あと今回はリエが主人公でクソ強い回です
「……何が……起きた……?……ナギサは大丈夫……?」
駐車場を転がり、粉塵を吸い込みながらも、咳をすることさえ忘れてリエは呆然と呟いた。劈くような音が鳴り、全てを薙ぐような爆音が響いた。大地が爆ぜるような衝撃が広がって、古聖堂はただただ焼き尽くすような爆炎に包まれていた。必死にあらゆる情報を繋げて、リエはすぐさまその答えに辿り着く。
「……巡航ミサイル……」
僅かに痛む身体を起こし、転がったハンドバッグからグレネードランチャーを取り出す。
「……助けなきゃ……」
リエはようやくホコリを払って、崩れ落ちる古聖堂へ走り出した。
「……地獄絵図、か……」
古聖堂に足を踏み入れてすぐ、リエは溢した。ヘイローの消えかけた生徒達、足の踏み場もないほどに崩れた広間。でも足を止める暇なんて無くて、その上をただひたすらに走り続ける。
「……あーあ、台無しだ……」
そしてさっきまで自分がいた……つまりナギサとサクラコがいた場所に辿り着くなりリエはグレネードランチャーを乱射した。丁度弾倉が空になって、ようやく二人の顔が瓦礫の下から出てきた。
「……アリウス、かな」
二人を担ぎ上げ、リエはそう呟いた。別に明確な証拠があるわけでもないし、それが正しいなんて保証もない。ただ、このどうしようもない感情をぶつけるに相応しいと思ったから。その矛先として、丁度いいと思ったから。
「……行こう」
その身に余るほどの感情を焚べ、リエは駆け出した。
「……!いたぞ!『ティーパーティー』だ!」
「朝日奈リエ発見しました!桐藤ナギサと歌住サクラコも一緒です!」
「……私両手塞がってるから」
二人を両手に抱え、古聖堂の辛うじて無事な廊下を駆け抜ける、その途中でのエンカウントだった。幸か不幸か、リエの見立ては当たっていて、アリウスの部隊何十人程度が待ち伏せて銃口を向けている。けれど、彼女は酷く冷静に一瞬足を止めた。
「こんなことしか出来ないけど」
リエはその翼で壁を殴った。崩れかけの通路にヒビが伝播し、アリウスの頭上の天井が崩落する。そしてアリウスが沈黙した後に、リエは二人を担いだままその瓦礫の上を飛び越えた。
「……ここなら大丈夫。……本当にごめんね、二人共」
再開発の際に、作っておいたセーフハウス。そのベッドに二人を寝かせて、リエは応急処置を始めた。二人共多少の擦り傷や打撲はあるが、命に関わるような傷は残っていなくて、ただ気を失っているだけのようだった。
「……しばらくしたら、救護と正実、どっちも来るから安心して」
ひとまずはリエにとっての最優先は彼女達。応急処置を終えてから、用意出来るだけの装備を準備し始める。
「……大丈夫、絶対死なせない。ナギサ、サクラコ」
返事がないままの二人に手を振って、リエは部屋を後にした。
セーフハウスを出て、ひたすら硝煙の匂いが濃い方へ。正義実現委員会も風紀委員会も入り混じってアリウスに抵抗するものの、あまり芳しい状況ではない。そんな景色の中を行きながら、リエは電話を取った。
「……朝日奈リエ。現状は?」
「『やっと繋がった!かなりヤバいっす!ツルギ先輩とハスミ先輩は連絡取れず正義実現委員会半壊!先生がゲヘナの空崎ヒナとか率いてアリウススクワッドと交戦してますが、状況は最悪!それに不死身の人型実体……『ユスティナ聖徒会』が数百じゃ収まらない規模で……!』」
「場所は?」
「『三番街の第二道路っす!急ぎでお願いします!』」
イチカからの電話が切れ、リエは全速力で崩れる街を駆け抜ける。トリニティ襲撃とは比べ物にならない程のアリウスが押し寄せており、それに古文書で見たような『ユスティナ聖徒会』が混ざっている。
けれど、今はそれについて考えてる暇などなく、気がつけば三番街はもう目と鼻の先。多くの生徒が倒れ込む街並みを抜け、戦場に飛び込みながらリエがグレネードランチャーの照準をアリウスに合わせた瞬間、一発の銃声が酷く響いた。
「……先……生……?」
先生の腹部を、凶弾が貫いた。庇おうとしたゲヘナの風紀委員会委員長、空崎ヒナもその場に伏せ、立っているのはリエだけだった。
「……空崎ヒナ、シャーレの先生、共に沈黙を確認」
「……間に合わ、なかった……?」
「あとはお前だ。朝日奈リエ」
「こちらに!!」
「ああああああっっ!!!」
傷だらけになりながらも、最後の力を振り絞って立ち上がったヒナがアリウスを食い止めたその一瞬でリエは先生を担ぎ上げ法定速度など優に上回ったゲヘナの救急医学部の救急車に滑り込む。触れた腹部から、ドクドクと熱い感覚が手を濡らす。
「……助かる?」
「五分五分です。ですがどうにかします。……ありがとうございます、朝日奈リエさん」
徐々に呼吸の小さくなっていく先生を救急車のストレッチャーに乗せ、リエは天井を見上げた。
「ううん、私がそうさせた。先生もこうなるかもって、なんとなく分かってはいたけど、それでも私は幼馴染を優先した」
「いえ、私はそれを咎めません。「救える命を救う」、それが医療の基本です。私でもそうしたと思いますから」
「そっか、ありがとう。……カッコいいね」
そう言って、救急医学部部長、氷室セナに別れを告げて救急車から飛び降りようとした時、先生は小さな声でリエに伝えた。
「……大丈夫……ピアスは壊れてないよ……」
「……そっか」
リエはこみ上げる感情を抑えて、救急車を飛び出した。
「……頑張るよ、先生」
恐ろしいまでのスピードで混乱が伝播する中、学園に戻ったハナコの下に一本の電話が入った。
「……リエさん……ですか?」
「『一度しか言わないから』」
「……」
電話越しにさえ感じる、明らかに普段と違う彼女の様子に事態の緊急性を悟りながらも、ハナコは目を瞑り、彼女の声に集中した。
「『トリニティの全軍撤退、ゲヘナにもそう伝えて。巻き込まれたら全員ただじゃすまないから。それと、今からティーパーティーの全権、トリニティの運営をシスターフッドに任せる』」
「緊急時にはオブザーバーが一時的にホスト権限を持つはずですが……」
「『無理、私は戻れない。あと一つだけ頼みがある』」
「なんですか?」
「『一日でトリニティ立て直して』」
そう言い残して、リエからの電話はプツリと切れた。ハナコは人混みの中を大聖堂へ向かって走り出した。
「……これで邪魔者は全員消えた?」
「た、多分そうだと思います……」
「……いや、一応まだ『オブザーバー』が残っている。だが問題無い。あれがいてももうアリウスは止められないからな」
「うん、トリニティもゲヘナも主力軍は壊滅してる。一部は撤退したみたいだけど……まあどうにかなるかな」
銃声の止んだ街で、アリウススクワッドは話していた。ゲヘナの空崎ヒナも、トリニティの剣先ツルギも排除して、桐藤ナギサも行方不明。そしてシャーレの先生は恐らく殺した。もう、彼女らを阻む壁など残っていない。
「……そういえば、『魔女狩り』って結局なんだったんでしょうか……?」
「ここ数ヶ月は情報が全くないし引退したんでしょ。トリニティは剣先ツルギくらいしかイカれたのいなかったし」
「これよりトリニティに攻め込む。……第一回公会議の恨みを晴らし、トリニティをキヴォトスから消し去る時だ!」
アリウススクワッドのリーダー、錠前サオリの合図で、アリウス全軍とユスティナ聖徒会は道路一杯に広がって前進する。瓦礫を踏み越え、残された装備を踏み越え、トリニティを制圧せんと動く彼女らであったが、彼女はそれを許さなかった。
「なあああっ?!」
「っ?!」
突如として、街に置かれた開閉器が爆ぜた。道路に容易くクレーターを作るほどのその爆発は連鎖して、辺りの一部のビルをも崩し始める。
「散れ!巻き込まれるぞ!」
「……これ、偶然じゃない……?」
「最初から誰かが仕込んでないとこれだけの爆発は起こりようがない!だとすれば……!」
そして決して少なくない人数を巻き込んだ後に、唯一つ、余裕そうな声が響いた。
「ちゃんと避けたんだ。お疲れ様」
「貴様は……!」
「さっきぶり、錠前サオリ。あとは……戒野ミサキ、槌永ヒヨリ、秤アツコだよね。よく見るとみんなあんまり変わってない」
その声は、瓦礫の上から聞こえてきた。彼女は表情を崩さず、ただ淡々とアリウスを見下ろしている。その光のない目が僅かな恐怖を、足を絡め取るような、引き金を引くことさえためらうようなプレッシャーで空間を満たしつつも、彼女ただ一人はその笑顔を崩さずに話し続ける。
「歓迎するよ、アリウス。……改めて、トリニティ総合学園、ティーパーティーオブザーバー、朝日奈リエ」
彼女がそう言って笑ったその瞬間、大地が再び大きく爆ぜる。
「ああ、『魔女狩り』って言った方が分かりやすい?」
トリニティ最高戦力の瞳に、火が点いた。
燃え残った全てに火を付けようとしてるので実質アーマード・コアⅥ