「『……それは、私への宣戦布告ですか?』」
「脳みそ足りてる?いや、頭には生徒と目を合わせることさえ出来ない大量の節穴しかついてないんだっけ?見るからに空っぽだし。……まあ、そんなあなたの為にもう一回言ってあげる」
彼女自身でも「生徒にこんな顔見せたくない」と思うほどの険しい顔で先生はもう一度答える。
「私は『敵対者』。一生涯あなたと分かり合うことのない、彼女達の先生だよ」
「『……分かりました。ではバシリカで待っています。……あなたにこの手で引導を渡せることを心の底から待ち望んでいますので。……さあ、先生よ。黒服は、あなたを仲間と認識し、互いに競い合えると信じ。マエストロは、あなたを理解者と認識し、互いに高め合えると信じ。ゴルコンダは、あなたをメタファーと認識し、互いを通じて完成されると信じ。そして私は、あなたを敵対者と認識し、互いに反発すると信じています』」
彼女が言葉を紡ぐと同時に、その周囲を聖徒会が囲い始める。
「『……あなたは、私の『敵』です。始末して下さい』」
「……」
「い、いつでも行けます!」
「先生、指示を」
「やろうか!スクワッド!」
「ああ、行くぞ!」
「これで終わ──違う!」
「おお、よく気づいたね?」
先生の指揮の下、聖徒会を退けたスクワッド。だがその背後を、一つの影が襲撃した。
「何故……お前が……」
「……!ミカ……?!」
「……いや、ここまで追いかけてきたのか」
「久々の再会……って訳じゃないよね。でも嬉しいな、サオリ。……それで、先生のついてるスクワッドにどうすれば勝てるかなって考えたんだけど……まあ、馬鹿な私には無理だったからさ」
「ほんと何なんですか……彼女は……」
「取り敢えず、一回ぶつかるに限るかなって!そう思ったんだけど……まあ、無理だったね。やっぱりすごいよ、先生」
「今は、そんな暇はないんだ。ごめんね、ミカ」
「私の方こそごめんね、先生。……でもさ、私は元々言うことを聞かない『悪い子』だから。先生がどうなってるかは分からないわけじゃないけど……その言葉はやっぱり聞けないの」
「……」
「ほら、私はもう何回も先生を裏切ってるでしょ?なら、一回や二回増えたところで……うん、何も変わらないよ」
彼女は少し複雑な表情でそう呟く。それを聞いたスクワッドは互いに顔を見合わせた後に、先生の方を見た。
「ど、どうしましょうか……先生……?」
「ミカは、自分のことを『悪い子』って言った。……なら、『悪い子』を止めるのも
「そうだね、私も腹の虫が暴れ出しそうだった」
「……あれ、おかしいな?これ、私がボコボコにされちゃう流れ?……ほんと、悪役なんてロクなもんじゃないなぁ」
「ケホッケホ……ああ……きっついなぁ……」
そう言って、ミカは力尽きたようにその場に倒れ込んだ。それを見下ろして、スクワッド達は勝者とは思えないほどに肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……ぐっ……はぁ……」
「やっと……やっと制圧……出来た……?」
「……う、うう……ほ、本当に倒せたんですかね……?」
「……ああ、いったいなぁ……やっぱり先生相手じゃキツいね……」
ミカは身体のホコリを払いながらスッと立ち上がった。まるで転んだ子供が、一時の痛みにひとしきり泣いた後に、何事もなかったかのように立ち上がるかの如く。
「……ミカ、セイアは多分無事。声が聞こえたから。だから、トリニティで待ってて。……これ以上先に行ったら、一番傷つくのはミカになる」
「……先生……ごめんね、こんなことばっかで。私はいつもこんなので、私みたいな問題児が……先生を裏切って迷惑かけてばっかりの生徒は、これ以上先生と一緒にいちゃいけないから……」
先生の言葉を聞いて、ミカの声には少しずつ嗚咽が混ざり始めた。
「私……わたし……わた、し……に……は……」
ミカは再び崩れ落ちて、声を上げて泣き始めた。
「……もう、帰る場所がないの……トリニティにも……どこにも……」
「ミカ……?」
「……私は……私、は……ナギちゃんが探してた、トリニティの裏切り者で……リエちゃんが守ろうとしてた、補習授業部の敵で……何度もセイアちゃんを傷つけた、魔女で……」
ミカは止めどなく溢れる涙を零すまいと必死に顔を拭うが、それも無駄なことに彼女の眼下には大きな水溜りが作られる。スクワッド達が黙って聞いている中で、彼女の咽び泣く声だけが響いていた。
「学園から追い出されたら……ナギちゃんにも、リエちゃんにも、セイアちゃんにも、大切な人達にも……もう……二度と、会えなくなる……そしたら、私は生徒じゃ……なくなっちゃう……から……先生にも、もう……だから……私にはこれ以上、幸せな未来なんて……ハッピーエンドなんて……来ないことも……嫌になるくらい分かってる……わたし……私は、悪党で……『悪い子』で……ひ、『人殺し』……だか……ら……だから……私には、もう……
「……」
「……なのに……なんで……?……なんで、あなた達は……なんで?!」
彼女の咽び泣きが慟哭に変わった。
「私は大切なものを全部失ったのに!全部、ぜんぶ奪われたのに!!」
そして、心の底からの叫びが真っ黒な空へ吸い込まれた。
「あなた達は……どうして?!」
もしかしてミカってめちゃめちゃ可愛い?