「……無理だね。推測じゃどうにもならなそう」
しばらく考えた後に、リエは「お手上げ」と言わんばかりに手のひらを揺らした。
「そう……ですね、現状だと、判明している情報があまりにも……一応、アズサさんにも話を伺ったのですが……」
「……!」
「彼女いわく「仕組み自体は知らされてない、任務の時は暗号化された毎回違う地図を渡される、自分でもアリウスへの戻り方はもう分からない」、とのことでした」
「……彼女を、取り調べたのですか?」
「はい?」
低い声色で、ミネはナギサに問いかけた。
「白洲アズサさんに、それを吐かせたのですか?」
「……はい?」
「故郷を捨て、裏切り者の烙印を押されてまでトリニティの為に奮闘し、ようやく自らの居場所を手に入れた彼女を、私達の事情で取り調べ、再び渦中に巻き込むなど言語道断です!それがどれだけ残酷な行為か、あなたは分かっているのですか?!」
「い、いえ、これはあくまで本人の同意の上で……」
「卑劣な手を用いて自らを退学にさせようとした相手に合意し、快く話してくれるとでも?!ティーパーティーの権力で話さざるを得ない状況まで追い込んだに違いありません!なんと卑劣な……!」
「えっ?!ええっ?!」
「ミネ」
ナギサを問い詰める彼女をリエは制し、一言言い放った。
「
「はい。ナギサさんが血も涙も人の心も無い冷血生徒会長というのは間違いありませんし、同意致しますが、これに関しては明確に否定します」
「……」
リエに続いて、本音かどうか分からないナギサへのdisを混ぜながらサクラコが続ける。ナギサ自身は、それをティーカップを持つ手を震わせながら聞いていた。
「それに、オブザーバーであるリエさんは非常に幼馴染に甘くはありますが、是を是とし非を非とする方です。ナギサさんが明確に「退学」という目的のもとに作った補習授業部にさえ手を貸すような方が、それを容認、或いは黙認すると思いますか?それは、ミネ団長もよく分かっていると思うのですが」
「……ま、否定はしないけど。それに、補習授業部の顧問は他ならぬシャーレの先生。そもそも、先生がそれを許すと思う?」
「リエの言う通りだから落ち着いて、ミネ」
「……そうですね。少々頭に血が昇っていたようです。失礼致しました、ナギサ様」
「いえ、大丈夫です。それに……」
「……本当に大丈夫?」
そう言って平静を装うものの、ナギサの手は傍から見てても分かるほどに震えている。彼女は一旦ティーカップを置いて深呼吸した後に話し始めた。
「……はい。私でも分かっています。ヒフミさんにアズサさん、コハルさん、ハナコさん……補習授業部の方々は本来負わねばならぬ責任、果たさねばならぬ責務よりも遥かに多くのことを背負いました。……いえ、私が背負わせました」
「私も、関係がないとは言えないけどね」
「……ですから、せめてこれ以上の重荷が彼女達に伸し掛からぬよう……この泥仕合、後始末だけは、私達の手でけりを付けなければ……」
「ありがとね、ナギサ」
「……なるほど、そうだったのですね。心中察せられず、申し訳ありませんでした」
「私も、ナギサさんに同意致します。ハナコさんに託したい、という気持ちがないといえば嘘になりますが……それと同時に、彼女にこれ以上の荷を負わせてはいけないという気持ちも強くあります。……託すとしても今の全てをこちらで解決し、その先を託すというのが望ましい答えなのでしょう。どちらにせよ、先生のお力はお借りすることになってしまいますが」
「任せてよ!私は大人だからね!」
そう強く答える先生に、サクラコは安心したように微笑んだ。そして話は、再びアリウスに戻る。
「カタコンベ……トリニティでも未だ神秘を強く残した大迷宮ですが……」
「その毎回変わる出入り口をピンポイントか……」
「いえ、ここは発想を切り替えましょう。例えば……
「……錠前サオリに?」
リエはそう呟いて、手帳の上に万年筆を滑らせる。
「はい、襲撃の指揮を執った『アリウススクワッド』のリーダーである彼女ならば、間違いなくその情報を持っているでしょう」
「なるほど……ですが、スクワッドの消息は判明していません。既に自治区に逃げ込んだ可能性も大いにあります」
「一日くれたらトリニティにいるか調べるけど……まあ、十中八九もう逃げおおせてるんじゃない?」
「はい、その通りだと思います。……ですが、まだ一人いるでしょう?」
「……なるほど」
「……」
「……ええっと……?どなたのことでしょうか……?」
察しの付いた先生とミネ、見当もつかない様子のナギサを尻目にリエは「……まあ、その可能性が一番高いか」と万年筆の速度を上げる。
「……聖園ミカ」
「っ?!」
サクラコの答えに、ナギサは酷く狼狽えた。
「で、ですが……ミカさんもアリウスの場所に心当たりはないと……」
「アリウスと内通し、ナギサさんを欺き続けてきた彼女の言葉を信じるというのですか?」
「……」
「これまでのミカさんの行動や評判は、あまり模範的、ティーパーティーに相応しいとは言えません。それに加え、彼女は多くの過失や問題を権力によって揉み消してきました。現在、学園で起きているミカさんへの糾弾なども、彼女に非がないと断言できるものではありません」
「ですが……ミカさんは……」
「ミカ様がアリウスと接触したことを示す記録は決して少なくありません。その多くは……リエが管理しているはずですが」
「ミカさんが……嘘をついている……?いえ、そんなはずは……」
「……リエさんはどうお考えですか?恐らく、トリニティで最も早く「聖園ミカが裏切り者」という結論に辿り着いたのはあなただと思いますが……」
リエは手帳を閉じて万年筆を胸ポケットにしまうと、少し考えた。
「正直、ミカがアリウス自治区の場所を知ってる……それが間違いなく最も可能性の高い話ではあると思う」
「……リエさん……?」
「……だけど、知らない可能性に賭けたい。これ以上、ミカを疑うつもりは私には無いから」
「……」
そう答えたリエと、複雑な顔をしたナギサを交互に見た後にミネは黙り込んだナギサに問いかけた。
「……それが、お二人の結論でよろしいですか?ミカ様の最大の理解者たる、リエとナギサ様の」
「それは……」
ナギサは、先程のリエと同じように目を瞑って考える。そして目を開くと、心を絞るようにゆっくりと、ゆっくりと言葉を吐き始めた。
「……はい、私もミカさんを信じます」
「……」
「……」
「善良でなくても、疑うべき点が多くとも……彼女は私の、私達の幼馴染です。他の方にも信じてもらえるよう、明日の聴聞会で私も弁護致します」
「……」
「あなた方も、この学園も……トリニティ総合学園が彼女のことを信じられるように!それで私が矛先が向いても私は……!」
「……私も、ミカを正しく裁きたい」
明日の聴聞会……いわば学園裁判、その最終的な判決を下すのはトリニティ総合学園の法の頂点たる「オブザーバー」だった。無論、ティーパーティー内部からも多くの反対があったが、それでも最終的にはシスターフッド、救護騎士団、正義実現委員会の支持によって規則通りにリエに決定した。
「……私達は、ミカの幼馴染だから」
先生彼氏とかいなそうだから好き