「ひ、人食いピラニア……ですか?」
「……そのようだね。D.U.の街中の川に生息してると聞いたことはあったが……実物を見るのは初めてだ」
「どれどれ──いったぁ?!?!」
「せ、先生?!何やってるのさ?!」
興味本位で湖の上に手を出した先生の手にピラニアがベチっと当たった。
彼女は反射的に手を引っ込め、少し赤くなった指をチュパチュパと舐めている。
そして少し涙目になりながら、いそいそと陸の方へ引っ込んだ。
「……取り敢えず試してみよ」
「リエさん?それは……?」
リエはカバンから空になったペットボトルを取り出すと、軽く投げ入れる。
すぐにピラニアが群がって、あっという間にボロボロに穴が空いた。
ナギサは、呆然とその光景を見ていた。
「……え……?」
「……それなりにヤバそうだね。そりゃあれだけ自信も湧く訳だよ」
「いたた……ぶつかっただけなのにまだ痛い……」
「……先生さ、泳げる?」
「え、まあ……結構泳げるけど……」
その答えを聞いて、リエは満足気に笑った。
そしてまたカバンの中に手を突っ込んでグレネードランチャーを取り出し、何食わぬ顔でリロードする。
「ルール無用、だもんね」
「……なるほど、
「は?!グレネード?!グレネードで湖渡るの?!トリニティってそんなこと教えてんの?!」
「いえ、流石にそのようなことは……」
「流石にありません。……しかし、もしかしたらこれは……状況を変える一手となるかもしれません」
そう言うと、彼女は何処からかホワイトボードを引っ張り出して来て、カメラの前に設置した。
そこには「羽川ハスミのプチ解説」と可愛らしい文字で書かれている。
そして彼女のアドリブに合わせるように、スタッフはバタバタとランコとサクラコの分の学校机や椅子を運んできた。
「準備はよろしいですか?」
「はーい!ハスミせんせー!!」
「私も大丈夫です。……は、ハスミ……先生……」
「では、今回は『ダイナマイト漁』について話していきます」
彼女は青いペンでくるっと大きな丸を描いた。
その中にも何匹かのカラフルな魚が描き込まれている。
「まず、魚はこのように水中を泳いでいます」
「なんか群れとかで固まってんでしょ?聞いたことあるよ!」
「はい、そのような種類も多いです。そして、彼らはあまり『衝撃』というものに強くありません」
続けて、彼女はハンマーと目がバツになった魚を描き加えた。
「……それは、ピラニアも同様……なんですよね?」
「サクラコさんの言う通り、ピラニアもそこは一般的な魚類と変わらないと考えられます。……そして、その衝撃を与えるのにダイナマイトなどの爆発物は非常に効率的です」
「……!ってことは……!」
「はい。『ダイナマイト漁』とは即ち……」
さらさらと赤いペンで爆弾を描き、その矢印を青い丸の中へ伸ばした彼女。
続けて、ハスミは次々に魚たちの目をバッテンで上書きしていく。
「水中で爆薬などを炸裂させることで、その衝撃で失神、あるいは死亡した魚を回収する漁法です。……現在は禁止されていますので、くれぐれも真似しないようにお願いします」
「ってことはリエさんが持ってたグレランは……?!」
「おそらく、彼女は──」
その直後、アラームが響く。
五階のボタンが押された音だった。
ランコは慌てて椅子を離れ、実況用のマイクを手に取る。
「ティーパーティー御一行!『人食いピラニア』突破おめ!!」
「よっと」
彼女は相当に威力を弱めた榴弾を湖の中に乱射した。
それが水中で炸裂すると、ピチピチと水面で跳ねていたピラニア達がプカプカと力なく水面に浮き始める。
その数は1000匹を下らないほど。
「うっわこんなにいたんだ……?」
「あー、噛まれてなくてほんと良かった……」
「……あ。ですが橋が……」
そう言って、ナギサは魚の浮いた湖面を指差す。
確かに、さっきのリエの榴弾に巻き込まれて丸太橋は跡形もなく消えていた。
「……じゃ、泳ぐよ。向こうまで……200mくらい?」
「……ミカ、私を担げるかい?」
「オッケー☆」
「あ、あの、私は……」
「頑張ってね、ナギサ」
スタスタと湖の中に足を踏み入れる彼女。
そして数歩進んだ後に彼女は赤面した。
「……泳ぐほどじゃないかも」
湖の深さは、そう言った彼女の腰ほどまでだった。
「『ティーパーティー御一行!『人食いピラニア』突破おめ!!』」
「……これで五階もクリアだね!」
「さて、次はなんだろうか。……まあ、何が相手だろうとどうにでもなりそうだが」
ミカが向こう岸のボタンを押すと共に、彼女の楽しそうな声がインカムから流れる。
「私が流されても良いのかい?」と結局先生にお姫様抱っこしてもらったセイアが一足先にエレベーターに乗り込み、四人は足の水気を拭った後に彼女の後に続いた。
「『まだまだお魚ゾーンは続くよ!でもここでちょっとご褒美タイム!『ニジマス掴み取り』!!』」
エレベーターの扉が開くと、今度は打って変わって静かな森の中。
まずその耳に入ったのは渓流のせせらぎに、またピチピチと魚の跳ねる音がする。
けれど、さっきのピラニアとは違い、とても趣ある光景だった。
「……あ、焚き火だ!」
「それ以外にも色々……ということは……」
天然の川を模した生け簀の側にはパチパチと燃える焚き火があり、そこには包丁、まな板、串などの調理器具、そして調味料の塩も揃っていた。
要は、「ニジマスの串焼きを食べてね!」、そういう話だった。
「じゃ、私から行くね!」
そう言って、ミカは生け簀に足を踏み入れる。
そして電光石火で一匹のニジマスを鷲掴みにした。
「見て見て先生!取れたよ!」
「お、すごいじゃ──」
「ハズレダヨ!」
唐突にその手に握られていたそれが爆発する。
ミカは状況が上手く飲み込めず、ただ空になった己の手を見つめていた。
「…………え?」
「『あ、言い忘れてたけど当たりは五匹しかいないかんね!!残りは外れだし爆発するよ!!』」
「『この配信に協力いただいたミレニアムサイエンススクール、エンジニア部の皆様に感謝申し上げます』」
一時的にインカムがオンになり、「言い忘れてた」と言わんばかりの補足、そして犯人の情報が流れてきてミカの頭には些か血が上る。
「ミカ?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ☆でもちょっとこっち来ないでね先生」
そう言うと、ミカは鬼の形相で僅か30秒、30秒で外れ44匹と当たり5匹を捕らえ切ると満面の笑みで戻って来た。
「よし、締めるよ!」
「締める……ですか?」
「うん、締めておいたほうが色々楽だからね!」
先生は慣れた手付きで包丁を構え、ニジマスの脳天を貫いた。
そして続けざまに残り4匹も処理すると、パパパッと慣れた手付きでその内臓を取り出した。
「あとは……あ、自分で刺してみる?」
そう言って、彼女はリエ達にニジマスと串を差し出す。
彼女達は目を輝かせて頷いた。
「みんな塩はお好みでね!いただきます!」
「ああ。……それじゃあいただくよ」
「いただきます」
「……で、では私も……いただきます」
「いただきまーす!」
パチパチ焚き火が鳴る中で、彼女達は一斉にニジマスの串焼きを頬張った。
あっつあつでほろっほろの身が口の中で味わい深く崩れる。
川魚特有の青臭さは無くて、ナギサに至っては慌てて骨ごとパクパクと勢い良く頬張っている。
「……あっつう……」
「……っ?!骨が……」
「もー、ナギちゃん慌てて食べ過ぎなんだって!」
「……もう少しだけ塩を……」
「ゴミは私が集めるからね!」
「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」
パシッとみんなで手を合わせる。
説明によると、ゴミは袋に纏めておいておけば回収してくれるらしい。
焼き立てのニジマスも、嬉しそうなみんなの顔もたっぷりと堪能した先生は立ち上がってぐぐっと背を伸ばした。
「よーし、まだまだ頑張るぞー!!」
水着セイアがストライカーで来たのは驚きを隠せませんでした