「皆さんこっちです!」
「安全は確保しています!こちらに避難を!!」
『虚妄のサンクトゥム攻略戦』が行われている最中、市民たちはティーパーティーの指示に従ってトリニティ総合学園の敷地内、解放された避難場所に逃げ込んでいた。
「こちら大丈夫です!古書館はトリニティでもかなりの歴史を誇る建物、頑丈さには定評があります!」
「助かった!」
「そうね、古書館なら……」
「うう……なんで……私の古書館、私の居場所……私だけのアジトが……どうして……」
「委員長、そんな顔でどうするんですか!避難してきた皆さんに不安を与えてしまいます!もっと明るく!」
「あぁ……ううぅ……」
図書委員会が管理する古書館。
「み、皆さん!中には十分なスペースがありますから……!押さずに奥へと進んで下さい!何かあってもシスターフッドがあなた達を守りますから……!」
「まさかこんな形で大聖堂に入ることになるなんて……」
「……アリウスのみんな、大丈夫かな……」
シスターフッドが守る大聖堂。
その他にも合宿棟など、様々な施設が避難のために解放されている。
とはいえ、避難者は増えていく一方。
このままではいつかトリニティといえどもパンクしてしまう。
(……私では祈ることしか出来ませんが、どうかあなたに、先生に恩寵がありますように……)
正義実現委員会の部員達が騒がしい街の中、人々を安全な場所まで誘導する。
未だ空は赤く、『虚妄のサンクトゥム』から放たれる光は強まっていくばかり。
「……っ!東に敵性反応30!」
「殲滅の必要はありません!ですが市民の皆さんには絶対に近づけないように!」
『神秘』を求めて迫ってくる『色彩』の尖兵達。
ハスミの指揮の下、彼女達は市民には絶対に近づかせまいと『正義実現』の為に立ち向かう。
「うわっ?!」
「こ、こっちにも──」
それは、彼女達も同じであった。
「っ!あなた達は……!」
「……間に合いましたね。トリニティ自警団、交戦を開始します」
「はい!『走る閃光弾』守月スズミ、『スーパースター』宇沢レイサ、共に到着です!」
正義実現委員会とは対立関係にある『トリニティ自警団』の参戦と同時に『色彩』もどんどん数を増していった。
『Divi:sion』と呼称されるロボットがクラゲのように宙を浮きながら、紫色の光弾を放ち先頭に立ったレイサを狙う。
「ああっと!早速来ましたね!ですが私にかかればこんな攻撃……!」
彼女はダンスのステップ、あるいは反復横跳びのように素早く左右に揺れ、その攻撃を見事に交わした。
そして少しやかましい程のドヤ顔をして言い放つ。
「屁でもありません!スズミさん見ましたか?!この私の完璧な──」
「いえ、今すぐあちらの援護に入らなくては。行きましょう、レイサさん」
「了解しました!『走る閃光弾』の見せ所ですね!私も『トリニティの守護神』の名を知らしめる時!待って下さいスズミさーん!」
「……」
「どうしたの?カズサちゃん」
「……いや、相変わらずだな、って」
足を止めて、走っていった宇沢レイサの背を眺めていたカズサにアイリは声を掛ける。
彼女達は『放課後スイーツ部』。
文字通り放課後にスイーツを食べるだけという、キヴォトスらしさのかけらもない至極真っ当な部活動である。
メンバーは今話している杏山カズサ、栗村アイリ、そして伊原木ヨシミと柚鳥ナツの非常に仲の良い四人組。
「……それで、何で私達は避難しないのよ?」
「おやヨシミくん。この状況を見て分からないのかい?この世界は今真っ赤、きっと糖分不足だろう。なら、そこにさながら三時のおやつのように甘く手を差し出す……それが、放課後スイーツ部というものだろう?」
「は?どういうこと?っていうかスイーツ要素なくない?」
相変わらず哲学的かつロマンチストなナツの難解な発言に顔をしかめるヨシミ。
けれど、その意見に同意するようにアイリが言う。
「でも、正義実現委員会の皆さんも頑張ってるし……ここで私達も何か力になれるかも……」
「……じゃあ、私達も行く?」
「ああ、世に糖分を届けに行こう」
「だからどういうこと?……まあ行くけど!」
彼女達は銃を構え、避難者の列を逆走していった。
「……!あっちにも……!」
「嘘?!まだこっちも……!」
トリニティ総合学園、ゲート前……即ち、ティーパーティーの設定した最終防衛ライン。
押し寄せる複製の波は、そこまで達しかけていた。
「こっちも来てるー!!まだ防衛体制が整って──」
それでも抵抗しようと、狙いを合わせる正義実現委員会の部員達。
けれど、その直後。
「砲手、支援を」
複製の群れに、榴弾の雨が降り注ぐ。
「……L118、ということは……」
その爆発から、現場の指揮を執っていたハスミはすぐに正体を察した。
「……ふふっ、ベストタイミング、でしょう?……ということで、お待たせいたしました」
「ナギサさんに……セイアさん……」
「……お二人共……外、出られるんですね……」
一時的にゲートが開き、彼女達はハスミ達の前に姿を現した。
「……ティーパーティーの支援、感謝いたします」
「いえ、この程度も出来ないようであればティーパーティーの名折れですので。……それに、トリニティの外で攻略戦に携わっている生徒も少なくありません。……彼女達の帰る場所を守らなければ」
「ああ、ナギサの言う通りだ。……次は北東方向、第4交差点辺りを狙ってくれ」
セイアの指示とともに、放たれた榴弾は見事にポップしたばかりの複製の群れに直撃する。
「……正直、予知よりもこちらの方が……」
「……『直感』の方が便利……否定はあまり出来ないかな」
「『二人共、こっちも到着したよ。多分私一人で行けるし、そっちに戦力回しちゃって』」
二人の下へ入るミカからの通信。
彼女は少し離れた避難所への増援に向かっていた。
「まあ、ミカさんがそう言うなら」とナギサは改めて目の前の状況に意識を移す。
「では、私達もこちらの防衛を全力で。指揮はハスミさんにお任せいたします」
「ええ。……参ります!」
「……違う、こっち」
入り組んだ遺跡地帯を駆け抜けるミカ。
こっちでは複製の目撃は多くないが、それでも些か悪い予感がする。
何より、『勘』を手にしたセイアが「ミカは遺跡地帯へ向かってくれ」とその背を押していた。
「……っ!」
そしていよいよその予感が強まってきた時、彼女の耳に爆発音が届いた。
その方向には一時的な避難所がある。
間違いない、と確信して彼女は速度を上げた。
「う、うう……」
避難誘導に当たっていたはずが、いつの間にか正義実現委員会のみんなとはぐれてしまったコハル。
それでも何かやらなければと彼女が向かったのは遺跡地帯の避難所。
案の定、そこには逃げ遅れた生徒や足を悪くした市民など、少なくない避難者が。
そして、それを狙った『色彩』の兵力もそこへ集まっていた。
「こ、来ないで!ち、近づいてきたら……全員やっつけてやるんだから!」
その場にいる正義実現委員会はコハルただ一人。
彼女は避難者が集まっている大広間へ通ずる扉の前に立ち塞がり、銃を構えた。
「こ、来ないでって言ってるでしょ!」
今にも泣きそうになりながら、一歩も引かない彼女。
そんな彼女への距離をジリジリと詰める尖兵達。
その時だった。
「……え?か、壁……壊れて……?」
彼女の前に、見覚えのある人影が現れた。
彼女はコハルを庇うように彼女の前に立ち、そしておもむろに振り返る。
「あははっ☆やっぱりここにいたんだね、コハルちゃん!」
「あ、えっと……ティ、ティーパーティーの……聖園……」
「聖園ミカ!覚えててくれて嬉しいな!……それで、怪我は……あー、ちょっとしてるね?大丈夫?」
彼女は少ししゃがんでコハルの身体に触れる。
ミカの言う通り、腕やら足やらに幾つかの切り傷、擦り傷を作っていた。
「だ、大丈夫……です……別に大した傷じゃ……」
「……そっか」
彼女の言葉を聞いて、ミカは目の前の複製、Divi:sionに向き直る。
「……あなた達がやったの?多分、そうだよね?……本当にさぁ……」
ミカは、その愛用のサブマシンガンの引き金に指をかけた。
「……私の大切な
「それで、ひたすら走り回ってれば良いんすね?」
「そういうこと。あいつらガンガン轢きまくって」
運転席のイチカが後部座席のリエに問いかける。
彼女はスナイパーライフルに弾を込めながら答えた。
「……!また来たっす、数は15くらいっすね」
「5体巻き込んで。残りロケランでやる」
トリニティでも最新鋭の装甲車を持ち出して、彼女達は『通功の古聖堂』周辺を一手に受け持っていた。
装甲者と後部座席に積まれた破壊力抜群の銃火器を駆使してひたすらこの場で『色彩』をリスキルし続ける、それが彼女達に与えられた役目。
発端はリエが立てた仮説だった。
「……『色彩』ってさ、『神秘』をエサにしたら釣れるんじゃない?」
先生とセイアの話通り、『色彩』がキヴォトスに満ちる『神秘』を狙っているのであれば、より『神秘』が強い場所に彼らは現れるんじゃないか、それが彼女の立てた仮説だった。
そして、その説の検証がてらリエに任されたのは、最初に複製が確認された場所でもある通功の古聖堂周辺の防衛任務。
協力者として正義実現委員会からイチカも連れてきて、彼女は意気揚々と出撃した。
「って言うかホントに全部扱えるんすね先輩」
「トリニティ軍事演習トップは伊達じゃないから」
言葉を交わしながらも、次々と湧き続ける『色彩』を処理し続ける二人。
ドリフト中でも確実にヘッドショットを決めていくリエに、イチカは芸術性すら覚えていた。
「……今度教えてもらってもいいっすか?」
「教えるも何も……撃てば当たるよ」
「……ホント、『魔女狩り』は違うっすね……」
ウェーブの合間、装甲車に燃料と弾薬を補給する二人。
丁度新たな物資を積み終えた頃に、けたたましくアラートが鳴り響く。
「……っ!次はかなりデカいっす!」
「おっけー、やろうか」
再び二人が装甲車に乗り込むと、イチカは思いっ切りアクセルを踏み込んだ。
高評価お願いします