ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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記録45:アリウス

「……覚えてる限り、一番昔の記憶は、『マダム』が内戦を終わらせたこと」

 

 少し黙った後に、ミサキは語り出した。

 

「私達はまだ小さくて、何も知らなかったから、「ああ、そうなんだ」って、素直に……いや、何も分からないままに、それを受け止めるだけだった」

「は、はい……それで彼女は……『マダム』は「自分がアリウスの生徒会長で、主人で、支配者だ」……そう言って、残された生徒や幼かった私達を教育し始めました……『全ては虚しい(vanitas vanitatum.)。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいも(et omnia vanitas. )のだ。』……それが真理だって、何度も、何度も……」

「この世は苦痛に溢れてて、それは『トリニティ』のせいで、そもそも『ゲヘナ』なんていうのは絶対に相容れない不倶戴天の敵……そんなことを口酸っぱく言われ続けた。だから、そいつらを滅ぼすためにって、沢山の戦闘訓練も受けた」

「……」

 

 先生は彼女達の話を静かに聞きながら、ギュッと怒りを込めるように握り拳を作った。二人はそんなことには気付かずに、過去の自分達を俯瞰して話を続ける。

 

「それで……私達は誰かを殺したいほど憎んでるから、『殺害の意志』を持っているから……『人殺し』と変わりない……外の世界に、『人殺し』の居場所なんてない……だから、自分は『人殺し』の生徒達に真実を教える唯一の存在であり、子供(あなた)達が敬い、畏れ、従うべき大人であると……そう『彼女』は言っていました……私達も、「大人の言う事なら」と疑いもせずに受け入れて、従わないと、アズサちゃんや姫ちゃんみたいに……すごく怒られるから……」

「……」

「せ、先生?!すごい顔になってますよ?!……わ、私……何かまずいこと言っちゃったんでしょうか……?」

「だから言ったじゃん。面白い話でもないって」

「ううん、違う。二人に怒ってるわけじゃないよ。……あ、それと、聞いてなかったような気がするんだけど……アツコは何で『姫』って呼ばれてるの?」

「?!姫ちゃんが何で姫ちゃんか……ですか……?……えっと……えっと……その……お、お姫様、だから……?」

 

 先生の素朴な疑問に対し、ヒヨリは頭を抱えながら、自信なさげに答えた。それをフォローするようにミサキが口を開く。

 

「……まあ、有り体に言えばそうなるよ。姫は、私達が小さい頃からずっとお姫様だった。かつて最初にアリウスを治めていた初代生徒会長、その血を引いてるんだって。だから『ロイヤルブラッド』とも呼ばれてた。それで、アリウスの生徒会長は代々世襲制だったらしいから……本来の、生徒会長なのかな」

「リーダーと、ミサキさんと、それと私は、ずっと……小さい頃から、ずっとスラム街で……そんな中で、私達と違って、姫ちゃんはずっと綺麗なお洋服を着てて……可愛かったなあ……えへへ……ミサキさんはそうでもなかったけど……私やリーダーは、ずっと姫ちゃんが羨ましくて……」

「ううん、私もそうだったよ。表には出さなかったけど」

「そ、そうだったんですね……」

「……姫はすごく優しかった。私みたいな人間にも手を差し伸べてくれて……マスクを付けてなかった頃は、笑顔がよく見えて……とにかく、アツコは私にとっても大切な人なの」

「はい、ミサキさんの言う通りです。……だけど……」

「……内戦が終わってすぐ、或る噂が流れ始めた。「姫は『彼女』に生贄にされるんじゃないか」って。私達はよく分かってなかったけど……みんなに敬われている偉い子だから、選ばれたんだろうって思ってた」

「だけどリーダーは納得しなかったみたいで……姫ちゃんを私達のところへ連れてきたんです。『彼女』と何があったのかは知りませんが……」

 

 そういえば、サオリもあの時『彼女』との約束の話をしてたっけ。そんなことを思いながら、先生はその話に耳を傾けていた。

 

「……それから、姫は顔も声も隠して私達と一緒に訓練を受け始めた。リーダーは私とヒヨリ、姫、それと後から加わったアズサを自ら育てた。……辛くて苦しい思い出でしかないけど」

「は、はい……あの時のリーダーは本当に怖くて……大人とかよりもずっと……」

「その後、私達は『スクワッド』と呼ばれるようになって、多くの任務をこなすようになった。……まあ、その結果は先生が一番良く知ってるでしょ?結局私達は失敗して、姫は『生贄』に捧げられようとしてる」

「……」

「それに、私達も裏切って本来殺すべき相手の『先生』と一緒にこうしてアリウスに戻ってきてる。……ほんと、どう転ぶか分かったもんじゃない」

「……」

「ああ、全くその通りだな」

 

 話すミサキの背後から、目を覚ましたサオリはすっと姿を現した。何故か一番驚いたヒヨリは、酷く素っ頓狂な声を上げた。

 

「早いお目覚めだね。体調はどう?」

「ああ、もう動けないほどじゃない。礼を言おう。ありがとう、ヒヨリ、ミサキ、そして先生」

「えへへ……良かったです……。……こ、これで大ピンチは脱したんですかね……?」

「……まあ、とても万全とは言えないけど。……それで、どうする、リーダー?」

「決まってるだろう。バシリカへ向かい、姫を救出する。……それだけだ」

 

 顔色もかなり良くなったサオリは、ミサキの問いかけに力強く答えた。

 

「もうルートも幾つか考えてある。ひとまず、旧校舎へ向かうぞ」

「きゅ、旧校舎ですか?!あ、あんなのただの廃墟じゃ……」

「そこに何があるの?」

「姫から聞いた話だ。かつて『聖徒会』がアリウスを作る際、バシリカと本館を繋ぐ地下回廊を作ったらしい」

「……待って、なんで『ユスティナ聖徒会』がアリウスを……?」

「……かつて、アリウスは『ユスティナ聖徒会』によって苛烈に迫害された。けれど、その脱出(エクソダス)を助け、アリウスを再建したのも彼女達だって話が残ってる。……なんでかは分からないけど」

「それで、回廊はかなり古いものだ。『彼女』に見つかる可能性は最も低い。これなら、安全にバシリカまで辿り着けるはずだ」

「回廊は、どこにあるか知ってるの?」

「いや、まずは見つけるところからだ」

「……そう、分かった」

「ほ、他に方法は……?強行突破とか……い、いえ絶対に不可能ですけど……」

「……普段ならそんな無計画な作戦絶対同意しないけど……先生もいるし、今ならどうにかなるかな」

「旧校舎はここからならすぐ行ける。だが、目立たないようにな」

「了解」

「了解です!」

「じゃあ出発だね!」

 


 

「……急に私達を逃してくれるとか言い出すなんて、少し怖いね?」

「頼まれただけです。気にしないで下さい」

「……そっか。あなたも大変だね」

「今更じゃ言い訳にしかならないかもしれませんが……私達も、ここまでするつもりはなかったんです」

 

 トリニティの地下に広がるカタコンベを進みながら、アリウスの生徒会長とユスティナのリーダーは話していた。

 

「それで、何処まで行くの?まさか、騙して悪いが死んでもらう、とか?あはは、やっぱり怖いなぁ」

「いえ。最近の研究で、「カタコンベには出口が存在する」ことが分かったんです。その奥は、まだ何も分かっていませんが」

「……あ。もしかして、そこで暮らせば良いってこと?まあ、死ぬよりは良いけど」

「いえ、「隠れて、待っていてほしい」と」

 

 ユスティナ聖徒会のリーダーがそう答えると、彼女は少し目を丸くした。

 

「……誰が?」

「私達の、『オブザーバー』からの伝言です。「数年、数十年、数百年……どれだけ掛かるか分からないけど、それでもあなた達を必ず迎えに行きます。だから、どうか待っていて下さい」と」

「そっか、あの子が……。……分かった。早く行こう」

「今度は疑わないんですね」

「うん、疑わないよ。私はアリウスの生徒会長、秤アヤノ。アリウスを守れるなら、それを選ぶよ。それに……」

「それに?」

「あの子は……アイカは、私の幼馴染だもん」

 

 そう言って、彼女は満開の花のような笑顔を浮かべた。




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