ミカとナギサの幼馴染   作:あるふぁせんとーり

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ちょっとオリジナル要素いれます


記録85:空征く船を見上げて

「……ですので、私は行くことになりました」

 

日も間もなく暮れる頃、補習授業部の教室に戻った彼女は言った。

 

「そうか。……大変な任務になると思うけど……」

「……いえ、あの時のアズサちゃんに比べればどうということはありません。……先生もいますし」

 

ハナコがそう答えると、「なら安心だ」と言ってアズサは笑った。

その横のコハル、ヒフミも「きっと大丈夫」と自らを納得させるように頷く。

 

「……少しだけ、長話を良いですか?」

 

そう言って、ハナコは話しだした。

 

「最近、少し考えるんです。「もし、先生が補習授業部の担任としてトリニティに来なかったら」って。「もしそうなら、私達はどうしていたんだろう」って」

「……そうだな」

「……それは……」

「ふふっ。そしたら、きっと私達の誰もが、今ここにいなかったと思います」

 

ハナコは少し考えるように目を瞑った。

思い出すのはさっきのリエとの会話。

 

「「そういう『運命』に助けられた」、そう思ったこともありました。……けれど、それはきっと違ったんです。先生がいて、先生と一緒に私達がやってきたこと……それは紛れもなく、『運命』なんてものじゃなくて、多くのことに助けられながらも()()()()が成し遂げたものですから」

「……ハナコちゃん……」

「私達は、先生がいたからこそ私達自身で選ぶことが出来た。先生のおかげで、あの時のヒフミちゃんみたいに「物語を描く」ことが出来たんです。……にしても、あの時のヒフミちゃん、カッコよかったですね♡」

 

ハナコがそう言って微笑むと、ヒフミは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

同意するように、コハルもアズサもうんうんと頷いている。

 

「だから、私は──」

「ああ、キヴォトスは私達に任せておけ」

「そうよ!あんたがいなくてもバッチリ守ってみせるんだから!」

「はい!……だからハナコちゃん、先生をお願いします!」

 

次々とその背中を後押しする補習授業部。

胸の内がじんわりと熱くなる。

 

「……はい。……それでは、行ってきます」

 

そう言って、ハナコは補習授業部を後にした。

 


 

「……じゃあ、私もそろそろ行くよ」

 

何杯かの紅茶を飲み干した後、リエはそう言って席を立った。

心配そうに声を掛けるナギサ達に「ハナコを送るだけなのに何をそんな心配してるのさ」とリエはクスッと笑う

そしてカーディガンを羽織った彼女に、最後にセイアは伝えた。

 

「……彼女達によろしく頼む」

「もちろん」

 

手渡されたメモをポケットに突っ込んで、彼女は部屋を出て行く。

その背中を見送って、ナギサはまた一杯紅茶を啜った。

 

「……」

「心配ですか?セイアさん」

「……いや、そういうわけじゃ──」

「あっはは、ナギちゃんこそ紅茶何杯目?夜眠れなくなっちゃうじゃんね☆」

「いえ、これは……その……」

 

空になったティーカップを片手に言い訳を考えるナギサ。

しかしそれを思いつく前にセイアが口を開いた。

 

「……「もし、私が今も『予知夢』を持っていたら」……そんな事を考えていた」

「「今なら正しい夢を見れるんじゃないか」……そういうことですか?」

 

ナギサの問いかけに、セイアはその首を縦に振った。

 

「……なーんだ、セイアちゃんも心配なんじゃん。……みんな一緒だ」

 

ミカはそう言って暗くなってきた空を見上げた。

一番星、二番星とせっかちな光がいくつか煌めいていた。

 

「でも、こういうお話って大体ハッピーエンドじゃん?誰もが手を取り合って、同じ目標に向かって戦って……その先に待ってるのは、きっと大団円のハッピーエンドだよ。だから、私達は先生を信じようよ」

「……ああ。彼女がいなければ、私達がこうして再び話すことすら叶わなかったのだろうから」

「……はい、私達は信じることしか出来ませんから……今は、先生と彼女達の健闘を祈りましょう」

 

その言葉に頷いて、ミカは僅かに視線を動かす。

見上げた空から、キヴォトスの中心で煌めくサンクトゥムタワーへ。

 

「ここは、私達が守るから」

 


 

「その……私達はどうしましょうか……?」

 

いつものように自信なさげな様子でヒヨリはサオリに問いかける。

彼女は黙って何も答えず、ただ何処か遠い目をしていた。

 

「サッちゃん?どうかしたの?」

「……いや、何でもない」

「……どうせ、「トリニティと共に戦う日が来るなんて」とか柄でもない感慨に浸ってたんでしょ?」

 

やれやれと呆れた風にため息を吐くミサキ。

けれど、ヒヨリはサオリに同意するように続けた。

 

「でも、相変わらず意味の分からないことが起こってばかりですが……その……」

「うん、少しワクワクする。『生きること』が少しだけ、楽しいような気がする」

「……なんというかその……はい、『人生』って、苦しいだけじゃないような……」

「……」

 

「はあ」ともう一度ため息を吐いた後、ミサキも口を開いた。

 

「まあ、私達みたいな日陰者が奮闘してこそ表舞台に光は当たるからね」

「……ああ、まだ何も終わってない」

「……でも」

 

被っていたフードを外して、アツコが笑いながら言った。

 

「こうしてみんなでいれるのが、今は嬉しいな」

「……ひ、姫ちゃん……」

「姫……」

「……それで、また全部終わったら……」

「……そうだな。そしたら……」

 


 

「……リエさん」

「……うん、頑張ってね。ハナコ」

「……はい。土産話、楽しみにしてて下さいね」

 

そう手を振ってシャーレの入り口に消えていくハナコの背中を、リエはフロントガラス越しに見ていた。

 

「……そうだよね。帰る居場所も、帰らないといけない理由も出来たんだもんね」

 

僅かに熱くなる目頭を押さえ、リエは俯いた。

 

「ああ、良かったなぁ……」

 

駄目だな。

この状況になって、キヴォトスが終わるかもしれないこの状況になってあんまり感情を抑えられなくなってる。

……いや、きっと大丈夫。

私達には、先生がいるんだから。

キヴォトスは、まだ終わらせない。

 

「……行こう」

 

目元をハンカチで拭い、リエは再びその細い指でハンドルを握る。

あまり猶予も残ってないが、これだけは最後にやっておかないと。

彼女は音声入力対応のカーナビに一言呟いた。

 

「『クロノスジャーナリズムスクール』」




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