ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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エデン条約編完結です!


記録54:トリニティ総合学園

「こ、こんなところ初めてです……」

「そうだね。随分明るい……いや、眩しいな……」

「ふふっ、綺麗だね」

 

 初めての街並みを、彼女達は戸惑いながら歩いていた。

 

「……それで、これからどうするの?リーダーもいないのに。……ほんと……最後まで……」

「そうですよね、サオリ姉さん……どこ行っちゃったんでしょうか……?」

「突然そんなこと……「みんなを頼む」、なんて言われたって、私には荷が重すぎるよ……姉さん……」

「分からない。だけど、サッちゃんも、少し時間が必要なんだと思う。少しだけ、自分を振り返り、自分を探す時間がね」

「か、帰って……来ますよね……?」

「うん、きっと帰ってくるよ」

「じゃあ、それまでは……私達だけで生きていかないと……ですね……」

「……うんそうかもね。でも、それは決して苦しいことじゃない」

「……え?苦しく……ない……?」

「うん。少なくとも、もう追手に怯える生活は送らなくて良い。好きなところを好きなように見て回って、好きなことを好きなように体験出来る。……アズサみたいに、私達も『学べる』、私達は、初めて『生徒』になったんだよ」

「じゃ、じゃああの雑誌のスイーツを食べることも……!」

「出来るかもね。ティーパーティーのあの人……朝日奈リエが、アリウスがトリニティでも幸せに暮らせるように頑張ってるらしいから、いっそのことトリニティに入っちゃうのも手かもしれない」

 

 アツコは、くるっと回って辺りを見回した。燦々と太陽が輝く青空の下、街は明るく賑わっていて、近くのカフェテリアからは忙しそうなウェイターの声とグラスの中で氷が揺れる音が響く。道の傍らでは、流行りのスイーツを頬張る、楽しそうな生徒達の笑い声が聞こえる。アリウスでは見れなかった景色、アリウスでは聞こえなかった音だった。

 

「だから、取り敢えず世界を……ううん、そんな大層なものじゃなくてもいい。トリニティを見て回ろう。何をするにしたって、私達にとっては、全部が新しい景色だから」

「……まあ、そうかも……しれないけど……」

「そ、そう考えたら……私、少しだけワクワクするような……?」

「そうでしょう?それに、今の私達には頼れる『大人』もいるんだから」

 

 流行りのドリンクを持ったトリニティの生徒達が、彼女達の横を通り過ぎる。

 

「……だから、新しく始めよう。私達の『青春の物語』を」

 

 くるっと振り返った彼女は二人の方を向く。そして、アツコは満開の花のような笑顔を浮かべた。

 


 

「……おい、報酬はどうなってる?」

「契約に問題がありましたため、こちらの方で調整させて頂きました」

 

 報酬が未払いであることを訴え、目の前の太ったブラックマーケットの幹部を睨み付けるも、彼は飄々と答える。

 

「契約では『生徒』となっていましたが、休学中であれば話は変わります。ですので……」

「だがそんなこと──!」

「いえ、間違いなく契約書には記載されています。お言葉ですが、そちらの確認不足をこちらのせいにされても……」

「っ……」

 

 サオリはキヴォトスでもかなり上澄みに当たる武力は持つが、それはそれとして彼女の常識や知識はアリウスで培われたもの。アリウスの外に蔓延る薄汚い悪意へ対抗できるような能力、或いは才能を持ち合わせてはいなかった。

 

「さあ、ご理解下さったのならあちらが出口です。気を付けてお帰り下さい」

「……っ……いや、これも教訓だ。勉強料ということにしておこう」

 

 僅かに重い足取りで部屋を出ようとした彼女の横を、一人の少女がすれ違う。

 

「……?」

「し、失礼します」

「おや、あなたはこの前の……既に精算は──」

「はい、お、終わってます。その通りです。ですから……その……」

 

 彼女は口籠りながら。おもむろにショットガンを取り出し、その銃口を突きつける。

 

「あ、アル様のお金を踏み倒すなんて絶対に許せません……!!」

「ひ、ひぃぃっ?!」

 

 彼女は怒りに任せてそれを乱射する。しばらくして彼が倒れた頃には、部屋は真っ黒な煙で埋め尽くされていた。

 

「はぁ……はぁ……こ、これもアル様のご命令……きっと大丈夫です……」

「……?アル様……?」

「ひ、ひいぃっ?!ほ、他の方がいらっしゃってたんですか?!そ、その……失礼しました!!」

 

 彼女……『便利屋68』の伊草ハルカはサオリの顔を見るなり全速力で部屋を飛び出した。彼女の背中が消えるのを見届けた後に、サオリは小さく呟いた。

 

「……これが、裏社会……か……」

 


 

 あれから一週間。トリニティは、元の平穏を取り戻していた。それは、アリウスが加わっても大して変わらないものだった。

 転入してきたアリウスの行く先は様々で、自分の今までの人生を切り捨てられずに、シスターフッドに入り、祈りを捧げ、懺悔する生徒もいれば、アリウスで積み上げた訓練の成果を、正義実現委員会、あるいは自警団で発揮する者もいる。調印式襲撃に加わっていた生徒であれば、その時に巻き込まれた生徒へ謝罪に訪れたり、あのような場で、今度は守る側に立つため、救護騎士団としてミネの薫陶を受ける者、ティーパーティーに協力して、未だ残る後処理に尽力することを選んだ者もいる。そして何より、新たな友人と交友関係を築く者、元来の仲間と、夢にまで見た青春を手にする者……みな、形は違えど自らが『トリニティ』であることを受け入れ、またトリニティも彼女達が『トリニティ』であることを受け入れていた。

 そして、それに尽力していた彼女は、今ちょっとした渦中にいた。

 

「申し訳ありませんが……処罰はまた後日知らせることになると思います……」

 

 ナギサから、リエがそう伝えられたのは数日前。処罰理由は「ティーパーティーホスト、聖園ミカの暴走を防げなかったこと」「先日の聴聞会でのオブザーバーにあるまじき行動」、その二つだった。酷く納得できるものだ。しかし、「もうやり残したことはない」、「なんなら別にアリウス支援なんて自費で出来るし何の問題もない」、そんなスタンスの彼女は「決めるならさっさと決めろ」という趣旨の手紙さえ送りつけるほどだった。

 

「リエちゃんさぁ……ほんと、幼馴染(私達)のことになると見境なくなるね?」

 

 文句を言いながら渋々引き継ぎ書類を作っていたミカが声を掛ける。パテル分派も中々彼女の後任が務まりそうな生徒がおらず、当分はミカがティーパーティーの業務を引き続き行うことになるだろう、そんな噂をリエは小耳に挟んでいた。そして彼女が百枚を下らないであろうアリウスの転入届と生徒名簿を処理していると、一人の行政官が執務室の戸を叩いた。

 

「リエ様、ナギサ様がお呼びです」

「了解。……行ってくるね、ミカ」

「うん、早く戻ってきてね!書類の書き方よく分かんないし!」

 

 机に突っ伏したミカに手を振って、彼女はスタスタと軽い足取りで部屋を出て行った。

 

「あーあ、リエちゃんの後釜、探さないとなぁ……」

 


 

 作業の合間を見て、購買にお昼を買いに行ったミカ。彼女が執務室に戻って来ると、そこには会議から戻って来たナギサとセイア、そして更に量を増し、千枚程度の書類と格闘する、少し不機嫌そうなリエの姿があった。

 

「おや、それは……メロンパンかい?二つあるなら、一つ分けてくれたまえよ。慰謝料という形で構わない」

「別にいいよ。っていうか……えっと、あれ?リエちゃん『オブザーバー』クビになっちゃったんじゃ……?」

「えっと……確かに、リエさんを解任するべきという意見は出ましたが……その……」

 

 ナギサは少し言いづらそうに口籠る。ミカから受け取ったメロンパン半分を頬張りながら、セイアは言った。

 

「リエを解任してしまったら、ティーパーティーの運営に尋常ではない支障が出ることが判明してね。罰は仕事の増量に決まったよ」

「え……ええっと……?オブザーバーってそんなお仕事多いんだっけ……?」

「まあ、それもそうなのですが……何より……その、ティーパーティーの外部との繋がりが、彼女一人の消失で破綻しかねないと言いますか……アリウス関連もリエさんに任せっぱなしの状況でして……」

「何より、ティーパーティーや派閥などと関係ない一般生徒だね。リエはそういった生徒からの支持が極めて大きい。いわば、ティーパーティーの窓口になってるということさ」

「えっと……つまり……?」

「今のティーパーティーは、『朝日奈リエ』という存在無しでは回らない程度には弱体化したということだよ」

 

 お茶をしながら話している二人と対称的に、黙って書類を片付け続ける彼女。目にも止まらぬ速さで適切に書類を埋めていくリエの手元を、「わーお」とミカはまるでマジックでも見るかのように眺めていた。

 

「正直、この決定に関しては……あれだけの傑物を逃すわけにはいかない、まだ手元に置いておきたい、というティーパーティーのエゴはかなりあるだろうね。実際、私も君も書類仕事はてんで駄目だろう?」

「まあ……それもそうだね!リエちゃんには引き継ぎ書類も手伝ってもらわないとだし!」

 

 ミカがそう言い終えて、彼女はようやく顔を上げた。

 

「はぁ……まあ、簡単に言えば、これからも私達四人でティーパーティーってこと」

 

 そして彼女達は今日も、明日も、一歩をゆっくりと、丁寧に踏みしめる。いつか、自分達の信じる楽園に辿り着く、その日の為に。




次回から水着イベやります!
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