「……それでは、改めて話し合いを始めましょうか」
シルクのナプキンで口についたシロップを拭き取って、ナギサは切り出した。先程まで腹痛に喘いでいた先生も、見事リエとのトイレ使用権を懸けたじゃんけんを制しとても爽やかな顔をしている。そして死にそうな顔をして部屋を出て行ったリエも戻ってきて、真面目な話が始まった。
「あー……死ぬかと思った……それで先生、早速だけど新要素。これからティーパーティーはシスターフッドと救護騎士団に協力してもらうことになったから。まあ、セイアも怪我明けで部屋から出られず、ミカは牢屋で、ティーパーティーの絶対性、権威が揺らいでるっていうのが理由かな」
「はい、リエさんの仰る通り、サクラコさんとミネさんにも参加いただく事になりました。ご理解の程、よろしくお願いします」
「シスターフッドも少なからず変わらなければいけないと痛感しましたので。まずは、このような席から少しずつ役割を果たしていこうと思います」
「私はただ私の役目を全うするために」
「ええっと……牽制、っていう認識で大丈夫?」
「いえ、私は純粋に興味があっただけです」
「私は政治は分かりませんから」
「サクラコは知っての通りシスターフッドのリーダー、ミネはトリニティ最古の部活、『救護騎士団』団長にして『ヨハネ分派』の首長。二人共、この席に加わるには十分な格がある」
「そういうこと……」
「……それで、この席は決してかき氷を食べようなどという集まりではなく、エデン条約を巡る一連の事件の顛末についての再確認及び事後処理の為の……まあ、いわば『後始末』の場です」
そう言って、ナギサは湯気の立った紅茶を啜った。空のティーカップとソーサーをコトン、と机に置いてミネが話を続ける。リエは話を聞きながら、手帳をパラパラと見返していた。
「改めて、全体の大まかな流れの確認です。……まず、ミカ様がアリウスに命じ、アズサさんがセイア様を襲撃、その治療には周知の通りに私が。そして、私が彼女を連れてトリニティを離れている間に、ナギサ様は補習授業部を退学にしようと策謀を巡らせ、それを察したリエが補習授業部と接触、そして補習授業部は多くの妨害を受けながらも、アリウスとミカ様の襲撃からトリニティを守り、試験にも無事合格。ここまででナギサ様は許されざる非道を働きましたが……彼女らが許している、というのであれば言うことはありません。そして調印式。アリウスからのミサイル攻撃に加えて、特殊部隊『アリウススクワッド』率いるアリウス本隊による襲撃。これによって正義実現委員会やシスターフッドが多大な被害を被り、ナギサ様とサクラコ様も負傷、先生も銃撃により傷を負うなど甚大な被害が出ましたが……リエの抵抗と、ハナコさんが指揮を執ったことによる早期の立て直し、そして先生率いる補習授業部の奮戦によって見事アリウスを退けた……私の知る限り、大まかな流れはこうなっているはずです。何か補足や訂正などは?」
「いえ、わざわざありがとうございました。……それで、この事件の鍵、或いは結び目となっているのは間違いなく『アリウス分校』です。万魔殿のマコト議長も、ミカさんもアリウスの手のひらの上だった……そうも言って差し支えないと思います。マコト議長は「アリウスは元はトリニティなんだから、自分達はトリニティから攻撃を受けた被害者だ。トリニティに全ての責任がある。ついでに散髪代もそっちが払え」と仰っていましたが……電話会談にてリエさんが舌戦を仕掛け、文字通りの圧勝、逆に飛行船が領空侵犯していると賠償金をもぎ取ることに成功したそうです」
リエはパタン、と手帳を閉じた後に口を開く。先生はナギサに紅茶のお代わりを注いでもらいながら、その話を聞いていた。
「……それは置いとくけど、アリウスに関してはまだ謎が多い。ユスティナ聖徒会やら、ミサイルの調達先……ミサイルに関しては、あの後ミレニアムやら連邦生徒会やらに探りも入れたけど、全く情報が出てこない。むしろ一部の技術屋なんて「データくれ」ってせがんできたよ。「こんなのキヴォトスに存在するはずがない」って。とまあ、あまりにも情報が足りな過ぎる。流石の私でも、これじゃあ仮説さえ立てれない」
「『ユスティナ聖徒会』はシスターフッドの前身と伺っています。秘密主義のシスターフッドであれば、情報を隠すことなど容易いのでは?トリニティ内にさえ、シスターフッドへ不信感を抱いている生徒は少なくないのですから」
「その話は存じ上げていましたが……まさかこのような身近にもいらっしゃるとは思いませんでした」
「ストップ」
少し険悪になり始めた雰囲気の中、リエは立ち上がり、百鬼夜行の時代劇の奉行のようにピシャっと扇子を向けた。
「シスターフッドが秘密の多い集団というのは事実だけど、それはサクラコにとっても同じじゃない?シスターフッドがクロなら、とっくのとうに私が介入してる。「オブザーバー」は常に中立の天秤だから」
「……それもそうですね。失礼したしました、サクラコ様」
「いえ、疑われるのは慣れていますので」
「……はぁ」
「大変だね、ナギサも……」
ナギサはティーカップに角砂糖とミルクをたっぷりと加えた後に、それをぐいっと飲み干した。
「……それで、結局私達が知りたい、辿り着きたい結論は「アリウスは何を企んでいるのか」ということです。ですが、場所さえ分からない状態では……」
「いや、多分トリニティ内の古跡のどこかしら。ミカとアリウスが接触した痕跡が残ってた。「何を企んでいるのか」はまだ分からないけど。……いや、私的にはアリウスは何も企んでない気もするんだけどな……」
「……っていうとどういうこと?まだ『黒幕』がいるってこと?」
「それは考えにくいんだよね。ただ、何か企んでるなら、錠前サオリはあんなに感情で動いてない気がする。もっと簡単に言えば、あの程度で感情的になるようじゃここまで話は大きくなってない」
「この中でアリウススクワッドと接触したのは、先生とリエさんだけですが……先生はどうお考えですか?」
「私?私は……うーん……普通の思春期だなぁ、って感じかな……ニヒルっぽいところもあったけど、根はいい子そうというか……」
先生は少し考えた後にそう答えた。リエも大まかに同意した。
「……それで、話を戻します。リエさんの『古跡』という仮説に関してですが……」
「範囲が広すぎます。トリニティ内の遺跡など、調べきれる量ではありません。まして地下にはカタコンベの存在さえ。……もう少し、絞りたいところではあります」
「それなら……」
踊ってはいない。けれど、会議は一向に進まない。
本当に会議シーンの書き方分かんない