会に対する世論は厳しくなっていますがどうお考えですか?!」

「『SRT』の閉鎖については?!」

 

 失踪した連邦生徒会長に代わり、連邦生徒会のトップを務めている首席行政官、七神リンが終了を宣言すると、各学園から訪れている記者達がバババッと手を上げて口々に質問を投げかける。

 

「『現時点で不確定な情報に関しては発言を差し控えさせていただきます』」

「『エデン条約』についてはどうお考えですか?!」

「『各学園への不要な干渉は控えるべきと考えています』」

 

 今キヴォトス中が注目する問題と言っても良い『エデン条約』に関する質問さえのらりくらりと交わす彼女に会場の雰囲気はどんどん悪くなる。そして記者や視聴者がモヤモヤを抱えたまま、会見は打ち切られた。

 

「『……はい!なんと無責任な連邦生徒か……え?無闇に敵を増やすな?……なんと心の広い連邦生徒会なのでしょう!まるで子供の喧嘩をニコニコしながら眺めている親の如しです!……っと、ここで会場に動きがありました!』」

 

 中継のカメラが動き、立ち入り禁止となっている通功の古聖堂前の広場に到着した一台の車を映し出した。トリニティでも最高級の特注の白いセダン、その中から手を繋いだ二人の生徒が降りてくる。

 

「『間違いありません!ティーパーティーホスト、すなわちトリニティ総合学園の生徒会長、桐藤ナギサです!手を繋ぎエスコートするのは同じくトリニティ総合学園の副会長、朝日奈リエでしょうか!』」

 

 おもむろに進む彼女達の足音は、野次馬が騒ぐ中で尚マイクに拾われるほどハッキリと鳴っていた。そして通功の古聖堂に近づくにつれ、ゆっくりと掲揚されていた校旗が上がり、彼女達の道を作る。

 

「……どう?まだ緊張する?」

「……いえ、少し視線が気になる程度です」

「そっか。じゃあ……」

 

 丁度クロノスのカメラを通り過ぎる瞬間、リエはフリーの右手をぱっと広げ、カメラに向かって微笑んだ。

 

……マジ?!ありがたぁ……

「『流石の副会長!マスメディアに向けるサービスも欠かせません!これがノブレス・オブリージュというやつでしょうか!洒落てますね!』」

「どう?これでナギサへの視線も減るでしょ?」

「……これは、これで……」

 

 トリニティでも全員顔だけは手放しに褒められると評判のティーパーティーのサービスショットに配信のチャット欄も一気に加速する。そんな中、広場を飛行船の作る大きな影が横切った。

 

「『……!間違いありません、あのマーク!ゲヘナの生徒会、『万魔殿』も会場に到着したようです!風紀委員会の空崎ヒナも間もなく到着するということで、続々と各学園の主要人物が集まってまいりました!』」

 

 あと30分ほどで式も始まる中、中継は盛り上がりを増していった。

 


 

「おまたせ、サクラコ」

 

 トリニティ、ゲヘナ、招待されたそれぞれの役職持ちが開始まで歓談する中、リエとナギサは最後の準備の指揮を執っていたサクラコに話しかけた。

 

「お二人共、まずはお疲れ様です。今日の調印式まで漕ぎ着けたのは間違いなくあなた方の手腕ですから」

「いえ、シスターフッドにもかなり協力していただきましたから。……本当に、ありがとうございます」

「ふふっ、そう言ってくださるだけでこちらも報われます」

 

 そして開始20分前にもなった時、リエはあることに気がついた。

 

「ところで、先生はどちらの方に?」

「彼女は……確かヒナタさんが通功の古聖堂の案内をしているはずです。間もなく戻ってくると思いますが……」

「……ごめん、少しだけ外出る」

「リエさん?どうかされましたか?」

「車にスマホ置いてきたかも。すぐ取ってくるから」

「承知致しました。くれぐれも遅れることのないようにお願いします」

「了解。それじゃ」

 

 リエは人の少ない裏口から、軽い足取りで駆け出した。

 


 

「それじゃあ皆さん!補習授業部お疲れ様でした!かんぱーい!!」

「かんぱーい!」

「乾パーイ♡」

「かん……ぱい……?」

 

 ヒフミの掛け声に合わせてドリンクバーの入ったグラスをカチンと合わせる。調印式も間もなく始まろうとする中、補習授業部は四人で市内のファミレスに来ていた。

 

「……にしても、今日は騒がしいな」

「今日はエデン条約調印式ですからね!トリニティでも祝日扱いですし、街も人がいっぱいいてお祭り騒ぎです!」

「折角の打ち上げなので先生もご一緒できれば良かったんですが……調印式の方に呼ばれているそうで……」

「……これで、補習授業部も終わりなんだよね……」

「あら?泣いてるんですか?コハルちゃん」

「そんな訳無いでしょ!……でも、どうしても会いたいって言うなら私は正義実現委員会の押収室にいるから……!」

「ああ、毎日遊びに行く」

 

 いつもと同じような、でもほんの少ししんみりしたような、でもなんだか楽しいような、そんな雰囲気が漂う中、店員が補習授業部の下にメニュー表を持ってくる。

 

「ヒフミ、これ頼んでも良い?」

「はい!じゃんじゃん頼んじゃって下さい!ティーパーティーから食べ放題券を譲ってもらったので!」

「ナギサさん……随分太っ腹ですね?」

「確かにこの前は戦車も頂いちゃいましたし……こんなに色々貰っちゃったら悪いですかね……?」

「……いえ、むしろどんどん搾り取って差し上げましょう!」

「え、ええ?!それはそれでマズイんじゃ?!」

「……そういえば、私もいつかヒフミにお返ししないと」

 

 そう言って、アズサはヒフミから貰ったペロロ博士のぬいぐるみを取り出した。

 

「も、持ち歩いてくれてるんですか?!」

「うん、大事なものだから。折角なら肌身離さず持っていたい」

「そ、そこまで……ですか?……なら、せっかくだし他のモモフレンズも集めに行きましょう!」

「うん、楽しみにしてる」

「他にもグッズだけじゃなくて今度映画が……仲間と協力して苦難を乗り越えるハッピーエンドのお話だそうで……!」

「ハッピーエンドは分からないけど……少し見てみたいかも……」

「すいません、ピザとポテト一つ」

「ポテトは大盛りで!」

「かしこまりました」

 

 二人がモモフレ談義にハマっている中、ハナコとコハルは一足先に注文していた。そしてしばらく他愛の無い会話をした後に、アズサは唐突に席を立った。

 

「……アズサちゃん?」

「あんなに急いでるんだもん!トイレに決まってるでしょ!」

「……しかし、トイレはあちらでは……?」

 

 そんなことを言って、ヒフミは何気なく窓の外を見る。その瞳が映したのは、古聖堂へ落ちる『それ』だった。




ティーパーティーは顔だけは手放しで褒められる(一般常識)
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