この作品に曇らせはありません
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「……ふぅ。情けない姿を見せてしまいましたね、先生」
「ううん、そんなことないよ。お疲れ様」
サクラコ、ミネ、リエが去って、会議室にはナギサと先生が二人きり。ナギサは自分の分と先生の紅茶を淹れ直し、小さくため息を吐いた。
「……それで、ミカがどうかしたの?」
「そういえば、先生にはお知らせしていませんでしたね。実は、明日の午前中に聴聞会が行われる予定となっています。……とはいっても、実際は査問会や審問、裁判と言った方が正しいのでしょうが」
「ミカの罪について話し合う……っていうことで大丈夫?」
「はい、主にエデン条約やアリウスとの内通に関しての議論が交わされることに、なっているのですが……」
「……どうかした?」
少し言葉が詰まったナギサに、先生は優しく聞く。淹れたての湯気の立った紅茶を啜った後に、ナギサは小さな声で先生に頼んだ。
「ミカさんを、説得してくださいませんか」
「……詳しく、聞いても良い?」
「……このままでは、ミカさんは退学になると思います」
そう言って、ナギサは少しずつ語り始めた。
「エデン条約以来、トリニティ総合学園の情勢は一層複雑さを増しました。分かりやすく言うのであれば「混沌を極めていた」という感じです。中でも、ミカさんへの世論は苛烈さを増す一方です……」
「そんなにヤバい状況なの?」
「はい。既に自身の属するパテル分派からは追放され、明日の聴聞会では、ティーパーティーの資格も剥奪されることが決定しています。……事実として、彼女はトリニティ総合学園を転覆させようとした張本人なのですから」
「そっか……」
「ミカさんへの断罪を求める騒動は度々発生し、私刑として、ミカさんのいる監獄へ石や手榴弾を投げ込む生徒さえ……学園の掲示板にはミカさんへの誹謗中傷が殺到し、彼女の私物……集めていた服やアクセサリーまで燃やされて……昔私やリエさんが一緒に集めたものも……」
「……由々しき事態、ってやつか……」
「リエさんがオブザーバーとして主導となり取り締まってはいるのですが、キリのない状態で……既にミカさんは、トリニティの公共の敵として認識されています。もちろん、クラスメートの一部の方などそう思っていない方もいらっしゃるのですが……それでも、依然としてミカさんへの風当たりは非常に強い状態です。それをミカさんの自己責任と切り捨てることも出来ますが……」
「そうは、したくないよね」
「……はい。私はミカさんを弁護したいです。明らかに、ミカさんの払わされている代償は多過ぎます。彼女が犯した大罪と比べても。……ですが、ミカさん本人は……」
「
「ミカさんは、聴聞会に出席するつもりがないようなんです。……その状態では、間違いなく彼女への罰は必要以上に重くならざるを得なくなってしまう。でも、私には説得が出来ず……」
「……分かった!私がミカと話すよ!それでパパパッと解決してあげる!」
先生は、明るい声色でそう言って、胸をドンと叩いた。もちろん、簡単に出来ることとは思っていないし、彼女がそう思ってないこともナギサは理解していた。それでもナギサはその言葉に酷く安心感を覚えた。
「……はい、ぜひお願いします」
「任せてよ!……あとさ、一つだけ良いかな?」
「はい、大丈夫です。……無論、私に出来ることであればですが」
「……誰が、ミカを『裁く』の?」
真剣な顔でナギサに尋ねる先生。確かに彼女はそれを呟いていたけれど、彼女はその意味を理解してはいなかった。しばしの沈黙の後に、ナギサはゆっくりと答えた。
「……トリニティの校則では、聴聞会の最終的な結論の決定権を有するのはただ一人と定められています。あらゆる派閥に属さない、トリニティの法の、秩序の頂点であるただ一人に」
「っ、それって……」
「……はい、最終的な決定権を持つのはティーパーティーオブザーバー『朝日奈リエ』……私とミカさんの幼馴染であり、先生の知るリエさんその人です」
「……何やってるの?」
「リエ……様……」
いつものように散歩している最中、それを見つけたリエは、監獄の側の生徒達の一人に話しかけた。
「パテルの子だよね?そんなに怖がらなくて良いよ。ただ、そんな楽しそうに石投げて、何してるのか聞いてるだけだから」
「っ……リエ様だってあの魔女の被害者でしょう?!」
「そうよ!『魔女狩り』ならさっさとあの女退学にしなさいよ!」
「あの裏切り者をいつまでトリニティに残しておくつもりなんですか?!」
口を揃えてミカを糾弾する彼女らへ、リエは何も言わずにグレネードランチャーの銃口を向けた。
「どういうこと?!なんで私達に向け──」
「
真冬の満月のような、酷く冷たい眼光が彼女らを貫いた。
「トリニティ内で、手続きを無視した処罰の執行が認められてるのはオブザーバーだけ……少なくともティーパーティーなら知ってるよね?」
「っ!だけど……!」
「ミカの贖罪は、あなた達に罵声を吐かれて石を投げ込まれることって言いたいの?……それとも「罪を裁く為なら罪を犯しても良い」、とでも言うつもり?……ならどうなっても知らないけど」
噂でしか知らぬ『魔女狩り』の瞳に睨まれた彼女らは、まさしく蛇に睨まれた蛙のように指一本さえ動かせず、何人かは腰が砕けてその場に崩れ落ちる。そして投げていた石や手榴弾と共に地面に力なく座り込む彼女らを見下して、リエはグレネードランチャーを仕舞い、その代わりに手帳を取り出した。
「あなた達は……3262459と3262578だから……天嶺ソウコと簑倉ショウだっけ?後は3250276、3251332、3250922……まあ、取り敢えず全員処分は追って伝えるから、楽しみにしてて」
数ページに渡ってビッシリと埋められた学籍番号にいくつかを書き加え、「意外と多いな」とリエは呟いてからその場を去った。そして彼女が消えた後、その身体が動くようになり始めた者からいち早くその場を去っていった。
スピーカーから流れる聖歌だけが響く檻の中で、彼女はそれに耳を傾けていた。その中に足を踏み入れた先生を見つけると、彼女は唇の前で人差し指を立てた。
「……」
そして、少しして流れる音楽が止まってようやく、彼女は口を開いた。
「……ごめんね、先生。礼拝の時間だったんだ。今日は賛美歌」
「そうなんだ。結構、良い音色だったね」
「まあ、メロディは悪くないよね、メロディは。でも、ここでも強制参加なんてちょっと面倒だよ。見逃してくれたってよくない?歌詞も「ご慈悲を」とか「憐れみたまえ」とか……それ以上に『
「まあ、それがトリニティらしさでもあるし……?」
「そうだけど……あ!そうだ!先生にも歌ってあげよっか?ティーパーティーの美声なんて滅多に聴けるものじゃないよ!それに、高い塔に閉じ込められた囚われのお姫様が運命の人のために一曲歌い上げる……絵本だったらすっごく盛り上がるシーンだよ!」
「まあ、ここは地上の檻だけどね!」
「うっわぁ、先生ロマンないなぁ……まあそうなんだけどさ……」
しばらく無邪気な雑談を繰り広げた後に、ミカは少し神妙な面持ちになって先生に問いかけた。
「それで、今日はどうしたの?先生」
先生は、目を瞑って言葉を選ぶ。そしてほんの少しの間をおいた後に、優しく言った。
「ミカと、話に来たんだよ」
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