ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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リエは想像の五億倍くらいはしっかりしてるので安心してください


記録37:説得

「……聴聞会の話、だよね?」

 

 ミカがそう聞くと、先生はこくりと頷いた。

 

「うん、一通りの事情はナギサから聞いたよ」

「……そっか。ナギちゃん達はどうだった?元気そう?」

「うん、元気だったよ。ナギサは相変わらず、目の下にクマ作ってたけど……」

「また無理してるんだ……でも、元気で良かったよ」

 

 紅茶を一杯飲んで、ミカは答えた。

 

「ミカこそどうなの?調子とか、状況とか……」

「私?私は見ての通りだよ。クーデターに失敗して、檻に入れられた大罪人。石も手榴弾も飛んでくるし、罵声もずっと聞こえてくる。控えめに言って最悪だけど……まあ、自業自得だからね。甘んじて受け入れるよ。でも、私だけじゃなくて、ティーパーティーへの反感もあれ以来すごく高まってる。もちろんホストのナギちゃんとセイアちゃんもそうだし……何より、この事態を防げなかったオブザーバーのリエちゃんへのヘイトは結構凄いことになってる。でも、リエちゃんは私が聴聞会に出ようと出まいと関係なく、多分どうにかしちゃう。だから、これは私の罰として受け入れる、そう決めたの」

「でも、このままじゃ退学だよ?良いの?」

「……」

「もう、十分じゃない?」

 

 そう言って、先生はミカの目を覗き込む。彼女は少し、目を逸らした。

 

「……ううん、良いよ。私は、これ以上みんなに迷惑を掛けたくない。セイアちゃんにも、ナギちゃんにも、リエちゃんにも」

「でも、聴聞会で最終的に決めるのはリエなんでしょ?なら──」

「「きっと助けてくれる」……先生も、そう思ってるの?全然分かってないなぁ、リエちゃんは、そういうのは絶対に許さないよ。もちろん、私達にダダ甘ではあるよ?でも、それと同時にリエちゃんは絶対的に『正しい』の。誰が相手であろうとも正しく、平等に裁く……その結果が『魔女狩り』で、現在の『朝日奈リエ』の地位に繋がってるんだろうね」

「でも……」

「もちろん、先生みたいに考える子も少なくない。実際、ティーパーティーではリエちゃん(オブザーバー)が決定権を持つことへの反対意見は少なくなかったって聞いてる。だけど、最終的には正義実現委員会、シスターフッド、救護騎士団の後押しもあって無事にリエちゃんに決まった。……これ、どういうことか分かる?」

「それだけ信頼されてる……?」

「そういうこと。ハスミちゃんも、サクラコちゃんも、ミネちゃんも……三人ともリエちゃんと1年生の頃からの仲で、性格も、幼馴染が大好きなのもよく理解してて、それでもリエちゃんなら正しい判断を下せるって考えたんだよ。それだけ、リエちゃんは積み上げた信頼は並大抵のものじゃないし、リエちゃんはそれを裏切るような人間じゃない。……だけどさ」

「……」

「例えリエちゃんが正しい判断を下すとしても、どう思うかは別でしょ?大好きな幼馴染を自らの手で捕まえて、自らの手で檻に入れて、自らの手で裁く……そんな残酷なお話、そうそうないよ。私は、幼馴染にそんなことさせたくない。……だから、最後は会わずに終わりたいの。こんな大罪人は許されなくて良い、きっと許されない。……だから……だから私は……」

 

 話し続ける中で、次第にミカの目からはポタポタと涙が溢れ始めた。

 

「……リエちゃんと、ナギちゃんと……三人で集めた思い出も、燃やされちゃったけど……まだ……私はきっと……セイアちゃんも、私のこと……」

「セイアは、もうミカを許してるよ。私が保証する!」

「……ううん、そんなはずないよ……だって、何度謝ろうとしたって……この前も、私……」

 

 ミカは泣きながらゆっくりと、絞り出すように語り始めた。

 


 

「セイアちゃん、お肌ガサガサじゃない?ちゃんと眠れてる?私の保湿ジェル使う?」

 

 正義実現委員会が立ち会う中、ミカはセイアの下を訪れていた。とても謝罪する人間の態度ではないようにも思えるが、彼女は本気。ただ、これしか話し方が分からないだけ。本人なりに気を使っているつもりではあった。ただ、彼女は、酷く不器用であった。

 

「あ、あのさ、セイアちゃん……もし良かったら……その……い、一緒にご飯でもどうかな?ご飯って言っても、檻の中でロールケーキ食べるだけなんだけど!まさか本当に三食ロールケーキにされるとは思わなかったんだけどさ……」

「ミカ、すまないのだが今は……」

「……そ、そうだよね?やっぱりまだ……」

「体調も未だ万全とは言い難い状況でね、すまないが、席を外してもらえるだろうか」

「う、うん。……ごめんね」

 


 

「……それ、本当に?」

「うん。セイアちゃん、最近はずっと部屋にこもってるし、誰にも会ってないみたい。一部では「寝たきりなんじゃないか」、って噂まで出てきて……まあ、セイアちゃん元々身体が弱いから」

「それは……私でも少し心配になるけど……」

「それに、他にも悪い噂ばっかり。部屋から夜な夜なすすり泣く声が聞こえるとか、替えの服が血まみれになってるとか……だから、私も多分……許されてないんだろうなって……」

「おかしいな……私は確かにセイアから聞いたんだけど……」

「……ありがとね、先生。でも、私はこれで良いの。セイアちゃんには一生恨まれたって仕方ないことをしたし……私も……「ごめんね」さえ言えてないから……これ以上、セイアちゃんに何かあったら私は……私まで自分を許せなくなる……」

「……分かった!私がセイアとも話してこよう!」

 

 そう言って、先生は笑った。

 

「う、嬉しいんだけど……ほ、本当に良いの?」

「もちろん!……「ごめんね」が言えないのが辛いことは、よく分かってるから!」

「……!」

「それでセイアにちゃんと謝って、リエを信じて、みんなで一緒に明日の聴聞会に出よう!」

「ま、待ってよ先生……なんで私のためにそこまで……もう……泣くつもりなんてなかったのになんで……」

「私言ったでしょ?「ミカの味方でもある」って!」

「……分かったよ、先生。そこまで言うなら……みんなと一緒に、聴聞会に行く」

 

 ミカがそう言うなり、先生は思いっきり彼女のことを抱きしめた。

 

「これで決まり!ありがとね、ミカ!」

「……もう、くすぐったいよ。それにお礼を言うのは私の方。……檻の中のお姫様にも、チャンスは与えられるんだ……」

「……何か言った?」

「ううん、何でもない。……それじゃあ、セイアちゃんをよろしくね!先生!」

 


 

「サクラコ、そっちはどう?」

「……あまり目ぼしい情報はありませんね……」

 

 リエはサクラコ、そして図書委員会委員長の古関ウイの力を借りて、アリウスの情報を集めていた。窓の縁に座り、ひたすらにページを捲り続ける。まるで一度読んだ小説を読み返すかのようなスピードでリエは分厚い古書を読み進めた。彼女もサクラコやウイ、ハナコ程ではないが、一応古代語に関する技能もそれなりに備えている。

 

「あ、あの……情報収集は良いんですけど……窓、閉めてもらえませんか……眩しい……」

「ウイ、いっつも閉め切って閉じ籠もってるんだし、少しくらい換気すれば?今は本の状態に影響が出るほど湿ってもないし」

「はい、リエさんに同意します。今の状態はあまり健康に良いものではないかと」

「うう……私は別に……」

 

 アリウスに関して何かが引っ掛かっていたリエは、同じく疑問を抱いていたサクラコとともに古書館を訪れていた。そこは『古書館の魔術師』の異名を持つウイが引き籠もって古書の解読や修復に勤しんでいるため、そこなら手がかりが掴めるだろうと彼女達は踏んだのだ。

 

「……違うな、他には……」

「いえ、後はもう……一旦戻りましょうか……」

「……あ、そういえば、シスターフッドから依頼されていた子の修復出来たので帰るなら持って行ってあげて下さい……」

「……ごめん、ちょっと借りるね」

 

 大聖堂の地下で見つかったという、大きさで言えば教科書くらいの、少し小さめの古書。相当劣化していたようで、ウイが修復してもなお、ところどころが欠けている。

 

「えっと……読みづらいかもしれませんが……私でもこれが限界で……」

「……いえ、これでも発見時の状態を考えれば凄まじい仕事です。……流石ですね、ウイさん」

「流石に私は辞書がないと厳しいかな……っと」

 

 そう言って、リエは分厚い古代語辞書を片手にその古書を開く。内容から察するに、過去のシスターフッド……即ち、『ユスティナ聖徒会』の日誌だった。

 

「……これ……」

「はい、アリウスが追放されるまでの……」

「は、はい……少し物騒な子だったんですが……私も初めての内容で……」

 

 三人の持てる知識を総動員して中身を必死に噛み砕く。それなりにある訛りに苦戦しながらも読み進めていくと、当時のユスティナ聖徒会所属の2年生がアリウスの追放の過程を記したものだということも判明するなど得られる情報はかなり多かった。

 

「……だけど……これだけ苛烈な迫害から……どうやってアリウスは……?」

「……!リエさん……この部分を……!」

 

 そう言って、サクラコは日誌の最後の方を指差した。ただ、アリウスの最期について記しただけのようにも見えたが、一つだけ、見慣れた単語が目に入った。

 

「……『オブザーバー』……?何で……」

 

 限界まで脳みそをフル回転させて、虫食いになった文字列を埋める。そして数分が経った後に、リエは息を呑んでそれを読み上げた。

 

「……「オブザーバーと協力してアリウスを匿い、カタコンベの向こうへ逃した」……?」

「……?!……本当です!別の資料に「一部の生徒はアリウスとともに姿を消した」、と……!」

「ど、どういうことですか……?ユスティナ聖徒会はアリウスを弾圧してたんじゃ……」

 

 リエは目を瞑り、必死に考える。当時の状況、ティーパーティーの選択、ユスティナ聖徒会の行動、そしてその時のオブザーバー(彼女)の感情。ようやく納得の行く答えが出た後、リエは「そうか」と呟いた。

 

「……これが、彼女の責務だったんだ」

 


 

 古書館からの帰り道、日も暮れる中で二人は話していた。

 

「……では、アリウスを逃したのは彼女なりの贖罪だったと……?」

「多分。トリニティの暴走を、『監視者(オブザーバー)』として止めたかったんだと思う。だけど、力不足だったから逃がすことしか出来なかった……そんな感じじゃないかな」

「……そうだったのかもしれませんね。……それで、これからどうするのですか?」

「取り敢えず、古跡でも調べてくる。もう少し、彼女達について知りたいから」

 

 丁度、広場の噴水前。大聖堂と校門、それぞれへの道はここで分かれている。

 

「……それと明日は、大丈夫なんですか?……明日の、聴聞会は」

「ああ、ミカのこと?……うん、大丈夫。覚悟なんて、()()()()()()()()()()

「分かりました。……どうか、あなたに恩寵があらんことを」

「ありがと。じゃあね、サクラコ」

 

 そう言って、サクラコが見送る中をリエは駆け出した。あっという間に、見えなくなった。




ティーパーティーお互いのこと好き過ぎ
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