ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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三人は多分クラスもずっと一緒


エデン条約・アリウス編
記録33:再演


「……あっちだ!追え!」

 

 雨音、そして水溜りを踏み散らすいくつもの足音が響く。そしてそれを追うさらに多くの足音。

 

「だ、ダメです……こっちはもう行き止まりで……」

「反対も。……もうおしまいかな」

「くっ……」

 

 トリニティ内の廃墟を逃げ回る彼女達を、アリウスは淡々と追い詰める。先日のエデン条約調印式への襲撃に失敗して以来、アリウススクワッドは逃亡生活を余儀なくされていた。万全を期したリエによるオブザーバーとしての壮絶な抵抗に、覚悟を決めたアズサからの本気の攻撃、そして信念を宿した阿慈谷ヒフミと先生の率いる補習授業部との戦いによって作られた決して浅くない傷もあって、彼女達は大きく消耗し、もう逃げられない状況まで陥ってしまった。

 

「……まだ、最後の手段は残っている。これなら……」

「そ、それ……」

「……『ヘイローを破壊する爆弾』。桐藤ナギサ用のやつ……」

「ミサキ、ヒヨリ、姫を連れて逃げろ。私が時間を──」

「サオリ」

 

 そう言って、一人で前に出たサオリをアツコは止めた。

 

「もういいよ。私達は十分頑張った」

「ひ、姫ちゃん……?」

 

 戸惑うヒヨリと、無言で彼女をみるミサキ、唖然としたサオリを尻目にアツコはスタスタと追手のアリウス生に近づいた。

 

「『彼女』の望みは私でしょう。違う?」

「姫……?」

「なら、私が行くよ。だから三人は……どうか見逃して欲しい」

「何をしてるんだアツコ?!」

「……もう無理だよ、サオリ。ここから逃げて、次はどうするの?ゲヘナにでも行くの?トリニティでティーパーティーにでも匿ってもらうの?……もう、私達に逃げ場なんて残ってないの。……私がいる限りは」

「……」

「ダメだアツコ……戻ったら間違いなくアツコは……!」

「大丈夫。今までさんざんみんなに助けてもらったんだから、ここから先は一人で大丈夫だから。……それで、約束してくれる?みんなを自由にしてくれるって」

「……今、マダムに確認を取る」

「『……なるほど。分かりました。その程度のことならばお約束致しましょう』」

「その名に懸けて、誓って。『絶対に』って」

「『……よろしいでしょう。全ての巡礼者の幻想たる、この『ベアトリーチェ』の名に懸けて、お約束致します』」

「……うん、ちゃんと守ってね。傷つけたら怒るよ」

「姫様、こちらを。マダムからのご命令です。「勝手にマスクを外さぬように」と……」

「『では、彼女が戻り次第、準備を始めます。儀式は暁と共に』」

「……元気でね、サオリ、ヒヨリ、ミサキ。……さようなら」

 

 アリウスに手を引かれて夜の闇に消え、雨模様に溶けていくアツコ。その場に残された三人は深く、深く項垂れた。

 


 

「あと一分!」

「やばいやばい同点だよ?!ボール相手持ってるし!」

「止めて止めて!」

 

 トリニティ総合学園、六限目。体育の授業で、彼女達はサッカーボールを追いかけて広い天然芝のグラウンドを駆け回っていた。

 

「あと三十秒!」

「ああもうリエ任せた!」

「了解っ!」

 

 その声とともに、ディフェンスについていた彼女は一気にポジションを上げる。そしてタンッと軽く跳ねると、パスを回しながらゴールに迫っていた相手から、ただ一瞬足を離れたボールを掠め取った。

 

「はあ?!ちょっ、それは……!」

「よっしゃナイス!」

「そのままぶち込んじゃえー!」

 

 彼女の強襲に僅かに反応の遅れた相手のディフェンスを見事に抜き去って、彼女は軽く浮かせたボールを鋭く蹴り飛ばす。それがゴールネットを突き上げたほんの少し後、授業終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

 

「もー!リエズルい!学年トップのくせに容赦なさすぎない?!」

「そうそう!もう少し強者の余裕頼むって!『ノブレス・オブリージュ』!」

「でもさ、二人だって結構お嬢様じゃなかった?」

「うぐ……でも聖園とか桐藤とかに比べたら……ってリエこそ朝日奈じゃん!」

「ホントだよ!どの口がお嬢様とか言ってんだこのやろー!」

 

 他愛のない言葉を交わしながら、更衣室へ向かう彼女ら。けれどその途中で、その内の一人がボソッと呟いた。

 

「……そういえば、ミカちゃん、大丈夫かな……」

「ね、ほんと心配になる……私差し入れとか持っていきたいんだけど、どこ行けばいいか分かんなくてさ……」

「あー、ミカと仲良かったもんね、リエほどじゃないにしても。……リエは大丈夫なの?」

「……まあ。たまに会って話してるし」

「そっか……にしても絶対裏があるって!」

「そうかな?なんで?」

「だってあんなにナギサとリエと仲良かったミカが二人のこと裏切るはず無いじゃん!お昼とかもいっつも三人だしさ!」

「私もそう信じたいけど……で、実際リエちゃんはどう思ってるの?」

「……私も、そう思ってるよ」

 


 

「……よくお越しくださいました、先生。この前はお世話になりました」

「ううん!にしてもトリニティもだいぶ落ち着いてきたみたいだね!」

「はい、おかげさまで」

 

 数日ぶりにトリニティを訪れた先生に、ナギサは紅茶を振る舞っていた。幸いにもお互いほとんど後遺症は残らず、気まずい雰囲気になることはなかった。

 

「ところで、リエはどこ?お出かけとか?」

「いえ、リエさんならあちらで……」

 

 そう言って、ナギサは隣の部屋の扉を少し重そうに開ける。少し開いた隙間から、ひんやりとした風が流れてきた。

 

「リエさん、シロップのお代わりというのは……」

「あ、冷蔵庫にあるから勝手に持ってって」

「……なるほど、本当に天然のものだと頭が痛くならないんですね」

 

 そこには、美味しそうにかき氷を頬張るリエ達の姿があった。少し大き目のかき氷機の隣にはレッドウィンターのラベルが貼られたクーラーボックスが置かれていて、中には天然の氷がぎっしりと入っていた。大きなテーブルの上にはゴロゴロと果肉の入ったシロップが何種類も並べられていて、それぞれに「ぶどう」「いちご」「マンゴー」などとのれんのようなものがぶら下がっている。

 

「……いらっしゃい、先生。どれにする?」

「あ、私みかんがいいな!」

「了解。ナギサは?」

「そう、ですね……では、「宇治金時」なるものを一つ」

「オッケー、ちょっと待ってて」

 

 リエはジュースのようにかき氷を飲み干すと、慣れた手付きで機械を動かし始めた。少しして出来上がったそれは先生の良く知る、ゴツゴツとした氷の粒のようなかき氷ではなくて、ふわふわの、積りたての雪のような見た目だった。そこにまんべんなく掛けられたみかんの粒が混ざったシロップ。先生は添えられた木のスプーンでそれを口に頬張った。

 

「……!口の中ですぐ溶ける……!」

「凄いでしょ?機械はミレニアムに特注して、氷はレッドウィンターの凍土から切り出してもらったやつ。それ以外にもかなり良い素材集めたから……いわゆる『ベストトゥベスト』。やっぱりかき氷はこうでなくちゃね」

「……んぐっ、この苦味と甘味の絶妙なバランス……たまには緑茶も悪くないかもしれませんね……」

「リエさん、その……まだお代わりは……」

「任せて、まだ半分以上残ってる」

「かき氷……暑さ対策で悪くないかもしれません……」

 

 結局、新体制のティーパーティーに先生を招いての会議が始まったのは、氷が無くなってからだった。




かなりアリウス好き
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