ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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クライマックススペシャル長編の史上最高傑作です


記録51:決戦

「……何故だ?」

 

しばらくの沈黙の後、アリウス生の内の一人が口を開いた。

 

「何の意味があって、お前はそんなことをする?何の理由があって、トリニティがここまで来たんだ?」

「そうしなければいけないと思ったから。約束を、果たしたいと思ったから。……これじゃあ、足りない?」

 

 強烈なまでの意志を宿した瞳が、相対するアリウスの目を貫いた。裏など微塵もない、本当に、ただただまっすぐな瞳だった。

 

「……お前には……あなたには、救えるの?この、苦痛と憎悪に満ちた、この世の地獄を?」

「救ってみせる。トリニティの総力、私の全身全霊を懸けて、あなた達を絶対に救う」

「どうやって?あなた達に救われて、私達はどうなるの?」

「分からない。……でも、トリニティではあなた達を殴らせないし、怒鳴らせない。それに……人を殺さなくても良くなる」

「……分かりました」

 

そう言って、彼女はガスマスクを外し、銃口を下ろした。

 

「……あなたに、協力します」

「隊長?!そんなことしたら、『マダム』が……!」

「……私は、サオリさんに色んなことを教わった。アリウスでの生き方も、全部。サオリさん達も……『スクワッド』も、助けてくれるんですよね?」

 

 彼女が問いかけると、リエは黙って頷いた。

 

「私は……これ以上サオリさんを追い詰めたくない。彼女を助けたい……」

「ですが『マダム』が……」

「『マダム』は……『ベアトリーチェ』は、先生と、サオリさん達がきっと止めてくれる!トリニティでは、アズサちゃんが友達と仲良く、楽しそうな学園生活を送ってるって……!そしたら『スクワッド』だって、私達だって幸せになれるかもしれない!それで、どうすれば良いんですか……?!」

「出来る限りで良い。どうか、仲間を説得して。「トリニティに加わるように」って。これから、仲間になるかもしれない相手と、これ以上争わない為に」

「……っ……わ、私も手伝います!」

「ぼ、ぼくも!」

「あたしも!」

 

 その場にいたアリウス生はフードを脱ぎ、次々とガスマスクを外して、リエの顔を見る。没個性的な兵士に思えていたが、こうして見るとそれぞれに個性があるな、とリエは思った。そしてそれぞれの仲間を説得するため、彼女達はアリウスの街に散っていく。そして最後に残ったアリウスの隊長の少女は、リエに再び問いかけた。

 

「朝日奈……えっと……」

「リエで良いよ」

「えっと……リエさんは、この後どうするんですか?」

「ああ、私は……」

 

 僅かに白む空を見上げて、彼女は答えた。

 

「助けないといけない、幼馴染がいるから」

 


 

「はぁ……はぁ……」

「ぜぇ……ここが……至聖所……?」

「……あ、あれ!」

 

 バシリカを駆け抜けて、スクワッドと先生はその最奥へ辿り着いた。いち早くそれを発見したヒヨリが、わずかに息を切らしながらもその奥の祭壇を指差す。

 

「アツコ……!」

「姫……!!」

「……気を失ってるだけ。生きてはいるよ」

「は、早く降ろさないと……」

「お待ちしておりました、『先生』。……私の『敵対者』よ」

 

 祭壇に駆け寄ろうとした先生を呼び止めるかのように、一つの声が響く。

 

「ようやくのお出まし?ベアトリーチェ!!あれでも写真写り良いほうだったんだね!」

「そちらは随分遅い到着で。既に儀式は始まっています」

「っ…?!」

「『ロイヤルブラッド』の神秘を糧とし、キヴォトスの外の力を用いて……私は、高みへ至るのです」

 

 祭壇に縛られたアツコを見上げ、ベアトリーチェは満足そうに笑う。

 

「さあ、始めましょう。大人同士の戦いを。より高みから全てを見下ろし、全てを救う義務が大人には──」

「違うよ。やっぱりアンタは間違ってる」

「何が違うと?高みから世界を救う、そのためには多少の犠牲はやむを得ません。犠牲を払ってでも自ら高位に上り、そこから無知な子供を導く、それこそが『大人』。これこそが『崇高』へと至る道。全ての生徒を導き、救える力を持つあなたなら、この価値が──」

「それが違うんだよ」

「……?!」

「私は全てを救えるほどすごくはないし、全てを裁けるほどの力はないし、全ての善悪を決めれるほど偉くもないよ。そして、それはアンタも同じ」

「では……あなたは何だと……!あなたは何故そこにいるのですか?!」

 

面と向かって飛んでくる先生の強い反論に、ベアトリーチェは思わずたじろいだ。

声を荒らげて先生に問う彼女だったが、彼女は精一杯の声で答えた。

 

「私はあの子達の、生徒達を守る『大人(先生)』」

「それが、その言葉が何になると……!」

「子供達の隣に立って、一緒に考えて、同じ目線でものを見て、子供達の道に寄り添って歩く……」

「っ……」

「私は、そんな『大人』でありたいだけ!!」

「良いでしょう……その目障りな心まで!私が粉々に砕いて差し上げます!これが……これこそが私の真の……!偉大なる『大人』の姿です──!!」

 

 先生の反論に激昂したベアトリーチェは、アツコから奪った神秘を糧として、姿を変える。その足は大樹の根のように地に張り付き、その腕は細長く伸びて枝分かれし、その無数の目は醜く花開く。背後には巨大なヘイローがゆっくりと回転し、異形の怪物と成り果てた彼女は大きく咆哮した。

 

「あれが……『マダム』……いや、『ベアトリーチェ』か……」

「た、ただの怪物にしか見えませんが……」

「……あれが相手か……」

「大丈夫。私は、みんなと一緒にいるよ」

 

 その本性を前にして、少し怯みかけた三人の背を先生は強く押す。

 

「……そうですよね、姫ちゃんを救うんですもんね……!!」

「うん、やるしかないよ」

「……ああ」

 

 三人は精一杯の覚悟を決めて、もう一人の『大人』と共に目の前の怪物と対峙する。

 

「……姫を、私達を……『アリウス』を返してもらうぞ、ベアトリーチェ!!!」

 

 自らの因縁を断つ戦い、その火蓋は切って落とされた。

 


 

「はぁ……いったあ……服も身体もボロボロ……疲れた……」

 

 無限に近い敵の前にただ一人立ちはだかったミカ。彼女がどれだけ圧倒的な個人であろうと、その身体はじわりじわりと限界に近づいていた。

 

「……でも、まだやれる……!」

 

 それでも、彼女はただ彼女達のハッピーエンドを願うその一心で立ち続ける。ここで折れたら、全てが終わってしまう、無意味になってしまう。そんなのあっていいはずがない、それだけはさせない、させるまい、と彼女はひたすらに時間を稼ぎ続けた。

 

「……ここ、は……?」

 

 そしてまた一つ敵の波を凌ぎ切り、ミカが息を整える為に足を踏み入れたのはアリウスの聖歌隊室だった。

 

「オルガン……知ってる楽譜……あ、蓄音機も……」

 

 その遺物に手を触れて、彼女は慈しむように呟いた。

 

「……そうだよね、アリウスも、私達と同じだったはずだもん。……まあ、鳴らないかぁ」

 

 まだ、次の波が来るまでは時間がある。彼女は思わず、その場に腰掛けた。

 

「……コハルちゃん、カッコ良かったなぁ……急に飛び出てきて、私のこと庇って……そこに先生も颯爽と登場して……コハルちゃん、物語のお姫様みたいだったなぁ……そういうお話、私好きなんだ……」

 

 ミカは目を瞑り、思いを馳せた。

 

「大ピンチになっちゃったお姫様を、運命の王子様が助けに来て、小さい頃から一緒だった騎士とか、とっても仲良しの大臣の娘とかなんかも一緒に……。それで、お城では、仲の良いメイドさんとか、街で出来たお友達とかが出迎えてくれて……最後は大団円。……子供っぽくて、夢と希望に溢れてて、胸がときめく、甘くとろけるようなハッピーエンド……そんな物語が好きで、私は、そんな物語の主役になりたかった……」

 

 そこまで言うと、彼女は小さくため息を吐いて、痛みに少し顔を歪めた。

 

「……分かってるよ。私には、そんな資格がないことなんて。『魔女』がハッピーエンドを迎えるお話なんて、どこにもないもんね。……でも、そうだよね、あなた達も、救われたかったよね。誰だって、幸せになりたいもんね。あなたがアツコを助けたかったのも……うん、何となく分かるよ。たくさん騙して、絶望させて、たくさん騙されて、絶望したあなたでも……最後に誰かを、心から思う大切な人を救えたのなら……きっと、苦痛に塗れたあなたの人生も、きっと報われる、きっと、私は良い人生だったって、胸を張って言えるから。だから、ささやかなハッピーエンドくらい……あなたも迎えたかったんだよね。……こんなところまで、一緒なんだね」

 

 心に溜まっていた何かを吐き出して、ミカは小さく笑った。あの『聖女』の叫びが、その耳に届いた。

 

 

「……だから、アリウススクワッド」

 

「あなた達の為に、祈るね」

 

「いつか……いつの日か、あなた達の傷が、苦痛が癒えることを……」

 

「やり直しの機会を(こいねが)うと同じように……あなた達に未来が、次の機会があることを……」

 

「だから、私は……私は……あなた達を赦すよ」

 

「それは互いが平等に不幸で、公平に苦痛で、等しく傷つくよりもずっと、ずっと良い結末だろうから」

 

「……例え、アツコを救っても、あなた達の未来が美しいものになるとは限らない。一生追われて、逃げ続ける生活になるかもしれないし、太陽の下を歩けないかもしれない」

 

「……でも、それでも……あなた達の未来に、どうか……どうか光がありますように。アツコを救うことで、あなた達も救われますように。私はもうどうにもならないけど……あなた達にはまだ時間もあるし、先生もいる。だからきっと……うん、きっと大丈夫」

 

「だから、どうかあなた達のその行く先に幸いが……祝福が、あらんことを──」

 

 

 ただ一人、誰が聞いているはずもない祈りを呟いて、彼女はゆっくりと、立ち上がる。その時だった。

 

「……あははっ、なんだ、まだ動くんだ」

 

 壊れていたはずの蓄音機が、Kyrie Eleison(キリエ)を奏で出した。その慈しい音色が、部屋をふわっと包む。それは染み込むように、ミカのミカの耳にも届いた。

 

「憐れみたまえ、か……。……そうだね、あんまり好きってわけでもないけど……今は……」

 

 そして集い始めた『聖徒』、そして『聖女』を前に、ミカは小さく微笑む。

 

「そんな急がないでよ。どうせ通れないんだからさ。……ここから先は、主人公の贖罪と救済の舞台。私達が、足を踏み入れていい場所じゃないんだよ」

 

 そう言って、彼女はボロボロの身体で一歩ずつ、一歩ずつと距離を詰める。

 

「……うん、任せたよ。先生。どうか、あの子達を救ってあげて。……ここは、私が守ってみせるから」

 

 少女達の為にKyrie Eleisonが鳴り響く中、ミカは少し誇らしげに言った。

 


 

「っ……何故来ないのです?!バルバラも、ユスティナも!」

 

 苛立つベアトリーチェの下、そして立ち向かう少女たちに訪れたのは、慈悲を求める旋律だった。

 

「……こ、これは……」

「……Kyrie Eleison(キリエ)……?」

「ミカ……!」

「許しません!!」

 

 誰もが一瞬、その音色に耳を傾ける中で、ベアトリーチェは強く遮った。

 

「私の領土で、私のアリウスで慈悲を求めると?!一体何が……全て、そのようなものは楽器も蓄音機も全て……!!」

「……」

「決して許されません!!生徒は憎しみを、恨みを、呪いを謳うものなのです!!地獄の中で、大人の糧となる存在であるべきなのです!!」

「もう黙れよ、ベアトリーチェ」

「……なんです?!」

「アンタの汚い声と、薄汚れた思考回路で私の生徒に話しかけないで」

「よくも、よくも私にそのような……!!」

「アンタにその権利は無いんだよ。祈りを、ミカの奇跡を……彼女達の為のKyrie Eleison(キリエ)を、邪魔するな」

「言葉をぉぉぉぉっっっっ!!!!」

 

 激昂したベアトリーチェの姿が、また醜く崩れ始める。

気に障る抵抗は止まらず、耳に障る音色は止まず、目に障る先生は消えない。崇高とは程遠い姿に堕ちながら、彼女は藻掻き続ける。

 

「そうですサオリ!!貴様を新たな贄としましょう!」

「……!!」

「『大人』の計画を台無しにしたのです!その代償を払いなさい!!」

「……いいだろう。払える代償が残っているならいくらでも」

「り、リーダー?!」

「急に何言ってるの?!」

「……さぁ!!好きに持っていけ、ベアトリーチェ!!私はここにいるぞ!!」

 

 そう叫んで、サオリは前に出る。そして二人もその後に続いて走り出す。

 

「先生!」

「行きましょう!」

「……これが最終決戦だね!」

 

 そして先生は目の前の怪物を睨んで言い放った。

 

「『大人』を舐めないでよ!!ベアトリーチェ!!」

 


 

 ああ、崩れていく、崩れていく。崇高に至った姿も、高位へ上り詰めた力も、欲し続けた記憶も、全て、全て。なぜ、なぜ、なぜ。断末魔を上げる暇もなく、その身体は塵となり、ただ元の姿となって倒れていた。

 

「……あ、姫ちゃん、姫ちゃんは……?!」

 

 ボロボロの身体を叩き起こして、ヒヨリは彼女の下へ。

二人も、先生もそれに続く。祭壇から彼女を引き摺り降ろし、サオリは彼女が無事であることを必死で祈って抱きしめた。

 

「頼む……姫……!どうか、どうか……目を……お願いだから……その目を、開けてくれ……!」

「……」

「……」

「……サオリ、ちゃん……?」

「……!!アツコ……!!」

「姫……?」

「ひ、姫ちゃん?!大丈夫ですか?!大丈夫ですよね?!」

「……うん。サオリ、ヒヨリ、ミサキ……みんな、おはよう……先生も……?……みんな、ありがと……」

 

 スクワッドが感動の再会を迎える中で、先生は倒れたベアトリーチェへ近寄った。

 

「ぐぅ……うぅっ……」

「……もう終わり。これでおしまいだよ、ベアトリーチェ」

「まだ、まだです……!まだ私は……!アリウスも、複製も、バルバラだって……!この程度で終わりには……!!」

「いえ、この物語は終わりです」

「……!!」

 

 初めて聞く、けれどどこか聞き慣れた声が響いた。絵画を抱えた、首無しの紳士が先生に近づくように歩いてくる。

 

「ゲマトリア……?」

「……っ、ゴルコンダ……!!」

「ああ、落ち着いて下さい。先生も、お会いできて光栄です。彼女の、そしてあなたの言う通り、私は『ゲマトリア』の『ゴルコンダ』……いえ、あまり時間を取るものではありませんね。完成されたハッピーエンド、そこにあまり長いあとがきがあっては無粋でしょう」

「……敵討ち……って雰囲気じゃなさそうだね?」

「はい、私はただ、彼女を連れ戻しに来ただけです」

「私を……?!」

「それに、正直勝ち目がありません。私達はあくまで研究職。怪物ではありませんので。……それで、マダム。これで明らかになりましたね。先生はあなたの『敵対者』などではなく、これはあなたの物語ではなかった」

「……!」

「これは、少女たちが罪を償い、慈悲を求め、希望を手にする物語。あなたの野望は『知らずとも良いもの』へと格下げされました。あなたは主人公でも、『敵対者』でもなく、ただの『舞台装置(マクガフィン)』に過ぎなかったのです」

「く……ぐうっ……!!」

「元々は、この物語はこのような結末のはずはありませんでした。……あなたが介入し、全てに意味を与え、書き換えてしまったのです」

「……?」

「元来、私が望んだものはもっと文学的で、このように綺羅びやかな英雄譚ではなかったはずなのですが……いえ、興味深いものが見れたということで、私はマダムを連れて帰路に着くこととします。……マダム」

「ゲホッ……貴様は……」

「待って、あなたは……!」

「私の邪魔をするつもりでしょうか?……もしそうなのであれば、どうか、あなたのような賢明な方にそのような選択はしないで頂きたい。何が起こるか分かりませんので。私は……まあ、発明家としての側面も持ちます。あなたが持っている、『ヘイローを破壊する爆弾』も私の作品の一つです」

「あー……それ、捨てちゃったなぁ……」

「……なるほど、それも決断の一つです。それに、結局実用かどうかは分からずじまいでしたので、どちらにせよ廃棄予定でした。……今回の実験は失敗です、帰りましょう、マダム」

「ゴルコンダ……!」

「……それでは、またお会いできること、そしてこのように言葉を交わせることを楽しみにしています、先生」

 

 そう言って、彼らは虚空へ消えていった。そしてそれを見届けて、先生は全速力で走り出した。

 

「……あ、あれ?先生は……?」

「……ミカのところへ行ったんじゃない?」

「?!先生もボロボロのはずじゃ……」

「……きっと、策があるんだよ。私達を助けてくれた『大人』だもん」

 


 

「あー、全身どろっどろ……これもう買い替えなきゃなぁ……買い替えれるかなぁ……?」

 

 全身傷だらけで、ミカは呟いた。崩れ落ちた壁の外を見ると、間もなく日が昇ろうとしていた。

 

「……あと、もう少し……うん、きっとスクワッドは……ハッピーエンドを迎えられた……もちろん、先生と一緒にね」

 

 そう呟いた瞬間、ふっと気配が一つ消えた。

 

「……うん、それならいいや」

 

 目の前には、全く数の減っていない聖徒会と、未だ無傷に近いバルバラがわんさか待ち構えている。ミカはその場に倒れ込んで、口にした。

 

「私は……うん、ここまで、かなぁ……」

 

 そう言って、最期の瞬間を待とうとした彼女の耳に、酷く聞き慣れた足音が、声が聞こえた。

 

「待って!!」

 

ボロボロのシャツを着て、彼女はミカの下まで駆け寄ってくる。

 

「……っ?!せ、先生?!」

「遅くなってごめんね、ミカ!あとはここだけだよ!」

「そ、そうじゃなくて……なんで来ちゃったのさ……?」

「私はいつでも生徒の味方、つまりミカの味方だよ!言ったでしょ!」

「……!!」

「当然、ミカのピンチには飛んでくるよ!!」

 

 強く答える先生に、ミカは戸惑いながら言葉を紡ぐ。

 

「で、でも私は……悪い子で……先生が救わないといけない存在じゃ、ないわけで……」

「……」

「そ、それにどうやってあの聖徒会を相手にするのさ……?あれは次元が違いすぎるよ……私も、だいぶ頑張ったけど……!」

「……そっか」

「だから……だから、逃げてよ先生!お願いだから逃げて!」

「……うん、確かにミカの言う通り、ミカは、問題児だよ。でも、それは……」

 

 先生は、ミカを庇うように聖徒会の前に立つ。

 

先生()が助けない理由にはならないから!!」

 

 そして『大人のカード』を取り出して、彼女は目の前の『聖女』に言い放つ。

 

「……私の……私の大切なお姫様に何してるの!!」

「……わーお……」

 

 そう叫んだ瞬間だった。

 

「よく言った、とでも言っておこうかな」

「……っ?!」

「……!これ……!」

 

 目の前の聖徒会に、太陽がもう一つ現れたかのような爆炎が降り注ぐ。一瞬、怯みはしたものの、それでも彼女らはお構いなしに先生の下へ進んでくる。そして、その上に屋根全てが外れたような瓦礫が降り注いで押し潰し、その上に一人の生徒が降り立った。

 

「……さて、と。おまたせ、ミカ。先生」

「う、そ……?」

「リエ……?!」

 

 朝日が昇ると同時に、彼女はそこに姿を現した。もちろん、彼女がどれだけの戦力であろうとも、それに対抗し得ないことは先生も、ミカも、何よりリエ自身も良く分かっている。だから、先生が()()()()のも、彼女は理解して、それなら、先生がいるなら絶対に勝てるという確信が、彼女を突き動かしていた。

 

「……うん、やろう!!リエ!!」

「うん……!もとよりそのつもり!!」

 

 『シッテムの箱』、『大人のカード』、その全てのリソースが彼女一人に注がれる。心臓の底に星を焚べるかのような熱が湧く。身体中に巡る血液が、光の如く加速する。込み上げる全能感の中で、彼女は高らかに叫んだ。

 

「……300年越しの約束です」

 

 意志を宿して煌めく瞳を『聖女』へ向け、彼女は笑う。少女達の願いに、幾星霜の約束に、幼馴染の祈りに……『無邪気な夜の希望』に応え、彼女は数百年の暗闇に火を灯す。

 

「けりをつけましょう、先輩方!!!」

 

 改めて言おう。

 彼女の名前は朝日奈リエ。アリウスに327年ぶりの夜明けを齎す、トリニティ史上最高の『オブザーバー』である。




リエはミカの願いはなんでも叶えてくれます
なんでもです
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