さて、前回のあとがきにて語った通りアリウス自治区編最終章の開幕です。予定では今回の話と合わせて数話で終わる予定です。ので急ぎ足で話を進める場面が多々あるかと思いますがご了承ください。
では本編をどうぞ!
※誤字脱字はお許しください。
爆弾の設置を終えたクシナとサオリが住処へと戻って来た。
「おかえり。結構早かったね」
「…………………………………………………………」
「?」
ミサキが出迎えるもクシナは返事をせずに1人部屋の奥へと進む。
「……ああ、クシナが予め設置場所に目を付けてたからな。思いの他早く終わったんだ」
「そう…。でもクシナの様子がおかしいみたいなんだけど?」
「……その、少し口論になってな。これは私とクシナの問題だ…。悪いがしばらく付き合ってくれないか?」
「……別にいいけど。大方、サオリ姉さんが正論を言ってクシナが反論しただけでしょ。口で勝てないから不機嫌になったんだって思ってる」
クシナとサオリは爆弾の設置中に何やら口論になったようだ。本人達が語らないため、内容は定かではないが2人の中が険悪であることは間違いなさそうだ。
「……クシナは色々1人で抱えがちだ。ミサキも少しだけ気にかけてやってくれないか」
「難しい要求だね。サオリ姉さんと何があったのか聞かずに気にかけるって至難の業だよ」
「それでも頼む。今のクシナに私の言葉は響かない」
「?……そう、わかった」
いつもと変わって弱々しいサオリに対してミサキは不安を抱く。だが先程2人の問題だと言われた以上、深追いしたところで求めている回答は得られないだろう。ミサキは瞬時に判断し了承の返事をするのであった。
「…………………………………………………………」
サオリとミサキが会話をしている最中、先に部屋へと戻ったクシナをアツコとヒヨリが出迎えた。
「クシナ、おかえり」
「クシナちゃん、お、おかえりなさい」
「……うん、ただいま」ニコ
クシナは先程まで不機嫌だったことが嘘かのように満面の笑みを浮かべアツコとヒヨリに話しかける。
「大変だったー。もう外寒いし手が悴んで、ほら」
「ひぃ!ち、ちべたいですよクシナちゃん!」
「ふはは、私はヒヨリの熱を奪う魔女なのだー」
冷えきった手をヒヨリの頬に当てて暖を取る。部屋にいたおかげでクシナより遥かに暖かいヒヨリから体温を奪いながら先のセリフを述べた。
「も、もうクシナちゃん!わ、悪ふざけが過ぎてますよ!」
「ごめんって、でもおかげで手が暖かくなったよ。ありがとう、ヒヨリ」
「!な、ならいいですけど……えへへ」
ヒヨリははにかむように笑いながら許すのであった。
「クシナ、毛布出したから3人で暖を取ろうよ」
「!うん!」
2人のやり取りを聞きながら押し入れから毛布を取り出したアツコ。2人に対してアツコ含めて3人で暖を取ろうと提案した。
「うわー暖けー暖まるー」
ヒヨリとアツコに囲まれるよう真ん中に居座るクシナはすぐに体の芯から暖かくなるのを感じた。
「外寒かったでしょ?」
「寒かったけど誰かがやらないといけない作業だったからね。仕方がないよ」
「そう言えばミサキさんから聞きました。製作した爆弾を仕掛けに行ってたと…た、大変だったのではないでしょうか」
「んー大変だったけど…サオリ姉と一緒にやってたからそこまでだったよ」
まあ崖に設置する時は大変だったけど、とクシナは付け加えその会話は終わりを迎えたのであった。
「……うわ、暖かそう」
廊下から顔を出したミサキがクシナ達が暖を取ってる様子を見つめボソリと言葉を漏らした。
「ミサキも入る?」
「……うん」
アツコがミサキに声をかけ、ミサキはすぐに返事をしてクシナ達の毛布へと入る。
「相変わず凄い。クシナが湯たんぽのように暖かい…。なにこれ」
ミサキは普段見せないようなトロンとした顔をしながらクシナに抱きつき暖を取り始めた。
「……お前達、何をしているんだ?」
ミサキに続くよう部屋に訪れたサオリは入室と同時にクシナ達へ話しかける。
「あ、サッちゃん。サッちゃんも入る?」
「……いや、遠慮しておく。それにその毛布じゃ5人も覆い隠せないからな」
「じゃあ毛布をもう1枚出そうか。そうすれば問題ないよね?」
「そうだが…」
先程クシナと口論したため、サオリは一緒に暖を取ることに負い目を感じ一度断る。
その後、サオリは横目でクシナの様子を伺うが、クシナは特に気にしてない様子で口を開いた。
「遠慮しなくていいって。それに5人の方が暖かいはずだよ」
「……クシナの言う通り。私も暖かい方がいいからね。サオリ姉さんも一緒に暖を取ろうよ」
「わ、私も賛成です。それにサオリ姉さんは体温が高くて暖かいですからね。えへへ」
クシナに続くようミサキとヒヨリが意見を述べた。
「…………みんなが言うなら」
みんなの圧に負けたサオリは毛布をもう1枚手に取り4人の輪に入る。
「サッちゃん、どう?暖かいでしょ?」
2枚の布団を前後で挟むことで熱が逃げることを防ぎ、効率よく暖を取れるようになったことでサオリもすぐに体の芯から暖まっていくことを感じた。
「ああ、暖かいな…」
「ふふ、でしょ?でもね、クシナに抱き着くともっと暖かいよ」
「!流石にそれは…」
またも後ろめたさを感じたサオリは躊躇する。だがまたも気にしない様子でクシナが行動に出た。
「サオリ姉、抱かないの?」
「…………………………………………………………」
クシナの問に言葉ではなく行動で答えたサオリはクシナに抱き着く。
「……本当だ。暖かいな」
「はは、でしょ?伊達にミサキの抱き枕やってませんからな」
笑いながら答えるクシナ。それに対してサオリは特に反応せず、しばらく沈黙を貫いた後、口を開く。
「……クシナ、さっきの事だ「グゥぅぅうううう〜」……?」
サオリの言葉をかき消すようにグゥぅーと低い腹鳴が辺りに鳴り響く。クシナ達は一体誰の腹鳴なのかその場にいた全員が少し考える…が、秒で合点がいった。
「もーうヒヨリーそんなにお腹減ってるのか?」
「ふぇ!?わ、私じゃないですよ!?」
「お腹を鳴らすのはヒヨリぐらいだよ。別に恥じることないと思うんだけど」
「夕ご飯まで待ちきれなかったのかな?でも生理現象だからミサキの言うとり恥じることはないよ」
「で、ですから私ではないんですって!こ、これは本当です!」
「まあそう言いなさんって。ほら、アリウスから奪ったレーションを上げるからこれで我慢してね」
クシナはポケットに忍ばせていたレーションを取り出しヒヨリに渡す。ポケットに入れていたため開封はされてないものの中のレーションは粉々になっていた。
「うわ!い、いいんですか!?それにこれはチョコ味じゃないですか!ほ、本当にいただいてもいいのでしょうか……?」
「お腹空いてたんでしょ?これなら夜ご飯まで保てると思うからさ。貰ってよ」
「……ま、まあいただけるのであればいただきます。え、えへへ、濡れ衣を着せられましたがいいこともあるんですね」
ヒヨリはすぐさまレーションを開封して食す。粉々になっていたが気にもせずにヒヨリはあっという間に食べ終えたのであった。
「濡れ衣って……まあ、別にいいか。それよりクシナ、あんな高級な物を隠し持ってたんだね」
「いやー高級な物って、ただの非常食だよ。備蓄してただけで私は食べてないから悪くないってことで」
「食べた食べてないじゃなくて隠し持ってたことについて言及してるんだけど」
「もしかしてクシナって結構食い意地あるのかな?こないだも…「あー!知らない知らない!私そろそろ上に行くよ!今日の寝ずの番私だからね!」……あ、逃げた」
アツコが告げ口をしようとしたものだからクシナは声を上げてかき消す。そして続くように寝ずの番であることをいいことにその場から逃げたことで更なる言及を逃れることに成功したのであった。
「……危なかった」
屋上に到着するや否やクシナは扉に背を預けズルズルと沈むようにその場に座り込む。
「ッ!」
居間に響いた腹鳴よりも更に大きな腹鳴が鳴り響く。ここにはクシナ以外誰もいない。すなわち、周囲に鳴り響いた腹鳴はクシナの腹が奏た音となる。
「黙れ、黙れ、黙れ……私は、私はお腹なんて空いてない、空いてない、空いてない、空いてなんかない!」
クシナは顔を強ばらせながら必死にお腹を抑える。数秒後、腹鳴が収まり落ち着いたところでクシナが口を開いた。
「……ヒヨリには悪いことしちゃったなぁ」
先程の居間に鳴り響くた腹鳴はヒヨリから発せられたものだと誰しもが思った。ヒヨリ本人は否定したが「恥ずかしいから」と周囲は思い込んだことで、ヒヨリが鳴らしたと決め付けていた。
だがあの腹鳴の正体はクシナが発したものだ。
「はは、私が食事を抜いてるなんて知られたら…またサオリ姉に怒られちゃうよ」
タダでさえ今は関係が優れないのだから余計に怒られてしまうと思うクシナ。
特別、食料が枯渇している訳では無い。だがクシナ本人が食べることを拒んでいる。それは食料を少しでも確保するため、自分が食事を怠ることで食料の減りを少しでも遅らせることができる…。
自身より他者を優先する思考をした結果、現在はお腹が減り腹鳴が鳴ってしまった。
それも全員が揃っている場でだ。ヒヨリのせいにしたのは英断であったが罪悪感が残ったのは確かであった。
「これぐらいなんともなかったはずなんだけどなぁ。私の体、どうかしちゃったのかな」
軽い栄養失調に陥ってるのは自負している。勿論、血圧が低いことも、貧血気味であることも。でも、多分だが自身より他のみんなの方が苦しんでいるはずだと決め付け、クシナは他者を優先して食事を抜く。
それはクシナ本人の性格故の行動であり、家族の為に生きるという生きるための活力でもある。本人も理解しているが、誰かの為につまり家族の為になら気力が湧くことを熟知しているためこのような愚かな行為に走ってしまう…。
「とは言ってもそろそろ何か食べないとだよな」
限界を迎えた時のため、レーションを所持していたが先程ヒヨリに与えてしまった。今夜、みんなが寝静まったところで缶詰を一つだけ拝借しようと思うクシナ。
だがそれは叶うことはなかった。
「!」
脳天に鋭利な物が突き刺さるような感覚が身体を震わせる。クシナは瞬時にその場から立ち上がり周囲を見渡す。
「……来たか…!」
遠くに見えるのはたった3人の生徒。うち1人の生徒がこちらへ機関銃を向けている。
「あれれ?もしかして気付かれた?この距離でー?」
機関銃、もといグレネードランチャーを構えていたベータが言葉を漏らしながら榴弾をクシナ達の住処へと放つ。榴弾は綺麗な放物線を描きながらクシナの足元へと着弾した。
「ッ!」
クシナが屋上から後退した瞬間に榴弾は爆ぜる。爆風でドアと一緒にクシナは吹き飛ばされるも怪我することなく階段へ着地して見せた。
「クシナ!何があった!」
榴弾の爆ぜた音を聞き付けたサオリが屋上へ続く階段の麓でクシナに話しかける。
「アリウスの襲撃だ!でもいつもの部隊と違う!多分…アリウス内トップクラスの部隊だ!」
「?何故そんなことが分かるんだ!」
「それは今関係ない、とりあえずここから離脱する!みんなにも伝えて!」
「ッ!わかった」
神秘により直感で感じたことをサオリに説明するクシナ。だが神秘を知らないサオリからしてみては根拠もない発言に疑問を抱くのは至極当然。考えるサオリを気にせずクシナは全員に離脱する旨を伝えるようサオリに指示を出す。
「!」
再び屋上に放り込まれた榴弾が爆ぜる。明らかにクシナ達を誘き出すための威嚇射撃であることは言うまでもなかった。
「う、うわぁ!な、なんですか!襲撃ですか!?」
「それしか考えられないでしょ。とりあえず荷物を纏めて、すぐにサオリ姉さんから指示がでるから」
「?クシナは!?この音って屋上からだよね!?」
屋上にいたクシナの安否が気になったアツコが声を上げた。普段の声音とは違った焦ったその声にミサキは少し驚く。が、うろたえている場合ではない。
「姫、クシナなら大丈夫。あいつがこんな簡単な攻撃で殺られるわけないでしょ。姫もそれを知ってるはず」
「!……う、うん。そうだね…取り乱してごめん」
「うん、さあ、早くリュックを」
「わかった」
一瞬にして落ち着いたアツコはミサキから渡されたリュックをからう。
「あわわ!て、敵が!敵が来ちゃいます!わ、私は狙撃手なので距離を詰められたら終わっちゃいますぅ!」
「だからここから離れるの!ほら早く!リュックとライフルを担いで!」
「あ、は、はい!」
ミサキが珍しく声を荒らげる。おかげで敵よりもミサキの方が怖いと思ったヒヨリは一瞬にして冷静さを取り戻す。
「みんな、状況は理解しているな?」
準備を終えたところでサオリが姿を現す。
「うん、何時でも出れるよ」
「わ、私も大丈夫です!」
「私は今準備が終わったところ。サオリ姉さんとクシナは?」
「私もクシナも準備は終わってる。すぐにここから離脱するぞ。私に着いてこい」
『了解』
サオリの指示に従いミサキ達は着いていく。しかし、ここでミサキが疑問を抱き口を開く。
「サオリ姉さん、この家に勝手口はないはず。出るなら表口しかないんじゃないの?……いや、敵がいるから表から出るのは得策ではないけどそこが唯一の出入口だから…」
「言いたいことは分かる。だが安心しろ」
『?』
家の裏側へと到着した途端、サオリは手を下ろして止まれと指示を出す。
「……クシナ?」
壁を触り何か考えているクシナがそこにはいた。
「良かった。無事みたいだね」
「姫、下がれ。巻き込まれるぞ」
「???」
クシナの安否が取れて安心したアツコはクシナに近寄る。だがそれをサオリは許可しない。
「サオリ姉、やっちゃっていい?」
「ああ、盛大にやってしまえ」
「了!解!」
拳を握り構えだすクシナ。
「……まさか!」
『?』
クシナが何をするのか悟ったミサキは声を出した。その声を聞き止めたクシナはニヤリと口角を上げて目の前に広がる壁の一点を見つめる。
そして。
「せーのーっ!」
掛け声に合わせて壁に拳を振るクシナ。瞬間、壁は崩れ始め人が数人程通れるようになった。
「この脳筋馬鹿は…。爆弾使って壁を壊すとか考えないわけ?」
「何言うか。爆弾は貴重品だろうが、無駄遣いしてどうする」
「これは無駄遣いじゃないと思うんだけど?」
「どう考えても無駄遣いだろ!それに私の拳で破壊できたんだからいいでしょうが!」
「はぁ、だからそれは結果論でしょ。壊れなかったらどうしてたの?」
「……こ、壊れるまで殴る予定だった」
「ほら脳筋馬鹿じゃんか」
「ぐっー!!!!」
クシナとミサキが言い合いしている中、他のみんなはクシナが作った穴を通り外へと出る。
「お前達、言い合ってないで早く出ろ!」
「はっ、私に感謝しながら通るんだなミサキ!」
「うるさい。爆弾使えば私でも穴は開けれた」
「物に頼らず私はやったんですぅーこれ以上文句言うならミサキの鳩尾目掛けてさっきの拳ぶち込むゾ」
「少し黙って。それと暴力反対。私はクシナを家族に手を出すDV野郎に育てた覚えは無いよ」
「むきー!!!!」
論破されたクシナは声にならない声を上げながら自身で作った壁の穴を通り外に出る。
「言い合うのは良いが時と場合を考えろ」
「仲良いのはいいことだけど今はちゃんとしてね?」
「え、えーっと、こればっかりはサオリ姉さんと姫ちゃんが正しいかと思います……。ちゃ、ちゃんと言うことを聞くべきです」
『……………………………………はい』
クシナとミサキは何も言い返すことができず、小さな声で「はい」と返事をすることしかできなかった。
その後、クシナ達はサオリの指示に従い住処から離脱する。続くように先程爆弾を設置した場所へ向かって前進するのであった。
「全弾着弾確認。威嚇射撃はこれぐらいでいい?」
「威嚇にしては随分打ち込んだな。一発だけだと指示を出したはずだが?」
「ごめんごめんー、ちっちゃい子供を相手にするのって初めてだからさ。加減ってのがベータちゃんには分からなくってさ。テヘペロ」
ベータは頭に手を当て可愛げな仕草をするもガスマスクを着用しているため表情が読み取れない。傍から見ては変なポーズを決めたガスマスクを着用した変な人にしか見えない。
「紅耶クシナはまだしもロイヤルブラッドが傷付いたらどうするんだ。マダムに怒られるぞ」
「死ななきゃいいでしょ死ななきゃさ。それよりこれで終わりじゃないよね?殺るんだよね?」
ベータは指示を仰ぐように顔をアルファに近付け言葉を発する。
「そう急かすな。そろそろ住処から出たところか」
遠くに視線を向けると黒い服を纏った集団が目に移る。外は一面雪により白銀の世界。黒いパーカーを羽織うクシナ達の姿は遠くから見ても一目瞭然、何処にいるかなど嫌でもバレてしまう。
「……なんだ、誘ってんのか?」
遠くにいるクシナとサオリが定期的にこちらに振り向き様子を伺っているようだ。
「(いいぜ。遊んでやるよ)」
遊び相手として格好の獲物を見つけたアルファは不気味に微笑む。が、すぐに表情を戻す。
「ベータ、ガンマ」
「はーい」
「アルファ、何時でも行けるよ」
それぞれの返事を聞き止めアルファは告げる。
「アリウススクワッド、作戦開始だ」
『了解』
アルファが作戦開始と告げ、スクワッド全員がその場から動き出す。足場は雪で覆われ行動に制限がかかるはずだが、3人は平然と機敏に動き離れていたクシナ達を目指して前進する。
「!クシナ!」
「わかってる!」
アリウスの生徒から距離をとるために移動してクシナ一行。アルファ達が前進したことの確認が取れたことにより行動に出た。
「爆ぜろ!」
ポケットから取り出した遠隔式爆弾のスイッチを押し込む。するとクシナ達の後方から事前に設置していた爆弾が爆ぜる。通常であれば土煙が漂うが、生憎と今は白銀の世界。土煙ならぬ雪煙が周囲に広がり、アリウス生の様子は伺えない。
「!……まあこんな簡単に決まるわけないか」
始末できてないと感じたクシナがレッグホレスターからナイフを取り出した構える。そして雪煙を切り裂き、アリウス生が数人目の前に現れ、内、1人がクシナに向けてナイフを切り込む。
「はは!ようやく会えたなぁ!紅耶クシナ!」
「知らねーよ!誰だよお前はぁ!」
互いのナイフの矛が衝突し、火花が飛び散る。察するに相当な勢いで衝突したことが伺える。
「!ちっ!」
均衡してたかのように見えた力の押し合いはクシナがアルファのナイフをいなしたことで幕を閉じだ。
「俺はアリウススクワッド、隊長のアルファだ」
「あっ、続けて自己紹介してもいい?私は副隊長のベータだよー」
「……僕はガンマ、君達、僕達と戦うことになるなんて運が悪いね」
登場したアリウス生はアルファに続いて自己紹介を始めた。アリウススクワッド、聞きなれない部隊名に戸惑いつつもクシナ達は戦闘態勢を整えるべく、機関銃のセーフティを各々解除し始める。
「あっ!ロイヤルブラッド発見ー!」
「……姫、後ろに隠れろ」
「うん」
サオリはアツコの手を握り後ろへ隠れるよう指示を出す。アツコもそれに応えるようにサオリの背に隠れてアルファ達の様子を伺う。
「ミサキ、アリウススクワッドって部隊名か?」
「……今思い出した。確かアリウス最強の特殊部隊だとか、なんとかって…」
「あ、あああアリウス最強!?そ、そんな人達と戦うんですか!?もうおしまいじゃないですか!うわぁぁぁぁぁぁんん!!!」
クシナ達はその場で泣きじゃくるヒヨリに対して同情する。幾らアリウス部隊との襲撃を何度と経て、戦闘経験が豊富だとしても所詮は10歳にも満たない幼子、相手は自分達よりも倍の年数生きている人であり、アリウス最強の部隊と聞けば怯えるのは仕方がない。
「あらら、泣いちゃった。あ、じゃあさ、ロイヤルブラッドとえっとー」
「紅耶クシナだ」
「そうそう、紅耶クシナを差し出せば見逃してあげるよ」
「え?本当ですか……?で、でも私は2人のお姉ちゃんなのでそ、そんなことできません。すみません……。え、えへへ!えへへへ!」
「!」
「……な、なにこの子。気持ち悪ーい」
少しだけ不気味に微笑んだように見えたヒヨリに引くベータ、しかしそんなことを気にせずアルファが口を開いた。
「お前達の意見など知らん。早くロイヤルブラッドと紅耶クシナを差し出せ」
「断る!それに姫を求めるのは分かるが、クシナを要求する意味がわからない!」
「……そう声を荒らげるな錠前サオリ。お前にはハナから興味はない、妹達を置いて失せろ」
「興味の有無など関係ない!妹を残して逃げる姉が何処にいると言うんだ!」
サオリはアツコの手を離し、妹であるクシナ達の前に立ち、守るかのように手を広げて言葉を発する。
「妹を守るのが姉としての務めだ!貴様らには妹達に指一本触れさせない!」
その様をアルファは暫く眺めた後、口を抑えた。
「……ふ、ふはは!ふははっ!はははっ!」
アルファの抑えていた手は口から顔へと移り、堪えていた笑い声は次第に大きくなり、その場に高らかに響く。
「?何がおかしい!」
「姉は妹を守るのが務め、か。わかる、わかるぞ…だけどな錠前サオリ…」
アルファは抑えていた手を離し笑顔だった表情は嘘だったかのように真顔へと変貌し低い声で言葉を発した。
「お前、妹の紅耶クシナより弱いじゃねーか」
『!?』
その言葉に大きく反応したのはサオリ本人、そしてその後ろに控えていたクシナであった。
直近の戦闘ではサオリから戦闘指導を受けたクシナが本領発揮したことで戦績を急激に上げていた。戦績を見た第三者からしてはクシナに軍杯が上がるのは明確。
決めては昨日の襲撃時、クシナが1人で1部隊を半壊させた事件。アリウス側でもクシナの危険度が増し特記戦力として一番となっていた。
「いいか錠前サオリ、この世には妹より劣った姉はいねーんだよ。故に妹より劣っている姉に存在価値もなければ姉と名乗る資格もない。言わばお前は劣等品だ」
「……そ、そんな摂理は知らない」
「強がんなよ。自覚してんだろ?自分が紅耶クシナより劣ってるってな」
「ッ!貴様!」
「……だから声を荒らげるなって、ほら見ろ。妹の方は察してる様子だぞ?」
「!」
サオリは振り返りクシナの様子を確認する。クシナはサオリから目を逸らして気まずそうな表情をしている。
「(サオリ姉さんとクシナの口論ってこれか…)」
否が応でも察してしまったミサキ。普段のクシナであれば脊髄反射の如し否定するが今回は違った。まるでアルファと同意見であるかのように…。
「……だってサオリ姉は私より弱いから」
つい数時間前、妹から告げられたセリフが脳内で繰り返し再生される。
「わ、私は、私は…クシナより、おと、劣ってなんか…!」
サオリは自覚していた。だが自分に言い聞かせ、家族の前では平然を装っているつもりだった…。だが第三者にその事実に触れられると…サオリとて取り乱してしまう。
「それに比べて実姉は賢かったな」
「は?」
その言葉に瞬時に反応したのは他の誰でもないクシナであった。
「お前の実姉、紅耶
「……才能?怯えてた?」
アルファの言葉がわからずロボットのように聞き返すクシナ。だがアルファは続けて言葉を発する。
「そうだ。お前の
「……お前は一体何を言ってるんだ…?神秘?それになんで姉さんの名前と私が匿われていたと知っているんだ!」
心臓の鼓動が早くなる。ここまで話を聞いて察せないクシナではない…。サオリが以前語っていたがクシナの姉、クイナを殺害した人物はアリウス生である可能性が高いと。だがアルファ本人の口から真実が語られる前に自身の勝手な判断で答えを導き出すのは違うと思い踏みとどまる。
「……クイナは才能の原石だった。俺に匹敵する神秘を所持した生徒だった…。故に残念だった、ああ本当、残念だったなぁ」
クシナの握るナイフがメキメキと音を立てる。アルファの話を聞きながら徐々に力がこもり自然と音が鳴り響く。その音は勿論、アルファの耳にも入る。
「もういい…!結論を述べろ…!」
「……わかった。紅耶クイナを殺したのは俺だ」
クシナが勢いよく飛翔したかと思えば次の瞬間、先程とは構図は異なるも再びクシナとアルファのナイフが矛を交える。
「お前かぁぁぁぉぁぁああ!!絶対殺す…!お前の背中をズタズタに引き裂いて姉さんと同じ目に遭わせてやる…!」
生まれて初めて抱いた明確な殺意。姉を殺害した宿敵を見つけたクシナは殺意を剥き出しにしながらアルファとの戦闘が幕を開けた。
「もとより
『了解』
アルファは指示を下す。それに返事をしたベータとガンマが行動に出た。
「ロイヤルブラッドは私がやってもいい?いいよねー!顔がいいからちょっとムカついてたんだよねー!」
「きゃっ!」
ベータは一気に距離を詰め、右手でアツコの首を掴み窒息させんとばかりに力を込め締め上げる。
「うっ!うう!」
一瞬の出来事。そして先程までアルファに詰められていたサオリはアツコを庇うことが叶わなかった。
「姫!くっそ!離せ!」
サオリはアサルトライフルを構えベータ目掛けて引き金を引く。しかし発砲した銃弾がベータに着弾すること無かった。何故なら…。
「ぐっ!かっは…!」
「姫!?」
ベータは捉えたアツコを盾にしてサオリの放つ銃弾を防いだからだ。ベータが被弾するはずだった銃弾を直撃したアツコは先程よりも表情が苦しくなる。
「黙って見てれば…!」
サオリはアツコに誤射してしまったことに唖然としていた。次の行動までに恐らく数秒程遅れが発生する。それを見逃さないミサキは姫を救おうとベータへ接近する。
「行かせないよ。どうやら君達の相手は僕みたいだからさ」
「邪魔。退いて」
「睨んでも退けないよ。それに言っただろ、君達の相手は僕だ。余所見してたら痛い目にあうよ」
「…………ヒヨリ!」
「はい!」
睨めっこしても退かないと判断したミサキはヒヨリの名を呼ぶ。ヒヨリはライフルを構え、ベータの頭部に照準を合わせるも見好かれていたのか、先程まで確かに収めていたベータの頭部はアツコの頭部へと切り替わっていた。
「あははっ!チーム
「ッ!」
「ねえ今どんな気持ち?仲間が盾にされてさ!あ、仲間じゃなくて家族なんだっけー?」
「あっ、くっ、あぁぁぁ…!」
ベータは更にアツコの首を絞める。アツコは手を離せと言わんばかりに辛うじて動く足で蹴りを決めるもベータは微動だにしない。
「痒い痒い、本気で蹴ってるの?」
「お前ぇぇぇええ!!!」
ミサキは怒りを露わにしてベータへと近付く。超近距離であればアツコに被弾させずに攻撃できると踏んだからだろう。
「だから君の相手は僕だって」
でもそんな行為を許すガンマではない。通り過ぎたミサキの後頭部を握りその場に叩き伏せる。
「ぐっ!」
「!ミサキ!」
ミサキが発した苦痛の声を聞き正気を取り戻すサオリ。ガンマへ銃口を向けたところでベータが口を開く。
「今度はちゃんと当てなよー下手くそお姉ちゃん♪」
「き、貴様ぁ…!」
先刻の誤射行為に苛まれているサオリを煽るようにベータが言葉を発した。そのことに激怒したサオリは目を見開き、一度唇が切れるほど強くかみ締めた後、殺意を向けるかのよう鋭い眼光をベータへと向ける。
「あっはは!君面白いねー煽りがいがあるお姉ちゃんだ」
「こふっ……うぅ!」
高揚した声音で発言するベータ。それとは裏腹にアツコの首を絞めてる手は徐々に力を増していく。
「〜ッ!離、せっ!」
「言っただろ、君の相手は僕だ。仲間のところどころか、ベータの元にも行かせないよ」
アツコが発する苦痛の声を聞いたミサキはガンマの拘束から逃れようと奮闘する。だが非力なミサキの力ではガンマを振り切れる様子は見受けられない。
「ミサキ!」
首を絞められているアツコ、顔を地に付けられ拘束されているミサキ、2人の苦痛の声と光景がサオリの鼓膜と網膜に聞こえて映る。
「そこの君ーこれ以上抵抗したらどうなるか…わかってるよねー?」
「!?」
未だに照準を標的へ定めようとライフルを構えていたヒヨリに対してベータが淡々と脅す。それもアツコの首を絞める力を強めながら。
「ひっ!姫ちゃん!?わ、わかりました……。銃なら手放します、から!だ、だからこれ以上姫ちゃんに酷いことをしないでください……!」
ヒヨリはその場にライフルを放棄して大粒の涙を零しながらアツコを解放するよう懇願する。
「わー泣いちゃったーでもごめんねー力を弱める気はないし解放するつもりもさらさらないんだよねー」
「そ、そんな!話が違います!」
「別に解放するなんて言ってないでしょ♪」
「そ、そんなぁ……う、うわぁぁぁぁぁああん!!」
ヒヨリは膝から崩れ落ちその場で泣きじゃくる。サオリはその様子をただ見つめることしかできなかった…。
「(どうすれば…。どうすれば姫とミサキを助けられる…?いや、そもそも私1人で太刀打ちできるのか。1人で勝てるのか。……クシナなら1人でも2人を助けられるのだろうか…。)」
アルファに言及された内容がサオリの思考を悪い方向へと運ぶ。普段であればこのような状況下でも自身の判断を過信して行動するも、とてもじゃないがそんなことができる精神状況ではない。
「……いつまでうじうじしてるの…!」
「?み、ミサキ…?」
ミサキは声を発するために抑えられていた顔を首の力で必死に押し返し言葉を発した。
「気持ちはわかる。だけど…
「!」
それはつい数分前に口論をしていたクシナとミサキに対してサオリが送った言葉だ。悩み事を解消させるためには不十分すぎる言葉の量、だがサオリ自身が先刻に発していた言葉であったが故に本人の心に深く響く説教であった。
「(……ああ、そうだな。今は余計なことを考えるな。姫とミサキを助けることに集中しろ)」
サオリは浅くされど深く呼吸を行い精神統一を試みる。精神を落ち着かせたところで作戦を考え行動に出た。
「お前達、姫を殺されたらまずいんだよな?……なら、しっかり庇えよな」
『!?』
腰に装着していた手榴弾を手に取りピンを抜きながらサオリは先程とは全く違った声音で発言する。それは敵を脅すかのように低く冷徹な声であった。
「もう一度言う。私の大切な妹だ。しっかり庇うんだぞ?」
『!?』
再度、同じ言葉を繰り返し述べた後、サオリは手榴弾を投擲する。先程まで家族を守るための姉などと豪語していたサオリが絶対行わないであろう行為、まさに予想も付かない行動だ。
ベータは手榴弾の範囲から外れるよう後退。ガンマもベータ同様に後退する。拘束していたミサキをその場に放置してだ。
「まじですか…!」
ミサキは拘束が解かれるもすぐに行動できるほど俊敏性はない。せめてもの守りはしようと急所である頭部を守るよう両手を被せる。
「…………………………………………………………」
サオリは確かに手榴弾を投擲した。だが投擲した手榴弾は地に着くよりも空中で前触れもなく爆ぜる。
決してサオリが空中で爆ぜるようにタイミングを合わせた訳では無い。そんな遅延行為をスクワッドであるベータとガンマは見逃すわけが無い。そのことを把握していたから至極簡単な回避行動である「後退」を選んだのだから。
では何故、スクワッドが地に着き爆ぜると読んでいた手榴弾が空中で爆ぜたのか。それは単純明快、サオリは手榴弾を投擲後、レッグホルスターに収めていたハンドガンを取り出し空中で射抜いたのだ。
「ッ〜!」
手榴弾が空中で爆ぜたことでミサキへのダメージは無いに等しいほど軽減され、傷を負うことはなかった。
「ヒヨリ、武器を回収しろ。回収したらミサキの元へ迎え。姫は私1人で助ける」
「は、はい!」
ミサキの安否を確認したサオリはヒヨリへ指示を出し雪煙が漂う中へと身を投げる。
「……手榴弾を空中で射抜くとかシンプルに凄いねーそれに人質がいたのに躊躇なく攻撃するなんてねー」
「まさかそれ程の技量があるとは…。ちゃんと下調べするべきだったかも」
10歳にも満たない幼子を相手にするため、下調べなど殆どしてなかった2人はサオリの戦力を低く見ていた。だが実際は手榴弾を空中で射抜くほどの射撃精度、そして反射速度、アリウス生でもそんな離れ業をできるものなど各隊の部隊長、副隊長クラスだ。
「?あーそう来る感じねー」
何かが視界に入ったベータはさらに後退する。
「…………汚いぞベータ」
ガンマは自身の足元に手榴弾が投擲されていることに気付く。通常であれば投擲された場合、地面に着弾したところで金属音が鳴るが生憎雪が積もった状態、音など奏でるはずがない。
だが、爆ぜる音は綺麗に鳴り響く。
「あっはは!ごめんねガンマちゃん、でもスクワッドならこれぐらい気付けないとねー」
手榴弾を直撃したガンマを煽るベータ。ガンマはベータへ対して文句を言おうと口を開こうとするも、開く前に何者かに頭部を地に押し付けられる。
「雪の味はどうだ?」
「あー君か」
視界に姿は映らないが声からしてサオリであるとガンマは判断する。
「……これはお返しだ。私のミサキに手を出したんだ…覚悟はできてるよな?」
「覚悟?そんなのする必要もないよ。君じゃ僕は殺せないから」
「そうか。なら大サービスだ。あの世でミサキに詫びるんだな」
サオリは手榴弾をその場に所持する全てを置き一つだけピンを抜く。爆ぜるまでの遅延時間めいいっぱいガンマが動かないよう強く抑え、爆ぜる寸前で離脱と合わせて取り出したナイフをガンマの衣服へ突き刺し地面と固定させる。少しでも身動きが取れないように。
「そんなことしなくても逃げないのに」
言葉を漏らした瞬間、ピンを抜いた手榴弾が爆ぜ、周りに放置していた手榴弾が連鎖するように爆ぜる。
「わー派手にやってんねーガンマちゃん死んでないといいんだけどなー」
ベータはこちらへ向かうサオリを見つめながら言葉を漏らす。
「安心しろ、お前もすぐに同じ目に合わせるから」
「あっはは!ガキが言うねー!」
ベータは空いた片手に握られているグレネードランチャーを構え、照準をサオリへ定める…かのように見えたが、サオリではなく自身の足元へ榴弾を放つ。
一瞬自爆かと思える無意味な行為、されどベータの元にはサオリが守るべきアツコがいる。ベータの足元で榴弾が爆ぜた場合、アツコは傷を負ってしまう。
ならばとサオリは榴弾が爆ぜるよりも早く、アツコを解放すべくベータに近付く。
「本当に近付いていいのかなぁー!」
「!?」
ベータは足元に転がる榴弾をサオリに向けて蹴り放つ。それは計算されていたのか、不幸にサオリの目の前で榴弾が爆ぜてしまった。
「さ、ザっちゃん…!」
首を絞められ呼吸がままならないアツコがサオリの名を呼ぶ。ベータの攻撃が直撃したサオリの安否を確認するために声を出したのだろう。察するにサオリは深手を負っている可能性が高い。
「……この程度で……私を止められると思うな…!」
その言葉と同時にサオリが煙の中から姿を見せる。急所を守るため顔の前で両腕を交差させ榴弾の攻撃を防いだものの、腕には破片が痛々しく幾つも突き刺さっていた。
「……随分と痛そうだけど大丈夫ー?」
「今の姫より全然マシだ…!」
サオリに接近されたベータは再度、自身の足元へ榴弾を放つ。今度はサオリに向けて蹴るのでなく後退する。俗に言う置き土産戦法と言うやつだ。
サオリはその足元の転がる榴弾を自身で右手側へ蹴り飛ばし、榴弾の攻撃を未然に防ぐ。
「(不味ったなー私は近接戦闘は嫌いなんだけどなー)」
更に所持している武器はグレネードランチャーのみ、遠距離専門の武器で近距離戦となれば先程のように榴弾が爆ぜるタイミングを活かした高度な戦いが必要となる。
そのため近接戦闘が嫌いなのだ。
「逃がさないぞ」
サオリは懐から起爆スイッチを取り出し押し込む。
「!?」
後退し続けるベータの真後ろで事前に仕込んでいた遠隔式爆弾が爆ぜる。アツコを盾にするよう前方に突き出しながら後退していたベータにとって背中はがら空き状態、且つそのおかげで爆弾の被害にアツコが合うこともなかった。
爆風により体制が崩れたベータ。その僅かな瞬間を見逃さなかったサオリは一気に距離を詰め、アツコの背後から手を伸ばし優しくホールドしてみせる。
「姫、あと少しの辛抱だ。我慢してくれるか?」
「………………………………………………」コク
意識が薄れていく中でアツコはこくりと頷く。
「ありがとう、姫」
サオリはそう優しく述べた後、ベータの胸元に向けて足裏で綺麗な蹴りを決め込む。次の瞬間、サオリは抱える姫と一緒に後方へ吹き飛び、アツコを解放させることに成功した。
サオリは背中から地面に着地するも痛みなど気にしてない様子であった。
「かはっ!げほ!けほ!……うぅ……!」
数分間、いや首を絞められていたアツコからしてはその数分間がどれ程長く感じただろうか。ようやく解放されたが、息を吸うもその呼吸は荒く、幾度と咳き込む。
「姫、ゆっくりだ。ゆっくり息を吸うんだ。落ち着いて、大丈夫だ。もう大丈夫だから……。」
サオリが落ち着くようアツコに言いかけ、少しづつ従来の呼吸に近しいリズムへと変わっていく。
ようやく落ち着いてきたかと思えばつかの間、背後から銃弾の雨を受ける。
「くっ!」
サオリはアツコを攻撃から身を守るように抱え込む。音と銃弾の量から察するに使用されている武器は機関銃やアサルトライフル、サブマシンガンと言った連射できる機構のものだろう。
弾倉が着き攻撃が止んだところで振り返り敵を確認する。
「……お前か」
「言っただろ。君じゃ僕は殺せないって」
致死量の手榴弾を喰らわせたはずのガンマがすました顔でサオリの数メートル後ろの背後から攻撃をしていた。
「悪いがロイヤルブラッドは返してもらうよ。それとベータ、何時まで寝そべってるんだ。早く起きてくれないかな」
「はいはいはーい、全くガンマちゃんといい、君達といい可愛くないし面白くないなー」
仰向けで倒れていたベータが起き上がりゆっくりとサオリとアツコの元へと向かう。それと同時に背後からガンマが挟み込むように近付く。
「ねえ、あんたの相手って私達じゃなかったの?」
ミサキがガンマの背後から声をかける。先程、ガンマはミサキに対して発した言葉を利用して少しでも足止めしようと企む。
「僕に勝てないくせに一丁前な挑発は控えて欲しいな。勝てない勝負は挑まない方が得策だって知らないのかな」
「……そう、だから私達とは戦わないんだね」
ミサキは挑発するように言葉を送る。
「……僕がそんなの挑発に乗るわけないだろ。ロイヤルブラッドがフリーになったんだ。確保することを優先するに決まってるだろ」
ガンマは終始ミサキへ視線を向けることなくアツコ目掛けて進み続ける。
「ガンマちゃん、その子達の相手してあげなよ」
「……それは何故だ?」
「最初に言ったでしょ?ロイヤルブラッドは私がやるって。だからこの子達の相手は私一人にさせてほしいなー」
「…………まあベータとは上手く連携できる思えないしね。いいよ、その代わりさっきみたいなヘマはしないでよね、副隊長さん?」
「言われなくてもわかってるよー」
ガンマは振り返りミサキ達に視線を送る。
「ベータが1人で殺りたいみたいなんだ。待ってる間暇だからお望み通り君達の相手をしておくとするよ」
「……知ってる?勝てない勝負は挑まない方が得策って」
「み、ミサキさん、さ、流石に煽りすぎですって……。ただでさえあの人、人を殺めてるような目付きをした人なんですから……。これ以上、煽るとミサキさんが───!」
ヒヨリがミサキの肩に手を置き、これ以上煽ることを辞めるよう忠告する。忠告を受けたミサキはヒヨリの発言を遮るかのよう肩に置かれたヒヨリの手を握り静かに頷き口を閉じた。
握ったその手はまるで問題ないと言わんばかりにとても優しく握られていた。
「まあいいさ。数分後にはその減らず口は言えなくなるんだから」
ガンマは淡々と機関銃のリロードをしながら語る。
「じゃあこっちはこっちで戦闘を始めよっか。えっとーさお?さお…サリオちゃん?」
「……惜しいな、サオリだ。この世で一番の妹思いの最高のお姉ちゃんの名前だ。忘れるな」
「あっはは!気持ち悪いねー!」
クシナ、ミサキとヒヨリ、そしてサオリとアツコは各々が戦闘する相手が決まった。目的はこの戦闘で誰も深手を負わず切り抜けること。
果たしてアリウス最強と謳われるスクワッドに何処まで通用するのか…。この先の生死を分ける戦いの火蓋はまさに今切られたのであった。
次回、クシナは登場しないかもしれません。
それとクシナとサオリの口論の詳細内容は次回以降の話で明らかになります。
あとオリジナルスクワッドのメンツを登場させた理由については自治区編が終わったあとのあとがきで語りたいと思います。
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それではまた次回の話でお会いしましょう。