ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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主人公がしばらく出てきません!


記録27:決別

 それは、どれだけの確率だったのだろうか。砂漠から望んでいた宝石一粒を取り出すような、あるいはシャッフルしたトランプが順に並ぶような、それくらいの話だった。しかし、現実はその確率を引き当ててしまった。もしかしたら宝の地図に導かれたのかも知れないし、イカサマが行われたのかもしれない。いや、意地の悪い神の思し召しだったのかもしれない。だが、その結果はもたらされた。

 トリニティが混乱に包まれる中、姿を消したアズサをヒフミはずっと一人で探していた。コハルは正義実現委員会で、ハナコはシスターフッドでそれぞれ奮闘する中、彼女を探せるのは自分だけだったから。そして日も暮れてしばらくして、彼女はようやく、奇跡的に辿り着いた。辿り着いて、しまったのだ。

 

「……何してるんですか……?……アズサちゃん……?」

 

 古聖堂のある街へ入るための大きな橋。それに足を踏み入れようとした瞬間、聞き慣れた声が響いた。アズサは、振り返るのを躊躇った。

 

「今、トリニティは大変なことになってるんです……!古聖堂が、爆破されて……」

「……うん、知ってる」

「な、なら一緒に戻りましょう!今、ハナコちゃんがシスターフッドで頑張って……!」

「……それは、出来ない」

 

 その答えを聞いて呆然とするヒフミに、ようやくアズサは振り返って話し始めた。

 

「……これは、誰かが解決しないといけない問題だ」

「そ、それなら一緒に……!」

「来ないで!!」

 

 自分に近づこうとしたヒフミを、アズサは強く牽制した。ヒフミは「どうして」と問いかけるように彼女の目を見た。

 

「……ありがとう、ヒフミ。その思いは、とても嬉しい。……だけど、ここから先は駄目だ。ヒフミは、こんな暗いところには来ちゃいけない……」

「何のお話ですか……?私じゃなんで駄目なんですか……?」

「平凡で、善良で、優しいヒフミが……『人殺し』なんかと、友達でいていいはずがない」

「そ、それって……」

「……私のせいだ。私がトリニティに来たせいで、今多くの人が傷ついてる。正義実現委員会も、ティーパーティーも、シスターフッドも、ゲヘナだって……セイアがああなったのも、先生が撃たれたのも私が……」

「で、でもそれは……」

「……ヒフミ、それにハナコにコハル。このままじゃ、みんなまで危険な目に合う」

「い、いえ!先生もきっとすぐに目覚めます!私達もきっと大丈夫です!ですから、ですから……!」

 

 ヒフミは縋るような顔で必死にアズサを引き止めようとするが、アズサは冷たく突き放した。

 

「そんなハッピーエンドなんて、この世界には有り得ない。……だから、私がやる」

「でも……」

「……私は今から、サオリのところへ行って『ヘイローを破壊』する。……それしか、この状況を変える方法は無い」

「そ、それってつまり……」

「……人を殺す。それが当たり前と教わり、それを当たり前に出来る……それが私だ。本当の、私なんだ」

「待って下さい!方法ならまたみんなで考えれば……!」

「……ヒフミ」

 

 アズサはガスマスクを外すと、そう訴えかけるヒフミの目を見た。少し、潤んだような瞳だった。

 

「私を友達って言ってくれて、そう思ってくれてありがとう。「アズサちゃん」って呼んでくれてありがとう。可愛いぬいぐるみをくれてありがとう。海に連れて行ってくれて、楽しい思い出を作ってくれてありがとう。可愛いもの、楽しいこと、私の知らないことを教えてくれてありがとう」

「……」

「一緒に食べたアイスの味、あの難しかった問題、プールの水の冷たさ……あの素敵な補習授業部での時間、一生覚えてる。一緒に学ぶことの楽しさ……私は死んでも忘れない。……本当に、補習授業部にいられて良かった……」

「待って下さい……アズサ、ちゃん……。まだやってないこといっぱいあるじゃないですか……?お祭りも行ってないし、映画だって見れてません……それにまだ……きっと先生と、みんなと一緒ならきっと……だから……行かないで下さい……」

「……ありがとう、ヒフミ。……さよなら」

「……待って、下さい……っ……待って下さいアズサちゃんっ!!!」

 

 精一杯の声を出して、ヒフミはその場に崩れ落ちる。暗い空に、叫び声がこだました。

 


 

 彼女達がアジトに戻ったのは一時手前。ティーパーティーオブザーバー、朝日奈リエによる徹底的な抗戦によって大きく戦力を削がれたアリウスは撤退を余儀なくされていた。

 

「……ほんと何なの、アレ。アレだけ積んでるジェネレーターもスペックも違い過ぎない?生物種が違うよ」

「こっちもかなりやられちゃいましたし……どうしてこう上手く行かないんでしょうか……」

「……まだだ。複製がある以上、増援を待ったとしてもトリニティとゲヘナの主力の復活よりもこちらが早く仕掛けられる。作戦に多少の遅れが出るだけ、奴の抵抗も無駄なものに過ぎなかったということだ」

「例の『戦術兵器』は……いや、あれさえ対処してきたっておかしくない。確かに、アレの回復する前に叩くって意味では賛成出来る」

「……」

 

 アリウスと取引を交わし協力関係となっていた、『ゲマトリア』の『マエストロ』が作り上げた戦術兵器、それについてアツコは手話で見解を述べた。

 

「……「あれは『太古の教義』に基づいて作られた失敗作」……失敗作?あれで?……「その意味としては失敗作でありながらも戦術兵器としては十分」……?」

「ならそれでいい。すでに自治区への連絡も済んだ。間もなく増援が到着する。夜明け前には仕掛けられるだろう。……いや、待て……」

「どうかした?リーダー」

 

 ふと考え始めたサオリに、ミサキは声を掛ける。彼女はしばらく考え込んだ後に、小さく問いかけた。

 

「……私達は、どれくらいここを空けた?」

「ええっと……私達がここを出たのがお昼前なので……かれこれ13、4時間くらいでしょうか……」

「……構えろ。あいつがここにいる」

「あいつ?」

「……」

「あ、アズサちゃん、ですか?」

 

 ヒヨリがそうアツコに聞き返した瞬間、壁が大きく爆ぜた。

 

「ひ、ひいぃっ?!に、逃げないと!」

「っ、ブービー?!いつの間に……?!」

「あ、こ、こっちにもあるんですか?!」

「……?!」

「動くなっ!!」

 

 慌てて逃げようとしたヒヨリ達をサオリが一喝した。

 

「こういう手は慌てて動けば動くほど余計に抜け出せなくなる。なるほど、相変わらず、姑息な手だけは上手い。しかし一度冷静になってしまえば……」

「だ、駄目ですよ!きっと周りにも沢山……早く逃げないと!」

「ヒヨリ!」

 

 一目散にその場から離れようとしたヒヨリが再び爆発の連鎖に巻き込まれる。アジトが真っ黒な爆煙に満たされた。

 

「……っ!」

「どうしてこう……人生は、不幸なことばかり……」

 

 先程の戦闘からダメージも溜まっていたヒヨリがいち早くその場にダウンした。爆煙が晴れた後に、彼女らは言葉を交わす。

 

「……明らかにヒヨリから狙ってる。狙撃手からやったってことは……」

「近接か?」

「……」

「……そうなると、本当にあの女の爪痕が馬鹿にならな……っ、IED?!」

 

 再び、部屋を真っ黒な爆煙が包んだ。そして、上がる煙の隙間からガスマスクを付けたアズサが見えた。サオリは激昂し、それを追いかける。

 

「白洲アズサァッ!!」

「リーダー、追いかけたらそれこそ……」

「逃がすか!!」

「……駄目っぽい。姫、ヒヨリは?」

「……」

「なら良いけど。……長期戦?……確かにアズサなら……うん、行こう」

 


 

「その程度効くと思うか?!だがその判断は間違っていない!真正面からでは例えこちらが多少削れていようとお前に勝ち目はない!」

「……!」

「逃げながら隙を狙うしかないだろうな!!」

「……次は……?!」

 

 サオリの追撃を避けながら廊下を走り抜けた先でアズサを待っていたのはアツコだった。出会い頭の銃弾が胴体に直撃する。

 

「……」

「断る」

 

 「アズサを傷つけたいわけじゃない。諦めて降参してほしい」というアツコの提案を蹴って、近くのブービートラップを起動して逃げるアズサ。それを追いかけてきたサオリをミサキがすかさず止める。

 

「……このままじゃキリがない。『ユスティナ』はまだ使えないの?」

「アズサ相手だとおそらく『対象』として解釈されないだろう」

「ふーん、意外とお硬いんだ」

「それどころか、アズサが『アリウススクワッド』と解釈されたのなら向こうの手に渡る可能性すら否めない」

「……まあ、元々奪ったものだしそんなものか」

「あいつの戦い方、考え方、その基礎は全て私が教えたものだ。私に捌けない道理はない。……追うぞ」

「行っちゃった……じゃあ、私と姫もそれぞれ別の道から詰めよう……っ、何?!また?!」

 

 そう言って、ミサキとアツコも二手に別れようとした時、フロアが地震のように揺れ始め、天井の破片が少しずつ落ちてくる。さっきのトラウマが蘇って、二人は全速力で走り出した。だがその足掻きも虚しく、アツコは辛うじて逃げ切ったものの、徐々に規模を増していく崩落はミサキを無慈悲に飲み込んだ。

 

「……ゲホッ……これ、動けないな……まあ、あの女相手よりはマシか……」

 


 

「チェックメイトだ、アズサ」

「くっ……」

「お前にしては中々頑張った。……だが、お前の思考、戦法、そんなものは私は最初から分かりきっている。最初から無駄な抵抗だったということだ」

「……いつからだ?」

 

 獲物のアサルトライフルは遠くへ蹴り飛ばされ、額にはサオリのアサルトライフルが突き付けられている。絶望的な状況で、アズサは尋ねた。

 

「『ヘイローを壊す爆弾』も、巡航ミサイルも、あんなものなかったはず。……いつから、アリウスはおかしくなった?」

「アズサ、お前は弱い。弱いからこうなった。お前は意志が弱いんだよ。爆弾も、ミサイルも、全て私達の意志を、恨みを証明する道具でしか無い」

「……二度は聞かない。『いつから』だ?」

「……どういうことだ?」

 

 アズサはサオリの冷たい瞳を覗き込んだ。

 

「その恨み、私はただ習わされただけだ。私のものじゃない。……ならそれは一体『誰』のものなんだ?」

「……虚しいな、アズサ」

 

 答えることもなくそう呟いて、サオリは引き金を引いた。

 

「全ては虚しい。……そうだろう?アズサ。お前があそこで何を学んだかは知らないが、それさえも虚しいこと。……その、お友達からのプレゼントもな」

 

 撃たれ続けたアズサの上着から、一つのぬいぐるみがポトリと落ちた。ヒフミからのプレゼントだった。

 

「……終わりだ、アズサ」

「……」

 

 トドメを刺そうとしたサオリを、ようやく追いついたアツコが止めた。そしてその一瞬の隙を突いて、アズサはトラップを炸裂させ再び逃げ出した。

 

「まだ逃げるのかアズサ!!」

 

 追おうとしたサオリを、またアツコが止める。我に返ったサオリは、落ちていたぬいぐるみを拾い上げた。

 

「……まあいい、あいつはすぐ戻ってくる。この大切な『友情の証』とやらを置いていったからな」

「……」

「ああ、その時にまた捕らえて真実というものを教えてやる」

 

 そう言って、それを握り潰そうとしたサオリだったが、その手には違和感があった。明らかに見た目と違う固い感触、カチカチと刻むような振動。彼女はその指で布を千切り裂き、無理矢理にその中を開いた。

 

「っ?!」

 

 酷く見覚えがあった。忘れられようもない物だった。チックタックと刻む音がスローモーションに鳴り響く。

 

「これは……セイア襲撃の時に渡した……?!逃げろ姫!!」

「……?!」

 

 ヘイローを破壊する爆弾が、キヴォトスという地において、その時初めて起爆した。




アズサってめちゃめちゃ可愛いですよね
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