記録69:方舟の行方
「少し、夢の話をしていいかい?」
唐突にリエを呼び出して、セイアはそう言った。
何故か、悪い予感がした。
例えるのであれば、必死に並べたドミノを間違えて倒してしまいそうな、全てが台無しになるような予感。
口に溜まったつばを、ゴクリと呑んだ。
「それは、私に伝える意味があるの?」
「……分からない。だが、君がこれを知っていれば、後で一つでも多くのものを救えるかもしれない」
赤く崩れる空、降り注ぐ黒い柱、舞い上がる世界の破片、真っ暗な光……。
あの日先生に伝えたように、出来る限りの全てを思い出し、言葉に変える。
「これなら、彼女は理解してくれる」、そう思えるだけの言葉を、ありったけ。
しばらく話して、ようやく、彼女はずっと閉じられていた口を開いた。
「……他に、誰に伝えたの?」
「先生と……あと『彼女』だ」
『彼女』はおそらくセイアを救った人のことを指してるんだろうな、そんなことを考えながら、出来る限りの速度で思考を回す。
そして十秒もしない内に、彼女はその結論を口にした。
「……死力を尽くすよ」
「最近、カイザーグループが活発に動いていると」
朝一番、定例会議という名の朝食中、ナギサは報告書を読み上げた。
「カイザー?じゃあうちには関係なくない?」
ジャムをたっぷり塗ったトーストを頬張りながら、ミカは答えた。
彼女の言う通り、トリニティ社会は長年続いた貴族制の延長上にある財閥が中心となっている。
既にそれらの財閥が市場を埋め尽くし、また緻密に連携を取り合うことで、排外主義的な経済の確立……要は、カイザーグループが進出する余地が無かったのである。
現に、ここにいる四人の内、百合園セイアを除く三人、即ち桐藤ナギサ、聖園ミカ、朝日奈リエ。
彼女らはいずれもそのような財閥の令嬢、トリニティでも最高峰の名家の生まれだった。
「はい、私もそう思うのですが……なかなか珍しい連邦生徒会からの連絡でして……」
「……まあ、トリニティも少し警戒しておくとしよう」
そして朝食を済ませ、彼女達はそれぞれの業務に戻った。
否、
「……今行く」
アリウス関連の手続きを進めている最中、リエは執務室に呼び戻された。
先に揃っていたセイアとナギサは先に相談を始めていた。
「リエさん……」
「セイア、この前の話とは……」
「……無関係、とは言い難いだろうね」
「それで、連邦生徒会はなんて言ってるの?」
「「『非常対策委員会』を設立する」、とだけ……」
「『非常対策委員会』……」
リエには覚えがある。
確かキヴォトス全土に関わる有事が発生した、もしくは発生する可能性がある場合のみ各学園の首脳陣を連邦生徒会に招集することが出来る、そんな法が存在していたはずだと彼女は思い出した。
「……それで、どうするのさ?」
「私は……正直、今の連邦生徒会を信用できません。代行の七神リンさんが悪い方でないのは分かっているのですが……」
「だが、今の連邦生徒会は大嵐の最中と言って差し支えない。どのような問題にせよ、先生を交えて話さなければいけない時は来るだろう。……それが今だというのなら、私は反対しない。それに、彼女がいるのなら、きっとどうにかなるはずだからね」
「まあ、私もこの場はセイアに賛成かな。……にしても凄いね、メンバー。
「ホントだ、すごいね!」
ふらっと現れたミカが、リエの手元の資料を覗いて「あははっ」と笑う。
「……それにしても、万魔殿も来るんだ?あのゲヘナの」
「今回はミカさんも参加することになっていますが、その……くれぐれも問題は……」
「大丈夫だよ、ナギサ。最悪私がどうにかするから」
「そうだよ!っていうか先生がいるのにそんなことするわけないじゃん!」
「なら良いんですが……」
そしてリエはトリニティの参加者リストを一瞥すると、スマートフォンを取り出して後輩に伝える。
「……うん、一本用意しておいて」
胸騒ぎを抑えながら、リエはひたすらに思考した。
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