ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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ちょっと違うタイプのミカが書きたかったというお話です


記録39:崩壊

「なんで?なんで?……どうして……どうして、こうなっちゃったの……?」

 

 セイアが倒れていたその場所からただの一歩も動けずに、ミカはその場で嗚咽した。ただ胸の中を延々と反響し続けるのは「君のせいで」という彼女の言葉。その後は何も聞こえず、ただミカはドタバタと人が右往左往する中で項垂れていた。

 

「セイア様の容体は?!」

「ダメです!出血も痙攣も一向に収まりません!」

「救護騎士団……ううん、誰でも良い!シスターフッドでも正義実現委員会でもどこでも良いから応急処置の方法を──!」

「ナギサ様とリエ様は?」

「今病院へ向かってる!リエ様も外出先からもうすぐ戻って来る!」

「先生は?!」

「ダメ!連絡取れません!……まさか先生にも何か……?!」

「そういうの今はやめて!とにかく出来る限りそれぞれに連絡し続けて!」

「犯人は誰?!あの女?!」

「ま、待ってよ!今回はミカ様は何も……!」

「彼女がセイア様の部屋を訪ねたからこのようなことが起きたのでは?!あの女が何かしたに決まってるでしょう!」

「今回はセイア様からの要請です!私が保証します!」

「おい出てきなさいよ人殺し!どんな面してトリニティにいるのよ!」

「ここで争ったって何にも!」

「うるさいアンタは黙ってて!どうするつもりなのよ聖園ミカ!」

 

 部屋の前に集まった野次馬が、ミカに罵声を浴びせる。実際には擁護する声もあるのだが、そのような声は揃って罵声に掻き消されてしまう。ガンガンと強く頭の中に響く声の中、一際大きいそれが彼女の心臓を貫いた。

 

「この魔女が!!」

 


 

 外は、雨だった。古跡群と廃墟地帯の間くらいの路地で、彼女は先生を待っていた。

 

「……サオリ……?」

「……」

 

 降りしきる雨の中傘も差さずに、彼女は先生を見つけるなり銃を下ろして膝を突いた。帽子が、水溜りに落ちた。

 

「な、何やってるの?!」

「アツコが、連れて行かれた……」

「アツコ……あの子が?!他の子達は?!」

「他の仲間も、アリウスの襲撃で散り散りに……生きてるかも、分からない……。あれから、あれから何日も逃げて……。……私では……無力だった……。このままじゃ、アツコは、姫は殺される……。……明日の夜明けに……『彼女』に生贄にされてしまう……」

「生……贄……」

「……私の話など、信じられないだろうが……これだけは嘘じゃない……。……アツコは、最初から……生贄にされるために……。『彼女』は、助けたいなら自分に従えと……エデン条約を歪め、ユスティナ聖徒会を掌握し、トリニティを制圧できたら……全員助けてくれると……」

「……」

「だが……私は失敗した……。アリウススクワッドは、任務を遂行できなかった……。エデン条約も、トリニティも、ゲヘナも、何も……。……私は……仲間も、アツコも、全て……力不足で……何も守れなかった……」

「……」

「……私にはもう何も、誰も、アリウスにさえ仲間はいない……頼れるのは……先生しか……」

「……」

「……私の命を賭ける、なんだってやる……。……『ヘイローを破壊する爆弾』だって……先生に……。……信用できないと思ったら、いつ使ってくれても良い。……だから、だから……どうか頼む……どうか、アツコを、姫を……助けてくれ……」

 


 

「ああ、そっか……全部私のせいなんだ……そうだよね……こんなバカ……セイアちゃんが許してくれる訳ないもん……チャンスがあるなんて……明日が来れば、セイアちゃんと、ナギちゃんと、リエちゃんと、先生と……ハッピーエンドになるなんて思ってた……私がバカだったんだ……」

 

 罵声さえも耳に入らず、ただミカは涙声で独り言を吐く。

 

「……私がバカだったから……アリウスに騙されて……『アリウススクワッド』に……錠前サオリに利用されて……そのせいで……これじゃあまるで……」

「ねえ!もう止めなって!ミカ叩くのもいい加減にしなよ!」

「「「魔女が!!」」」

「……『魔女』みたいじゃん……」

 

 鋭い罵声と、ミカの言葉が重なった。

 

「……ああ、もう良いや。こんな簡単だったなんてさぁ……」

 

 震える身体を無理矢理起こす。光の消えた目に、別の悍ましい何かが燻り始める。

 

「セイアちゃんのヘイローを壊そうとして、ナギちゃんとリエちゃんにミサイル撃ち込んで、先生を傷つけて……あっは、そうだよ!」

 

 涙は、もう止まっていて、代わりに狂ったように彼女は笑う。

 

「全部全部ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜーんぶあの女!!みんなが傷ついたの!みんな傷つけられたの!あなただけ逃げおおせてるなんておかしいよ!同じ分だけ!同じように!あなたも傷ついてよ!あなたの大切なものもぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ!」

 

行き場を失って尚湧き続ける感情を吐き出して、彼女は満面の笑みで高らかに叫ぶ。

 

「そうでしょ?!錠前サオリ!!!」

 


 

「おい、離せ!……出てこい、聖園ミカ!」

「今こんなことしてどうにもならないでしょ!それより──」

 

 突然だった。彼女達の目の前の壁が崩れた。恐る恐る目を開くと、廊下には瓦礫と、床に突き刺さった大きな大理石のテーブル。そして、舞い上がる粉塵から一つの人影が姿を現した。

 

「……あ!ねえねえそこのあなた!私の銃、何処か知らない?」

「ヒッ……い、一階の押収室に……」

「オッケー!ありがとね!」

 

 彼女は狂った笑顔のままテーブルを持ち上げると、子供がメンコで遊ぶかのように地面に叩きつけた。天性のものとしか言えない膂力が外れた感情のストッパーによって異常な光景を引き起こす。叩きつけられた床には瞬く間にヒビが奔り、彼女は崩落と共に姿を消した。

 

「……み、聖園ミカ……聖園ミカが……聖園ミカが、脱獄した!!」

 


 

「……立ってよ、サオリ」

「だ、だが……」

「早く立って。そんなにびしょ濡れだと風邪引いちゃうよ。それに、私は生徒と対等に話せる先生でありたいな」

 

 先生がそう言うと、彼女はおもむろに、それでいて少し申し訳無さそうに立ち上がった。

 

「最初になんだけど、『彼女』って誰?」

「『彼女』は……アリウスの代表で、アリウスの主人。私達は『彼女』と呼ぶし、『マダム』と呼ぶ生徒もいる。……私も、何回か見ただけだ。背が高く、赤い肌に白いドレスを纏った……大人だ」

「大人……?」

「……名は『ベアトリーチェ』。私よりも、姫がよく会っていた」

「あと、他の『スクワッド』は?」

「……分からない。まだ、アリウスに追われてるかもしれない……」

「……えっと……あ、アツコは何処にいるの?」

「アリウス自治区の一角……『アリウス・バシリカ』、その地下に『彼女』が作った至聖所がある。……おそらくそこに。それ以上は私も分からない。……ただ、夜明けとともに姫は生贄に……」

「分かった」

 

 先生はそう言うと、バッと傘を投げ捨ててサオリを抱きしめた。

 

「大丈夫!一緒に行こう!サオリ!」

「……良い、のか……?私に……手を貸すと……?」

「誰であろうと生徒は生徒!助けてほしいなら断る理由なんて無いよ!」

「……それだけ……?ただ……『先生』だから……?……わ、忘れたのか?!私はお前を──!」

「うん、撃ったよ。それで?私は生きてるし、こうして動ける!傷も教師の華だよ!」

「わ、私はお前を殺そうとしたんだぞ?!今だって本当は殺そうとしてるかもしれない!なのになんで……」

「……あ、爆弾だけは没収するからね!」

「あ、ああ。そうだったな」

 

 サオリはコートの内ポケットから車の鍵程度の大きさのスイッチを取り出し、先生に手渡した。

 

「爆弾!本体も!」

「ば、爆弾も?なんで……」

「良いから!」

 

 そして新しく取り出した爆弾も一緒に差し出したサオリ。彼女はそれを受け取るなり、近くの雨水の溜まったドラム缶に投げ入れた。

 

「ナイスシュート!!」

「な、何をしてるんだ?!」

「生徒が危ないもの持ってるのに見逃すわけ無いでしょ!」

 

 そして彼女はカバンからシッテムの箱を取り出して、サオリに告げる。

 

「さて、サオリ!早く出発しよう!」

「ま、待て!なんで、先生はなんでここまで……」

「全部終わったら教えてあげる!ほら、行くよ!」

 

 二人は、水溜りを踏みながら日も暮れる街を走り出した。




実はヒスってるミカ好き
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