番外:陽だまりの中で
アリウスがトリニティに合併されておよそ数日。
彼女達は初めてトリニティを訪れた。
「あなた達を救ってみせる」という朝日奈リエの言葉、「恨むのはもう止めだ」という百合園セイアの言葉。
それを信じて彼女達はトリニティに加わったが、「まだ私達は恨まれてるんじゃないか」、そんな気持ちを拭い去れた訳ではなかった。
しかし、「何か心無い言葉を浴びせられるかもしれない」「報いを受けるかもしれない」、そんなアリウス生の覚悟を、現実は裏切った。
「ねえ、アリウスってどんなとこだったの?!」
「……え?」
「あ、私も聞きたい!」
「私も私もー!!」
トリニティに加わった彼女達に向けられたのは、純粋な好奇心だった。
別にアリウスのことを知りたがる彼女達が異端なのではなく、あちこちの元アリウス生が転入したクラスで休み時間の度にそんな声が響く。
そしてクラスメートと言葉を交わして、ようやく彼女達はトリニティとアリウスに何の違いも無いことに気がついた。
それからは早かった。
「はい、共に祈りを捧げましょう。……あなた達のこの先に、恩寵があるように」
シスターフッド。
「正義の道を志すのであれば、私達は拒みません。力を尽くしましょう」
正義実現委員会。
「……求めることは一つです。「救護が必要な場に救護を」!!」
救護騎士団。
「あれから常に人手は足りませんし……それに、断る理由もありません。ですので、ティーパーティーはあなたを歓迎致します」
そしてティーパーティー。
彼女達はトリニティの一員として、それぞれの部活に加わって働き始めた。
元々アリウスで日々の時間を単調な訓練に費やしていた彼女達にとって、それは酷く刺激的で、幸福な時間だった。
それは、彼女達も例外ではなく……。
放課後、トリニティ校内のカフェテリア。
正義実現委員会の任務を終えた元アリウス、稲鍵シオンはいつものようにそこへ向かっていた。
……と言ってもここ数日の話だが。
「あ、隊長!こっちこっち!」
先に席に着いていた同じく元アリウスの衣オトカが手招きしている。
彼女に手を振り返し、シオンは四人がけのテーブルに着いた。
「隊長は止めてよ、もうただのトリニティ生なんだから」
「あっはは、ごめんごめん。まだ慣れなくて」
「ところで二人は?」
「アオバはトイレ、アキは少し遅れるってさ」
そして少し紅茶でも飲みながら待っていると、二人揃って姿を現した。
「ごめんね、またせた?」
「お疲れ様〜」
「お、きたきた!」
シスター服に身を包んだ御証アオバと、真新しいティーパーティーの缶バッチを着けた重石アキ。
アリウスではいつも、それと二人、稲鍵シオンと衣オトカの四人でいつも任務に携わっていた。
あの時は「失敗したらどうなるか分からない」というピリピリとした雰囲気に包まれていたが、今はようやくそんなことを投げ出して、友達として友達らしい事が出来る。
今まででは、考えられない日常だった。
「そういえばオトカは今何やってるんだっけ?」
「救護騎士団ってとこ。……そうだ聞いてよ!ウチのミネ団長さ、めっちゃ凄いの!最初は「脳筋かな?」とか思ってたんだけどさ、あの人治療の天才だよ!誰よりも早く完璧に処置しちゃうの!」
「え、ぼくも噂で聞いたけど……「ミネが壊して騎士団が治す」って言われてなかった?」
「あたしもそう聞いてたんだけどね、実際はミネ団長ほんっとうに優秀な人だったよ!……そういうアキはどうなのさ?ティーパーティーでの調子」
「うーん……それなんだけど……」
「……そういえば、先輩」
「はい、何でしょうか?」
目の前の膨大な書類を少しずつ捌きながら、アキは直属の先輩に尋ねた。
「えっと、あの朝日奈……リエ先輩って何者なんですか?ティーパーティーとは聞いたんですが……」
「ああ、リエさん。そういえば、あなた達は彼女が直接説得したんでしたっけ。彼女は少し特殊なんですが……まあ、『オブザーバー』というこの学園の副会長です」
「副会長……」
「アリウス関連の業務は大体リエさんが指揮してます。寮とかに至っては……確か、彼女が自費で」
「自費……自費ですか?!」
アキは目を丸くした。
そして落とした書類を慌てて拾い直す。
トリニティの学生寮の区画に新たに立てられた、アリウスの生徒用の棟。
それぞれの小隊に配慮して、部屋は3〜5人と普通の寮に比べて少し集団向きとなっていた。
「あれって結構お金掛かってるんじゃ……?ぼくらの部屋結構綺麗でしたし……」
「いえ、おそらく彼女にとっては大した金額ではありません。何しろ、彼女はトリニティ最大の金融グループ……要は、財閥の令嬢ですから」
「令嬢……」
「トリニティでは、貴族制の名残が残っています。現に、ティーパーティーホストのナギサさん、ミカさんもそんな感じの名家の生まれですから」
その言葉を聞いて、彼女はずっと昔に見たアツコのパレードを思い出した。
トリニティのお嬢様となれば、あれとは比べ物にならないくらいだろう。
雲の上の存在だったんだ、とアキはぼんやりと考えた。
「みたいなことがあって……」
「あの人そんなに凄かったんだ……」
「……あ、そろそろスイーツバイキングの時間じゃん!」
「ホントだ」
人生で初めて手にしたスマートフォンの時計を見てオトカは言う。
思わず、シオンも椅子から立ち上がった。
「ほら、アオバもアキも立って!」
「え、でもまだ……」
「そうだよ、あと30分もある。ここから15分って書いてあるのに……」
「道に迷うかもしんないじゃん!」
オトカは飲み終わった紅茶のカップを置いたアオバの手を引いて走り出す。
そしてそれを追うように、アキとシオンも走り始める。
彼女達の青春は、まだ始まったばっかりだ。
アリウスモブ救ってるの私しかいないんですかね?