「……何ここ?」
「銭湯……?」
七階に上がった一行は困惑した。
そこに広がっていた景色は、今までのような意地の悪いトラップや障害ではなく、木目調の脱衣所……まさしく、先生が口にしたような『銭湯』の脱衣所だった。
「お待ちしていました。ここまでお疲れ様です」
再び姿を現した『クロノスエンタメ部』、興ユナ。
しかし、先程までとは装いを変えている。
なんだっけな、とミカは少し頭を捻った後に彼女を指差した。
「……そうだ!『浴衣』だよね?!百鬼夜行の!」
「そうだね。昔見たような覚えがある」
「はい、皆様の分もご用意致しましたので、こちらでお着替えお願いします」
「……あ、配信大丈夫……?」
「問題ないです。今は歴代の総集編的なのを流してます」
そう言って、彼女は先生達一人ずつに脱衣所の鍵を手渡した。
そしてその鍵でロッカーを開けると、そこには鮮やかな色浴衣。
ミカは大急ぎで水着を脱ぎ捨てると、移されていた下着と共にその浴衣に袖を通した。
くるりと一回転しながら鏡を見ると、その柄は撫子。
彼女だけではなく全員分、それぞれ違った浴衣がオーダーメイドで用意されていた。
「……これは……藤、でしょうか?」
「なるほど、百合か」
「……ひまわり、悪くない」
「お、柳だ!」
彼女達も装いを変えると、意気揚々と新たな舞台に繰り出した。
「んで、今までのやつざっと見てもらったんだけど、二人はどれが気になった?」
「私は……やはり効きスイーツの企画が……」
「私もハスミさんと同じです。にしても皆さんとても楽しそうに頑張っていて……シスターフッドで参加してみるのも悪くないかもしれません」
「お、乗り気?!良いじゃん良いじゃん!マジヤバな企画用意して待ってるかんね!……っと、そろそろご登場っぽい!」
映し出された中継を見て、ランコはマイクを握り直す。
「7階から14階は纏めて『夏祭り』!!全力で楽しんでね!!」
「『お祭り運営委員会』の協力、誠に感謝します」
「おや」
「ふふっ。この雰囲気、悪くないかも」
賑やかな人の声と、軽やかな祭拍子が辺りに響いている。
遥か高い天井には限りなく本物に近い月夜が広がっていて、またその雰囲気を一層味わい深くする。
巾着片手にはしゃぐ先生とミカの後を追って、リエ達も人混みの中に飛び込んだ。
「リンゴあめ一つちょうだい!」
「あいよ、300円!」
「えっと、それは……」
「ベビーカステラ。お嬢ちゃんもどうだい?」
「あ、はい、一袋お願いします」
「かき氷、メロン味で頼むよ」
「どうぞ、頭痛くなんないようにね」
「鶏皮の塩、二本お願いします」
「ほいよ!かわい子ちゃんには一本おまけだ!」
「イカ焼き、マヨと七味多めね!」
「お、姉ちゃん分かってるねぇ!ビールもどうだい?!」
「ムリムリ私仕事中だし!」
これが試練の課される『クロノス・1D・チャレンジ』であることをすっかり忘れて、祭に興じる五人。
そしてさっきのニジマスと合わせてお腹いっぱいになった頃、彼女達は思い出した。
「……そういえば、今回の課題は何でしょうか?」
「確かに、まだ知らされていなかったね」
「なんだろうね?まさか自分で探すところから、とか?」
「あっはっは!それだったら鬼畜だね!」
「『あ、正解!』」
また楽しげな、或いは人を手のひらで転がして笑う悪魔のような笑い声が響いた。
そして思わぬ命中にリエはお好み焼きが肺に詰まって咽た。
「……心当たりあるかい?ミカ」
「ぜーんぜん」
「……ということは……」
「うん、多分……」
「……総当たりしかないよね!!」
「……無理、疲れた」
「……射的は……?」
「ミカさんが……屋台ごと全取りを……」
「……じゃあ、金魚すくいは……?」
「リエさんが……百匹以上……黒いのも……金色のも……」
出発地点に戻り、息を整える一同。
手元には射的やくじ引きの景品やら金魚やらスーパーボールやらが山盛りになっている。
時刻は1時過ぎ、残りの階を考えると流石に出発したい、そう考えていたところで先生が閃いた。
「かたぬき!!!」
走り出した彼女の後に続いて彼女達も出発する。
かたぬき、それは謎のお菓子っぽいやつを爪楊枝でくり抜く遊びにして、おおよそ全ての祭の最高難度に君臨するラスボス。
「余裕」
朝日奈リエ、一撃突破。
使用金額200円。
「少し難しいね」
百合園セイア、挑戦回数3回。
使用金額600円。
「いやあ、中々思い出せなかった!」
先生、挑戦回数7回。
使用金額1400円。
「ううぅ……脆すぎだって……」
聖園ミカ、挑戦回数15回。
使用金額3000円。
そして……。
「……はぁ……これで……これで……」
桐藤ナギサ、挑戦回数76回。
使用金額15200円。
ティーパーティー、『祭』クリア。
楽しそうなティーパーティーは健康に良い