「……あ!サクラコ様!わっぴ〜!」
「アオバさん……!はい、わっぴ〜!」
大聖堂に入るなり、リーダーのサクラコを見つけたアオバ。
謎の挨拶を交わす彼女達を、三人は少し不思議そうな目で見ている。
それは周りのシスターも同じらしく、訝しむようにその光景を眺めていた。
「……アオバ、「わっぴ〜」って……何?」
「え、知らないの?トリニティで流行ってる挨拶だけど。ですよね、サクラコ様!」
「はい、そのように伺っています」
そう言って、二人は少し誇らしげな顔をする。
シオンは少しため息を吐いた。
「詐欺とか、引っかからないようにね。アオバもサクラコ様も……」
「……?」
「いや、気にしないで下さい……」
あまりピンとこない様子で首を傾げるサクラコ。
少しの間が空いた後に、彼女はコホンと咳払いした。
「……それで、皆様
「はい!……せーのっ」
「「「「トリック・オア・トリート!!」」」」
「ふふっ、少々お待ち下さい」
そう言って、サクラコは大聖堂の奥へ消えていった。
シスターフッドのテーマは『和風』。
シスター達は着物や袴、あるいは僧衣なんていうものに袖を通し、サクラコも死に装束に天冠*1という王道の幽霊スタイルで生徒達を出迎えていたが、やはりどいつもこいつも血みどろだったりで実におどろおどろしい仕上がりとなっている。
ティーパーティーの秘密主義的なイメージも相まってなおのこと。
現在、学内掲示板ではお化け屋敷のような扱いをされているらしい。
「……うん、思ったよりも……」
「怖い……」
「え、そうかな?」
「だってアオバはシスターフッドじゃん……」
そしてそんなことを話していると、奥から戻ってきたサクラコがいくつかの小さな封筒のようなものを持ってやってきた。
そして「お待たせしました」と軽く謝罪した後に彼女はそれを四人に手渡した。
なんだろう、とオトカが真っ先に開くと、中から出てきたのは天冠を模した薄っぺらいお餅のような何か。
彼女は思わずサクラコに尋ねた。
「えっと、これ……」
「珍しいでしょう?『生八ツ橋』というお菓子だそうで、百鬼夜行から取り寄せたんです。騙されたと思って食べてみて下さい」
「わ、分かりました……」
そう答えると、彼女は「はむっ」というなんとも可愛らしい効果音でそれを齧る。
そして一瞬でその顔はぱあっと明るくなった。
「美味しい……!シナモン味でめちゃめちゃ美味しい!」
「ふふっ、お気に召していただけたようで何よりです」
そして彼女から幽霊のスタンプを貰い、四人は大聖堂を後にした。
「団長!ハッピーハロウィーン!」
「楽しんでいるようで何よりです、オトカ」
次に彼女達が訪れたのは救護騎士団。
彼女達の装いは『海賊』で、救護騎士団の部員達はよくあるボーダーのシャツにバンダナを巻いていて、団長であるミネは海賊帽子にロングコート。
本人曰く「救護には全く差し支えない」らしい。
そしてもはや運営側の目印にすらなっている高度な傷メイクと血糊に関しても「このようなイベントに水を差すほど私は無粋ではありません」とのこと。
ミネ団長は読もうと思えば空気が読めるタイプなのである。
「「「「トリック・オア・トリート!!」」」」
「では、トリートを。……少しお待ち下さい。ハナエ!!」
「ヨーソロー*2!」
ミネが呼ぶと、ハナエは大きめのカバンくらいのサイズの宝箱を持ってやってきた。
中には手作りのキャンディやグミ、チョコレートなど、個包装にされた小粒のお菓子が一杯に詰まっている。
「海賊らしく……というわけではありませんが、欲しいものは欲しいだけ。救護騎士団のお菓子は『掴み取り』です」
四人の顔にワクワクが満ちていく。
「はいはーい!」と元気よくトップバッターに名乗り出たのはオトカだった。
そして彼女に続いて三人も目一杯に手を開いて中のお菓子を思いっ切り掴む。
「一杯とれた……」
「お、アキすごい!」
「アオバ、りんご味交換しない?」
「いいよ、どれにする?」
彼女達がお菓子交換のようなことをしている間に、ミネは四人のスタンプカードに海賊のスタンプを押した。
そしてそれに気がついた四人は慌てて彼女にお礼を言う。
「もう少しでゴールですが、最後まで気を抜かないように。それと、はしゃぎ過ぎには気をつけて下さい。楽しいイベントで怪我なんてしたら台無しになってしまいますから」
「はい、ありがとうございました!」
そう言って出ていく彼女達を、ミネはにこやかに手を振って送り出した。
「……!あれ……」
「つ、ツルギ先輩だ……実物始めて見た……」
彼女達は少し怯えながら正義実現委員会の本部に足を踏み入れた。
正義実現委員会のテーマは『警察』。
ヴァルキューレのものと近いようで遠いような所謂『ミニスカポリス』のような制服を纏って彼女達は警備の任務などに当たっている。
無論、血塗れ。
そして、彼女達が到着した丁度その時の担当は剣先ツルギ。
正義実現委員会の委員長にして、『魔女狩り』が正義実現委員会でなくなった今、トリニティの『正義』の象徴たる人物、人呼んで『歩く戦略兵器』……なのだが……。
彼女、かなり怖い。
何が怖いって見た目が。
あと雰囲気も。
戦闘の度に奇声が木霊し、制服は乱れ血みどろ、だらんと長い舌を垂らし、その三白眼を煌めかせるその姿は正しく怪物。
もう一人だけ年中ハロウィンをしているような感じなのだ。
その為、一般生徒は彼女のことを非常に恐れている。
戦ったゲヘナの生徒が潰れた空き缶みたいになったとか、電車に轢かれても一晩で完治したとか、映画館で恋愛映画を見ていたとか……。
彼女に関する噂はいっつもどこかしらで流れている。
これが最終関門か、と三人が覚悟していると、シオンは一人で彼女の下へ歩いていった。
「お疲れ様です、ツルギ委員長」
「ああ、お疲れ様」
「?!」
「あの人普通に喋れるんだ……」
「うん、初めて見た……」
小声で話す三人に、シオンはちょいちょいっと手招きする。
「そういえば、ハスミ先輩は?」
「ああ、ハスミは……こういうイベントだから……」
「……成る程、お菓子を集めに行ったと」
シオンの言葉に、彼女はコクリと頷いた。
そして、揃った四人が声を合わせる。
シオン以外は、若干声が震えていたが。
「「「「と、トリック・オア・トリート!!」」」」
「……少し待ってて」
そう言って、彼女は椅子から立ち上がって近くの棚を開ける。
そして包み紙に包まれたチョコレート、それもデフォルメされた猫ちゃんを模したものを四人に手渡した。
「……!可愛い……!」
「上手……」
思わずその出来映えを褒めると、ツルギは少し顔を赤くした。
「あ、ツルギ委員長の手作りなんだ」と誰もが察した。
「意外……」
「そう、ツルギ委員長、根は乙女だから……」
「なるほど……」
「……スタンプは?」
「あっ、お願いします!」
そう言って、シオンが四人分のスタンプカードを手渡すと、そこにツルギがポンポンと手錠のスタンプを押していく。
小さな声で「おめでとう」と言っていたのを彼女は聞き逃さなかった。
そして四人は改めて彼女にお礼を言うと、意気揚々とカフェテリアに向かった。
「あ、あのっ!」
「……お、一番乗りだよあなた達!」
全て埋まったスタンプカードを差し出すと、調理部の生徒は嬉しそうに言った。
そして先陣を切ったアキに続いて三人も彼女達にスタンプカードを手渡す。
「お待ちかねの限定スイーツは……これ!」
そう言って彼女がスタンプカードと引き換えたのは、鮮やかに彩られたパンプキンパイ。
ジャック・オー・ランタンを模した装飾がちょこんと乗っていて可愛らしい。
しかし、彼女はそれを四人には渡さなかった。
「……最後に言うことあるでしょ?」
「せーのっ」
そう言っていたずらっぽい笑顔を浮かべる調理部の彼女。
彼女達は今日一番の声で言った。
「「「「トリック・オア・トリート!!」」」」
「……ハナコ」
「リエさん?」
いよいよ宴も酣。
祭の真ん中からは離れて、街灯、そして星明りが煌めく下で二人は偶然遭遇した。
補習授業部ももちろんハロウィンを謳歌していて、ヒフミとアズサはお揃いのモモフレンズコスチュームを、コハルは王道の魔法少女。
そしてハナコは……。
「……ふふっ、お揃いですね」
「あはは、そうかも」
何度か締め直したとはいえ、この時間になると少しは包帯が緩んでくる。
お互い苦労するね、と笑ったのはリエ。
ハナコは端を少し結び直し、彼女に問いかける。
「トリック・オア・トリート?」
「……ざーんねん」
何かリエにいたずらしてみたい、そんなハナコの思惑なんてお見通しと言わんばかりに彼女はポケットから取り出したリボンチョコを投げ渡す。
そして、今度はリエが彼女に問いかけた。
「トリック・オア・トリート?」
「……トリックで」
今度は、ハナコの思惑通りだった。
リエにいたずらが出来なくても、今はハロウィンの真っ只中。
彼女だって少しくらい『いたずらしたい欲』が溜まっているに違いない。
リエのするいたずらというものにも、ハナコは興味があった。
「……どうしようかなぁ」
彼女は少し顎に指を当てて考える。
そして、「みんなには内緒だよ?」と笑い、トップスの裾に手を掛けた。
「……」
ハナコは赤面した。
彼女が捲ったトップスの下。
見えてはいけない部分だけを隠し、その豊満な胸を支えるには値しない程度にしか巻かれていない包帯。
そしてその下には、文字通りに何も着ていなかった。
ハナコでさえ、黒い薄手のインナーの上から包帯を巻いていたにも関わらず。
「ふふっ、ハナコが初めてだよ?これ見るの。ナギサにも、ミカにもまだ見せてないから」
「……何故……?」
ハナコの口から、思わずそんな言葉が出る。
けれど、彼女は笑って答えた。
「……だって、やっちゃいけないことって楽しいでしょ?」