ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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高評価付けてくれてる人いつもお世話になってまーす!!!


記録81:最後の変数

「『……そうかもしれませんね』」

 

いつの間にかリエのスマートフォンを遠隔操作し、ミュートを解除していたヒマリ。

リエの小さな呼吸音が鳴るだけの部屋に、彼女の声が響いた。

 

「『ですが、これが私達の果たすべき役割です』」

「……」

「『私達のように『辿り着ける者』が、必ず答えに辿り着かなければいけない。……私達の敗北は、明日のキヴォトスの敗北に繋がりかねません』」

「……分かってる」

 

彼女は身体を起こし、肺に溜まった淀んだ空気を一息で吐き切った。

 

「……それで、どういうアプローチで行く?」

「『あなたならどうしますか?』」

「私なら……ひたすら因果を洗う」

「『流石の回答ですね。ではそちらはお任せします』」

 

リエは手帳を開き、万年筆を滑らせた。

見開き一面の罫線上に次々と文字が踊る。

彼女は約8ページを一息で埋めた後に、ようやく瞬きした。

 

「『ふふっ、相変わらずの手計算ですか』」

「……何か悪い?」

「『いえ。……ただ、それで連邦模試で数多のミレニアムの才媛を差し置いて数学2位……つくづくトリニティにいるのが惜しくなります。ミレニアムであれば、千年問題の一つでも解決できたかもしれませんのに』」

「……それ、1位が言わないでよ。というか、ヒマリほどの才能があればこれくらい一人でどうにかなるんじゃないの?」

 

問い返すリエに、ヒマリはクスッと笑った。

 

「『確かに、このミレニアムに君臨する、『咲き誇る大輪の花の如し麗しき天才少女』にかかれば一人でも出来るかもしれませんが……』」

「……が?」

「『……例えどれだけ美しく咲き誇ろうと、一輪では些か寂しいでしょう?』」

「……あっはは、なにそれ。下らない」

 

二人の笑い声が響く。

それと同時に、人間業とは思えないタイピング音と筆記音も。

そして数分が経った頃。

 

「ヒマリ、各サンクトゥムの発生時刻って分かる?」

「『何桁ですか?』」

「10桁あればいい」

「『でしたらこちらでいかがですか?』」

 

ヒマリが共有を掛けたデータがパソコンの画面に映し出される。

リエはその全てを脳に叩き込み、万年筆を加速させた。

ほんの僅かな時刻のズレから、そのエネルギーの発生地点を割り出し、探し当てる。

条件がある問題など、彼女の障害にはなり得なかった。

 

「……出た」

「『それで、結論は?』」

「キヴォトス上空、約75,000m。それが始点」

 

叩き出された答えの下に、リエはガッガッと一際強い力を込めて線を引く。

ヒマリもまた、強くキーボードを叩いた。

 

「『……なるほど。こちらですね』」

「……多分ね」

 

送られてきたデータを一瞥し、リエは頷く。

計算通りに、そこには『何か』が存在していた。

重力波の歪みが確かに存在する異物を証明している。

 

「『ですが……これまた難しい話になりました』」

「否定、出来ないかな。75,000mに手を出すとか実質不可能宣告みたいなものだし」

「『私はハッカーであり、あなたは政治家。どちらも才能があるからこのような研究者の真似事もしていますが、これ以上は専門家でなければ踏み込めません』」

 

二人共僅かに得られたデータに基づいて試算を繰り返していたが、少し暗い声色がその結果を示している。

それどころか、繰り返せば繰り返す程に結果は変わり、狂っていった。

 

「ヒマリ、構造は?」

「『少々難しいですね。謎の膜が覆っていて内部を知りようがありません。まるで『不確定性原理』に近い概念に覆われているかのようです』」

「そうなるよなぁ……こっちも考えれば考えるほど存在があやふやになってってる。少なくとも、物理攻撃は不可能かな」

 

結論が行き詰まったページを破り捨て、リエは再びため息を吐いた。

ヒマリも少し考え込むように黙った、その時だった。

 

「『突然失礼致します』」

 

二人の会話に、聞き慣れた声が割り込んだ。

 

「……ハナコ?」

「『やはりこちらにおられたのですね、リエさん。それでお二人共、少し耳を傾けて頂きたいのですが……トリニティで保有していた古書などを分析した結果、一つの仮説が浮かび上がりました』」

「『……重複する結果、不確定、定義不能な存在……なるほど、そういうことですか』」

「……近い所までは行ったんだけどな」

 

勝手にハナコの次に言う言葉を想像し、悔しそうに呟く二人。

そして、三人の声が重なった。

 

「「「『多次元解釈』」」」

 

多次元解釈。

例えば、誰かがくしゃみをした世界、くしゃみを我慢した世界。

くしゃみをした世界であれば一瞬大きな空気の流れが生まれ、その波は限りなく小さくなりながらも広がっていく。

しかし、くしゃみを我慢した世界であればその波は発生しない。

それらは明確に違う世界線であり、あらゆる選択が世界を分岐させ、互いが互いを観測出来ないだけでそれらは全て同時に存在すると解釈する、それが『多次元解釈』である。

とても簡単に言うのであれば、『平行世界』とでも呼ぶのが良いのだろうか。

 

「『すなわち、アレは『多次元解釈』によって混ざりあった無数の世界に覆われている、そういうことなのですね』」

「道理で毎回値が変わる訳。量子力学はあんまり得意じゃないんだけどな……」

「『あらゆる実在、非実在が混ざりあった混沌に、確定した秩序は持ち込めない……その為、『観測』は出来ますが『干渉』は不可能である……恐らくそういうことかと』」

 

リエは破り捨てたノートの切れ端に何かを書きながら、小さく呟いた。

 

「……理論値に近いスペックの量子コンピュータでも持ち込めばどうにかなるのかな……」

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