ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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何処かの記録
出会えなかった少女


ああ、今日もよく寝た。

そんなことを呟いて、彼女は目を覚ます。

眠らないことに適応したとでも言うべきなのだろうか。

僅か二時間にも満たない睡眠で身体がリセットされたかのようにその身体から重さが抜ける。

胎児のように縮こまった一糸まとわぬ身体を伸ばし、彼女はベッドから降りた。

 

鏡を見る。

彼女自身の、血よりも真っ赤な瞳と目が合う。

何時見たって致命的な何かが足りない空虚な目。

作り物の宝石を嵌め込んだというのが最も適した表現だろうか。

最後に切ったのがいつかすら覚えていない、惰性で伸ばし続けた右サイドだけ纏めてその上から長いリボンを結ぶ彼女。

余った生地がヴェールのように靡いた。

 

「行かないと」

 


 

「おはようございます」

「おはよう」

 

彼女の持ち場、ミレニアム記録管理室『ライブラリ』。

そこで待っていたのは数少ない友人、明星ヒマリだった。

図書館(ライブラリ)』の名の通りに本棚のように並んだラックに仕舞われた無数の記憶媒体。

奥の管理人用のデスク、その傍らの隙間に車椅子を止めて佇むヒマリ。

彼女は幾つかのUSBメモリを手に取りながら向かった。

 

「何で来た?」

「あら?友人の下へ遊びに行くのに理由が必要ですか?」

「答えて」

 

冗談めかして笑うヒマリを無視して淡々と答えを求める彼女。

ヒマリは「相変わらずですね」と呟いた後に答えた。

 

「『エリドゥ』の話です。……あの女の計画の何処までご存知でしたか?」

「全部」

 

即答し、彼女はUSBメモリをヒマリに手渡した。

その場で開くと、確かに『エリドゥ』のデータが余すこと無く記されている。

おまけに『アビ・エシュフ』と『アバンギャルド君』のデータまで。

ヒマリは一通り確認し終えた後に小さくため息を吐いた。

 

「……何故、リオに力を貸したんですか?目的くらい簡単に理解出来たでしょう?」

 

そう言って、ヒマリは目の前の純血に似た瞳に尋ねる。

天童アリスという一人の後輩の人生が懸かったリオの選択にどう思ってその才能を貸したのか。

その答えは酷くシンプルであった。

 

「さあ。興味無い」

 

『未来予知』にさえ迫る思考力、洗脳としか言いようがない人心掌握術、ミレニアムでも頂点を争う戦闘力。

『全知』をして自らに並ぶ『天才』と認めざるを得ない、『ラプラスの悪魔』と称される彼女。

しかし、彼女は何かが欠けていた。

 

「だって取るに足りない話、でしょ?」

 

強いて言うのであれば、感情の機微。

合理性の化身であるリオでさえ少しは見せるそれを、彼女は一切持ち合わせていなかった。

 

故に、ゲーム開発部にも、セミナーにも、C&Cにも、リオにも、等しく情報を提供し、才能を貸す。

彼女という傍観者にとっては誰もが大差の無い、何かを求めるだけの『依頼主』なのだから。

入学当初からの付き合いであるヒマリが考えても、それは当然の帰結だった。

 

 

「いえ、あなたならそう言うと思っていました」

「そう」

「……そういえば、最近トリニティは大変だそうです。何でも生徒会の支持が急落していると」

「へえ」

 

相も変らず、彼女は興味なさげに返事をする。

ヒマリはつまらなさそうな顔をした。

 

「つれませんね、折角の()()の話ですのに。少しは幻肢痛が起こったりしないのですか?」

「慣れたよ、結構前に」

 

彼女の背面の少し張ったシャツの下、腰骨の上に僅かに突き出た二本の骨。

彼女の翼の痕だった。

トリニティに今生の未練無く、彼女がミレニアムに訪れたその日。

彼女は一切の悲鳴さえ上げること無く、自らの手でナイフを握り、その翼を切り落とした。

それはまるでトリニティとの因縁を断ち切るかのように。

 

「にしても、どうなっていたのでしょうか。千年難題はまだ解かれていなかったとは思うのですが……」

「何が?」

「……いえ、「『朝日奈リエ』という人間がここにいなかったら」、という話です」




バッドエンドスチル的なやつです
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