「ヒヨリ、大丈夫か?!」
「……り、リーダー……?ぶ、無事だったんですねぇ……」
アリウスの雑兵を蹴散らして、サオリはヒヨリの下へ駆け寄った。彼女は少し戸惑ったような、だけど嬉しそうにスライムのような笑顔を浮かべた。
「……よし、取り敢えず怪我はなさそうだね、安心したよ!」
「はい、何とか……って……え、ええっ?!な、なな、何で先生がリーダーと一緒に?!」
「それは……」
「あ、そういうことですか……とうとう私にも天罰が下る日が来てしまったんですね?や、やっぱりもうダメだ……。……そうですよね、よくよく考えなくても、あんなことされたら自分で手を下したいですよね……」
「……?えっと……?」
悲観的思考のスイッチが入ったヒヨリに、先生は困惑の顔を浮かべる。けれど、そんなことお構いなしにヒヨリはつらつらとまくし立てた。
「私達を捕まえて、シャーレの地下牢に閉じ込めるつもりなんですよね……どれだけ泣き喚いてもその声が外に漏れることは無いという禁忌の場所に……そこでアリウスなんて比じゃないくらいの拷問をされて、アリウスに関するありったけの情報を吐かされて、その後は……うわぁぁぁん!!嫌です……まだやりたいことも、読みたい雑誌も沢山残ってるのに……うわぁぁぁん!」
「その……」
「……ですが何故リーダーが……?……ああ、そういうことなんですね……?リーダーも先生に脅されて……辛い人生ですよね、やっぱりこんなの……」
「ヒヨリを、助けに来たんだよ」
「……。……?……え、ええっ?!な、何でですか?!何で私なんかを……あ、先生も記憶喪失なんですか……?私達が誰だか分からない……とか……?」
「そういった事実はない。彼女の言う通りだ、ヒヨリ。先生は、私達を助けてくれる」
「……?!」
「話は全部サオリから聞いた。ヒヨリも、アツコを助けたいんだよね?」
「……!そ、そうでした……姫ちゃん……」
アツコの事を思い出し、ヒヨリは少し項垂れた。
「ほ、本当に私達で……姫ちゃんを助けられるんでしょうか……?そ、それに……私は……」
「……どうかした?」
「……じ、実は……リーダーの居場所を教えたら……アリウスに戻してくれると……『彼女』が……」
「何だと?」
「わ、私は……その……リーダーに従っただけだから……情状酌量の余地があると……へへ……」
「……分かった。なら、そうしてくれ」
「……?……いや、え……?」
「私の居場所を伝えて、アリウスに戻れ。そうすれば、お前に迷惑は掛からない」
「え、え?!いや、私は……」
「いつかはこうなると思っていた。……ここまで、よく付き合ってくれたな」
「あ、あの……もう断ったんですけど……」
ヒヨリの言葉に、サオリは少し黙って驚いたような顔をした。
「……な、何ですかその目……というか、なんでそんなに裏切り者に理解を示す憎めない悪役みたいなムーブを……?そんなに私裏切ると思われてたんですか……?アズサちゃんが裏切った時はあんなに怒ってたのに……?」
「……いや、それは……」
「そもそも、私達はもう仲間どころか運命共同体みたいなものですし……私一人でアリウスに戻ったところで生きて行けませんし……だ、だからみんなで姫ちゃんを……アツコちゃんを助けられるなら、そっちの方が……良いと思って……」
「ヒヨリ……」
「そ、それはリーダーもそうなんですよね?!だから私を助けに来たんですよね?!」
「……ああ、そうだ。詳しい話は集まってからだ。次はミサキを探さないと」
「ミサキ……あ、あのロケットランチャー持ってた子?」
「は、はい。ミサキさんなら先生にもう少し詳しくこの状況を説明出来るかと……多分、あそこですよね」
「ああ、恐らくな。……付いて来てくれ、先生」
サオリは帽子を被り直し、先生に声を掛ける。その後に続いてヒヨリは対物ライフルの入った大きなケースを背負って立ち上がった。
「で、では……あっちの方です……」
「うん、すぐ行こう!」
「……」
「こ、ここなら多分……」
「えっと……この橋……二十年くらい使われてないんじゃない……?っていうか、かなり高いし……」
「それに、水深も5m以上ある。流れも速い。……落ちたら楽に死ねると思うよ」
「……!あなたは……!」
「……ミサキ」
下を覗き込んだ先生の後ろに、彼女は立っていた。
「リーダーにヒヨリ、それに先生……?……そっか、そうしたんだ、リーダー。それを選んだリーダーもリーダーだけど……それを受け入れた先生も先生だね。まあ、私の予想は外れかな」
「予想……?」
「……知ってる?先生、私達は先生を始末すればアリウスに戻れる」
「え?私を?」
「うん。リーダーも、ヒヨリも同じことを言われたはず」
「わ、私は少し違いましたが……」
「……ああ、確かにそう言われた。「先生を始末すれば、私達の裏切りを許す」と」
「……それで、先生はいつ背中を刺されるかも分からないのに、私達を信じるの?……自分を撃った人間を?」
ミサキは冷たい目で先生に問いかけるが、彼女はそれを一笑に付した。
「当たり前じゃん!サオリが裏切ってたらとっくのとうに私死んじゃってるもん!」
「……そう。そっか。……まあ、私は何も変わらないんだけど」
その答えを聞いた彼女は、橋の縁へスタスタと歩いていく。
「待って、落ちるよ?!」
「私達に姫は救えない。アリウスに潜り込んで、それでどうやってバシリカまで辿り着くの?三人で、アリウスの全てと戦うとでも言うつもり?日が昇るまでに?……無謀極まりない。私達だけで『彼女』を倒すのは無理。例え、
「……」
「苦痛に塗れた姫の人生を、これ以上引き伸ばしてどうするの?……さんざん理解したでしょ。『全ては虚しいものだ』、それだけが真実なんだよ。リーダー」
「……」
「それとも、先生はこの答えを知ってるの?」
「ダメ!それ以上動いたら……!」
「……これ以上口を開くな、ミサキ」
飛び降りようとしたミサキを、サオリは一喝した。
「それで?苦痛だらけのお前も幕を下ろしたいとでも言うつもりか?……そんな脅迫が私に通じるとでも思ってるのか?」
「……」
「飛ぶなら飛べ、ミサキ。私もすぐに追いかけて、お前を助ける。例え沈むための細工をしていたとしても問答無用でな。それで意識を失っても、私は何度だって心肺蘇生を繰り返す。私は、絶対にお前を死なせはしない。……今までのようにな」
「……?!それって……」
その言葉の意味を先生が理解すると同時に、彼女はため息を吐く。そして諦めたミサキはようやくサオリと目を合わせた。
「……まあ、自信はないかな。分かった、それがリーダーの命令なら従う。今回も最後までお供するよ」
「ああ、頼んだ」
「はあ……何とか何とかなりました……」
「行くなら早く行こう、リーダー。あと90分しか無い」
「ちょ、ちょっと待って!さっきは日の出までって……!」
「それ以前に、90分後……午前0時になったら、アリウスの入り口は切り替わって使えなくなる。……急ぐよ、先生」
ミサキの言葉に頷いて、四人はその入口の入口たるカタコンベへ向けて走り出した。
アリウス救済は絶対に成し遂げます