じゃあリエは青木瑠璃子さんで……
記録55:夏休み
「今回応募多数だね。千超え初で感謝不可避」
「はい、今回は生放送ですし告知段階でも反響が大きかったです。嬉し目です」
「はぁ……にしてもこの量、有り難いんだけど目ぇ通すとなると……萎えるなぁ……」
会議室の中央にドンと鎮座する、人を駄目にするタイプのソファーに寝転がりながら、『クロノスエンタメ部』部長の
「いやあ〜、にしてもマジヤバだねこの量。街作れるレベルじゃん?」
「同意です。ここ最近切り抜きがモモチューブで人気みたいですし、その影響もあるかもです」
「全力肯定不可避。公式切り抜きはガンガン収益更新してる。制作費盛り放題」
「ま、頑張れば頑張るだけ見合った人気になるってこったね。今回も華のあるゲストを……って、待って超すごいのいんじゃん?!」
「どれです?」
ひょいっと彼女は二人の方へスマートフォンを投げ渡す。危うく落としそうになりながらも、ユナはそれを受け取った。
「ティーパー……?……え?いやいや『ティーパーティー』って……あのトリニティの生徒会ですか?!ゲキヤバ物件じゃないです?!」
「マジそれな。最近もエデン条約やら聖園ミカで報道部も騒いでたし、これ視聴者バク上げ確定っしょ?」
「見た目も上等映え順調、確変突入不可避だよ」
「……っと、じゃあ決まりで。みんなビビッと来た感じだしね!」
彼女の言葉に、二人は勢い良く首を縦に振る。
「っし、今回も成功させるよ!『クロノス・1D・チャレンジ』!」
エデン条約も、アリウスの併合も一段落してしばらく。ティーパーティーは少し遅い夏休みに入っていた。とは言っても流石に旅行などをする暇は無くて、少しお茶会の頻度が増え、時間が長くなっただけだ。
「結局、あれだけ仕事を増やしても、リエさんにとっては足枷にもならないとは……流石です」
「別に。私がやらないといけないことはある程度頑張るよ。あと──」
「シュークリームのお代わり、だろう?」
「流石」
リエが柔らかい皮の中にカスタードがいっぱいに詰まったシュークリームを頬張っていると、すごい勢いで執務室の扉が開いた。
「どうしようどうしよう?!」
「急ぐね」
「落ち着きたまえよ」
「そんなことよりこれ!ほらこれ!」
部屋に駆け込んできたミカは、机を倒しかねないほどの勢いで三人の下へ向かい、スマートフォンの画面を見せる。
「……当選?何の?」
「『クロノス・1D・チャレンジ』!」
「ええっと……クロノス……わ、ワン……デイ……チャレンジ……ですか?」
「ああ、今流行ってるやつ?」
リエが尋ねると、ミカは「そうそう!」とその首を縦に振った。クロノス・1D・チャレンジ。『クロノスエンタメ部』が提供するコンテンツの一つ。毎回キヴォトス全土から応募者を募り、一日使って様々なことに挑戦させる人気企画だった。特に有名なものだと、『忍術研究部vs最新天空アスレチック』、『C&Cvsゴミ屋敷』など。今回は『サマースペシャル』ということでモモックス(旧モモッター)などでもかなり注目されていた。
「……なるほど。それはめでたいね。健闘を祈ってるよ」
「あ、えっと……それなんだけど……」
セイアがなんともどうでも良さげに答えると、ミカは少し言いづらそうに答えた。
「ティーパーティー……全員……」
ことの始まりは数日前に遡る。ミカが気まぐれにモモチューブを眺めていると、そこのおすすめにたまたまそれは流れてきた。少しだけ覗いてみると、そこそこ好きな感じの動画だったので引き続きベッドに入りながらミカはスマホを眺めていた。それこそが、『クロノス・1D・チャレンジ』の切り抜き動画だった。
「……あ、募集してるんだ……」
気がつけば、クロチャレの動画を見始めてから数時間。ミカはすっかりクロチャレの虜になっていた。そしてそんな時、彼女の目に飛び込んできた「サマースペシャル、参加者募集中!」の知らせ。彼女は意を決してそのバナーをクリックした。
「あー……グループ参加かぁ……」
あまりお知らせとか規約を見るタイプではない彼女は頭を抱えた。しかし、日付も変わって変なテンションの彼女はすぐにその解決策を思い付いた。
「『ティーパーティー』……っと!良いよね!どうせ受かんないし!参加人数は……私と、リエちゃんと、ナギちゃんと、セイアちゃんと……あ、先生も誘っちゃお!『五人』……完璧だね!」
深夜テンションで理想を詰め込んで、ミカは応募ボタンを押した後にサイトを閉じた。
「それでさっきメール見たら……」
「……なるほど。どうする?リエ、ナギサ」
「私は別に良いけど……ナギサはどう?」
リエが尋ねると、ナギサは申し訳無さそうに言った。
「その……貴重な機会なのですが、突然過ぎますし……お断りさせていただくというのは……」
「あー、やっぱりそうだよね……」
「……でもさ、これ、結構注目されてるんでしょ?ここで活躍したらティーパーティーのイメージ、改善出来るんじゃない?」
「ああ、何をやるのかは知らないが、一仕事終えた後だ。挑戦してみるのも悪くないかもしれないな」
「お二人がそう言うなら……分かりました。私も参加します。……それで、日時というのは……?」
三人とも協力してくれるということで少し安心したミカだったが、メールを見直して「あ」と小さな声を漏らした。
「……?どうしたんだい、ミカ?」
「……」
何も答えること無く、彼女はゆっくりと二本指を立てた。
「……そういうことか……」
「2……?二週間後ということですか?」
「いや、まさか……」
「明後日……」
「……はい?」
「明後日!」
カタン、とティーカップがナギサの手を離れて落下した。
「……待って、私水着まだ買えてないよ?多分去年のは胸入らないだろうし……」
「私もだ」
「私も……というか、ちょっと見せて下さい!……五人?五人って、私達は四人ですよ?!あと一人は──」
「その……先生を、呼ぼうと思ってたんだけど……」
「今すぐ電話して下さいミカさん!リエさんこの二日は──」
「空いてる。ラッキーだね」
「じゃあ明日は水着を見に行くとしよう。出かけるのは久しぶりだ」
「そうだよね、だって最後に遊びに行ったの──」
「三人とももっと焦って下さい!!」
かくして、ティーパーティーのたった数日の夏は幕を開けた。
別に問題が起こる感じじゃないです!