「これ……どうしましょうか……?」
ようやく手に入れた念願のスマートフォンの画面に映る先生からの連絡、そして『アーク』への招待を見ながら、ヒヨリは小さく呟いた。
「それに……空もなんだかすごいことに……」
公園のベンチから見上げた空は、ペンキを零したかのように真っ赤に染まっている。
少し考えた後に、アツコが口を開いた。
「でも、先生からメッセージが来たってことは私達の手伝いが必要なんじゃない?」
「……私達が行ったからってどうにかなるの?」
相変わらずダウナーな雰囲気をまとったミサキが言う。
しかし、アツコはグリップを握りしめて続けた。
「……ううん、そんなことないよ。それに、私達は先生に助けてもらったんだから、今度は私達が先生を助けよう。きっと、どうにかなるから」
「私達が……先生を……」
「……待って、誰?」
既に公園で遊んでいた市民はみんな逃げている。
「今更追手が来た?」とミサキが警戒する中、それはスクワッドの前に姿を現した。
「ようやく見つけた。……こんなところにいたんだな。元気そうで何よりだ」
妙に親しげに話しかけてくる、ヘルメットを被った謎の存在。
その声は何処かで聞いたような気がしなくもないが、ヘルメットのせいでどもって結局よく分からない。
ミサキはアツコからサブマシンガンを借りると、その銃口を向けて躊躇いなく引き金を引いた。
「本当に誰?知らないんだけど」
「そ、そうですよね、なんというか……」
「すごく怪しい……」
「ま、待てお前達!取り敢えず銃を降ろせミサキ!私は──」
「……なんてね」
彼女は慌ててヘルメットを外して弁解しようとしたが、その前にアツコが話しかけた。
その下から姿を現したのは、彼女達の良く知る錠前サオリに違いなかった。
「久しぶり、サッちゃん。自分探しお疲れ様」
「姫……」
「何が自分探しさ。家出と大差ないじゃん」
「ひ、ひとまずリーダーも元気そうで良かったです……」
こうして、一時的に再会を果たし、集結したアリウススクワッド。
サオリはヘルメットの代わりに慣れたキャップを被り直す。
「色々話したいことはあるが……」
「うん、分かってるよ。先生を助けに行くんだよね?」
「……しょうがない。みんな元気そうだし、やれるだけやろう」
「はい!」
こうして、彼女達は人知れず『虚妄のサンクトゥム攻略戦』に加わった。
「『皆さん、準備はよろしいでしょうか?』」
第4サンクトゥム、トリニティ・ゲヘナ間境界『バシリカ』。
『
今回この作戦に当たるのはシスターフッド、救護騎士団、そして志願のあった元アリウス生。
既に彼女達は殆どの生徒が揃い、バシリカの前で待機していたのだが……。
「……サクラコさん……?」
彼女の姿だけは、どこにも見当たらなかった。
しかし開始時刻は少しずつ迫ってきている。
もう始めるしか無い、そう割り切ってハナコは口を開いた。
「『作戦の説明に入ります。第4サンクトゥムへは一本道。本当であれば到着まで消耗は避けたいのですが……お互い正面からぶつかるしか方法がありません。過酷な消耗戦になるかもしれませんが……』」
「問題ありません、ハナコさんの指揮を信じておりますので」
先陣を切る気満々のミネが答えた。
ミカもリエもツルギもいないこの作戦において、彼女の単体性能は明らかに群を抜いている。
ハナコの計算でも、前方を彼女に任せて一気に押し切る……そんな作戦に賭けるしかない状態だった。
しかし、その計算は大きく覆った。
「私達にも、手伝わせてほしい」
一人の声が響き、四人が姿を現す。
最初に彼女達に気がついたのは、元アリウスの生徒達だった。
「……!サオリ先輩……!」
「スクワッドも無事だったんだ……!」
「『……なぜ、こちらに?』」
想定外。
彼女達が吉と出るか凶と出るかは分からない。
ハナコはサオリに問いかけた。
「信じてもらえるかは分からないが……先生に、恩を返したい。突撃でも防衛でも好きに使ってくれ。……力になりたいんだ」
その答えを聞いて、ハナコは安心した。
彼女達が信用できると分かったから。
それを自分の手で、目で、耳で確かめられたから。
「『……はい。ぜひお願いします!スクワッドには後方の防衛を。……頼りにしていますので』」
「……!」
「い、良いんでしょうか……私達は、トリニティを滅ぼそうと……」
思わぬ快諾に、彼女達は少し目を丸くする。
しかし、少し周囲を見回した後にミサキは言った。
「……アリウス生……元アリウスの生徒もかなり参加してる。……私達の、杞憂だったかな」
「で、ですが……何でこんな簡単に……?」
それでもまだ少し困惑しているヒヨリに、ハナコは答える。
「『……あなた達も『先生』に応えるためにここまで来たんでしょう?それに、既にトリニティはアリウスを受け入れてますし……その上私達には、共通の素敵なお友達がいますから』」
「……アズサ……」
「……そっか」
「『これ以上の理由が必要ですか?』」
彼女の言葉に首を振り、「十分だ」と答えるサオリ。
他のスクワッドも同じように頷く。
「『……ですが、そうと決まった以上は遠慮無く。……よろしいですね?ふふっ♡』」
「……やれる限りはね」
こうしてアリウススクワッドも合流し、いよいよ残るはサクラコただ一人。
「何かあったんじゃないか」と少し不安になるハナコだったが、彼女はまもなく姿を現した。
「遅れて申し訳ありません」
局部がギリギリ隠れるほどの、黒光りする極薄ハイレグレオタード1枚のみを身に纏って。
「さ、サクラコ様……それは……その格好は、どういうこと……ですか……?!」
「『さ、さ、さ……サクラコさん?!』」
言葉がつまりながらも、恐る恐るマリーはサクラコに尋ねた。
ハナコも通信越しに分かるほどに困惑している。
「これはアリウスに残されていた、ユスティナ聖徒会、その長たる聖徒会長に代々受け継がれていた礼装……そう、これこそが私の『覚悟』です」
そう言う彼女は周囲の困惑とは対称的にどこか誇らしげ。
そんな絶妙な空気の中で静寂を裂いたのはハナコだった。
「これまでに紡がれてきた連綿たる憎悪を断ち切り、新たに──」
「『……サクラコさん』」
「……なんでしょうか?」
一瞬の間が空いた後、彼女は捲し立てた。
「『それが……本当にそれが『覚悟』なのですか?!』」
「はい、これが私の──」
「『その
「はい?」
「『それが!そんなものが本当に!シスターフッドが引き継いだ聖徒会の意志なのですか?!』」
「えっと……何を仰って──」
彼女の勢いに気圧されるサクラコだったが、ハナコの口は止まりそうにない。
「『つまりそのような
「そ、そうなんですか?!」
「わ、私は……その……」
ハナコの言葉を聞いて、シスターフッドの生徒達は露骨にざわめきを強くする。
「『『覚悟』、確かにそれだけの『覚悟』を要求されるハイレグレオタードではありますが……それがシスターフッドの『象徴』であると?!』」
「『最早衣服としての体裁すら保てない、非合理極まりないデザインを義務付けると?!』」
「『サクラコさん、現在下着は……いえ、その形状では存在不能!そういうことですね、そういうことなのですね?!』」
「『つまり!』」
「『サクラコさんは!!』」
「『ハイレグ一枚!!!』」
ハナコのマシンガントークに気圧されていたサクラコだったが、ようやく反論に口を開く。
「なんですか!なんのことですか!!」
「うう……私達の罪をどうかお赦しください……」
「罪?!マリーさんはこれが罪であると?!」
一番困惑したいであろう周囲の生徒を差し置いて困惑しっぱなしになっているサクラコと、何故か懺悔し始めるマリー。
だが、それでものりにのっているハナコの勢いは止まらない。
「『なら、私もその『覚悟』に応えましょう!!』」
そう言って、彼女は自らの制服の肩に手を掛ける。
古今東西枚挙に暇がない、由緒正しき『ヤクザ脱ぎ』の構え。
そして脱ぎ捨てられた制服が宙を舞い、その下からは抜群のプロポーションを強調するスクール水着が現れる。
「……」
「……」
「……」
「『……これで、全ての準備が整いました』」
「はい……はいっ?準備って……?」
「『ふふっ、モチベーションの話です。……それでは改めて』」
なんで水着でそんな顔が出来るんだと問い詰めたくなるほどキリッとした顔で彼女は言い放った。
「『第4サンクトゥム、これより攻略開始します!!』